金木犀の許嫁
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第二十九話 質素な充実その十一
「そんな人でもね」
「ちゃんとですね」
「作らせてもらうわ」
「そうですか」
「お家もちゃんとして服もね」
「ちゃんとしますね」
「流石にね」
幾ら本人がこだわらずともというのだ。
「そうするわ」
「そうすべきですね」
「何でもお刺身とか梅干しがお好きで」
質素なもっと言えばあるものを食べたというがだ。
「お粥にお豆腐、お塩を入れたお茶漬けとかね」
「質素ですね、確かに」
白華が聞いても思うことだった。
「当時でも何でもないものですね」
「唐辛子の葉の煮ものとかフナコイのせごしもお好きで贅沢して」
それでというのだ。
「すき焼きにワイン」
「当時ワインは凄いですね」
「それでお野菜やお肉のシチューね」
「そうですか」
「そうしたものがお好きで」
それでというのだ。
「もっと言えばなくてもね」
「あればよかったですか」
「将方正義さんも凄い質素で」
この人物もまた総理大臣であり元老であった、そこは伊藤と同じであった。
「驚く位だったけれど大食漢だったらしいの」
「将方さんはそうですか」
「ええ、ただやっぱり質素で」
食事の内容自体はだ。
「凄かったらしいわ」
「伊藤さんも将方さんもですね」
「何かね」
夜空はまた白華に話した。
「河豚食べたお話あるけれど」
「伊藤さんがですね」
「食べてあっさりと当時食べたら駄目だったのがね」
「毒あるからですね」
「それを喜んで認めたそうだしね」
「河豚もですか」
「食べものでもね」
こちらの逸話でもというのだ。
「そうしたお話あるし」
「面白い人でしたか」
「ただ能力が高いだけじゃなくて」
「お人柄もよかったんですね」
「教養もあってね、それでいてね」
夜空はさらに話した。
「抜けてるところもあったのよ」
「完璧じゃなかったですか」
「武芸は下手で」
武士ではあったがそうであったのだ。
「英語出来るって言って通訳いらないって言って」
「駄目だったんですね」
「何でも下手で」
英語がだ。
「相手の人がわからなかったり」
「そんなことがあったんですね」
「普通に政敵の筈の大隈さんのお家に住むって言ったり」
「大隈さん呆れましたね」
「そんな変な逸話もある」
「面白い人ですか」
「完璧じゃないところもね」
「いいんですね」
「そんな人だから」
それでというのだ。
「佐京君いなくてね」
「今伊藤さんにお会いしたら」
「惚れたわ、色々言う人がいるけれど」
「お二人にしては」
「そう、面白くてね」
そうであってというのだ。
「素敵な人よ」
「そうですか、そう言われると私もです」
白華も唸って言った。
「伊藤さんとお会いしたいですね」
「そう思うわよね」
「はい、それで本当にそうした人なら」
それならというのだ。
「お付き合いもね」
「したいわよね」
「そう思いました」
こう言うのだった、そしてだった。
三人はそれぞれ寝た、その夜白華は夢を見た。その翌朝彼女は真昼と夜空にその夢のことを話したのだった。
第二十九話 完
2024・6・8
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