金木犀の許嫁
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第二十六話 里帰りをしてその七
「どうもです」
「読んでいいとは思えないですね」
「はい」
そうだと言葉を返した。
「物凄く暗いかですね」
「暗鬱としているか」
「狂気ですね」
「それが感じられる作品ばかりです」
「今は明るい気分でいたいので」
だからだというのだ。
「暗い作品はいいです」
「そうですね、芥川はまことに時期によって作風が違うので」
「そこは注意ですね」
「華や羅生門には理知がありましたが」
そうであったがというのだ。
「馬の脚や歯車には狂気がありました」
「馬の脚って」
夜空は自分のスマートフォンで検索したその作品を調べた、そしてすぐに顔を曇らせてそのうえで言った。
「かなり」
「恐ろしい作品ですね」
「生き返ってそれでもですね」
「脚が馬のそれになったのです」
「世の中の不条理さを書いたんですか?」
「その様ですが」
「あの、それでも」
どうにもと言うのだった。
「おかしいです」
「どう見てもそうですね」
「あの、まともじゃないです」
「ですから当時の芥川は」
「おかしくなっていたんですね」
「はい、ですから」
そうであるからだというのだ。
「その様なです」
「おかしな作品書いたんですね」
「そうだったのです」
「そうでしたか」
「そして自殺しているのですから」
「尚更ですね」
「おかしかったとです」
当時の芥川はというのだ。
「言えます」
「そうですね」
「少なくとも楽しくは読めません」
「本当にそうですね」
夜空も頷くことだった。
「ちょっと読むのを考えます」
「精神的に落ち着いている時に読まれて下さい」
幸雄はくれぐれもという口調で話した。
「明るい時でもいいです」
「落ち込んでいる時に読んだら駄目ですね」
「はい」
絶対にというのだった。
「その作品も芥川の後期の作品全体が」
「落ち込んでいる時に読んだら駄目ですね」
「落ち込んでいる時に暗い作品を読んだり観ますと」
「さらに落ち込みますね」
「小公女がアニメになった時です」
世界名作劇場でアニメ化され一年間放送された。
「落ち込んでいる時に観ると死にたくなるとです」
「そう言う人が出たんですね」
「あまりにも酷いいじめが続く作品だったので」
それで暗くというのだ。
「そうした声が出ました、それに」
「それに?」
「これはいじめ役を演じる人達に付きものですが」
そうであるがというのだ。
「いじめ役を演じる声優さんにバッシングが殺到しました」
「あの、これは」
今度は白華が検索して暗い顔で言った。
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