ポケットモンスター対RPG
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第13話:遅参勇者と焦る魔女②
「は?」
勇者マドノはとある貴族の言ってる事が理解出来なかった。
対する貴族もまた、話が噛み合わない理由が理解出来なかった。
「え?この領内で漁師を食い殺していたダークマーメイドとツノクジラを倒してくれたんですよね?」
「倒した?ダークマーメイドを全員?」
「何で実行した貴方様がそれを訊くのです?」
「んなわけねぇだろ!」
いっこうに噛み合わない勇者マドノとの会話に困惑する貴族。
そんな中、マシカルが貴族に質問する。
「で、漁師を襲っているダークマーメイドの残りは?」
「あー、それなら大丈夫です。ツノクジラが死んだ事で恐れ慄いたのか―――」
マドノは少しだけ焦った。
(まさか、ダークマーメイドが1匹も残っていないと言うのか?それでは駄目なのだ!まだ十分経験値を稼いでいない!)
「大丈夫な訳ねぇだろ!」
貴族は理解に苦しんだ。
漁師を散々苦しめたダークマーメイド達が1匹も居なくなったのだ。
しかも、ダークマーメイドがいなくなったのを契機に漁獲量が一気に回復したのだ。
大丈夫に決まっている筈だ。
(なのになぜ勇者マドノは『大丈夫じゃない』と言ったのか?まさか、こちらが気付いていない脅威がまだ存在しているのか?)
その後、マドノ一行は本当にダークマーメイドが1匹もいないのかを確認すべく、貴族から船を借りた。
マドノは血眼になってダークマーメイドを探すが、結局、誰にも襲われる事無くモンスターと一戦交える事無く港に帰り着いた。
「勇者様の危惧は杞憂に終わりましたな」
平和を確信した貴族は満面の笑みを浮かべていたが、一方のマドノ一行は完全に不機嫌だった。
「チッ!」
「え?舌打ち!?」
マドノ一行が何故不機嫌なのか解らず困惑する貴族。
「普通喜ぶ場面では?魔王軍の脅威が去ったのですから」
結局、マドノと貴族の会話は最後まで噛み合わぬまま終わった。
「誰だよ!?この俺が十分経験値を稼ぐ前にツノクジラを倒した馬鹿は!?」
そう!
ダークマーメイドに苦しめられる港町を救いにここまで来たのではなく、ただ単にダークマーメイドを山ほど倒してレベルアップしに来ただけだった。
しかし、グートミューティヒがその前にツノクジラを倒してダークマーメイドを一掃してしまっていたのだ。
「星空の勇者であるこの俺が魔王を倒すんだから、下手にボスモンスターを倒して俺が経験値を稼ぐのを邪魔してどうするんだよ!」
結局、経験値を稼げない事への不満を口にするマドノに対し、マシカルは自分達が到着する前にツノクジラを倒して恩を着せる前に名乗らずに去った何者かに対する不安でいっぱいだった。
(もし、そのツノクジラを倒したのが私達じゃない事がバレたら……)
が、その不安を白状しても、いつもの様に「功を焦ってんじゃねぇよ!」と言われるのがオチなので言えなかった。
(今は経験値稼ぎしか考えていないから……言っても無駄か)
マドノ一行が次に到着したのは、薬草の宝庫と呼ばれる草原だった。
そこを毒を得意をする巨大大蛸が占拠していると聞き、手下のゴブリン達を次々と斃そうと考えていた。
今のマドノ一行にとって、ゴブリンのEXは微々たる物だが、先程の港町が(グートミューティヒがツノクジラを倒したせいで)空振りに終わった事への憂さ晴らしも兼ねてゴブリンを数か月かけて一掃してやろうと考えた。
しかし、マシカルが軽装で例の草原を目指す青年を発見して慌てて声を掛けた。
「ちょっとちょっとちょっと!」
「ん?どうした?」
「この先にはモンスターが―――」
その途端、青年は大笑いした。
「へ?」
「あの鬱陶しい蛸なら、既に親切な娘さんが懲らしめてくれたよ。しかも2度も」
その途端、グートミューティヒが親切心からダンジョンを次々と奪還した事やマシカルが呪文詠唱している間は無防備なので防衛しなきゃいけないなどの理由で、なかなか攻撃が出来ないので怒りが頂点に達したンレボウが青年の胸倉を掴んだ。
「え?何?何か悪い事言った?」
「ンレボウ!?アンタ何やってんのよ!?」
マシカルが蒼褪めながらンレボウに問うが、ンレボウは聞く耳持たない。
「敵の数と配置は?」
「親切なお嬢ちゃんが既に」
青年はそれを言い終える前に顔面に打撃を叩き込まれ、勢いよく吹っ飛ばされる。
「敵の……数と配置は?」
静かだが怒りに満ちたンレボウの問いに漸く自分の置かれた状況を察した青年は後退りしながらも、
「既に親切なお嬢ちゃ」
それを言い終える前に顔面に打撃を叩き込まれ、勢いよく吹っ飛ばされる。
漸く青年の置かれた状況を察したマシカルは、マドノに助けを求めた。
「ちょっと!マドノ、ンレボウを止めて!」
だが、当のマドノは経験値稼ぎを(グートミューティヒに)散々邪魔されたストレスのせいか、青年の生死に全く興味が無かった。
「おい!?早くしないとアイツ死ぬって!」
マシカルの懇願は経験値稼ぎの場を奪われてイライラしているマドノは動かない。
その間も、ンレボウの青年に対する尋問と言う名の暴力を振るい続けていた。
「敵の……数と配置は?」
一方の青年は『逃げなければ』と命の危険を感じて逃げだそうとするが直ぐにンレボウに捕まり、
「敵の……数と配置は?」
凄まじい怒りと迫力に満ちたンレボウの4度目の問いに対し、
「空気読めよォ!」
と逆ギレする間も無く腹部に強烈な一撃を叩き込まれ、壁に打ち付けられる。
そして、青年はンレボウに首を掴まれ高く持ち上げられる。
とその時、
「それ以上やったら、お終いだろうが!」
マシカルがンレボウに向けて黒魔法を放とうとしていた。
自分達に向けて黒魔法を放とうとしているマシカルを見て、助けを求める様に視線を向ける青年。
だが、
「何をしている?」
マドノに首に剣を突き付けられて困惑するマシカル。
「マドノ……これはどう言う―――」
「ンレボウの今日の言い分に間違いはねぇよ」
マドノのマシカルへの叱責に蒼褪める青年。
「間違ってるだろ……何処をどう視たら……」
「それにマシカル、最近のお前は詠唱時間が長過ぎる。そのせいでンレボウの攻撃回数が減ってんだ。お前はそっちの反省が先だろ」
「……そう……ね」
マドノの説教を受け、渋々黒魔法を中止するマシカルに、
「おい!何とかしろよ!起きろよ!クソ術師!」
と絶叫する青年。
右拳を握りしめ、強く睨みつけるンレボウに、
「ごめんなさ…!」
と首を掴まれたまま泣きながら謝罪しようとするが、次の瞬間ンレボウの拳が顔面に炸裂。
一発目とは比べ物にならないほどのスピードで草原の近くの村まで吹き飛ばされ、その先の建物に看板が外れるほどの勢いで激突した。
ギャグマンガの様に吹っ飛んだ青年を見て、
「誰か……助けて……」
と力無く呟くマシカルであった。
その後も経験値稼ぎに適したダンジョンを求めてとある国を訪れるマドノ一行。
そこでポケモンを連れている男性を発見し、マドノがそれを魔王軍の手下と勘違いして攻撃を加えるが、
「お前達!其処で何をしている!」
慌ててやって来た衛兵達に対し、星空の勇者の証であるバッチを見せびらかすマドノ。
だが、
「何を言ってるんだ!」
「いくら勇者様だって、やって良い事と悪い事が有るだろ!」
衛兵達の言葉に焦るマシカル。
「ですが、彼らはモンスターを従えていました。それって―――」
「違う違う!彼らはモンスターを研究している者達だ!」
それを先に言えよと思うマシカルだったが、マドノとンレボウは衛兵達の弁護を聞く気は無い。
「邪魔するな。その経験値は俺達の物だぞ」
「勇者殿の言う通りです!さあ、我々の戦闘の邪魔をせず―――」
「経験値!?」
その途端、王女をインキュバスの妻に変えられそうになった王女奪還の苦労がフラッシュバックした。
「たったそれだけの理由でこの国に到着するのが遅れたのか!」
その言葉に嫌な予感がするマドノ一行だが、その理由はマドノとマシカルは別々であった。
「まさか、またこの俺の到着を待たずにボスモンスターを倒したアホがいるのか!?」
「ちょ!?マドノ!それを今言うか!」
無論、マシカルがマドノの口を塞ぐのが遅過ぎた。
「アホ?こっちは王女奪還の最中に何度死にかけたか……」
「我々が苦労している間、アンタらは呑気に雑魚退治ですか?良いご身分で!」
衛兵達の言い分が救い様が無い馬鹿に思えたマドノは、マシカルの制止を振り切って更に文句を垂れた。
「お前らバカか!?レベルがまったく足りない状態で魔王と戦えって言うのか!?そんな事も解んないアホの功を焦った暴走を止めないお前らもお前らだよ!」
マドノの啖呵に顔面蒼白となるマシカル。
「ちょっとおぉーーーーー!空気読めよぉーーーーー!」
衛兵達の白眼視と嫌悪を買い、激しい屈辱心と反骨心に苛まれたマシカルは、
「マドノ!そろそろ牛乗りオーガを倒しに往こう!」
その途端、マドノはマシカルを思いっきりビンタした。
「阿呆!まだレベルがそこまで達していないだろ!お前は馬鹿か!?」
そんなやり取りを観た衛兵達は、衛兵は愚か、最早野盗すらをも通り越した強盗の如き態度でマドノに向かって陰口を叩いた。
「ふーん。お前らはそうやって他人の悲鳴を無視してまで雑魚としか戦わないんだぁー」
「雑魚狩りなら、そこら辺で勝手にやってな。俺達は手伝わないけど」
「その牛乗りオーガもグートミューティヒとか言う親切なプリーストが、とっくの昔に倒したんじゃねぇの!」
「魔王退治ならグートミューティヒ様に任せて、お前達臆病な雑魚狩りお坊ちゃまは家に帰ってママのお乳でも飲んでな」
衛兵達の品が無い高笑いの中、マドノは功を焦ってもう牛乗りオーガを討伐に向かわなければならないマシカルの無謀どころか自殺行為にも等しい(当然悪い意味での)蟷螂の斧そのものな行動に、
「……マシカル……愚かな」
と呆れて閉口する他無かった。
しかしこの時、マドノは牛乗りオーガの討伐推奨レベルを33と勘違いしてるだけであり(実際の討伐推奨レベルは22)、マドノ自身は言わずもがな、勇者パーティー全員が牛乗りオーガと戦うにはレベルが全く有り余っていた。
人型モンスターの中でも特上と呼ばれているデビル。
そんなデビルの1人であるタンジュは、牛乗りオーガとその手下が巣食う洞窟に(渋々)入る4人組の背中を気付かれる事なく視ていた。
「4人の平均レベルは30と言ったところか?牛乗りオーガでは荷が重過ぎるか……」
だが、何故かタンジュは洞窟に入ろうとしない。
「人間にしてはなかなか高い方だが……あれが本当に我らの仇敵か?」
タンジュは疑っていたのだ。
マドノが本当に星空の勇者なのかと疑念を抱いているからだ。
「確かにあのバッチは星空の勇者の証……だが、俺の鼻が『騙されるな!』と訴えている」
そして、牛乗りオーガに謝罪しつつ洞窟に入る事無くその場を後にした。
「すまないな牛乗りオーガよ。どうもこの疑念を祓わないと、星空の勇者とまともに戦えない」
タンジュはマドノの何を疑ったのか?
その答えは……まだ先である。
後書き
ンレボウ
年齢:23歳
性別:男性
身長:188cm
体重:83.59㎏
職業:勇者の従者
兵種:アーマーナイト
趣味:戦闘
好物:戦場、戦闘の匂い、攻撃
嫌物:防御、静かな場所
特技:怪力、防御(本人は否定)
勇者マドノに仕える重戦士。
一見すると無口で物静かに見えるが、実際はかなり好戦的で泥酔時はかなり口数が多い。兵種的に防御担当になる事が多いが、本当は積極的に攻撃したいと思っている。
名前の由来は、『シールド-‵ーノミ=』から。
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