Fate/WizarDragonknight
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写真立て
『今日は手伝いにいけねえ。フロノヴァのマスター候補見つけたから、今日一日跡をつけてみる』
「……」
そのメッセージが示すのは、今日教授の手伝いはハルト一人で行うことになることを意味していた。
「マジか……」
「松菜さん、お疲れですか?」
ため息を付くハルトへ、えりかが話しかけてきた。
今日も今日とて教授の手伝い。書類の山への戦いを挑み、そろそろ整理のピークに差し掛かろうかというタイミングで、戦力強化が見込めない連絡が来たことで、ハルトは落胆していたところだった。
「いや、今来た連絡を見てどっと疲れたというか……コウスケが、今日来れないんだって」
「あらら……」
「つまり、俺は今からこの書類整理を今から一人でしないといけないってことに……」
ハルトは光のない目で目の前に積み上げられる書類の山を見上げる。
「これやるの……?」
「蒼井も手伝いますので、そう気を落とさないでください」
肩を落とすハルトへ、えりかが「ファイトです!」と宥めた。
彼女の励ましに少しだけ気力を取り戻したハルトは、コウスケへ『もしもしお巡りさん、こいつストーカーです』と意味のない返信をしてから、改めて頼まれた依頼内容を眺める。
えりかもハルトと同じように、書類の頂点へ視線を投げた。
「それで、この書類をどのように整理するのですか?」
「さっき教授に、仕分けをするようにってさ。論文なのか、学生のレポートなのか、その他なのかって……」
「ああ……」
ハルトの苦言に、えりかは言葉を失った。
「教授職は、沢山の人とやりとりをする仕事だそうですからね。それなのに、いつも整理しないで研究を続けるものですから、どんどん溜まってしまうんです」
「だったら講義のアシストとかよりもこっちを先にやらせた方がよかったんじゃ……」
ハルトはそう言いながら、腰のホルスターへ手を伸ばす。
「猫の手でも……いや、使い魔の手でも借りるか」
「使い魔ですか?」
「そうそう。今いる使い魔は……ユニコーンだけか」
『ユニコーン プリーズ』
ハルトが発動させた指輪より、魔法が発動する。
出現した青いランナーが、そのまま一本角を作り上げていく。ウィザードの使い魔、プラモンスターの一種であるブルーユニコーンの胸元に指輪を嵌め込むことで、それは動きだす。
「ユニコーン、この書類の仕分けを手伝ってくれ」
掌に乗せたユニコーンは、ハルトの声に応じて嘶く。
まさに山を駆け上っていく鹿のように、ユニコーンは紙の崖を登っていく。
「おや、おや」
すると、背後から歩み寄る声が聞こえてきた。
振り返ると、まずハルトを迎える黒ずくめの装束。すっかり見慣れたとはいえ、やはり教授の頭まで含めた全身真っ黒には、少し身構えてしまう。
「これが貴方の能力ということですか。魔法を使うと聞いてはいましたが、実際に見ると驚くべきものですね」
教授はその黒い面をユニコーンに向けながら呟く。
彼の娘である結梨と手を繋いでいる時でさえ、彼はその仮面を外そうとしない。だが、結梨の方は面をしている父親に慣れ切っているようで、全く意に介す様子はない。
「可愛いお馬さんだ!」
結梨は叫びながら父から離れ、今まさに紙の崖を登っている最中のユニコーンを掴み上げた。驚くユニコーンの頭に触れながら、結梨は顔を輝かせた。
ユニコーンを掴まえ、頭を撫でまわす結梨を見つめながら、教授はハルトへ尋ねた。
「あれは生命なのでしょうか? それとも、機械なのでしょうか?」
「魔法を使って動く疑似生命です。生命と言っていいのかはちょっと分からないですね」
「ほう……貴方は私の研究テーマをここまで簡単に行えるのですね」
教授はさらに興味深そうに頷いた。
見れば、確かにユニコーンの動きは本物のウマ科の動物のそれに見える。生命の神秘について研究している彼にとっては、好奇心が尽きない現象なのだろう。
結梨になすがままに撫でまわされたユニコーンは、首を振って、彼女の手から書類の山へと飛び移った。
「ああっ……」
残念そうに眉を顰める結梨。そんな彼女とユニコーンを見て、ハルトはクスっと笑む。
「いいよ、ユニコーン。結梨ちゃんといてあげて」
書類の上のユニコーンは、ハルトと結梨の顔を見比べる。やがて段階的に崖からハルトの手元へ降りてきた。
「はい」
「ありがとう!」
ユニコーンが結梨の掌に渡ると、彼女は嬉しそうにユニコーンを掲げた。
結局使い魔の手を借りることが出来なくなったハルトは、えりかとともに書類整理へ取りかかろうとしたが、そのままユニコーンを撫でまわす結梨が、ハルトの腰に付いている指輪へ興味を示していた。
「すごい指輪が沢山……」
「ん? ああ、これね……」
ハルトはおもむろにルビーの指輪を取り出した。
「すごいきれいだね!」
結梨は目を輝かせながらルビーの指輪を食い入るように見つめている。
ハルトはそのままルビーの指輪を彼女の掌に置くと、ハルトと指輪の魔力のリンクが切れ、指輪が先月以前の普通のフレイムウィザードリングに戻っていく。
結梨はそれを指に取り付ける。彼女の小さな手に不相応に大きなルビーの指輪は、研究室の光を反射して彼女の顔に赤い模様を映し出している。
「指輪か……あ、そうだ」
ハルトはホルスターからコネクトを掴み取り、そのまま発動させる。
『コネクト プリーズ』
発動した魔法陣を、ラビットハウスの自室に繋げる。手を突っ込み、部屋に安置してある指輪の箱を取り出した。
「おおっとと……」
ハルトが胸に抱えるほどの大きさの箱。上蓋を外し、中にいた使い魔に「ちょっとごめんよ」と一声かけてから、その中を手探りで漁り出す。
「えっと、確かここにしまって……あ、あった」
ハルトは目当ての指輪を探し当て、ゴーレムごと箱を魔法陣の中へ戻す。
「じゃあ、これ。結梨ちゃんにあげる」
それは、先日シストの時に用いた指輪だった。結局ゴールできなかったハルトは、それを持ち帰ることになり、もう日の目を浴びることはないと思っていたただの綺麗なだけの指輪。それを、結梨の中指に付けた。
「わああああああああっ!」
目を輝かせた結梨は、ピョンピョンとはねている。
結梨が付けているルビーの指輪に近い形のそれを見下ろしながら、教授は尋ねた。
「いいのですか? 君の魔法にとっては大事なものではないのですか?」
「あれは以前作った失敗作です。持ってても問題ないですよ」
「おや、おや。ありがとうございます。結梨。松菜さんにお礼を言ってください」
「ありがとうお兄ちゃん!」
眩い笑顔に一瞬立ち眩みを覚えながら、ハルトは今度こそ書類を片付けようと足を向けた。
その間、ハルトは結局一人で書類整理に動くことになった。
「……やっぱり上から取るしかないか」
『コネクト プリーズ』
空間湾曲の指輪を使い、ハルトは手元に、書類の束の最上部に通じる魔法陣を作り出す。魔法陣を経由し、少しずつ書類が地上に下ろされていく。
「えっと、レポートに……論文発表の招待状……あらゆるジャンルが雑多に混じりすぎでは?」
「君の魔法は、例えば無から有を作り上げることはできるのですか?」
ハルトのぼやきに全く反応することなく、教授がウィザードライバーを見下ろしながら尋ねた。
ハルトは手を止めることなく、「どういうことですか?」と聞き返した。
「虚無の空間から物質を作り上げる……質量保存の法則等に囚われない現象を引き起こせるのですか?」
聞き慣れない単語にハルトは一瞬困惑するが、すぐさまえりかがハルトへ耳打ちした。
「つまり、魔法は何でもできるものなんですか? 例えば、何もないこの手元に、本とかペンとかを作れるのか、ってことです。蒼井も気になります!」
「そうは言われてもな……俺の魔力を、指輪を通じて出しているってことしか……コネクトだって、出現しているように見えますけど、あれは魔法陣を別の場所に繋げているだけです。そもそも、このウィザードライバーも、貰った物なんです」
「もらい物ですか」
教授は興味深そうにハルトの腰に付いているベルトを覗き込む。ハルトの「だから、詳細は俺にもよく分からないんです」という言葉にも反応しない。
果たして覗き穴の見えないその仮面から、ちゃんと見えているのだろうか。そんな疑問を抱きながら、ハルトはコネクトの指輪からまた別の書類を取り出した。
「次は……あれ? これは……」
「何かありましたか?」
「教授。学生さんの提出資料の中に、これが混じってたみたいです」
「ありがとうございます」
それを受け取った教授は、読めない顔つきでそれを見落とした。
「おや、おや……そういえば、行っていませんでしたね」
声色だけでは、どんな心持での発言なのかは読めない。
「面倒ですが、優先しなければいけませんね」
「何かあったんですか?」
「ただの定例作業ですよ」
教授は何てこと無さそうに言った。
「教授職は、定期的に論文を提出する必要があるのですが、もうそろそろその次の論文を要求されていましてね。学長にも何度も延期していただきましたが、そろそろ発表が必要だそうです」
「そんな非常識な見た目をしててそこだけ俗物っぽいのはなんなんだろう……」
ハルトは小声で苦笑する。
教授は顎に手を当てる。
「困りましたね。ここ最近の、蒼井さんのサーヴァントたる事象の研究を論文にするわけにはいきません……また別のテーマを生命の深淵から探しましょう」
教授はぶつぶつと呟きながら、また書類の山岳地帯の奥へと突き進んでいく。
そんな教授を見送っていると、何かが揺れる音がした。
「……ん?」
この閉鎖空間における、バランスが崩れるような音。嫌な予感は、ハルトとえりかに同時に走った。
見上げると、すでに書類の山___その一部がすでに傾いていた。
そんなバランスを、永遠に維持できるわけがない。それを理解した途端、書類の束は次々に崩れていく。
「わあああああああ!?」
「えええええええっ!?」
ハルトとえりかは同時に悲鳴を上げた。
だが、それで重力が動きを止めるわけではない。
書類の雪崩は、容赦なくハルトとえりかへ襲い掛かってくる。
有効な指輪、ディフェンドかグラビティ……へ手を伸ばすよりも先に、ハルトは結梨を抱き寄せることを選んだ。
「結梨ちゃん危ない!」
自らの背中を結梨の盾にし、容赦なく降り注ぐ書類の雨へ晒す。
「いだだだだっ!」
紙でも雪崩になるとこんなに痛くなることに感銘を覚えながら、ハルトは書類の山を押し分ける。
「何でこんなになるまで放っておいたんだ……これ、人間が過ごす部屋じゃないでしょ……」
「教授、自分を人間として扱っていない節もありますからね」
えりかもハルトと合わせて頭を掻く。
同じく書類の山の下敷きになった彼女は、手頃なところから書類をまとめていく。
「でも、こんなギャグみたいな量がまとまることってある?」
『ビッグ プリーズ』
手を巨大化させ、より多くの書類をかき集めながら、ハルトはぼやいた。
やがて、床に散らばったものを片付け終えた頃、ハルトは紙に押し倒されたそれを立たせた。
「……これは?」
結梨以外無機質な質感が漂うこの研究室に、ハルトは初めて人の温もりを感じた。
そこに置かれていたのは、写真立て。
一瞬、そこに入れられていたのは白紙なのかと錯覚してしまうほどに埃を被っている。だがそれは、紛れもなく写真。
好奇心には勝てない。
ハルトは心の中で謝罪しながら、その埃を掃った。軽く咳き込み、埃の底に眠っていた写真が顔を見せる。
「これは……」
分かる人物は、ただ一人。まだ今よりも幼い結梨が、男女の大人たちに囲まれて幸せそうな笑顔を浮かべている。
家族写真だろう。すると、男性の方がおそらく、教授の素顔なのだろう。
そしてもう一人。
「妻です」
ハルトの背後から、教授が語りかける。
「ああ、ごめんなさい。勝手に見てしまって」
「構いませんよ。もう二年も前の事ですから」
「……二年?」
教授は淡々と、まるで他人事のように語り出した。
「私の妻、結梨の母ですが……二年前に亡くなりました」
「……すみません。デリケートなことを聞いてしまって」
「気にしないでください。事故でしたから」
「……事故、ですか……」
ハルトは再び、写真立てを見下ろす。
もう二度と結梨を抱きかかえることのないその手。彼女に抱き着かれる結梨は、これから先、この写真以上の笑顔を見せるのは果たしていつのことになるのだろうか。そして結梨は、この研究室にいてそもそも笑顔になれているのだろうか。
「結梨ちゃんは……母親のことを、覚えているのですか?」
「いいえ。幼いのが幸いでしたね」
教授はそう言って、ハルトへ背を向けた。また、研究を再開するのだろう。
だが、ハルトはその間じっと彼の背中を見つめていた。
ハルトには、薄っすらと違和感があったのだ。
親近者の死。それを語る者からは、たとえ乗り越えたとしても、多かれ少なかれ絶望の気配を感じるのに。
なぜか、教授からは。
全く絶望の気配を感じなかったのだ。
後書き
ハルト「すいません、お手洗いってどこですか?」
えりか「上の階の廊下の突き当りにありますよ」
ハルト「ありがとう。ちょっと行ってくる」
エレベータ内
ハルト「階段で行った方が早かったかな……ん?」
エレベータの表示パネルが次々に変わっていく
意味不明な勢いで点滅を繰り返していく
ハルト「何々!?」
ハルト「つ、着いた……何ココ? エレベータの先に……デカい湿地草原?」
ハルト「どうなってるんだ……? 俺、さっきまで大学の研究棟にいたはずなのに……? そもそも俺見滝原の外に出られないはずじゃ……!?」
ハルト「うわ、踏み心地も本物の草じゃないか……ここ、一体どこなんだ?」
青くて巨大なうねうね出現
ハルト「うわなんだアレ気持ち悪っ!」
ハルト「しかも襲ってきた!? 変身!」
___フレイム ドラゴン___
ウィザード「だりゃ!」
ウィザード「や、やっつけた……?」
ウィザード「そうだ、それよりも帰り道……!」変身解除
ハルト「来たの、あの廃墟からだよね……!?」
ハルト「この扉だったはず……頼む! 戻れてくれ!」
ハルト「___っぷはっ!」
地上一階
ハルト「……も、戻って来た……? 今の、夢?」
___誰でも良いわけじゃないのよ 共感も共犯も思わせぶりなの?___
ハルト「なんかエレベータを特定の手順で押していくと裏世界に行ける話あったよな……」
ハルト「これぞまさに裏世界ピクニック……」
ハルト「2021年の1月から3月まで放送されていたっと……」
ハルト「こんな風に異世界にいきなり放り込まれたらたまったもんじゃないよ……」
ハルト「って! トイレ! 急がないと!」
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