| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

入道の返答

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章

「御主達があやかしか」
「あやかしではないな」
「霊じゃ」
「我等はそれじゃ」
「霊になるわ」
「ふむ。左様か」
 清盛は周りから言ってきた彼等に静かに返した。
「御主達が原に出るというか」
「噂になっておるのは知っておる」
「我等のことは都でも知られておることはな」
「既に知っておる」
「それはな」
「それでわしも来た」
 清盛は彼等に恐れることもなく言う。
「ここにな」
「我等が本当にいるかどうかか」
「そしてどういった者達をか」
「それを確かめに来たか」
「左様か」
「その通りよ。それでじゃが」
 清盛は彼等に問う。そのしゃれこべ達に。
「御主達はここで人に何をしておるのじゃ」
「安心せよ。特に害するつもりはない」
「その様なことはせぬ」
「人を怯えさせるつもりもない」
「我等はただ人に問うだけじゃ」
「問う、とな」
 清盛はしゃれこうべ達の言葉にふと心を向けた。
 そのうえで彼等に対してこう問うた。
「人に問うて何をするのじゃ」
「何もとは言われてもじゃ」
「その者のしたことについて問うだけじゃ」
「我等は人の過去も見える」
「それでその行いを問うのじゃ」
「ではわしもか」
 清盛もその彼等の話を聞いて述べた。
「わしに対しても問うのじゃな」
「うむ。御主は今権勢を極めておる」
「保元の戦でも平治の戦でも勝ってな」
「源氏を討って今がある」
「その源氏のことじゃが」
 しゃれこうべ達は清盛の周りに集まりながら問う。白い髑髏達が石の様に原の中に転がっている。幾つあるかわからぬその彼等が清盛に問うのだ。
「御主は源義朝の子達を殺さなかったな」
「流しただけではないか」
「何故源頼朝や牛若達を殺さなかった」
「それは何故じゃ」
「隠しごとはできぬな」
 相手は生者ではなく過去も見ているという。ではそれは出来ぬと悟ってだ。
 清盛はありのまま答えることにした、内心覚悟を決めて述べることにしたのだ。
 それで彼等にこう答えた。
「確かにあの者達は助けた」
「何故殺さなかった」
「そうしなかったのは何故じゃ」
「それはどうしてじゃ」
「義朝の子供達を助けたのじゃ」
「義母上に言われた」 
 清盛の母は白河法皇が彼の父平忠盛に己の寵后を下げ渡した者だ。そこから生まれ彼は実は白河法皇の子ではないかという噂もある、 
 しかしその母はもう亡く清盛の今の母はその義母になる、清盛はこの義母を慕い頭が上がらなくなっているのだ。
 その義母に言われた、それでだというのだ。
「それでじゃ」
「それであの者達を助けたのか」
「そう言うのか」
「そういうことじゃ」
「義理の母に言われてか」
「それで助けたか」
 しゃれこうべ達の声はあまり納得しない感じだった。
 そしてその納得しない感じでまた清盛に問うてきた。
「どうもそれはな」
「違うであろう」
「母といっても血はつながっておらん」
「そうではないか」
「実の母ではないではないか」
 しゃれこうべ達が言うのはこのことだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧