入道の返答
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第二章
「そうすればどうじゃ」
「確かに。あやかしの出る場所に好んで行くもの好きもそうおりませぬし」
「ではこれでよいな」
「はい、それでは」
こうした話をしてだった。清盛はその日の子の刻にその場所に赴くことにした。夜に屋敷を出る時馬に乗る彼の周りにはその重盛達がいる。
彼等はそれぞれ弓や剣を備えそのうえで清盛に言う。
「では父上、何かあればです」
「我等をお呼び下さい」
「いざという時には駆けつけます」
こう清盛、家の主である彼に言う。
「羅生門までは絶対に離れませんので」
「そのこともご安心下さい」
「何があっても離れません」
「頼むぞ」
清盛も彼等に応える。
「それではな」
「はい、ですが」
ここで言うのは知盛だった。兄と同じく心配する顔で父に言う。
「こうしたことはあまり」
「よくないというか」
「はい、私も賛成できません」
「それがしもです」
今度は清盛の異母弟である教盛だった。
「どうもこうしたことは」
「ははは、御主達はそれだけわしが大事か」
「当然です」
重盛が強い声で父に言う。
「父上を慕わぬ者なぞ平家におりませぬ」
「誰も父上を慕っております」
「ですから」
「わしはそこまで人に慕われておるか」
清盛は彼等の言葉に少し微妙な顔になって述べた。既に彼を入れて四騎の者達は清盛の屋敷から羅生門を南に下っている。道は目立つ大路ではない。
静かな道をお忍びで進んでいる。その中でのやり取りだった。
都の中は暗い、周りは静まり返り道にも何もおらず今にも何かが出そうだ、その中でこう話していくのだった。
「意外じゃのう」
「意外ではないと思いますが」
「皆父上によくしてもらっていますし」
「下々の者達も」
清盛は家の者達からだけでなく仕えている者達からも慕われているのだ。それはただ彼が高い位にあるからではない。
その人柄だ。それから慕われているのだ。
「この前庭にいる者達をお部屋に入れましたね」
「父上のお部屋に」
「あのことか」
重盛と知盛の言葉に何でもないといった顔で返す。
「あれはな」
「普通あそこまではしませんが」
「下の者を父上のお部屋に入れることは」
「寒さに震えておったからじゃ」
それで入れたと。清盛は息子達に何でもないといった顔で返す。
「それだけじゃ」
「しかしその様なことをされるのは」
「他にはいませぬが」
「そんな話は聞いたことがありませぬが」
「ははは、ではわしがはじめてか」
清盛は息子達や弟の言葉に笑って返した。
「なら余計によいわ」
「仁ですか」
ここで言ったのは三人の中で最も学のある重盛だった。
「それですか」
「まあそうなるな。同じ人じゃからな」
「だからですか」
「そうじゃ。それではじゃ」
「今からその場所に行き」
「あやかしを見ようぞ」
こう言って三人を連れて羅生門に向かう。そして門を出て暫く行ったところでそのうえで息子達や弟に言う。
「ではな」
「はい、ではお気をつけて」
「くれぐれも油断なきよう」
「何かあればすぐにお呼び下さい」
三人は何時でも来られる様に身構えてさえいた。そしてだ。
清盛はその彼等を置いてそのあやかしが出るという原に出た。原は本来は緑だが今は夜で緑は見えず暗闇だけが見える。
空も黒く今は白い朧な月だけがある。その月の下に馬に乗りいると。
周りに何か出て来た。それはというと。
しゃれこうべだった。白い髑髏が次々と出て来た。清盛はそれを見てそのしゃれこうべ達に対して問うた。
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