リュカ伝の外伝
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女心は学ばなかった……
(サラボナ通商連合領内:ルドマン家・書斎)
ルディーSIDE
RS……
グランバニア王国が開発した最新のマジックアイテム。
開発を担当しているリューナ女子は『使い勝手が悪い』と、イマイチ自己評価が低い様子だが……
遙か古代に魔法の継承者が途絶えた事により文献のみの存在になっていたが、古い魔法の研究と復刻をライフワークにしていたサラボナ通商連合領内にある『ルラフェン』と呼ばれる中級都市に住む『ベネット』と言う老人が奇跡的にもルーラという魔法を復刻させたのだ。
その際に多大な協力をした功績として、魔法復刻に必要なアイテムを入手してきたリュカ様に、その魔法が扱える様にベネット氏(『氏』で合ってるのかな? 『博士』かな?)が調整してくれ、一時の間ではあるが世界中でリュカ様だけが扱える魔法となっていた。
しかし遺伝とは凄いモノで、本来なら書物などを読み理解をしてから魔法習得用の魔法薬を調合し、その後にそれを飲み干す事で得られると言う事なんだが……
リュカ様の娘で伝説の勇者として生まれたティミー殿下の双子の妹である、友好国ラインハット王国に嫁いだポピレア様は生まれながらにして魔法を使用する事が出来たという……何とも羨ましい。
そんな高位魔法を誰にでも使用出来るようにと、リュカ様の娘さんであるリューナ女子が、開発し既に販売しているのがRSだ。
大きさは縦・横・奥行きともに10cmと大きい。
大きさの理由は、その大半を占める魔道結晶の所為である。
開発担当責任者のリューナ女子は更なる改良……つまりは燃費性能を大幅に向上させての販売を考えている様子であるのだが、開発を依頼したリュカ様は『これ以上便利にすると戦争に利用されちゃいそうだから、もう手を加えなくても良いよ』とこれ以上の開発を停止。
製造方法などはグランバニア王国の最大級国家機密に指定されている。
あの人の事だから、国家機密に指定したって情報も疑わしい。
そう宣言する事で泥棒(スパイとか)がそれっぽい場所を探すだろう……
でもそんな重要機密が書かれた書類を、孫娘の落書き帳にしているかもしれない。
因みに現状でのRSは、それ1台で1カ所にしか行けないし、1回の使用で魔道結晶切れになるので再度チャージが必要になる。
なので僕は今日……サラボナに里帰りしているのだが、このRSを2つ購入してからの里帰りなのである。
さてさて……ここで気になるのがお値段ですよね?
そんな便利……とは程遠いRSですが、何と1台50万G……しかも本日は2台セットで必要との事で、合わせて100万G……送料・手数料そんなモノは一切負担してくれません!
ちょっと故郷に帰るのに100万Gなんてかけてられないですよ!
もっとお手軽価格で欲しい各国の偉い方々は、開発成功国のグランバニア王様に直訴したそうだが、『自分で魔法薬を飲んで使える様になれよ! 言っとくけど、あの薬死ぬ程不味いリュリュの手料理を遙かに凌駕する不味さだからな! 遺書は書いて行け(笑)』とあしらった。
そんなあしらわれたお偉いさんの一人……ルドマン最高商評議会議長が今僕の目の前でバツが悪そうにコーヒーを啜っている。
僕も久しぶりの一人での帰郷……孫との語らいをもっと楽しそうにすれば良いのに。
「気持ちは……解りますけどね。でも可愛い孫娘の彼氏の素行調査に、一国の諜報機関を使いますか!?」
「いや、まぁ……使ってしまった……」
使うなっての!
「叔母様はパニックになってまた我が儘を言うと思われるから、デイジーに彼氏が出来た事自体を秘密にしてますけど……お祖父様には包み隠さずに報告をしています! それが信用出来ませんでしたか?」
「し、信用は……しておる。ほ、本当じゃぞ! だがまたワシだけが知らぬ事態になるやもと思うと……全てを知り得る為の努力は……な!」
『な!』じゃねーよ!
「そんなにデイジーの父親の事が気になるんですか?」
「当たり前じゃわい! フローラもデボラも、どちらもワシには大切な娘……その大切な娘を妊娠させておいて、姿も現さないなんて言語道断! 言っておくが金の問題では無いぞ! その男の為人がクズであれば、孫娘の成長に関わってほしくないが、それでもデイジーの父親として存在を明確にするべきであろう!」
「それが出来ない事情がデボラ叔母様と相手の男性に在ったのでしょう……致し方ない事じゃ無いですか。お祖父様だって他人には話せぬ事柄の1つや2つはあるでしょう?」
この話になると凄く興奮するが、何時もこう言って宥めている。
「まぁそれは……そうなのだが……」
そして次に出てくる言葉は……
「父親であるワシは知らないのに、他人であるリュカは知っているのが気に食わぬ! 何でアイツはデイジーの父親の事を知っているんだ!?」
そこがリュカ様の凄い所で、人々の機微から色んな事を読み取ってしまうんです。
「リュカ様は太古の時代から女性の微々たる仕草等で、女心を把握できるように訓練してきたみたいですからね。僕やお祖父様とは格が違いますよ。僕もあれだけ女性の機微に敏感なら、今頃プリ・ピーの皆さんとヨロシクやってるんですけどね!」
「それよ、それ……」
「女心の機微ですか?」
「うむ。勉強しとらん事も事実じゃが、勉強のしようも無いじゃろう」
「まぁ確かに……」
「となれば代用するしかあるまい」
「それが……今回の諜報機関使用の言い訳ですか?」
まったく……何を考えてるんだか?
「言い訳では無い! せめて孫娘の事は全て認識しておこうと思っての“祖父心”ってやつじゃよ!」
「その祖父心の結果、5年の歳月と莫大な資金を投じて設立させたサラボナ通商連合の諜報機関は、既にリュカ様にはバレてしまっていますけどね!」
「全くもってそれも信じられん! 今回は一切リュカとは接触しとらんのじゃろ? 何故……何処からリュカに諜報機関の事がバレる要素があるんじゃ!?」
「それが解れば苦労は無いですよ」
「と言う事は“バレた”と言うのはお前の思い込みであって、実際リュカは何も気付いて無いって事にならんか?」
「だと良いのですが、ここがリュカ様の優しさであり、嫌らしさでもあるんですが……あの人ワザワザ僕にカボチ村産のニンジンを買ってきて渡すんですよ。あの村の事は大嫌いだと広言してるクセに!」
「う~む……バレてるぞアピールか。確かにワシ等への優しさじゃなぁ……」
大量の本と、それを収納する本棚で壁面を全て覆い窓を使用出来なくしてある書斎……そんな場所ではロウソク1本の灯火では奥の奥までは明るくは出来ず、小さな闇を見詰めて溜息を吐いた。
「では……如何する?」
「『如何する』とは?」
防音のしっかりした室内ではあるが、それでも声のトーンを落として話しかけてくる祖父……
「5年と大量の金を注ぎ込んだが、今の諜報機関の事がリュカ一人にでもバレているのなら、全てを無かった事にして1から作り直すか?」
「………………」
普通に考えたら、諜報機関なんて代物は存在がバレたら意味が無くなるのだから、即座に解体するのが望ましいんだろう……
だが今回は状況が違う。バレたと言っても一人(リュカ様)にだけ……
「このまま諜報機関は継続させましょう。それがリュカ様への……引いてはグランバニア王国への友好(と言うよりも敵対心の無さ)の証にさせもらいましょう」
「『友好の証』?」
「そうですよ……我が国に諜報機関が存在する。それを否定せず放置して今まで通りに国交を交わしていく。でも存在するスパイを使っての情報戦などは行わない。我々サラボナ通商連合はグランバニア王国とは争いませんって事の証明としてバレた諜報機関をグランバニア以外で使用します。互い(サラボナとグランバニア)が共有している公然の秘密として放置するんです」
「……成る程。だが向こうさんの秘密を握ってないから、不公平感は大きいのぉ……」
「何を言ってるんですか、流石に怒りますよ!」
「うわぁ……も、もう怒っておるよ!」
「諜報機関の総括に僕を据えたクセに、勝手に私的な案件で……よりにもよってグランバニアに諜報員を派遣したのが原因じゃないですか!」
「ま、まぁまぁ……そう言うなよぉ」
「外国の大金持ちの孫が、自身に絵画の才能はそれ程備わってないのに、ボンボンに育てられてきた事で自覚する事も出来ず、親元を離れた開放感からかなり好き放題をしている世間知らずな青年って……殆どの人達が僕の事を評価してるけど、そう評価して欲しいリュカ様だけは僕の正体に気付いちゃったんですよ。何の為にあんな使い勝手の悪い魔道車を購入したか……」
「……100万Gじゃったな?」
「そんな魔道車を乗り回しても、毎月の仕送りが10000Gでも……もうリュカ様の目には“情けない金持ちの坊っちゃん”は映りませんですからね」
「わ、悪かった……って……本当にすまん!」
「はぁ……もう良いですよ。それじゃぁ僕はそろそろ帰ります」
「何じゃ、もう帰ってしまうのか?」
「なんせ報告だけの要件ですから……『バレた』ってね」
「うっ……すまんって! それでも両親にも会わずに帰る事も……」
「魔道車に大金を注ぎ込みすぎてちょっとだけ口煩いんですよ。無意味な課金になってしまったのに小言まで言われるのは……ちょっと……」
「ワ、ワシが大いに甘やかしてる感を出せば……」
「お祖父様と一緒にお小言を頂戴するだけでしょう。今日は早々に帰った方が得策ですよ」
そう言い切って立ち上がり、僕は自身の鞄からRSを取り出す。
鞄の奥には来る時に使用したRSがあり、そちらの方はどのボタンを押しても何の反応もしない。当然だ……そっちはバッテリーが切れており、動かなくなっているのだからね。
だけど今取り出した方は動く。
当たり前だがまだ魔道結晶があり、故障もしていない。
その為この装置の仕様として、魔道結晶残量ゲージ部分に青いランプが点灯している。
このランプが点灯してない場合は魔道結晶切れで使用不可……
点灯していれば使用出来る分だけの魔道結晶があると黙認出来る様になっている。
RSは魔法ポイント(つまり移動先)の変更は何度でも出来るけど、変更方法が“行きたい場所に本体を持って行き機器を操作してその場所を記憶させる”なので、1台のルーラ・ポイントを頻繁に変える事は難しい……と言うより無駄すぎる。
だから今回の様に素早く往復するのであれば、事前にルーラ・ポイントを登録しておいた2台のRSを駆使して行うしかないのだ。
とは言え……簡単(通常に比べてって意味)にサラボナとグランバニアを往復出来るのは凄い事だ!
それと、僕ももっと勉強が必要だろうな……
女心に付いてなんて、本当に難しい分野だからね!
ルディーSIDE END
後書き
2024年6月27日投稿
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