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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第39話

5連休の二日目――――――ヴァンは朝のうちに正式に依頼を請けることをニナに連絡した。そして、翌日早くに現地入りするためには、前日の”夜”に出発する必要があり…………事務所の面々はそれぞれ、三泊四日の旅の準備を済ませるのだった。



10月4日、18:30――――――



旅の準備を終えたヴァン達は出発前の夕食をモンマルトでとっていた。



~モンマルト~



「いいな~、ヴァンたち。ユメもエーガサイ、行きた~い!じょゆーさんとかにも会えるんでしょ?」

ヴァン達の行き先等を知ったユメは羨ましそうな表情でヴァン達を見つめた後興味ありげな表情を浮かべて訊ねた。

「ま、仕事だ仕事。」

「でも、ちょっとドキドキしますね。銀幕スターたちに会えるかもと思うと。」

「はいっ、あのニナさんも何だかちょっと不思議な雰囲気でしたし!」

ユメの言葉に対してヴァンが軽く流している中、興味ありげな様子で口にしたアニエスの言葉にフェリは頷いた。

「サルバッドまで車だと8時間くらいだったかしら?かなりの距離でしょうし、しっかり食べていってちょうだい。」

「ふふ、ありがとうございます。」

「そんじゃ、俺は景気つけに一杯――――――」

「アホかてめえ…………何のために再交付してきたんだ?」

酒を頼もうとするアーロンにヴァンは呆れた表情で注意し

「あ、それなら私は一杯もらおうかしら♪私は二人と違って車の免許は持っていないし♪」

「ユエファ…………貴女ね…………」

「こっちはこっちで、俺様以上に自由過ぎだろ、この出戻り母親は…………」

アーロンに続くように酒を頼もうとするユエファにヴァン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中マルティーナは呆れた表情で頭を抱え、アーロンはジト目でユエファを見つめて指摘した。

「ったく、毎度毎度、緊張感のねえ店子どもだな。」

「ふふ、どんな依頼からは知らないけどどうか気を付けて行ってきてね。」

ヴァン達の緊張感のない様子にビクトルは苦笑し、ポーレットは微笑ましそうに見守っていた。その後夕食を終えたヴァン達は車があるガレージに向かった。



~ガレージ~



「…………正直不安だがまずはお試しだ。市街に出るまではお前が運転してみろ。煌都でレッドスターを乗り回してたっつう腕前、とくと見極めてやるよ。」

「へっ、無問題(モーマンタイ)だっつの。インゲルトだろうがノリは同じだろうしな。手足の震えるオッサンの運転よりはよっぽど安定した走りを見せてやんぜ。」

ヴァンの指示に対してアーロンは不敵な笑みを浮かべて答えた。

「…………いいか、これだけは言っとくぞ。舐めた運転でコスったり切符切られてみろ。後ろの荷台に転がして連れてくるからな…………?」

「…………薄々わかってたがスイーツ以外もうるせえのがあんのかよ。」

ヴァンのアーロンへの念押しにアニエスとフェリが苦笑している中アーロンは呆れた表情でヴァンを見つめた。

「あとは車とサウナですよねっ。」

「まあ、とにかく安全運転さえしていただければ…………」

「えーっと、ヴァンさん?アーロンに運転させるのが不安なら私でよければするけど…………」

「マティはアーロンを甘やかしすぎよ。アーロンの運転の試験の意味でも最初にアーロンにさせるんでしょう、ヴァンさん。」

「ああ。それにマルティーナは九龍(クーロン)ホテルのVIPクラスの客用の送迎車の運転手の経験があるから、正直マルティーナの運転の腕前は心配してねぇ。先に運転が不安な野郎の腕前を見極めておきたいんだよ。」

アーロンの代わりに車の運転をすることを申し出たマルティーナに指摘したユエファはヴァンに確認し、確認されたヴァンが答えるとヴァンのザイファに通信が来た。

「なんだ、こんな時に。ってこの番号は――――――(コイツらもいるが仕方ねぇか…………)」

ザイファに記されている通信番号を確認したヴァンはアニエス達に視線を向けた後アニエス達に背を向けて通信を開始した。



「ヴァン様、よろしいでしょうか――――――あら。」

ヴァンが通信を開始すると水色髪の女性が映像に現れ、女性はアニエス達に気づくと目を丸くした。

「え……」

「お、なんだなんだ、女からかよ?」

(不思議な恰好…………)

(フフ、”様”付けで呼んでいるのだから、まさかあの女性にとってヴァンさんは主なのじゃないかしら♪)

(そんな訳ないでしょう…………大方、仕事の関係で知り合った人物じゃないかしら?)

初めて目にした女性を目にしたアニエスは呆け、アーロンとフェリはそれぞれ興味ありげな表情で女性を見つめ、ユエファの推測にマルティーナは呆れた表情で指摘した。



「その、申し訳ありません。事務所の方々とご一緒でしたか…………」

「あー、気にしないでくれ。――――――悪い、追加査定だったか?すまんが今ちょっと立て込んでててな。これから出張で旧首都を空けるんだ。戻ってきてからってことでいいか?」

「!そうでしたか…………」

「何分、急に決まっちまってな。アンタにも連絡しとくべきだったぜ。」

「いえ、こちらは問題ありません。ですがヴァン様――――――前回受け取った各種ステータスは明らかに異常でした。サービスを提供するわたくし共といたしましても捨て置くわけには――――――何より担当として…………個人的にも心配です。」

「あー…………そうい言ってくれるのは有り難いんだが。まあ数日で戻るから待っててくれ。落ち着いたら連絡する――――――じゃあな。」

「あ、お待ちくだ――――――」

「ふう――――――って。」

女性との通信を無理矢理終わらせたヴァンがアニエス達へと振り向くとアニエスはジト目で、フェリ達はそれぞれ興味ありげな様子でヴァンを見つめていた。



「な、なんだその目は…………いかがわしい店とかじゃねえからな?」

「そうかぁ?完全に馴染みの店のオキニとの会話じゃねーか。」

「どこがだよっ!?」

アーロンの指摘に対してヴァンは思わず声を上げて反論した。

「オキニ…………?よくわかりませんけどキレイな人でしたねっ。あの服も心なしか惹きつけられますし!」

「…………あれはメイド服、でしょうか?サービスの提供…………担当として個人的に心配…………」

「フフ、随分と意味深なワードばかりを口にした彼女との”関係”について是非聞かせてもらいたいわね♪」

「まあ、今回は現地までの時間が随分とあるからその時に暇つぶし代わりにでも説明してもらえばいいのじゃないかしら?」

フェリは興味ありげな様子で女性の事を口にし、アニエスは考え込み、からかいの表情で呟いたユエファにマルティーナは苦笑しながら指摘した。

「だあっ!いいからとっとと出発するぞ!」

仲間たちの様子に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたヴァンは話を逸らすためにさっさと乗り込んで出発するように促した。その後マルティーナとユエファはアーロンの身体の中に戻り、車に乗り込んだヴァン達はビクトル達に見送られながら出発した。



~首都高~



「ふふ、アーロンさんも確かに慣れている感じですね。」

「えへへ、揺れませんし快適です。ヴァンさんと比べても遜色ないかと。」

「そうだろそうだろ。」

「…………チッ。まあ悪くはねぇな。」

アニエスとフェリの感想にアーロンが気分よく運転している中ヴァンは舌打ちをして僅かに複雑そうな表情を浮かべてアーロンに視線を向けた。

「いや、てめぇの車も言うだけはあるぜ?乗り心地は上質、拡張性も高くてパワーと小回りをギリ両立させている。オレは断然、紅星(レッドスター)派だったがインゲルトもなかなか悪くねぇな。」

「へっ、わかってんじゃねーか。四大メーカーじゃ個人的には――――――」

アーロンの自分の車に対する高評価に気分良くしたヴァンは車のメーカーについての話をしようとしたが

「つーわけでたまに貸せや。ナンパにも使えそうだしな♪」

「絶・対・に・断・る。」

(全く、この子は…………)

(アーロンなら、車みたいな”小道具”を使わなくてもナンパは成功すると思うけどね♪)

アーロンのある要求を聞くと威圧を纏った笑顔で断り、その様子を見守っていたアニエスとフェリは冷や汗をかいて脱力し、マルティーナは呆れた表情で溜息を吐き、ユエファは口元に笑みを浮かべて推測した。



「…………ま、1時間程運転したらマルティーナと交代してくれ。休憩と交代を繰り返しながら進めば朝までにはサルバッドに着くだろう。あのニナ・フェンリィの依頼自体ももちろん気になるが――――――」

「はい――――――ゲネシスが光った以上、”何か”があるのは間違いありません。その…………毎回”それが何か”までわからないのは申し訳ないですけど…………」

(”2度あることは3度ある”と言う諺がありますからね…………今までの件を考えれば、間違いなく”アルマータ”が何らかの事件を引き起こすのでしょうね。)

「そんな、アニエスさんが謝ることじゃないですよっ。でも、本当に不思議ですよね…………どういう仕組みなんでしょう?」

アニエスの話を聞いていたメイヴィスレインは呆れた表情で推測し、フェリは謝罪するアニエスに謝罪の必要はないことを指摘した後ある疑問を口にした。

「ああ、仕組みが解明できない古代遺物(アーティファクト)とは違う筈だが…………」

「ハン…………俺は煌都の時しか知らねえが。今までに共通しているパターン――――――たとえばアルマータは関係してんのか?」

「…………!」

「わからん…………ツテで色々調べたが今のところそれらしい連中はいねぇ。それこそ各方面に届いたっつう”脅迫状”がそうかもしれねえが。」

サルバッドにもアルマータが関わっているかもしれないというアーロンの推測にフェリが表情を引き締めている中ヴァンは疲れた表情で答えた後真剣な表情を浮かべてある推測をした。



「ニナさんの”まねーじゃー”のヒトが届けてくれたっていう…………」

「…………連中(アルマータ)のやり方にしちゃあ、ぬるいっつうか回りくどい感じだが。」

「そうですね、映画祭を邪魔する意味もわかりませんし…………中止した映画祭のメッセルダムはまさに彼らの本拠地らしいですけど。」

「いや………本拠はとっくにそこから移しているらしくてな。そっちの映画祭が狙われたのは民族テロ関連の仕業らしい。まあ予告上とボヤくらいで念のため大事を取っただけらしいが。」

「民族テロ………ですか。」

「クズだな、クズ。一時期イキってたみてぇだが。」

ヴァンが口にしたある存在を耳にしたフェリは真剣な表情を浮かべて呟き、アーロンは僅かに不愉快そうな表情を浮かべて呟いた。

「民族テロと言えば、”中央”と”本国”による大規模な制圧作戦が行われたと以前新聞に載っていましたが…………」

「ああ。メンフィル帝国の”暗部”に中央警察による捜査、果てはGIDや黒月も連中の拠点等の捜査に協力したらしくてな。カルバード両州の市民達へのアピールもそうだが、今後現れるかもしれない新たなテロリスト達への牽制の意味でも相当血生臭い事をしたらしいがな。」

「”相当血生臭い事”というと…………もしかして、文字通り相手を”殲滅”したのでしょうか?」

アニエスが口にしたある話に頷いたヴァンは真剣な表情で自分が知る情報を口にし、それを聞いてあることを察したフェリは真剣な表情でヴァンに確認した。

「そうだ。その証拠に連中の制圧作戦の件に遊撃士協会(ギルド)は関わる所か、捜査の協力すら”中央”と”本国”に求められることはなく、ギルドが制圧作戦の情報を掴んで協力を申し出た時も両帝国から拒否されたため、関われなかったとの事だ。」

「遊撃士は例え相手がどれ程の凶悪犯であろうと”不殺”が基本ですし、相手が降伏を申し出れば身の安全の保証をしてくることが予想できていたから、テロリスト達の殲滅を目的としている”中央”と”本国”はギルドの協力を拒否したんでしょうね…………」

「それは…………」

「ハッ、クズ共にはお似合いの末路だから、気にする必要なんてねぇよ。」

ヴァンの答えを聞いてあることを察したフェリは複雑そうな表情で推測し、それを聞いたアニエスが複雑そうな表情を浮かべている中、アーロンは鼻を鳴らして気にする必要はない事を口にした。



「―――――それにしてもヴァンさん、ディンゴさんのことを信頼してますよね。ニナさんの紹介もすぐつないでいましたし。」

ヴァンのディンゴへの信頼の強さが気になっていたアニエスはそのことをふと思い出して口にした。

「なんだかんだ裏解決屋を立ち上げたころからの付き合いだしな。昔から色々仕事を紹介してもらったり、逆に仕入れた裏ネタを提供することもある。」

「あー、確かジャックの知り合いでもあるんだよな。あのベルモッティといい、濃い知り合いが多いじゃねえか?」

「ま、その中でもかなり真っ当な部類だがな。かといって変に慣れあわず、自分の仕事はキッチリ確実にこなす。そこら辺は誰よりも信頼できるヤツだ。」

ディンゴの知り合いの面々について呆れた表情で口にしたアーロンに苦笑しながら指摘したヴァンは静かな表情でディンゴの事を語った。

「ニナさんといい、顔もずいぶん広そうですよね。サルバッドの4spgも手配してくれたという話ですし。」

「中東系のハーフだからかあっち方面にも顔が利くみてぇだな。そういや前にフューリッツァ賞の特別賞を辞退したとかで、その筋でも有名らしい。」

「そ、そうだったんですか………!?たしかフューリッツァ賞と言え記者にとっては最高の栄誉ですよね。」

「なんでそんなヤツがゴシップ誌のルポライターなんざやってんだ?」

ヴァンの話を聞いて驚いた様子で口にしたアニエスの話を聞いてある疑問を抱いたアーロンはヴァンに訊ねた。

「…………さあな、色々あんだろう。ま、ヤツも映画祭の取材で二日目には現地入りするらしい。情報面ではアテにできそうだぜ。」

その後休憩と交代を繰り返していたヴァン達がサルバッドへと向かい続けていると、時間は既に自身にとっての普段の就寝時間が近くなってきたのか、フェリがあくびをした。



~車内~



「ふわ~あ…………すみません、あくびが。」

「眠たくなったら遠慮せずに休んどけよ。リクライニングしていいがシートベルトは忘れずにな。」

「ヴァンさんも無理はしないでくださいね?SA(サービスエリア)も何回か飛ばしていますし。」

フェリに指示をするヴァンにアニエスは無理をしないように指摘した。

「心配すんな、長距離運転は慣れている。いざとなりゃあこっちのガキかマルティーナに代わりゃあいいだけだしな。」

「へっ、いいぜ。若いからオールも余裕だしな。」

ヴァンの言葉に対してアーロンは口元に笑みを浮かべて答えた。

「ふわ…………あ、そういえば!やっぱりラクダのミルクってカルバードじゃ飲まれないんですよね?」

「ああ、”メルフィータ”っていう例のショコラの…………ふふ、そもそもラクダ自体、中東の方しかいないみたいですし。」

「なんだ、故郷じゃ普通に飲まれてたのかよ?」

あくびをした後ふとあることを思い出したフェリの質問に答えたアニエスは微笑みながら答え、フェリの口ぶりからフェリの故郷ではラクダのミルクを普段から飲んでいる事を察したアーロンは目を丸くしてフェリに訊ねた。

「いえ、クルガは山脈の麓なのでラクダはいませんでしたけど…………遠征に行った先で何度か飲ませてもらったことがあって。牛や羊のミルクよりも濃厚でとっても美味しかったですっ。」

「へえ、馬乳酒みたいにしても旨そうだな。」

「ふふっ、それを聞くとちょっと飲んでみたいですね。」

「―――――ちなみにラクダは乳自体があまり取れないから貴重らしいぜ?俺も飲んだことはねぇが牛乳アレルギーでもイケるって話だ。その上高タンパクで低脂肪、ビタミンや鉄分も数倍あるらしい。加工が難しいそうだから、それを上手く仕上げてショコラにするとはねぇ…………」

フェリの話を聞いてラクダのミルクについてそれぞれ興味を抱いているアーロンとアニエスに自分が知る情報を教えたヴァンはニナからご馳走してもらう予定になっているスイーツを思い浮かべて口元に笑みを浮かべ、ヴァンの様子にアニエス達はそれぞれ冷や汗をかいて脱力した。

「どんだけ調べてきてんだっつの…………煌都の件もチョウに釣られたみてぇだし、敵にスイーツ振る舞われたらどうすんだ?」

「そ、それは…………心配ですね。」

「えと…………こちらも負けないくらい美味しいお菓子を作るしかっ。」

呆れた表情で指摘したアーロンの指摘にアニエスは同意し、フェリは真剣な表情である提案をし

「いや君達…………さすがにそこは弁えてるからね?」

3人の会話を聞いていたヴァンは呆れた表情で指摘した。



「そういえば――――――ニナさんって女優を抜きにしても素敵ですよね。私と二つしか違わないのにすごくしっかりしていて…………」

「あ、魔獣に襲われた時もなんだ毅然としてた気がします。戦士とは違いますけど凛とした”息吹”を感じましたね。」

「ああ、実際大したモンだと思うぞ。東方系の枠にはまらないっつーか――――――たしか煌都の出身じゃねえんだよな?」

ニナの事についての感想を口にしたアニエスとフェリの意見に同意したヴァンはあることをアーロンに確認した。

「ま、別に東方人全員が煌都出身ってわけでもねぇしな。東には”龍来(ロンライ)”ってのもあるし、帝都のクロスベルにも東方人街はある。…………ま、それ以前にあの娘は東方らしさをあえて出さねぇようにしてるっぽいが。それはそれでソイツの自由だろ。」

「?えっと、それはどういう…………」

「…………その、カルバード両州ならではの問題と言いますか。百年前の民主化革命で、身分や人種、文化的な差別は撤廃されて…………共和国憲章の下に、様々な人種、民族が共存できるようになり、カルバードが両帝国の領土になっても共和国憲章は撤廃されることなくそこに異世界の異種族も加えて運用した事で、カルバード両州は人種や民族だけでなく、異種族も共存できるようになりました。――――――あくまで、表向きは。」

アーロンの推測を聞いてある疑問を抱いたフェリにアニエスは説明をした後複雑そうな表情を浮かべた。



「あ…………さっきの民族テロ、ですか。」

アニエスの話を聞いて察しがついたフェリはそのことについて口にした。

「ハッ、結構根深いみてぇだぜ?煌都の方じゃほとんどねぇがカルバードの北部なんかは特にな。旧王国系――――――白人至上主義者の連中が目の仇の東方系、たまに中東系に起こす。独立国騒ぎで経済恐慌が起きた時がピークだったが、まあ今は落ち着いてんな。」

「メンフィル帝国とクロスベル帝国によってカルバード共和国が滅び、両帝国の領土として併合されたことに加えて併合後の両帝国が旧王国系の不満を”力”で抑えつけたことに加えて戦争だけでなく、内戦やテロにも各国からの協力が義務化されている”ゼムリア連合”に両帝国が調印したこともありますから。それでも完全に無くなったわけじゃないんでしょう。」

「そう、なんですね…………」

(…………どの世界も種族違いによって発生する争いは変わりませんね。)

真剣な表情で答えたアニエスの話にフェリが頷いている中メイヴィスレインは静かな表情で感想を口にし

「つっても黒月あたりはその分、相応にやり返してるってのもある。そこら辺はお互い様かもしれねぇが。」

「へえ………?お前にしちゃ大人な意見だな。」

アーロンの意見に目を丸くしたヴァンは意外そうな表情を浮かべてアーロンに指摘した。



「るせえ、レッテル張りなんざ下らねえってだけの話だろ。そういう意味ではメンフィルには色々と気に食わない所はあるが、”全ての種族との共存”を掲げているメンフィルの考えには俺も文句はねぇ。」

「そうですね…………結局は”その人”でしょうから。でも、そんな風に考えられない人も世の中には少なからずいる…………」

「……………………」

アーロンとアニエスの話を聞いたフェリは目を伏せて黙り込んでいた。

「…………ま、東方系はミラを持ってるからその分軋轢も生まれやすいんだろう。逆に中東系は技術や学問なんかで昔からカルバードに貢献してきた。”ヴェルヌ社”に”バーゼル理科大学”…………どちらも中東資本や学問の影響がデカいしな。」

「私の曽祖父、C・エプスタインの三高弟と言われるL・ハミルトン博士――――――その方も中東系なのは有名な話ですね。」

「!名前は聞いたことがあります…………!でも…………きっとそれを快く思わない人たちもいる…………わたし、まだまだ勉強が足りません。」

「フェリちゃん…………」

「…………ハン。」

カルバードが長年抱えている軋轢に複雑な思いを抱えているフェリをアニエスは心配そうな表情で見つめ、アーロンは僅かに不愉快そうな表情を浮かべて鼻を鳴らした。

「ま、お前ら若い世代はそういう違いもあまり感じてねぇんじゃねえか?頭の固い連中なんぞに左右されねえで風通しをどんどん良くして行けよ。年寄りは茶でも啜って見守ってやるからよ。」

「ヴァンさん…………」

「もう、ヴァンさんだって十分若いんですから…………」

「ハン…………投げてんじゃねーぞジジイ。馬車馬のように道をならして、オレらを気持ちよくは知らせろや。」

ヴァンの言葉にフェリは目を丸くし、アニエスは苦笑し、アーロンは呆れた表情を浮かべて指摘した。

「鬼かてめぇ………あとせめてオッサンって呼べ!」

アーロンの指摘に呆れたヴァンはアーロンに反論した。その後ヴァンが運転を続けているとアニエス達はそれぞれ眠っていた。

(ったく…………寝顔はどういつもこいつも年相応だな。俺らにもこんな時期があったんだろうが…………)

アニエス達の寝顔をチラリと見たヴァンは苦笑しながら学生時代の自分、エレイン、キンケイドの姿を思い浮かべた。

「…………まあ、色々忙しない時代だ。それぞれ事情もあんだろうが…………せいぜい自分らしく駆け抜けてみな。…………俺みたいに外れちまわないように――――――」

そして翌日――――――

 
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