リュカ伝の外伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
贅沢三昧
(グランバニア王都:中央地区=レジデンス・ルディ)
ピパンSIDE
ここはグランバニア王都の中央地区。
その東の方に数ヶ月前に完成された新築の学生寮……その名も『レジデンス・ルディ』です。
名前で解る通り、この建物自体はルディーさんの家の所有物。
今回の件(デイジーさんの芸高校受験)に合わせてこの国に土地を買ってマンションを建てたワケです。
普通はそこまでしないよ。ってか出来ないよね。
建物は地上5階建て、二棟が並んで建っており、西側は女性専用……必然的に東側は男性専用の居住可になってる学生寮だ。
学生寮と言ってるが、その実情は豪華絢爛!
ワンフロアに2部屋があり、1棟で10部屋になっている。
室内の間取りには違いは無いのだけど、全ての部屋が“1LDK”だ。
入居はデイジーさんの入学から開始なので、今はまだ誰も住んでない。
だけど既に全室完売。
一部屋がこんなにも広いのに学生限定の一人暮らし専用マンションだ。
ルームシェアは認めているらしいが、シェア相手も学生である事が絶対条件。
男女で棟を分けているが、それは居住に関しての決まりで、女子棟に男性が出入りしても構わないし、その逆も然り。
でもルームシェアは当然駄目。即ち男女での同棲生活はこのマンションではすることが出来ない。
5階建ての為、東西両方の棟にエレベーターが設置されている。
グランバニア王都でも10階以下の建物には珍しく、それが付いてるってだけでこのマンションが高級である事を示してる。
そしてこのマンションが建てられる最たる要因になってるデイジーさんの部屋は、西棟5階の西側……エレベーターと非常階段の側部屋である。
間取り等に差異は無いけど、この部屋が一番人気であるだろう。
ここから窓の外を見れば、次の春からデイジーさんが勉学に励む芸高校を見る事が出来る。
一応このマンションは芸高校まで歩いて10分と謳っており、登下校には最適になっている。
その為か王都内広域に行く事が出来る魔道人員輸送車停もこの部屋から見える位置に存在する。
にも関わらず、マンション前に広めのスペースが設置されている。
この無駄空間は何ぞやと思う方々は多いと思うが、このスペースは魔道車を購入して駐車したい人の為のスペースである。
一応は一人1台として部屋数と同数の魔道車が駐車出来る様になっているのだが、何故だか西側のエレベーターから一番近い出入り口の駐車(仮?)スペースは最後まで売り出さないとの事だ。完全にデイジーさん専用になっている。
そんな学生寮と呼ぶには豪華絢爛なマンション……何度でも言うが、名前はレジデンス・ルディ。
現状でこの建物は俺の隣で和やかに佇んでいるルディーさんの所有物件だ。
つまりルディーさんは、この歳で既に土地持ちの富裕層学生なのだ!
“苦学生”って言葉は聞いた事があるけど、何だ“富裕層学生”って!?
一応は説明しておいた方が良いと思うから言っておくが、治安に関してもここはズバ抜けて良い。
軍の詰所が側にある。まぁグランバニアは何処も比較的に治安が良いけどね。
俺等は今日買ってきた物をこの部屋に置いて、一先ずベランダから外の景色を堪能しつつ休憩した。
歩いて2分の位置にコンビニ『ノーソン』があり、そこで飲み物と軽い食べ物を購入しておいた。
それを晴れた良い天気のベランダで堪能……しかし、
「う~ん……失敗したなぁ。一時的でもいいから椅子とテーブルを用意良かった」
「だ、大丈夫ですよ……こうやって立ち食い(立ち飲み)でも問題ないですって」
と俺との会話。
椅子とかテーブルって物は“一時的”に購入する物じゃ無いと思うんだよね。
放っておくと直ぐに買い足そうとするルディーさん。
リュカ様がよく言っているけど、彼は正に“坊っちゃん根性”だ。
家族(特にお祖父さん)からの溢れる愛情と金銭で、今の彼が形成されているのだろう。
少しだけ談笑をしてゴミ(買ってきた飲食物の残骸)を纏めて、撤収の準備が完了する。
するとルディーさんから申し訳なさそうに……
「本来であればこの後は恋人同士で買ってきた服とかを試着してイチャイチャするモノなんだろうけど、今日は緊急って事でもうそろそろ帰らないとね」
「いえそんな……通常の恋人同士のルーティーンなんて知りませんし、今日は凄く楽しかったですよ。デイジーさんの色んな姿を見る事が出来たし」
「う、うん……わ、私も楽しかった……お、お友達も沢山できたし……」
俺等以外に誰も居ないから、デイジーさんも最後まで喋りきれる。
「そうだね……他のプリ・ピーの皆さん……は無理でも、僕と一緒にプリ・ピーの追っかけをしてる人達も紹介するね」
「それは良いですね。良ければ俺の友達も紹介しますよ」
「うん。じゃぁピパン君の友達にもプリ・ピー信者になってもらわないとな! これは忙しくなるぞぅ(笑)」
「止めて下さい。プリ・ピーは素晴らしいですから、俺等が押し付けなくても大勢がファンになっていきますよ」
「あ、良い事を言ったよピパン君!」
「ありがとうございます。ですが一番なのはデイジーさんが学校で友達を沢山作る事ですね。恋人枠には俺が既に在籍してますけど、友達枠は無限ですからね……沢山居た方が楽しいはずです」
そう言えばデイジーさんって実家付近に友達は居るのかな? 正直あんまり居なさそうだけど……?
「ピパン君の想像通りだよ」
「な、何がですか!? お、俺……何も言ってませんけども!?」
失礼な事を考えていたら、心を読まれたかの様に考えていた事の答えをもらえる。ビックリする!
「デイジーはね人見知りが激しいから、地元じゃ殆ど友達が居ないんだ。大概が僕の友達だね。この娘の性格も影響してるけど、やっぱり伯母さんが口を出してくる事が大きな原因かなぁ?」
「で、でもルディー兄……お母さんも私の事を思っていて……」
「うん。それは解ってるよ。皆それは理解してるんだ。でも伯母さんはあの性格でしょ……大概の人は近寄り難く感じちゃうよね。本当はデボラ伯母さんは素晴らしい女性なんだけどね」
親の過干渉がどれほど問題なのかが解る親娘だ。
とは言え、取り敢えず今日はここから引き上げ。
戸締まりを済ませてエレベーターで1階、そしてエントランスから出てルディーさんの魔道車へ……
「あ、あの!」
今まさに超絶高級魔道車のルディーさんM・Hに乗り込もうとした瞬間……若い男性が近寄り話しかけてきた。
取り敢えず敵意は感じないし、その人からデイジーさんの姿を隠す様に俺は立ち位置を決める。
この中では現状真面に戦えるのは俺だけだからね……無用だとは解っているけど、デイジーさんを守る為に無意味に戦闘待機状態に入る。
「い、今……この建物から出てきましたけど、ここに住んでいるんですか!?」
見た目での判断になるが年齢は俺等と同じ……多分来年度から高等学校に入学するくらいの歳だろう。
話しかけてきた要件も推測だが、入学は決まったが住む場所が見つけられてないから、このマンションの絡みで質問しようとしてきたのだろう。
「このマンションには、まだ誰も住んでないよ。人が住むのは春からだ。この娘がここに住む事になってるから、事前に準備しに来てたんだ。もう帰るところだよ」
相変わらずの柔和な表情と声で易しく説明するルディーさん。
「そ、そうなんですか……あ、あのですね突然現れてこんなお願いを言うのは失礼だとは思ってるんですけど、私は……春から農高校に入学が決まった者でして……一人暮らしの為に住む家を探してたんですけど、今のタイミングですと中々見つからなくて……ここの管理業者さんへの連絡先を知っていれば教えてもらおうかと思いまして……」
言葉の端々に特有の訛りがある……
多分ではあるがこの方はサラボナ通商連合に所属してる農業特化都市『カボチ村』出身だ。
確かリュカ様はあまり好んでないと言ってた様な気がするが……
「そう言う事ですか……ですがこの物件は手遅れですよ。全室が完売になっており、その為何処にも連絡先を置いてないんです。新築ですから出来上がる前には既に……」
そうなんですよね。しかも異常な程高級ですから、ここは止めた方が良いですよ。
「そ、そうでしたかぁ……残念だなやぁ」
おっとお国言葉が出てきてる。
何だか勝手な言い分だけども俺は落ち着いてしまう。
「しかし……部屋探しでしたら、少し……と言うよりも、かなり遅く感じますけど? 高等学校への入学の合否は3~4ヶ月も前には出てたと思いかすが?」
「えっ! あ、あぁ……お恥ずかしい話、最初から正式に合格したのでは無くて、所謂『補欠合格』ってヤツなんです。で、ですからオラ……いえ失礼。私は今年も不合格かと思い込んでいて……最近まで何もしてなかったんですよ」
ん……“今年も”って言ったか!
如何やら全然俺等より年上説が浮上してきたぞ。
若くは見えるけど、実際は……?
「農高校……ですと、ここからは30分以上は掛かりますね。もっと近場を探した方が良いのでは?」
「いやぁ~それは当然考えたんですが、探してる内にドンドンと離れていって……今やこの辺りを彷徨ってる始末ですわぁ(笑)」
「そうですよね(笑) 何よりこの時期であれば何処の高等学校近辺も部屋なんて空いてないですよね」
「いやぁ~全くその通りなんですわぁ! あんまり学校から離れると、登下校がしんどくなってしまうけんなぁ……困ったもんだやなぁ」
完全に気が緩んだのか、次から次へとお国言葉が口から滑り出してくる。
「確かに学校からは近い方が好ましいですけど、この国ではそれ程不都合にはなりませんよ(笑)」
「あんや? それは一体如何言った意味ですかぁ?」
「ご存じ無さそうですね。この国には魔道車と呼ばれる凄い乗り物がありまして、中でも魔道人員輸送車と呼ばれている乗り物は公共交通機関でして誰でも格安でご利用出来る便利な乗り物なんです」
「はぁ~……そ、そんなモンがここにはあるんですかぁ!? 是非とも一度は乗ってみたいですなぁ!」
「そんなに難しいモノじゃ無いですし、学校近辺を彷徨っていても無意味ですから、今からそれに乗って別の場所を探してみては如何ですか?」
「別の……場所……ですか。そ、そうですわなぁ……お家賃の安い物件をご存じでありましょうか?」
家賃が安い部屋をご所望なら、ここに居ても駄目だろ。
「城前地区の古い一角ですけど、一人暮らしをする事が目的の短期間(4~5年単位)で問題ない物件なら、僕が何件か存じております」
えっ! ……何で知ってんですか!?
「そ、それは助かりますぅ! お手数ですが、序でに如何やってその魔道人員輸送車とやらを利用するかも教えて頂けると助かりますぅ」
「あ、じゃぁ俺が一緒に魔道人員輸送車で城前地区へ行きますよ。ルディーさんはデイジーさんと魔道車で城前地区に行ってて下さい。それと……詳しい場所は何処になりますか? 降りる魔道人員輸送車停を確認しないと」
「あぁ……物件はプービルの2軒隣だから、ピパン君は自宅へ帰るつもりで乗れば大丈夫だよ。僕はデイジーと僕の魔道車で帰らせてもらうから、先に付いたらプービルの駐車場前で待ち合わせで良いよね」
「了解です」
「あやぁ……すんませんですなぁ! 何だかお手数をかけてしまいますわぁ」
「いえいえ、我々も帰る方向ですから」
とは言え、ここ(デイジーさんの住むマンション近く)から乗ったのでは、利用方法を憶えるって観点から無意味になるので、一旦はルディーさんのM・Hに乗って農高校前停へ移動。
そこでルディーさんとデイジーさんと別れて互いにグランバニア城を目指していく。
大した時間も掛からず、魔道人員輸送車がバス停へやって来たので、俺は乗り方を説明しながら魔道人員輸送車に乗ってみせる。
因みにこの男性、名前は『カーブスン』さん。一緒に魔道人員輸送車に乗ってるので、無言というワケにもいかず正直言って興味は皆無だが、彼の事柄について聞く事となった。
実家がカボチ村で、幼い頃から農業には携わっており、昨今の収穫不足を改善させようと一念発起で3年間も農高校を受験し続けたそうです。
しかもそれを考え付いたのが、18歳になり実家付近で知り合った女性と結婚した後だとか。
生粋のカボチ村民で、俺なんかより遙かに年上でありました!
完全にお上りさんで、必要で探している物件の情報とかも持ち合わせてないらしいです。
俺もルディーさんの様に情報を持ってるワケじゃ無いから、偉そうな事じゃなくても何も言えない。
なので必然的に話題は、今この場に居ないルディーさんとデイジーさんの事になる。
最初は率先して親切にしてくれたルディーさんの事だけだったんだけど、気が付けば側に居たデイジーさんの話題に……
とは言え……思い返してみると“話題”と言える様な事でも無く、当然な事を俺が喋ってるだけの時間だった。
殆ど初彼女に浮かれてる学生!
でも、そんな俺の彼女自慢を笑顔で聞き続けてくれる凄く良い人カーブスンさん。
気が付けば俺とカーブスンさんの乗る魔道人員輸送車は、目的の城前魔道人員輸送車停に辿り着いている。
魔道人員輸送車から降りて周囲を見回すと、先に到着していたルディーさんがご自慢の高級魔道車で、近付いてくる。
M・Hと呼ばれ、本家よりミニサイズになっては居るが、魔道車が迫ってくるのはちょっと恐ろしいモノがある。
「やっぱり魔道人員輸送車だと途中で停車(他の魔道人員輸送車停に駐まるって意味)する事が、その分だけ個人の魔道車の方が早かったね(笑)」
カーブスンさんと一緒に降りた俺等に、何時もの柔和な表情で語りかけながら近付いてくる。
如何やら俺の役目はここまでの様だ。
ルディーさんと一緒にM・Hから降りたデイジーさんを、俺へと託すと今度はカーブスンさんを自分の魔道車に乗せて、直ぐ先だと思われる目的の物件へ案内しようとしている。親切すぎるだろルディーさんって……
因みに、別れ際に……「ピパン君のお母さんにデイジーを紹介するんだろ? 僕はこの方を案内してから、君の家に向かうよ。一応ここだけじゃ無く何件かあるお祖父様の不動産屋の物件を宛がってみるつもりだから、僕が遅くてデイジーを送れなくっても、リュカ様にはそう伝えてそちらで処理をお願いするね」と言い、魔道車へと乗り込んだ。
はぁ~……
何だかんだ言ってルディーさんは生粋の商人だな!
いきなり話してきた人でも、物件を探してるって気付いた時点で、自分に有利な状況へと誘導していくんだな。
そんな事をデイジーさんに言いながら、俺は自宅への帰路につく。
ある程度の事は先に帰った父さんから聞いてるだろうから、問題なく紹介は出来ると思うけど……リュカ様とかも居るのかな?
デイジーさんを送り返さなきゃならないから、きっと居るはずだよね。
来る時はルディーさんに手伝ってもらってデイジーさんを強引に連れ出せたけど、返す時にはルディーさんが居ないから問題が発生するんじゃないのかな?
まぁリュカ様の事だから、大丈夫だと思うけど……
ピパンSIDE END
ページ上へ戻る