リュカ伝の外伝
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頭で解っていても、身体は従わない事って有るのだよ。
(グランバニア城内:ルディー宅)
ルディーSIDE
初の飲酒が平和に終わり、僕は自分の部屋のベッドで目を覚ます。
そして在り来たりな表現になるが、左の二の腕に重さと痺れを感じて意識をソコに向ける。
在り来たりと言ったのだから当然の如くソコに存在するのは裸の女性……
そうだね……如何やら僕は昨晩に2つの初めてを経験したんだね。
まぁ細分化して説明すると2つじゃぁ無いけど、大きな括りで表現すれば2つ……って事で良いよね?
駄目と言われても僕は2つだという体裁で物事を語るけどね。冷静になるためにね。
まず1つ目は、ずっと言い続けてるけども飲酒だよね。
仲の良い友達と集まって好きな事柄を語り合いながらお酒を飲む。
少なくとも僕に関して言えば、沢山飲みすぎて二日酔いが酷いって事も無く、記憶が無く大きな事件を巻き起こしたわけでも無い。
一挙手一投足、一言一句間違いなく記憶しているとは言わないが、酒盛りから眠りにつくまでの記憶は鮮明に思い出す事が出来る。
だからこそ……うん、だからこそ現状に困り果てているルディーという名の青二才がこの場に存在するのだ。
さて……そんな青二才でも冷静になる為に2つめの初めて体験を思い起こしてみよう。
昨晩……酒盛りが終わり紅一点のメリーさんが忘れていったキャップを返そうと玄関まで向かったら、気付いた彼女が同じタイミングで僕の部屋に到着した。当然だが玄関の外にキャップを投げて『バイバイ、じゃぁね』で追い返す事などはしない。(別に嫌ってるわけじゃぁないからね)
彼女も気が付いて走って戻ってきたのだろう。
玄関前で軽くだが息が上がっており、肩が上下に揺れている。
丁度魔道人員輸送車が来たタイミングでキャップの忘れに気が付き、申し訳ないと彼氏をそのまま魔道人員輸送車で先に帰し、慌てて僕の部屋まで走り戻ってきたのだ。
そんな女性をそのまま帰す程僕も無粋じゃないし、一旦室内へと招き入れて酒盛りで消費しきってないソフトドリンクをコップに注いでもてなす。
当然だが酒盛りは終わったのだから、アルコールの混ざっている飲み物は出したりしないよ。
提供したのはピパン君お気に入りのサンタローズ産アップルサイダーだ。
リュカ様に勧められて以来、凄く気に入ってよく購入するそうだ。
すっきり爽やかで凄く美味しい。
さて問題はここからだ。
彼女も今言った事をはにかみながら説明してアップルサイダーを飲み干す。
炭酸飲料だし、一気飲みなどはせず一口…二口……と飲んではキャップ忘れの説明……飲んでは、はにかみながら説明。
そんな風に酒盛りは終わったのだが、仲の良い(最近知り合ったばかりだが……)友達とたわいも無い会話を楽しんだ。
ちょっと前にも言ったが、彼女は僕の恋愛対象には入ってない。
コレは失礼な言い方だが性的な行為だけの意味合いも含まれる。
格好を付けるワケでは無いし、僕が言っても全然格好良くは無いが、僕もリュカ様の様に他人様の女(彼女・恋人・妻)に興味が無い。
と言うより手を出すと後々が面倒である事を知識として理解しているからね!
だから本当に純粋に友達同士の会話を楽しんでたんだ。
彼氏のザルツ君も最初の印象はアレだったが、本当に良い奴で一緒にプリ・ピーの追っかけをしてるのは楽しいし、彼の彼女であるメリーさんも明るくて会話してると凄く楽しい。
僕とザルツ君……僕とメリーさん……この間柄だけだって、このままの関係性でいたいし、ザルツ君とメリーさんの仲を歪ませるつもりなんて微塵も存在しない。本当に純粋に、彼女とはこの時、キャップ忘れの事からエミヘンさんの被り方とかを和気藹々と話してたに過ぎないんだ。
室内にある姿見用の大きめの鏡の前で彼女とキャップを被り、エアギターを弾く素振りなどをしてエミヘンさんの真似をしていたのだが、気が付くと僕は彼女と目が合い……その……なんと言うか……キスをしちゃっていて……その……
……んで、重要な部分かもしれないけども、ここは語らず端折らせてもらって、本日の寝起きに繋がるんです。
話を端折る言い訳の一つとして、僕の左の二の腕を痺れさせていた女性が目を覚ましたからだ。
彼女の瞳が開き僕と見つめ合う。
そして彼女も完全に事態を理解し、更に瞳が大きく見開く。
自分の頭の下に敷いてあるのが僕の左二の腕である事にも気が付き、慌てて起き上がる。
「あ……あの……ち、違うの……あの……違うのよ!」
「うん。違うよね……解ってるよ。それは僕にも解ってる。だからね……今はさ……」
見るからに狼狽え慌てる彼女に対して、本心では似た様な状態になりそうなのだが、務めて冷静に僕は対応を試みる。
その手始めとして、僕(彼氏でも無い男)の目の前で、胸も隠さずに狼狽える彼女に、手近のシーツを掛けてあげる。
リュカ様の様に見ただけで“何カップ”とか“スリーサイズ”が解るわけでも無いが、男の僕には目に毒なオッパイを隠させてもらう。そんなに大きくはないし、激しく動作しても揺れたりはしないけども、数時間前に初めて男として次のステージに上がった僕には毒でしかない。
「あぅ……わ、私の……服……は……?」
僕から渡されたシーツで身体を隠し、ベッド付近をキョロキョロ見回す。
「多分……そこら辺」
僕は別のシーツで自らの下半身を隠して、ベッドの上で胡座をかきながら彼女の脱いだ服とかがあるだろう場所を指さした。
言われて彼女も視線を向ける。
そしてそこに脱ぎ散らかしておいた状態の自身の服等を身に纏い直す。
その際にまた彼女の大切な部分を見てしまわない様に、僕は彼女に背を向けた。
「あ……お、お待たせしました……着替えは……終わりました」
そう彼女に声を掛けてもらい、僕も身体を彼女の方へと向き直る。
「あの……着替え終わってから言うのは遅すぎるかもだけど……ジャ、シャワーは浴びてく?」
僕はバカなんだろうな。思いついた台詞が今更シャワー?
「あ、いや……きょ、今日は……帰らないと……! あ、“今日は”ってそういう意味じゃ無くて……」
「う、うん。解ってる! 大丈夫……僕もそういう意味で言ったんじゃ無いんだ……へ、変な言い方してゴメンね」
や、やばい……これ以上喋っていると、僕もパニックに陥るかもしれない。
「あの……昨晩のコトは……い、一旦……僕等だけのコトと言う事で……」
「う、うん! だ、誰にも言わない!! だから……ルディー君も言わないで! と、特に……その……「うん! 言わない!」
ほぼ食い気味に彼女の台詞に被せて答える。
それを聞いた彼女は、“うん……うん!”と何度も頷きながら、それでいて急ぎ目に僕の部屋から出て行った。
音だけを頼りに玄関が閉まった事を確認し、僕も立ち上がってシーツで下半身を隠しながら玄関まで施錠しに向かう。
“ガチャリッ”と無事施錠。
そして脱ぎ散らかした僕の服等を回収。
そのまま浴室へと向かい、回収してた昨日の服等は洗濯機へ……(リュカ様発案・グランバニア発祥の魔道機械)
熱いシャワーを頭から浴びながら……
「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!! やっちまったぁ!! やべぇよ! 駄目だよ友達の彼女に手を出しちゃぁ!!」
と、ダムが決壊したかの様に大絶叫!
だってやばいもん!
バカなの僕?
いやバカだな僕!
全然解んない!
全然判んないよ!
何でヤっちゃった?
いつ僕はムラムラした?
ムラムラしちゃったなら、彼女を帰してから手で済ませれば良いじゃん!?
えっ? 何やらかしてんの僕は!?
どうしよう……
僕には大きすぎる問題だ。
誰かに相談したい……
だ、誰に相談するべきだろうか?
これが実家だったらお祖父様に相談するんだけど……サラボナは遠い。
リュカ様の様に魔法を使えるわけでもないし、グランバニア王家が使用していると言われている通信出来るマジックアイテムも持ってないし……お祖父様には無理だ。
じゃぁグランバニアで出来た友達にだろうか……?
いやぁ……いくら何でも力量不足も甚だしい。
失礼極まりない言い方だが、彼ら(少人数の女性も含む)に今回のトラブルを解決できる力量も経験も有るとは思えない。相談するだけ、僕自身の恥部を語り広げてるだけになるだろう。
ではやはり僕よりも年上に相談するのが良いだろう。
だが事がコトだし、女性に相談するわけにはいかない。
何故なら僕が男で有り、男としての意見を大いに聞きたいからだ!
そうなると最初に思い浮かぶのが、僕がこの国で兄の様に慕っているウルフ閣下だ。
あの人は嫌味を含ませないと喋れないところが有るけれど、その膨大な知識量と頭の回転の速さ……そして心根は真面目で優しい性格だから、存分に相談に乗ってくれるはず……なのだが!
今回に関しては役に立たないだろうと僕は推測する。
何故かと言うと……
世の中の大多数の人々には、あの人は性格の悪い極悪人と思われているからだ。
だから……きっと……まだ童貞だ……と僕は思っている。
本人に面と向かって言ったら殴られるだろうなぁ……
でもあの人が力尽くで女性を押し倒す様な事でもしない限り、両人が同意の下での性行為は無いだろうと思っている。
そういう点では、僕の方がほんのちょっぴり大人になってしまったのかもね(笑)
これまた失礼極まりないが、敬愛するウルフ閣下よりも少しだけど大人だと思えたら、大分冷静さを取り戻してきた。
僕はシャワーを終わらせて浴室から出る。
そしてバスローブを身に纏ってリビングルームに……
まだ片付けきってない昨晩の飲み残し&食べ残しを横目に、誰に相談を持ちかけるのかを確定する。
いや……“確定する”とか偉そうに言ってるけど、この手の相談事はあの人に訊くのが一番なのだ……このグランバニアでは!
ルディーSIDE END
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