金木犀の許嫁
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第十八話 忍の家その四
「色々大変らしい」
「そうなのね」
「誰でもそうらしいから」
「歳を取ったら」
「何かある」
「佐京君のひいお祖母さんが言ってたのね」
「そう、歯だって」
こちらもというのだ。
「抜けるし」
「歯ね」
「今は全部あるけれど」
「私もよ」
「けれどその歯も」
こちらもというのだ。
「やがては」
「抜けるのね」
「そうなって」
そうしてというのだ。
「そこからも衰える」
「歯が抜けたら」
「噛みにくくなって」
「歯も大事っていうけれど」
「実際にそうで」
それでというのだ。
「本当に」
「大変なのね」
「歳を取ったら」
「誰でもそうなのね」
「今の俺達は実感ないけれど」
佐京は十代の少年として話した、この頃に老いを感じるということは流石にそうはないことであるのだ。
「けれど」
「将来は」
「そうなる、ただ」
「ただ?」
「そうしたことを感じるのも長生きしてこそ」
「それはね」
夜空も言われて頷いた。
「長生きしないとね」
「歳を取ったなんて思わない」
「その筈がないわよね」
「そう、長生きは」
これはというのだ。
「多少身体が壊れても」
「することね」
「ひいお祖母さんそうも言ってる」
「いいこと言うわね、長生きしたら」
「それが一番だって」
その様にというのだ。
「言っている」
「腰や膝が痛くなって」
「内臓が悪くなって」
「太ったり髪の毛が薄くなって」
「歯が抜けて」
「それで病気になっても」
夜空は佐京と共に言った。
「長生きした方がいいのね」
「どうせこの世に生まれたなら」
それならというのだ。
「もう」
「長生きすることね」
「生きていて一番残念なことは早死にだって」
「そうした人もいるしね」
「人間の一生はわからないから」
佐京は夜空に少し俯き暗い顔になって話した、事実世の中で最もわからないことは人間の一生であろう。
「明日どうなるか」
「全くわからないわね」
「昨日元気でも」
そうした人がというのだ。
「朝死んでるとか」
「あるわね」
「そうだから」
だからだというのだ。
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