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冥王来訪

作者:雄渾
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第三部 1979年
姿なき陰謀
  如法暗夜 その3

 
前書き
 資料集によれば、1979年にサンタフェ計画が大統領に上がる設定なので、年内に完成させるという無茶ぶりな話になりました。 

 
 米国の首都、ワシントン。
ホワイトハウスにある執務室から、一人の男が、窓外の沈みつつある夕陽を様子を眺めていた。
「私は、男としての、(おの)が夢を達成しつつある。
男は、まず権力だ。
権力を持ってこそ、自分の夢を実現できる……」
 男の名前は、ハリー・オラックリン。
この異界の米国において、ジェラルド・R・フォードの後を継ぎ、第38代米国大統領になった人物である。
「いくら荒稼ぎした新興成金でも、権力の力の前には平伏せねばならない。
暴力も、国家権力の前には、弱い。
どんなやくざ者でも、国家権力の前にはひざまずく……」
 オラックリンは、名実ともに米国の覇者であった。
ニクソン大統領の辞任を受け、副大統領から昇格し、選挙の洗礼を受けていないフォード。
彼を、経済界からの膨大な選挙資金協力という一刀のもとに下し、勝利した。
「私は、200万のアメリカ合衆国軍の全てを握る、最高司令官だ。
中近東の土侯や、南米の独裁者たちも、私には、おべっかを使い、恐れおののく……
私が守ってやらねば、彼らは、すぐにも生命の危機に曝されるからな」
 前任者のフォードが、各州での選挙戦を全敗した理由は、東欧に対する認識であった。
フォードは1976年の選挙戦の最中、『東欧はソ連の占領下にない』という失言を発した。
 それは、民主党系のネオコングループに属するユダヤ人たちを激怒させるに十分だった。
(正確には、民主党系の場合は、リベラルホークと呼ばれるが、本作ではネオコンという呼称で通す)
 この事によって、世論は、民主党の支持者ばかりか、無党派層まで、反発を招いた。
 ソ連の強権的な支配にあえぐ、東欧の実情を報道を通じて知っていた良識派の市民たち。
彼等は、対ソ対決姿勢を鮮明にする民主党のタカ派に、票を移す結果となった。
「私は、苦労に、苦労を重ねてきて、この地位まで上り詰めたのだ。
当然、その苦労も、報われねばなるまい……
私は夢は、核をはるかに超える、世界最強の超兵器の所有だ」
 米国のロスアラモスで開発された核爆弾。
この新兵器の独占をもって、世界平和を実現するという米国の夢は、国際金融資本の陰謀とソ連の諜報活動によって、脆くも崩れ去った。
 FBIやマッカーシー議員らによる啓発によって、米国内のスパイ摘発運動を行うも、すでに時遅し。
核開発技術は、KGBの諜報作戦によって、堂々と、モスクワに持ち出された後だった。
ソ連を通じて、中共などの共産陣営に渡り、優れた核技術者も米国から流出した。
「生産設備も、ノウハウも、何もかも手に入れたが、最大の夢である超兵器が手に入らない。
何百という科学者たちと引き合い、試作品を見てきたが、私の希求(ききゅう)を満たしてくれるものはなかった……
だが、見つかったのだ。ついに、その材料が……」
 男は、興奮した面持ちで、コイーバの葉巻を燻らせる。
ハバナ産の高級銘柄で、キューバの急激な共産化以後、容易に手に入らない珍品であった。
「あのBETAが作った、G元素という物質が、世界最強と、にらむ。
この目に、狂いがあろうはずがない!
私は、自分の夢の実現のために、あの原材料を手に入れねばならない」
 1979年に入って、米国の対BETA戦略は岐路を迎えた。
それは大型船外ユニットを起源とする戦術機ではなく、G元素を由来とする新型兵器開発である。
 g元素とは、1974年にカナダのアサバスカ湖で、グレイ博士が発見した新元素。
ムアコック・レヒテの両博士が発明した新型タービン、通称、ML機関。
この新装置によって、発生させる重力操作は、既存の兵器は、ほぼすべて無力化させる。
 また、同機関は、稼働の際、余剰電力として、原子力発電所を優に超える電力を発生させる。
それまで空想とされていたレーザーによる荷電粒子砲の実現の可能性が見えてきた
 その事によって、BETAとの戦争に勝利し、地球の全覇権を握るのが、米大統領の夢であった。


 場面は変わって、 ラスベガスの北西約130キロにあるアメリカ空軍ネリス試験訓練場。
ネバダ核実験場の近くにあるグルーム湖と呼ばれる場所。
 公式には何もないことになっているが、地民たちは、そこに基地があることを知っている。
その基地は、パラダイスランチやレッドスクエアなど数々の異名をもつ、秘密基地エリア51である。
 元々は銀や鉛の採掘場であったが、第二次世界大戦前、米陸軍によって接収された。
そして、冷戦期になると、CIAのスパイ偵察機の開発基地となった。
1955年、時のCIA長官リチャード・ビッセル・ジュニアは、ここを本部とした。
また、ロッキード社も計画に参画し、航空機設計者ケリー・ジョンソンを始めとするスタッフが常駐するようになった。
 その基地に佇むウイリアム・グレイ博士。
木原マサキを仇敵(きゅうてき)とし、打倒を企む彼は、ここで、恐るべき巨大戦術機・XB-70を建造していたのだ。
「あの忌々しい、黄色い日本猿(イエローモンキー)、木原マサキよ……
おのれゼオライマーめ、如何に機体を強化しようとも、必ず血祭りにあげてやる。
フフフフ……」
彼は自身の勝利を確信し、不敵の笑みをたたえた。
 G元素を利用して重力操作を可能にする「ムアコック・リヒテ機関」。
 その装置を転用した、大型戦略爆撃機XB-70。
設計メーカーは、米国の航空機メーカー、ノースアメリカーナ。
(ノースアメリカーナは、現実の航空機メーカー、ノースアメリカン)
戦術機開発に後れを取った同社は、この大型機で巻き返す心づもりであった。
 では、大型戦略爆撃機XB-70について、簡単に説明をしてみたい。
全長120メートル、総トン数は3000トン。
 乗員は、11名。
 機長、副機長、飛行技術士、各1人、航測及び爆撃士2名、計5名が将校。
整備士兼銃手4名、無線手、レーダー係各1人、計6名が下士官兵という編成である。
 この機体には、30ミリ機関砲のMk 44 ブッシュマスター II、計12門が、くまなく配置されている。
その他に、ミサイル垂直発射装置が、大小、計52セル搭載されていた。 
 その内訳は、以下のとおりである。
 まず、全身の12か所に搭載されたMark41垂直発射システムは、36セル。
RIM-66スタンダードミサイルの他に、AIM-7スパローミサイル。
技術的には、核搭載型のトマホークミサイルの搭載が可能であるが、まだこの時代には未完成であった。
 その他に、原子力潜水艦用のMark45垂直発射システムが2か所設置され、計16セルを備えている。
搭載武器は、RGM-6 レギュラス艦対地ミサイルの改良型で、艦対地巡航ミサイルであるRGM-15 レギュラスIIが搭載された。
このミサイルは核弾頭装備可能で、飛距離は1800キロメートルであった。

 その頃、ワシントンの国防総省本部ビルには、米国政府の主だった面々が集結していた。
「議会対応で、遅くなりました」
上院議長が慌てて入ってくると、国務長官が、
「今、大統領閣下(ミスター・プレジデント)と連絡を取っているところだ」
 そう話すと、間もなく操作盤にある大型モニターの画面スイッチを入れる。
テレビモニターには、自由の女神像に匹敵する物陰が映し出された。
「おお!」
一斉に、集まった閣僚から驚きの声が上がった。
「今のは、なんだ!」
 薄暗かった倉庫の中に、一斉に照明が付けられる。
戦術機のおよそ数倍はある大型ロボットの姿が、闇の中から浮かび上がったのだ。
 ネリス試験訓練場にいる米国大統領は、満面に笑みを浮かべながら、
「遂に完成したぞ。
これでサンタフェ計画も、最終盤だ」
 ついに姿を現した戦略航空機動要塞XB-70。
格納庫のハッチが開くと、そのまま、基地の上空に飛びたつ。
機体は、戦術機形態から、航空機形態となり、国防総省本部へと発進した。
「こ、これは……」
「す、凄い。
これが、グレイ博士の戦術機か……」
 感嘆する閣僚や三権の長をよそに、CIA長官は冷めた一瞥をくれていた。
(「グレイ博士の戦術機……悪魔のマシンが完成してしまったか」)
 CIA長官は、BETA由来のG元素を警戒する数少ない人物であった。
これで、核戦力以上の暴力兵器が、全世界に拡散するのではと、ひとり懸念をしていた。
「大統領閣下を、お迎えするぞ」
「おお!」

 一時間もしないうちに、戦略航空機動要塞XB-70は、国防総省本部(ペンタゴン)の付近にあるワシントン・ナショナル空港に降り立った。
機体のすぐわきにタラップ車が横付けされ、搭乗ハッチが開く。
間もなく、濃紺のパイロットキャップに、赤い航空機要員のつなぎ服を着た大統領たちが下りてきた。
 この機体は強化装備なしでも運用が可能なため、搭乗員たちは、米軍共通の航空機用つなぎ服(フライトスーツ)を着ていた。
「大統領閣下、ワシントンへ、ようこそ」
「G元素爆弾の準備は、どうなっている」
タラップの上から大統領の下問に対して、階下の国防長官は、最敬礼の姿勢のまま、答えた。
「合衆国の三軍ともに、準備は万全です」
 ここでいう三軍とは、米国の陸海空軍の事ではなく、米軍全体の事を指す表現である。
米国の武官組織は、陸海空軍、海兵隊、沿岸警備隊の5大軍事組織からなっていた。
 通常は、三軍といえば、陸海空軍ではあるが、国防長官の言葉の意味は違った。
古代支那の「上・中・下・軍」に由来する言葉で、政府が管理する軍事組織を意味する代名詞である。
国防長官の一言に、大統領のほおが緩む。
「よし。フハハハハ」
大統領は、悪魔の哄笑を漏らした。 
 

 
後書き
 ご意見、ご感想お待ちしております。
今日(5月11日)の返答は、遅くなるかもしれません。
 今後に関して言えば、公私ともに多忙なので、2週に一回に連載速度を変えるか、毎週土曜5時のままにするか、悩んでおります。
正直、資料を集める時間も、推敲する間もないので、不十分かなと悩んでおります。
忌憚なき意見を頂けたら、幸いです。 
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