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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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美的感覚と性格の悪さ

 
前書き
早速ザルツ君視点。 

 
(グランバニア城:宰相執務室)
ザルツSIDE

先週、新しく友達になる事が出来たルディー君のお陰で、私はグランバニア王国宰相ウルフ閣下に、自身の描いた絵を見せている。
と言うのも、私見だが私よりも技術力で劣る(ルディー君)の絵が知り合いであるという理由だけで、謁見の間に飾られる事に憤りを感じて、リュケイロム陛下が今回のお披露目会を開いてくれた。

お披露目会と大層に言ったが、宰相閣下の執務室で私の描いた絵を見て貰っているだけ。
周囲にはここで働く者達も居る。
正直、晒されているみたいで居心地は悪い。

「これが……お前の絵か?」
「は……はい」
「この絵がルディーの絵よりも上等だというのだな?」
「わ、私の見識では!」

「絵画に限らず芸術てのはなぁ……受取手によって価値が変わるんだよ! 芸術ってのは相手の気持ちにも届けないと最大限の評価はされないんだよ! お前の描いた絵を俺は今日初めて観るわけだが、先日お前が俺の気に入った絵を貶してた事は聞き及んでいる。そんな心境の俺がお前の絵を見て肯定的な意見を述べると思うか?」

「うぐっ……」
厳しい事を言われるとは予想していたが、これほどまでに敵意を剥き出しで否定されるとは思わなかった。
贔屓した相手を貶したのだから当然ではあるのだろうが……

「ちょっと考えれば解るだろう。不特定多数が集まる様な場で、自分が気に入った物を貶されて愉快な気持ちになれる者が居るか否か……もしかして、この国の王様や宰相はそんな変な思考回路の人間だとでも思ってたのか?」

「いえ……その様な事は……微塵も……」
「まぁまぁ、そんなに苛めんなよウルフ。其奴も無駄に高いプライドの所為で、ちょっと口が止まらなくなっちゃったんだよ(笑)」

宰相閣下の言葉に萎縮していると、入り口の方から優しい口調で私の事を擁護する言葉が聞こえてきた。
思わず視線を向けると、そこには国王陛下が……
擁護され一瞬気が緩んだが、私は慌てて背筋を伸ばして姿勢を正す。

「そうは言いますけどね……(ルディー)の絵を陛下に推した俺の立場も考えて下さい」
「そんなつまらないモノを気にするなよ。今更手遅れだと思うよ……お前は嫌われてるんだから」
確かに私も今日が初対面だが、風評の所為で好意的な感情は無い。

「だからといって俺の美術眼までも貶されるのは納得いかない。俺の性格の悪さと美術眼は別物だ!」
「それを言うならウルフ閣下……ザルツ君の絵の上手さと、ウルフ閣下に対する敬意の無さは無関係なのでは? 今回の件を抜きにして彼の絵を評価してみては……?」

陛下まで現れて室内の人々から緊張が伝わってくる中で、ルディー君だけが何時もと変わらず柔らかい口調で会話する。
彼は怖い物知らずなのか?

「そう言われても……俺、もうコイツの事嫌いだしなぁ……」
「頭が良すぎると、そういう感情も永遠に拭えなくなるんですね。かわいそう」
コイツ……言うなぁ。

「何でお前に同情されなきゃならねーんだよ!?」
「ルディーは優しいなぁ? 僕やウルフはとばっちりで美術眼を貶されたけど、お前に関しては真っ向から貶されたワケじゃん。怒らないの?」

「怒りませんよ事実ですし。悔しい気持ちはありましたから、今後は一層努力するつもりですけど。寧ろ欠点を指摘してくれる人物は貴重でしょ?」
「若いのに人が出来てるなぁ……お母さんが美人だからか?」
陛下にはルディー君の母親の美貌が関係するのかな?

「母の美貌は少しだけ関係あるかもしれませんね……なんせお祖父様からの教えですから」
祖父からの教えなら母親の美貌は無関係だろうに……
如何(どう)言う意味だ?

「お祖父様に教わったんです。『100の利益があって、それを誰かと争って奪い合えば……負ければ0利益だし、勝っても争った影響で被害が出て30利益になる。でも争わずに折半すれば50利益で収まる。そうやって自身を強大にしていけば、(いず)れは争わずに100利益を得られる様になる。敵を作るよりも味方を作る事に尽力せよ!』って」

「お前の爺さんはハゲてるくせに良い事言うなぁ」
「はい。だから母が美人なんですよ! ティーミー殿下もイケメンだし、リュリュ様も美人でしょ!」
遠回しに陛下の事を褒める。
遠回しに陛下の事を貶してしまった私とは大違いだ。

でも私はお目にかかった事は無いけどルディー君のお祖父様の頭皮の薄さを皆さんは話題にしているが、お孫さん的にはそれでも良いのだろうか?
お母様の美しさも共通認識な様だし……

「お前は良い子だなぁ。よ~し、再来週だけど開催する予定のプリ・ピー(プリンセス・ピープル)のコンサートチケットをあげちゃう!」
「え、やったー! ラッキー!」
何で陛下が新人の音楽グループのコンサートチケットを持ってるんだ?

「新しい友人である其奴の分もやるから、お前のプレゼン力で“ファン”という名の“沼”に引きずり込め(笑)」
「了解であります陛下! 僕の微少なプレゼン力でもプリ・ピー(プリンセス・ピープル)の魅力ならいとも容易く“ファン”と言う名の“底なし沼”に引きずり込んでみせられます!」

な、何とも凄く恐ろしい事を言っているが、(ルディー君)の陛下に対する最敬礼は、本職の軍人の様に姿勢が美しい。
だが(ルディー君)何時(いつ)も明るく人当たりが良いから、悪い感情が湧いてこない。
嫉妬心で作品を侮辱してしまう私との違いだろう。

「よ~し……そうとなったら、早速僕の部屋で予習をしよう!」
「よ、予習!?」
絵の話をしている時以上に瞳を輝かせ、(ルディー君)は私を自室に(いざな)おうとする。

MP(ミュージックプレイヤー)って魔道機械を知ってるかい? それを使って現在までに発表されている楽曲の素晴らしさを教えてあげよう!」
MP(ミュージックプレイヤー)? な、名前は聞いた事があるが……」

「じゃぁ是非とも購入するべきだよ! まだ発売したてで世の中に広めてる最中だから凄く安いんだ。この機会を逃すと大損だよ!」
「“大損”って……君は商売人かい?」

「まぁまぁ……お小遣いは貰ってるのだろう?」
「そ、そりゃ……多少は……」
この年齢でお小遣いってのは多少気が引けるけど、まだ身分は学生だから……

「其奴の家は、この10年程で急成長した『ブールグ商会』だから、それなりに成金一家だ。働かなくたってパパから小遣いくらい引き出せるだろうよ」
間違ってはいないがウルフ宰相閣下の言葉にはトゲがある。

「ほら、何時(いつ)までもここに居るとウルフ閣下から嫌味を言われ続けるよ。それでは陛下、本日はこれで失礼致します。コンサートチケットの件は宜しくお願い致します!」
「おう、明後日までには用意しておくから、取りに来てくれ」

見せてた私の絵を素早く纏め回収すると、屈託の無い笑顔で陛下等に挨拶して踵を返すルディー君。
彼の性格が羨ましい。
だが私はこんなにも流されやすい性格だったのだろうか?

(ルディー君)に導かれるまま、彼の部屋で音楽鑑賞に興じている自分が不思議である。

ザルツSIDE END



 
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