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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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魔法絶唱しないフォギアAXZ編
  マリア、苦手克服への道

 
前書き
どうも、黒井です。

今回はガルドメインの話。彼の担当は戦闘だけでなく食堂での調理なので、そうなると当然個人の好き嫌いも絡んでくる……と言う事で今回の話となりました。 

 
 それは、颯人達がバルベルデに派遣されるよりも前の話となる。

 その日もガルドは持ち前の料理スキルを駆使し、日々人々の平和の為に身を粉にして働いているS.O.N.G.の職員や奏達装者に精の付く料理を作るべく鍋を振っていた。

「ふむ……こんなもんかな」

 鍋の中に満たされた湯気を立てる赤いスープからは食欲をそそる香りが漂う。ガルドはそれを小皿に軽く取り、味を見て問題ない事に満足げに頷いた。
 その彼の隣では、エプロン姿のセレナが皿に料理を盛り付けている。セレナはガルドが満足そうに頷いたのを見て、その出来栄えに興味を抱いたのか近付いてきた。

「どう、ガルド君?」
「セレナ? 君も味見してみるか?」
「うん!」

 ガルドは今自分が使った小皿に少量スープを取り、それをセレナに手渡した。小皿を受け取ったセレナは躊躇なくそれに口を付け、出来たてのスープの味に頬を綻ばせる。

「うん……美味しい!」
「よし、完成だな」

 彼女の笑顔にまたしてもガルドは頷いた。ナチュラルに間接キスをしているのだが、その事をどちらも気にしている様子はない。マリア公認で交際し同棲までしている2人にとって、最早この程度は日常茶飯事と言う事だろう。その熱愛っぷりには寧ろ周りの方があてられて頬が熱くなる位だ。

 そんな2人だったが、セレナはふと今自分が味見したスープと盛り付けた料理、そしてその他この日の昼食の献立を見て姉の姿を思い浮かべた。

「そう言えば、今日はマリア姉さんが居なくて良かったね」
「ん? マリアだったら今は任務で出ているんだったか」
「そうそう。姉さんが居たら大変だったかも」

 その言葉にガルドもある事を思い出し、そして苦笑しながら問い掛けた。

「もしかして、マリアはまだ?」
「うん。まだ、ね」
「そうか。なら確かに、マリアが居ないのはある意味で好都合だったか」

「何の話かしら?」

 笑い合うガルドとセレナだったが、そこに食堂から顔を覗かせてきたマリアの声が掛けられる。今日は居ないと思っていた彼女がこの場に居る事に、2人は一瞬飛び跳ねるくらい面食らった。

「マ、マリアッ!?」
「姉さん、戻ってきてたのッ!?」
「早めに終わったから、さっさと戻ってきたのよ。それよりさっきのはどういう意味かしら?」

 まさか2人に限って自分を除け者にするような事はないと信じているマリアではあったが、それでも先程の会話の内容は無視できるものでは無かった。
 対する2人は会話が聞かれていた事に対するバツの悪さを感じ、曖昧な笑顔を浮かべながら顔を見合わせた。

「あ~、その、悪い意味じゃないんだ。そこは信じてくれ」
「そこは疑ってないけど、ならどういう意味なのか教えてもらえるかしら?」
「強いて言うなら、今回のランチは間が悪いってところか?」
「間が悪い?」
「セレナ」
「うん」

 口で言うよりも見せた方が早いと、ガルドは先程セレナが盛り付けていた皿をマリアに見せた。その皿の上に乗っている料理、取り分け料理を彩るある具材を見て、マリアも2人の言いたい事が分かった。

「う……これ……」
「うん……今日のランチのメインの……」
「豚肉のトマト炒めだ」

 しっかり焼かれた豚のバラ肉に絡む様に赤いトマトが湯気を立てる。トマトの爽やかな香りが本来は食欲をそそるのだろうが、マリアが相手となると話は違った。
 それと言うのもマリアはトマトが大の苦手なのだ。そんな彼女にここまでトマトを前面に押し出された料理は、相性が悪いにも程がある。

「因みにマリア? 今日のランチは……?」
「……まだよ」

 だから今こうして食堂に居るのだ。任務が手早く終わったから、愛する家族の手料理でも食べて精を付けようとしたらこれである。2人が間が悪いと言った理由がよく分かった。

「そう言う事なら仕方ないわね。なら、私の分はメイン無しで……」
「あ~……その事なんだがな……」
「何?…………え、まさか……!?」
「そのまさかなの」

 そう、この日のランチは全てトマト尽くしだったのだ。トマトとサーモンのマリネに始まり、サラダはトマトとキュウリにツナをマヨネーズで和えたものだし、スープはトマトの風味溢れるミネストローネ。そしてデザートにトマトのゼリーだ。
 これでもかと言うくらいのトマト押しのメニューに、流石のマリアも衝撃に顔を引き攣らせた。

「どうする? 少し時間貰えるならマリアだけ別に作るが?」
「うぐ……」

 マリアのトマト嫌いはガルドもよく知っている。意図していなかったとは言えこれをマリアに食えとは流石に言えなかったので、ガルドは救済策としてマリアだけ別に特別メニューを用意するかと問い掛けた。それは今のマリアにとってはとても甘美な誘惑であり、思わずそれに飛びつこうとしてしまった。

 が、しかし…………

「こんにちわ~! セレナさん、お昼ください!」
「あ、は~い!」

 時間が時間な為、他の者達も次々とやってきては料理を受け取っていく。その中には当然仲間の装者達の姿もあり、調や切歌、果てはエルフナインやキャロルまでもがトレーに料理を乗せ、テーブルで舌鼓を打ち始める。
 キャロルはともかくとして、他は誰もがマリアより年下ばかり。そんな彼女達が物怖じせずトマト尽くしのメニューを平らげていく横で、自分だけトマト抜きのランチを食する度胸は流石に無かった。

「い、いいえ! 私にも皆と同じものを頂けるかしら!」
「い、良いの?」
「無理はしない方が……」
「ここで逃げる訳にはいかないのよ!」

 何だか変なスイッチが入った様子のマリアに、ガルドもこれ以上は何を言っても無駄と彼女の分のトレーにもトマト尽くしのランチを乗せる。
 その光景にマリアは冷や汗を流しながらテーブルに座り、そしてフォークを片手に料理と相対した。

 ただ食事をするだけなのに鬼気迫る様子の彼女に、奏が不審そうに近付き彼女の顔を覗き込んだ。

「どうした、マリア?」
「う、え……?」
「何か、顔が梅干しみたいになってるぞ?」

 大嫌いなトマトばかりのメニューを前に、顔に力が入り過ぎてマリアの顔はとんでもなくクシャクシャになってしまっていたらしい。奏に言われて漸くその事に気付いたマリアは、一旦フォークを置き両手で顔をマッサージし解すと改めてフォークを手にしまずは前菜のトマトとサーモンのマリネに手を伸ばした。オレンジ色のサーモンの切り身にトマトの赤い果実が映えるそれを、フォークで一刺しにし口に運ぶ。

「あ、あ~……」

 震える手でフォークを口に運ぶマリアの様子を、気付けば奏だけでなく翼達までもが固唾を飲んで見守っている。それに気付く事無くマリアは口元までフォークを持っていき、あと数センチもいかない所まで近付けた所でそれを皿に戻した。

「くっ!? だ、ダメ……やっぱり無理……」

 気合で何とかトマト嫌いを克服しようとしたようだが、やはり苦手を克服するのはそう簡単ではない。マリアがトマトを食べられなかった事に、ちょっと期待していたガルドとセレナも思わず肩を落とした。

「ダメか~。セレナ、このままだと可哀想だから何か簡単にでも用意しよう」
「うん」

 このままマリアだけが何も食べられないのは不憫だと、ガルドとセレナが別に料理を用意し始める。その優しさが今のマリアにはありがたいと同時に心苦しかった。

「うぐぅ~、トマトに……トマト如きに……!?」
「トマト相手に何をそんなムキになってんだよ?」

 まるで親の仇でも見るような目で皿の上のトマトを睨み付けるマリアに、奏も呆れた声を上げた。

 その間にガルドとセレナはランチに使った豚バラ肉の残りを使って野菜炒めとスープを用意し、マリアの分のトレーを取り換える。新しく用意されたランチはトマト色が一切無い為、マリアでも問題なく食べられたがその味は敗北の苦味を強く感じさせた。

「このままでは終われないわ……!」

 敗北の味を噛みしめながら、マリアはこの苦手を克服する為動く事を決意した。

 と言ってもやる事は至極単純であり、この日を境にマリアには特別メニューとしてガルドに頼んでトマトを使った料理を毎回出してもらうことにしただけである。ガルドの方もマリアのトマト嫌いを少しでも克服できるようにと、あの手この手で様々な料理をマリアに提供した。

 まず大事なのは、トマトがトマトと分からずその旨味を伝える事。なので彼は、最初はトマトをペースト状にしたりソースにしたりして様々な料理と合わせてみた。

 例えばトマトソースパスタだったり、ハンバーグに掛けるソースをトマトにしたり、トマトの形が残らないようなスープにしたりと様々だ。

 マリアがトマト料理に挑む様子は気付けば食事時のちょっとした催しとなりつつあり、彼女が食事に臨む時はよくエルフナインや響が傍で応援に回っていた。

「頑張ってくださいマリアさんッ! あと少しですよ!」
「その意気ですマリアさんッ!」
「うん……うん……!」

 響とエルフナイン、時々切歌や調の声援を受けながら料理を口に運ぶマリアの姿に、それまで別件で遠出していた為何も知らない颯人は奇異なものを見る目を向けていた。

「何あれ……」
「マリアの苦手克服」
「何でも、マリアはトマトが大の苦手だそうで」

 思わず呟いてしまった疑問に、彼の対面に座っていた奏と翼が答える。2人から得られた答えに、颯人は納得すると同時に呆れた声を上げてしまった。

「そんな、トマトぐらい放っとけばいいのに」
「颯人もこの際だからウナギ嫌いを克服してみるか?」
「絶対嫌だ」

 颯人の場合はトラウマありきでの嫌いなので、克服も簡単にはいかない。そもそもウナギなんてそんな頻繁に食べる事も無いので、嫌いが克服など出来なくても問題ないというのが彼の結論であった。

「しかしあれ、効果あるのかね?」
「さて、どうだか……」
「何と言うか、寧ろ逆効果な気も……」

 その翼の懸念は的中した。連日嫌いなトマト料理を無理矢理口に運んでいたマリアだったが、根本的にトマトが嫌いな部分を克服できていなかった為逆にトマト嫌いが加速。結果、精神的疲労により遂にぶっ倒れてしまったのだ。

「うきゅ~……」
「うぉぉ、マリア大丈夫かッ!?」
「マリア姉さん、しっかり!?」

 目を回して倒れたマリアを、ガルドとセレナが慌てて医務室へと運んでいく。その様子に颯人と奏は顔を見合わせて思わず肩を竦めた。

「ダメだありゃ」
「まぁ、トマトが食べられないからって死ぬことも無いんだし」

 結局マリアはトマト嫌いを克服する事が出来なかった。それを見ていた誰もが、マリアはこのままトマトが食べられないままなのだろうと思っていた。

 だがそれは、数週間後に覆される事になるのだが、その事を知る者は誰も居なかったのである。 
 

 
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございました!

今回は割とギャグ調の話となりました。この話は昔子供の頃読んだコロコロコミックの学級王ヤマザキと言う漫画で、主人公ヤマザキがトマト嫌いである事に端を発する話からインスパイアを得ました。

さて、次回の話ですが、XDUではXVの前に4.5章としてノブレサイドと装者サイドそれぞれの話が展開されますが、ここに関してはスルーしようと思います。やってる事がざっくり言うとそれぞれのサイドで新技開発になるので、あまりやる必要はないかな、と。ノブレの掘り下げについてはXVのストーリー内でやっていきますので、どうかご了承ください。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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