魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)
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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第3章】実験艦〈スキドブラドニール〉、出航。
【第2節】同室のゼルフィやノーラとの会話。
さて、その実験艦の「上陸部隊用の居住区画」に設けられた四人部屋は、本当に「入口から真っ直ぐに伸びた通路の左右に、手前には手荷物用の整理棚が、奥には大型の二段ベッドが、ただ置いてあるだけ」という、実にシンプルな造りの部屋でした。
一応は、入口のところで靴を脱いでスリッパに履き替える形になってはいますが、その部屋にはシャワーどころかトイレすら付いてはいません。
どうやら、お茶を一杯飲むにも、わざわざ談話室まで行かなければならないようです。
そんな状況で、双子と相部屋になったのは、やや大柄な体格をした金髪と黒髪の二人組でした。彼女らが、入口の方から見て右側の二段ベッドに先に陣取っていたので、カナタとツバサは、ごく自然に左側のベッドを使うことになります。
二組のペアは各々、自分たちのベッドの下の段を長椅子のように使って、横並びに腰を下ろし、互いに向き合った形で、まずは自己紹介を始めました。
こちらの二人組は、首都クラナガン近郊の陸士104部隊に所属する、19歳の一等陸士でした。金髪で少しキツい目つきをしている方が、ゼルフィ・ロータス。黒髪でやや眠たげな目つきをしている方が、ノーラ・マレウザです。
二人とも初等科を卒業してから、新暦88年の春、当時はまだ設立二年目だった「魔法一貫校」に入学しました。彼女らが一年生の時には、まだ学内に三年生は『そもそも存在していなかった』そうです。
(具体的には、首都「第一」一貫校だったと言いますから、カナタとツバサが通った「第二」とは別の学校です。)
二人は一貫校の女子寮で同室となり、91年の春に卒業して陸士となった後も、そのままコンビを組み続けました。昨年の春には、二人そろって陸戦Aランクを取得し、今では首都圏の近郊にある幾つかの陸士隊の中では「荒事担当」の名物コンビとして、それなりに名前を知られているのだそうです。
「じゃあ、次はあなたたちの番ね」
ゼルフィに言われて、カナタはこう語り出しました。
「ボクは、高町カナタ。こちらは、高町ツバサ。ベガティス地方の陸士245部隊から来ました。双子の姉妹で、局員3年目の12歳です」
「え? ホントに、まだ12歳なの?!」
「はい」
「うわ~。何だか小柄でコドモみたいな体格した人たちだな~とは思ってたけど、君たち、ホントに見た目どおりのトシだったんだ~」
普段からの癖なのか、ノーラの口調は何やら妙に間延びしたモノでした。
八神家の中にも「コドモみたいな体格の人」が三人もいるので、ノーラはどうやら、この双子のことも『きっと、あの人たちと同様、見た目どおりの年齢ではないのだろう』と勝手に思い込んでいたようです。
「私たちも、かなり若手のつもりでいたけど、その私たちより七つも年下って……。え? でも、ちょっと待って! じゃあ、あなたたちって、10歳の時から管理局員をやってて……今回、八神提督から招集を受けたってことは、その歳でもう陸戦Aランク以上な訳?」
「はい。ボクらも昨年の秋に、ようやくAランクを取りました」
カナタはいとも軽々とそう答えました。
(魔導師ランク試験は、年に2回あります。)
すると、ゼルフィは思わず、無言のまま溜め息まじりに天を仰ぎ、ノーラも苦笑を浮かべつつ、ちょっと困ったような声を上げました。
「うっわ~。どうしよう、ゼルフィ~。こちら、エリートさんだよ~」
「いえいえ。まだまだ下っ端の二等陸士ですから」
「幸か不幸か、身の回りにいるのが立派な方ばかりですので、この程度ではまだ自分を誇ることもできません」
「いやいや! その歳でそれなら充分に誇れるでしょう? て言うか、周囲に一体どれだけたくさんの『立派な方』がいれば、そんな風に思えるようになるのよ?」
「あれ? ……そう言えばさ~。タカマチって、本局の『エース・オブ・エース』と同じ苗字だよね~。ミッドじゃモノすごく珍しい苗字だと思うんだけど、もしかして、二人とも、なのはさんと親戚だったりするの~?」
「いえ。その……親戚というか……」
「すみません。ここだけの話ですが、不肖の娘たちです」
双子は何故か、少し申し訳なさそうな口調で答えました。
「えっ! ホントに? あの人って、もうこんなに大きな娘がいたんだ!」
「12歳って……。あ~、そうか~! 〈エクリプス事件〉の後で休職してる間に、君たちを産んだんだ~」
「何だか、お詳しいですね!」
ツバサが少し驚いた口調で言うと、それには、ゼルフィが笑ってこう応えます。
「この子は、『伝説の機動六課』の大ファンなのよ。特に、なのはさんとスバルさんに関しては、もうオタクレベル。(苦笑)」
「いや~、それほどでも~。(満面の笑顔)」
《それ、誉めてない! 誉めてないから!》
カナタは思わず噴き出しそうになってしまいました。
しかし、その一方で、ツバサは冷静にこう問い返します。
「え? しかし、19歳ということは……。ノーラさん、機動六課が実際に動いていた年には、まだ生まれてもいなかったんじゃありませんか?」
「ん~。あの一連のテロ事件があった頃には、わたし、まだ母さんのお腹に宿ったばかりだったんだけどね~」
ノーラのそんな言葉の途中で、ゼルフィはふと何かに気づき、慌てて(地球で言うスマホのような形をした)通信用の端末を取り出すと、目の前の会話を無視してそちらを操作し始めました。
それに気づいているのか、いないのか。2月生まれのノーラは、いつもの口調でさらにこう言葉を続けます。
「小さい頃、母さんからよく聞かされたんだ~。『あの時、もしも機動六課の人たちが来てくれなかったら、自分もあの場でテロに巻き込まれて死んでいたわ。そしたら、もちろん、あなたもこの世に生まれて来てはいなかったのよ』って。……それで、小さい頃から、ずっと機動六課のこと、気になってたのよ~。とは言え、いくら調べようとしても、特秘事項だらけで、なかなか調べがつかないんだけどね~」
「ですよね~。ボクら、実の娘なのに、まだ聞かせてもらえない話とか、メッチャたくさんありますから」
《カナタ! なのは母様に関しては、入院中という「設定」自体が、表向きはまだ「特秘事項」という扱いなんですからね。あまり喋りすぎないで下さいよ!》
《解ってる。解ってるって。》
そこで、ノーラはふと小さな溜め息をつくと、今度は相方に向かって小言を言い始めました。
「ちょっと、ゼルフィ。あんた、さっきから何やってんのさ~? 目の前に話し相手がいる時に、そういうのって失礼でしょ~?」
「ああ、ごめん。……あのさ、二人にちょっと変な事、訊いてもいいかな?」
「はい?」
「あなたたちってさ。もしかして、去年の今頃、ベガティス地方の初等科の学校に、キャナル・アマーティとトゥバル・アマーティって偽名で、潜入捜査とかしてなかった?」
「ええっ! なんで知ってるの? あんなマイナーな事件!」
アマーティは「高町」から最初のTAKを取り除いて作った偽名です。その苗字の語感に合わせて、二人は名前の方も少しばかり変えていたのでした。
「ああ。やっぱり、これ、あなたたちだったのね。もう随分と見慣れた画像のはずなのに、髪型がまるっきり変わってたから、ついさっきまで気がつかなかったわ」
ゼルフィは、自分がデバイスで見ていた映像を、部屋の奥の白っぽい壁に大きく投影して、双子とノーラにもそれを見せました。
双子が組織の中心人物たちを全員ブチのめした後、「鉄格子のはまった牢屋」のような部屋に捕らわれていた数名の少女たちを助け出した場面を、その部屋の奥から撮った構図で、中心には双子が写っています。
(もちろん、鉄格子は画像処理で消されています。)
「うわぁ! これ、誰が撮ったの?」
「多分、奥の方に撮影用のデバイスを取り上げられていなかった子がいたんでしょうね。映像資料は残さないように注意していたつもりだったんですが……迂闊でした」
そこで、ゼルフィは映像の端の方に写っていた栗毛の少女の姿を大きく拡大した上で、双子にこう問いかけました。
「じゃあ、あなたたち、この子の名前って憶えてる? フルネームで」
「ええっと……。確かに見覚えはあるんだけど……何て名前だったっけ?」
「ああ。これは、マティカさんですよ。ほら、一人で花壇の世話をしていた」
それを聞くと、カナタは思わず、ポンと手を打ちました。
「あ~あ~、思い出した! あの、ちょっと無口な、恥ずかしがり屋さんだ」
「ええ。フルネームは、確か……マティカ・ロータス。……ロータス?」
双子は慌てて、ゼルフィの顔を見つめます。
「うん。この子、実は、私の妹なの」
「うっわ~~!」
カナタは驚きのあまり、大きな声を上げながらそのまま後ろへ、ベッドの上へと派手に倒れ込んでしまいました。
「世界は広いのに、世間は狭いな~!」
その「妙にオッサンくさい」しみじみとした口調に、ゼルフィとノーラも思わず笑ってしまいました。
「え……。じゃあ、ゼルフィさんもベガティス地方の出身なんですか?」
「うん。でも、あの辺りは、何て言うか……かなり田舎だからね。(苦笑)あんまり良い魔法学校も無かったから、私は初等科を出た時に、思い切って上京したんだ。あの子は私によく懐いてたから、その時には結構、泣かれちゃったんだけどさ」
「一貫校の一年目とか、もう毎日、欠かさずにメールが来てたよね~」
「ああ。あの頃は、あんたにも迷惑かけたわねえ」
「いや~。そんなコトは別にいいんだけどさ~」
そこで、カナタがようやく起き上がったのを見て、ノーラはまた双子の方に向き直り、少し相方を茶化すような口調でこう続けました。
「卒業して局員になってからも、ゼルフィったらね~。毎年、初等科学校が夏休みの時期を選んで休暇を取って、妹さんに会うためだけに、わざわざ里帰りしてたのよ~」
「だって、しょうがないじゃない! 私が帰らなかったら、あの子、自分の方から私に会いに上京する、とか言い出すんだから! あの子の宿泊先の手配とか考えたら、そっちの方がよっぽど手間がかかるわよ!」
何やら気恥ずかしいのか、ゼルフィはそこまで一気にまくしたてると、また唐突に例の画像を指さし、話題を元に戻しました。
「そんなことよりもさ! なんで、二人は髪、切っちゃったの? このまま伸ばしてた方が、今よりもっと可愛かったのに」
「いえ。ボクらは元々、こういう髪型なんですヨ。その時は変装で『つけ毛』をしていただけで」
「ああ、そうか……。潜入捜査なんだから、言われてみれば、ちょっとした変装ぐらいは当たり前よね。……なるほど、これじゃ、探しても見つからない訳だわ」
「え? 探すって、何?」
「この数年、私は夏に里帰りする度に、妹から『今年は学校でこんなことがあった。あんなこともあった』と、いろいろ雑多な話を聞かされるのが、恒例行事になってたんだけどね。去年の夏は、もう最初から最後まで、自分たちを助けてくれた『謎の転校生姉妹』の話ばっかりでさ。
あなたたち、あの初等科学校では事件の後、みんなの『憧れの的』になってたらしいわよ。中には、あなたたちのことを本気で探してた子もいたんだって」
「それは……ちょっと想定外の状況ですね……」
《て言うか、探し出して、どうするつもりなのさ?》
「あの子も『クラスのみんなとも話し合ったんだけど。あれって、実は管理局員の潜入捜査だったんじゃないのかな? ねえ、お姉ちゃん。どう思う?』とか言い出して」
《うわぁ。なんか、バレちゃってるヨ……。》
《まあ、常識で考えれば、それが最も妥当な推論ですからねえ。》
カナタとツバサは声には出さずに、そんな感想を述べ合います。
「それで、私もつい『なるほど。確かに、そうかもね』なんて答えちゃったんだけど。そしたら、あの子ったら、そのうちに『ねえ。お姉ちゃんも管理局員なんでしょ? この二人の素性とか所在とかって、調べられないの?』とか言い始めて……」
「いや。それは……局の『内規』に触れるのでは?」
「うん。だから、もちろん、私もちゃんと妹に説明したわよ。管理局には『たとえ相手が自分の家族であっても、他の局員の個人情報をみだりに漏らしてはいけない』という規則があるから、もしそれを調べること自体はできたとしても、その内容をあなたに教える訳にはいかないんだ、って。
でも、そうしたら、また、あからさまに落ち込んだ顔をするからさあ。私もつい『あなた自身が局員になってしまえば、何も問題は無いのにね』とか言っちゃったのよ。
そしたら、何だか本当に『その気』になっちゃったみたいでね。私が帰ったら、すぐに魔法学校の入学願書とか、自分で集め始めたって話で……。両親も『あの子が魔法関係のコトにあんなにも懸命に取り組んでいる姿は初めて見た』って、驚いてたわ。(苦笑)」
「え? でも、彼女って、魔力は?」
「一応、ゼロではなかったはずですが……」
「うん。あの子は今まで、魔力を伸ばす努力とか全然して来なかったからね。……それでも、あの地区には一つ、普通校から『本部キャンパス』への推薦枠が残ってたみたいでさ。実は、あの子、その推薦枠を取って、今年度からいきなりSt.ヒルデ魔法学院の中等科に通ってるのよ」
「うわ~。ザンクト・ヒルデって、名門じゃん。……そう言えば、彼女って、学科の成績は相当に優秀だったっけ?」
「ええ。確か、あの初等科学校では、ダントツでトップだったはずですよ。……でも、ベガティス地方からでは、とても通えませんよね。寮にでも入ったんですか?」
「うん。それで、幸い、ルームメートにも恵まれたみたいでね。やっぱり、中等科からだと、魔法関係の科目は難しいみたいだけど、何とか元気にやってるわ。……ねえ。もし、あの子が本当に局員になれたら、あなたたち、一度ぐらいは会ってあげてね」
「そうですネ」
「ええ。それは、お約束します」
双子はにこやかに笑ってそう応えました。
【実際には、マティカ・ロータスは管理局員になるよりも先に、カナタやツバサと再会し、改めて友人となるのですが、それはまた、翌年の物語になります。】
そんな会話の後、しばらくして、この部屋にも昼食が届きました。
給仕用の機械人形は、配膳用のワゴンを四人の目の前まで進めると、そこでワゴンの足を固定しました。すると、スプーンやフォークを乗せた上の段が真っ二つに分かれて左右に大きくスライドし、料理を乗せた下の段がせり上がってその空隙にぴたりとハマり込みます。
「食事ガ終ワリマシタラ、マタ、オ呼ビ下サイ」
機械人形はそれだけ言って退室しました。要するに、『このまま、ワゴンをテーブルとして、ベッドを長椅子として使え』ということなのでしょう。
「うわ~。あと三日間、これが続くのかと思うと、キッツイな~」
「まあ、下手なインスタントじゃないだけ、マシなんでしょうけどね……」
「ボクはレーションとかも覚悟してましたから、ゼンゼン大丈夫ですヨ」
「では、温かいモノは温かいうちに、いただきましょうか」
「……やっぱ、あなたたち、大物だわ……」
ゼルフィは思わず、半ば呆れたような感嘆の声を漏らしました。
他にすることも無いので、昼食後に機械人形を呼んでワゴンを下げさせた後も、四人は延々と会話を続けたのですが……。
新世界に独り取り残されているアインハルト執務官の話題が出ると、ノーラは少し勢い込んで、こう話を拡げました。
「そうそう。アインハルト執務官と言えばさ~。8年前の最初の事件では、なのはさんたちが六人がかりで手を貸したんでしょ~?」
「ええ?! なんで、そんなコトまで知ってるの?」
「本当に、お詳しいですね!」
双子が思わず驚きの声を上げると、ノーラも少し得意げな微笑を浮かべて、さらにこう言葉を続けます。
「ん~。わたしたち、〈本局〉に来てから初めて『実は、アインハルトさんが独り現地に置き去りにされてるから、今回は急いでそれを救出しに行くんだ』って話を聞かされたんだけどさ~。わたし、その事件の話を思い出して、『それなら、あの六人のうち誰か一人ぐらいは、今回の調査隊にも参加してるんじゃないか』と期待してたんだけどね~。正直に言うと、そこは、ちょっと残念だったかな~」
「この子ったら、昨日の朝に調査隊の〈隊員名簿〉を渡されるまでは、『また、スバルさんに会えるかな~?』とか言って、結構、はしゃいでたのよ」
そこで、ツバサはふとした疑問をそのまま口にしました。
「ということは……お二人は、スバルさんとはすでに面識があるんですか?」
「ん~。まあ、スバルさんの方は、わたしたちのことなんか、もう憶えてもいないだろうけどね~」
ノーラはそう言って、ふと遠い目をしました。あとは、ゼルフィが引き継いで説明を続けます。
「実は、去年の9月に、私たちの部隊でもテロ対策の講習会があってね。その時、特別救助隊の方から講師として来てくれたのが、スバルさんたちだったのよ」
「ああ。なるほど、そういうつながりでしたか」
「で、私たちも、その時に初めて知ったんだけど、うちの部隊長のハウロン・シェンドリール二佐って人が、元々『スバルさんのお父さん』の親しい友人だか何だかで。スバルさんのことも、以前から個人的によく知ってたみたいなのね。
それで、講習会が終わって、スバルさんが『今日はこのまま直帰だ』と解ったら、うちの部隊長が『だったら、今はちょうど訓練場も空いてることだし、少しウチの若い連中を揉んで行ってやってくれないか?』なんて言い出したのよ」
「ええ? あのスバルさんとガチでやり合ったの?」
カナタはまた、思わず驚きの声を上げました。彼女も、昨年のカルナージでの合同訓練で、スバルの強さは骨身にしみて解っています。
すると、ゼルフィはやや早口で、一気にこうまくし立てました。
「うん。レイヤーで組んだ『古びた街並み』を舞台に、スバルさんが一人で凶悪殺人犯の役をして……ウイングロード? とかいう移動魔法は使わずに、しかも『人体への直接攻撃は基本的に魔法なしで。さらに、トドメを刺す時は必ず所定の大型ナイフで』っていう、かなりメンドくさい条件つきで、模擬戦の相手をしてもらったんだけどね。
ああ! もちろん、本物のナイフじゃなくて、有効打が入ったら『クラッシュエミュレート』が起きるようにプログラムされた、訓練用のデバイスなんだけど。
スバルさんがものすごく軽い口調で『ん~。大勢で一度に来てもいいよ~』なんて言うから、私たちも『もしかして、ナメられてるのかな?』って、ちょっとカチンと来てさ。12人で3チームに分かれて、きっちり計画を立ててから、『全員でタコ殴りにしてやる』ぐらいの意気込みで、その1対12の模擬戦を始めた訳よ。時間制限は30分で」
「……で、どうだったの?」
「相手がいくら『元機動六課のフロントアタッカー』でも、あれだけメンドくさい条件で縛れば何とかなるだろうと、わたしたち、思ってたんだけどね~」
「実際には、全員が倒されるまで、10分とかからなかったわ」
二人とも『我ながら、もはや笑うしかない』という表情です。
「一人あたり50秒未満と考えれば……或る意味、秒殺ですか……」
「わたしとゼルフィは、最後まで粘ったんだけどね~。結局、スバルさんには一発も当てられなかったな~」
「こっちは石壁を背にして、気配も消してるつもりなのに、その壁をいきなり裏側から拳の一撃でブチ抜いて来るんだもの! あれ、リボルバーナックルっていうの? あんな魔法があるんじゃ、並みの陸士なんて何十人いたって勝てっこないわよ! て言うか、単独であんなに強い凶悪犯なんて、この世に実在しないわよね!」
ゼルフィは同意を強要するような口調で、また一気にそうまくしたてました。
「あ~。そう言えば、ディナウド君やガルーチャス君も、似たようなコト、言ってたな~」
「え? 誰ですか?」
「ああ。ディナウドとガルーチャスは、一貫校時代の私たちの同輩よ。あの二人もペアで陸士103部隊に配属されて、私たちと同じ時期に一等陸士になったんだけど、去年の暮れに、その部隊でも、私たちの部隊とまるっきり同じようなコトがあってさ。
二人とも私たちの話を事前に聞いてたから、『よし、俺たちが仇を取ってやろう』ぐらいのつもりで、今度は20人がかりでスバルさん一人に、私たちと同じような条件で挑んだらしいんだけどね。……まあ、結果はお察しのとおりで。(笑)」
「あ~。でも、あの二人も、今この艦に乗ってるってことは……もしかして、スバルさんがわたしたちのこと、見所があるって、八神提督に推薦してくれたのかな~?」
ノーラはちょっと目を輝かせながら、相方に同意を求める口調でそう言ったのですが、ゼルフィの答えは「にべもない」代物でした。
「あんたは、万事につけ、夢を見すぎよ」
「うっわ~。わたしの相方、キビシイな~」
これには、双子も思わず、つられて笑ってしまいました。
そこで一拍おいて、今度は、ゼルフィがこう話をつなげました。
「そう言えばさ。昨日の朝に渡された〈隊員名簿〉には『現状では、執務官らを含めて以上18名の予定』とか書かれてて、あなたたち二人の名前が無かったと思うんだけど……二人は今回、どうして急に八神提督から追加招集されたの? やっぱり、なのはさんの代役として?」
「いえいえ! とんでもない!」
「ボクらには、まだまだそんな大役、ゼンゼン務まりませんから!(苦笑)」
「ただ、私たちは、八神提督が『現地で怪しまれずに捜査するためには、小児のような姿をした局員が、もう少しいた方が良いのかも知れない』とのお考えだと伺いましたので、『それならば、私たちが適任だ』と売り込ませていただいたんです」
「うわ~。君たち、自分から志願したんだ~」
「ええ。なのは母様を通じて『顔なじみ』だったからこそできた荒技だと言われてしまえば、確かに返す言葉も無いんですが……。それが昨日の午後のことですから、今にして思えば、かなりギリギリのタイミングでした」
そこから、カナタは、つい勢いでこんな言葉を続けてしまいました。
「あとは、もちろん、ボクらは兄様を助けたくて……」
《カナタ! 執務官の親族関係は、すべて第三級の特秘事項です!》
《ああっ! しまった。そうだった!》
「……え? 兄様って?」
ゼルフィは当然、そこに食いついて来ます。
《ごめん、ツバサ! 何とか上手く誤魔化してヨ!》
「ああ、すいません。私たちは、アインハルト執務官のことを、『近所のお兄ちゃん』的な意味合いで、昔からそう呼ばせていただいているんですよ。内緒の話ですが、実は、互いに家が隣同士なので」
ツバサはいとも平然とそう騙りました。あまり大きな声では言えませんが、こうした「嘘八百」は彼女の得意技なのです。
「あれ? でも、あの人って……確か、ああ見えて、本当は女性なんだよね?」
「ええ。でも、私たちは、いろいろあって『母様の生まれ故郷』にあるお祖母様たちの家で幼年期を過ごしましたので……」
「え~? なのはさんの故郷ってことは、辺境の管理外世界で~?」
「はい。ですから、私たちは、魔法のことも管理局のことも、何も知らずにのんびり育ちました。それで、私たちが6歳の夏にミッドチルダに戻って来た時には、アインハルトさんは仕事の都合だか何だかで、もう日常的に男装のままで生活をするようになっていたんです」
「あ~、そうか~。確か、アインハルトさんって、執務官になった次の年……今から7年前には、もう男装を始めてたんだっけ~」
「うん。それで、ボクらも最初、女性だとは気がつかなかったんだよネ」
カナタもようやく気を取り直して、また何事も無かったかのように会話の輪に加わりました。
「それ以来、本人が特に嫌がっていないのを幸い、兄様と呼ばせていただいている訳ですが……私たちは当時から、兄様には何かとお世話になってばかりでしたので、『今度は、私たちが恩返しをする番かな』と思い、志願しました」
「ああ、なるほど。そういう経緯だったのね」
ゼルフィにも、何とか納得してもらえたようです。
そこで、ノーラはふと話題を最初の話に戻しました。
「あ~。じゃあ、なのはさんたちは今回、六人とも忙しくて、アインハルトさんの救出には来られなかったってことなのかな~? ね~。二人は、何か聞いてる~?」
「いえ。どうやら、特秘事項ばかりのようで、私たちもあまり詳しいことは聞かされていないんですが……」
「そう言えば、ティアナさんは、年が明けた頃だったかに、『今回の案件は、また随分と面倒な代物になりそうだ』って、こぼしてたよネ?」
「ええ。多分、ティアナさんは今も、昨年から続くその案件の捜査をしているんだと思います」
「そうか~。やっぱり、執務官って、大変な仕事なんだな~」
そこで、ゼルフィが遅ればせながら、ふと大切なことに気がつきます。
「あれ? ……それでなくても、冷静に考えたらさ。今回の救出作戦は、あくまでも『話し合いによる解決』が前提なんだから、向こうの魔導師たちに格闘で引けを取らなければ、それで充分なのであって……なのはさんやスバルさんみたいな、やたらに強い人が来たって仕方が無いんじゃないのかな?」
「ああ~! 言われてみれば、そのとおりだ~! なんで、わたし、今まで気がつかなかったんだろ~!」
ノーラは頭を抱えて、ベッドの上に倒れ込んでしまいました。(笑)
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