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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第22話


9月21日、8:12―――――



翌朝、ヴァン達はアシェンやファン、そしてアシェンの祖父であり、ファンの父である老人と会談を行っていた。



~桂花飯店~



「―――――改めてになるが名乗っておこう。―――――ギエン・ルウという者だ。」

「”ルウ”、ということは……」

「……ちょいと引っかかりはしたがまさかそこまでの大物とはな。黒月を代表するルウ家の現当主、”現長老”の一人ってことか。」

「し、下働きのおじさんじゃなかったんですかっ?」

老人―――――ギエンの自己紹介を聞いたアニエスとヴァンはそれぞれ真剣な表情を浮かべ、フェリは困惑の表情でギエンを見つめた。

「フフ……まだまだ青いな、ヴァンとやら。」

「褒め言葉として受け取っとくぜ。―――それで、話ってのは?」

「無論、昨夜のことについてだ。長老会の決定を伝えよう。――――――今日のうちに黒月が動くつもりはない。」

「この期に及んで、か……」

「父上……本当にそれでよろしいのでしょうか?」

ギエンが口にした黒月の長老達の決定を知ったヴァンは真剣な表情で呟き、ファンは僅かに複雑そうな表情を浮かべてギエンに確認した。



「諸々の準備が整うのは明日だ。それまでの手出しは許さん。今日は守りに入り明朝、チョウが戻った時点で全てを片付ける。”『銀』が来るかは、もはやどうでもいい。”」

「で、でも納得できないわ――――――!街のみんなもそうだけど、このままアーロンが黙ってるわけがない!あれから何処かに行っちゃったし、下手したら一人で敵陣に突っ込みかねないわ!爷爷(おじいちゃん)爸爸(パパ)は彼を見捨てるつもりなの!?」

ギエンが話を終えるとその場は重苦しい空気によって誰も言葉を発しなかったが、アシェンが辛そうな表情を浮かべてギエンに反論した。

「……無論そのつもりはない。だが難しい状況なのも確かだ。これだけの仕掛け――――私達の報復を”彼ら”は当然予測していることになる。」

「っ……」

「……ま、そうでしょうね。報復すら折り込み済みならそれを見越した次の手も……」

「はい……戦場でも幾つか使われる戦術です。」

しかしファンの説明を聞いたアシェンは反論の言葉が思いつかず唇を噛みしめ、重々しく呟いたヴァンの言葉にフェリは頷いて答えた。



「フフ……無駄な説明をせずに済んで何よりだ。最後に一つ忠告しよう―――明日未明までに煌都を離れるがよい。」

「……噂の”裏”の使い手か。3年前の”ハーケン会戦”以来の虎の子を繰り出すとはな。」

ギエンがある忠告をすると周囲を見回して何かに気づいたヴァンは真剣な表情で呟いた。

「クク、よく知っておる―――――流石チョウが見込んだ男。此度はともあれ、いずれ声をかけよう。―――それではな。精々、生きて旧首都へ戻るがよい。……ああ、それとセイとホアンを蘇生してくれたそちらのお嬢さんの天使には後日、謝礼を渡そう。」

ギエンが話を終えると仮面をつけた黒装束の男達が突如音もなくヴァン達の背後に現れた。

「!!?」

「ッ――――――!!?」

黒装束の男達の登場にアニエスは不安そうな表情を浮かべ、フェリは警戒の表情を浮かべた。

「ちょ、呼んでたらなら一言言ってよ!?」

アシェンは驚いた後ギエンに文句を言った。そしてギエンは黒装束の男達と共にその場から立ち去りかけたがヴァンがギエンを呼び止めた。



「―――――ところでアンタ、随分あの跳ねっ返りに冷たいな?アイツの方は拗ねてたぜ?」

「あ………」

「……………」

ヴァンのギエンの指摘を聞いたアシェンは呆けた声を出して辛そうな表情を浮かべ、ファンは重々しい様子を纏って目を伏せて黙り込み

「……ふむ。まあ色々あるのよ、我等黒月にもな。――――此度の一件、”外禍”を通じ”内患”を見定める機会でもあろう。その気ならヌシも見極めてみるがよい。」

ギエンは振り向いて意味深な言葉を口にした後去って行った。



「―――――聞いた通り、まだ黒月(わたしたち)が動く時ではない。昨夜の事件の調査も含めて、どう動くかは君達に任せるよ。ただ……アーロンはなるべくフォローしてあげて欲しい。」

「あいつは……仲間達のことを本当の家族のように思っていて……その敵討ちのためなら、きっとどんな代償も躊躇うことはないでしょうね……」

ファンのヴァン達への頼みの後にアシェンは悲しそうな表情を浮かべてアーロンの行動を推測した。

「……あの怒りは尋常ではありませんでした。」

「はい……ちょっと放っておけません。」

「ったく、心配っつうならお前もだろ。とっとと旧首都に帰ったらどうだ?俺がエレインにどやされるんだが。」

フェリの言葉に同意したアニエスに溜息を吐いたヴァンはアニエスに忠告した。

「それは……すみません。今日一杯は付き合わせて下さい。”あの件”もありますし……」

ヴァンの忠告に対して答えたアニエスはチョウとの会談の時に”ゲネシス”が反応した事を思い返した。



「ハン……いずれにせよ今日の夜行までがデッドラインだ。」

「はい、わかってます。」

「お嬢さんたちもくれぐれも気を付けて。こちらもできる限りの便宜を図ろう。それでは頼んだよ、アークライド君。」

「アーロンの事をお願いね。」

「ああ――――――つっても裏解決屋としての範囲内でな。」

ヴァン達との会談を終えたファンとアシェンもその場から立ち去った。



「さて――――今日の方針だが、わかっているな?」

「まずは昨夜の事件の調査、ですね。特に”霧”の原因が気になります。……やはり”ゲネシス”とも関係しているかもしれません。」

「それとアーロンさんの行方ですね。恐らく犯人―――――今の所”アルマータ”の可能性が一番高そうですが―――その本拠地に突入した可能性もありそうです。」

「上出来だ、その二つで合ってる。とりあえずは情報収集だな。必要なら4spgにも対応していく。ジャックからの続報も聞きたいし、ギルドや警察のネタも知りたい所だ。―――――そういえば、アニエス。メイヴィスレインの回復具合はどうだ?」

「蘇生魔術を終えた後のメイヴィスレインさん、かなり疲弊していた様子でしたものね……」

今後の方針を伝えた後あることを思い出したヴァンはアニエスに訊ね、フェリは昨夜の出来事を思い返した。

「今朝起きた時に聞いてみたら今日の夕方には8割くらいまでは回復する見込みとの事です。それまではメイヴィスレインと同調している私の魔力を使っての回復に専念するとの事なので、私への念話もそうですが、私達からの呼びかけに応える事も余程の事態にならない限りはしないと言っていました。」

「そうか。ただでさえ蘇生魔術は術者が負う負担が大きいと聞いているからな。それを連続で何度も使用させちまったんだから、無理もないな。――――――とにかく臨機応援に動いていくぞ。」

「「はい!」」

そしてヴァン達は情報収集をしつつ、4spgに対応を開始した。



~東方人街~



「あら、貴方達は………」

ヴァン達が東方人街を歩いていると花束を持ったマルティーナが声をかけた。

「アーロンさんのお姉さんの……」

「―――――ちょうどよかったぜ。アンタにも聞きたい事があるからアンタの事も探していたんだ。」

声を聞いて振り向き、自分達に声をかけた人物がマルティーナである事を確認したフェリは真剣な表情を浮かべ、ヴァンはマルティーナにある事を訊ねようとした。

「アーロンの行方よね?……事情はアシェンから聞いているわ。アーロンなら、昨日の深夜に帰ってきて私の安否を確認した後、すぐに家を出てそれっきり連絡はないわ。」

「昨日の深夜という事は、仲間の人達の件の後すぐにマルティーナさんの安否を確認する為に一旦家に帰ったようですね。」

「ええ。その……何か気になる事等は言っていませんでしたか?」

マルティーナの話を聞いたフェリはアーロンの行動を推測し、フェリの推測に頷いたアニエスはマルティーナにアーロンに関する質問をした。



「残念ながらアーロンが向かった場所に繋がるような事は何も言わなかったわ。」

「そうですか………」

「そういえばアンタは街が謎の霧に包まれた時、アンタへの襲撃は無かったのか?奴の仲間の件を考えれば、奴の身内であるアンタも襲撃されてもおかしくないと思うんだが……」

マルティーナの答えを聞いたアニエスが相づちを打つとヴァンが真剣な表情で新たな質問をした。

「………私も襲撃をされたわ。勿論、撃退したから今こうして無事な姿で貴方達の目の前いるのだけどね。」

「ええっ!?」

「という事は襲撃者の顔や特徴も知っているんですよね……!?」

マルティーナが口にした驚愕の答えにヴァン達はそれぞれ血相を変えた後アニエスは驚きの表情で声を上げ、フェリは真剣な表情で訊ねた。

「ええ。ミント髪の細い身体をした青年よ。年齢はそうね……アーロンより少し上くらいかしら。」

「その特徴の人物はアイーダさん達を”あんな目”に遭わせた………!」

「”アルマータ”の幹部の一人―――――”メルキオル”、でしたね……」

「まさかメルキオル――――――アルマータの幹部が直々に襲撃していたとはな……しかし、あのメルキオルをアンタ一人で撃退したって事になるんだから話には聞いていたがアンタは相当な使い手のようだな。」

マルティーナが口にした特徴の人物を聞いて再び血相を変えたフェリは真剣な表情で呟き、アニエスは不安そうな表情で呟き、真剣な表情で呟いたヴァンは苦笑しながらマルティーナを見つめた。



「フフ、幸いにも相性が良かっただけよ。」

「”相性”、ですか?」

マルティーナの言葉の意味がわからないアニエスは不思議そうな表情で首を傾げた。

「私を襲撃した人物の戦い方から察するに彼の本領は”暗殺者”。対する私は”元”とはいえ、”騎士”だからね。」

「なるほど……奇襲で相手を仕留める”暗殺者”と正面衝突での戦闘が本領の”騎士”でしたら、奇襲が失敗した時点で”暗殺者”の分は悪くなりますね。」

「とはいってもあの”火喰鳥”すらも敵わなかったことから、奴自身の戦闘能力も相当なものなのだろうがな。それで奴は何か気になる事は言っていなかったか?」

マルティーナの話を聞いて納得しているフェリに指摘したヴァンはマルティーナに新たな質問をした。

「そうね……”自分達の計画の為に、私にも死んでもらう”、と言っていたわ。」

「自分達――――――”アルマータの計画の為”、ですか………」

「やはり”火喰鳥”達の件のように、何らかの”計画”の為に今回の件を引き起こしたようだな。他に何か気になる事はなかったか?」

考え込みながら呟いたマルティーナの言葉を聞いたアニエスは不安そうな表情で呟き、真剣な表情で推測したヴァンは質問を続けた。



「後はそうね……さっき話した私を襲撃したその”メルキオル”、だったかしら。メルキオルとの戦闘で彼を追い詰めたのだけど、メルキオルと並ぶかそれ以上と思われる戦闘能力の使い手達に介入された事で相手の撤退を許してしまったのよ。」

「ええっ!?」

「あのアイーダさん達でも敵わなかったメルキオルを一人で追い詰めるなんて、マルティーナさんは相当な使い手の戦士なのですね……!」

「その話も気になるが、奴以外にも”アルマータ”の幹部らしき連中も今回の件に関わって――――――いや、このラングポートに潜んでいる可能性が高いという話の方が気になるな。メルキオルの援軍に現れたその連中の事について、何か気づいた特徴等はあるか?」

マルティーナが一人でメルキオルを追い詰めたという話を聞いたアニエスは驚きの表情で声を上げ、フェリは真剣な表情でマルティーナを見つめ、ヴァンは新たな気になる情報を訊ねた。

「援軍に現れたのは二人で、一人は弾丸の代わりに金属製の矢を撃つ珍しい銃を使っていた女性よ。」

「弾丸の代わりに金属製の矢を撃つ銃――――――もしかして、短針銃(ニードルガン)か?もう一人の方は?」

「もう一人の方は手甲を武器としてしている大男だったわ。鍛え上げられた肉体である事もそうだけど、動きから察するに元はどこかの国の軍人だと思うわ。」

「もう一人の方は軍隊上がりの格闘術の使い手か………」

新たなアルマータの幹部と思われる人物達の事を知ったヴァンはふとアーロンの仲間達の遺体の損傷について思い出した。



「ヴァンさん、もしかして……」

「フェリも気づいたか。」

「え……二人は一体何に気づいたのですか?」

ヴァン同様フェリも気づき、二人の会話が気になったアニエスは戸惑いの表情で訊ねた。

「アーロンの仲間達を実際に殺った連中はもしかしたら、このラングポートに潜んでいるメルキオル以外の”アルマータ”の幹部であるという事だ。」

「今聞いたマルティーナさんとの戦闘でメルキオルの援軍に現れたというアルマータの幹部達の得物や戦闘方法でしたら、殺されたアーロンさんの仲間の人達の遺体の損傷具合にも納得がいくのです。」

「それは………そういえば、マルティーナさん。その花束はもしかして………」

二人の話を聞いたアニエスは不安そうな表情を浮かべた後マルティーナが手に持っている花束に気づいた後マルティーナの目的を察した。

「ええ、アーロンの大切な友人達だったから、せめてもの手向けにね。――――――そろそろ行ってもいいかしら?」

「ああ。アーロンがもし家に帰って来たり、アンタの所に顔を見せに来たりしたら連絡してもらいたいんだが……連絡先を教えてもらってもいいか?」

「そういえば、連絡先はまだ交換していなかったわね、――――――いいわよ。」

そしてマルティーナとの連絡先を交換し、マルティーナを見送ったヴァン達は情報収集や4spgの対応を再開した。



~新市街~



「”メッセルダム商事”……アルマータの拠点、でしたか。」

「気配、ありませんね。」

「ああ、黒月の報復を避けて放棄したのかもしれんが……あの跳ねっ返りが立ち寄っている可能性はありそうだ。」

”メッセルダム商事”の建物の前に来たアニエスは真剣な表情で建物を見つめ、フェリは建物から気配が感じないことを報告し、ヴァンはアーロンに関する手掛かりがあると推測した。

「踏み込みますか。」

「ああ、ただしトラップには気を付けろ。」

了解(ウーラ)。」

(……普通に不法侵入ですけど言ってられませんよね……)

メッセルダム商事の建物内へと踏み込む事を決めた二人の会話を聞いたアニエスは冷や汗をかいて困った表情を浮かべたが状況を考えて気にしない事にした。

「―――――その必要はないわ。」

するとその時聞き覚えのある女性の声が聞こえると建物からエレインが現れた。



「わわっ………」

「エレインさん!?」

「ふう、気配消して乗り込んでんじゃねえよ……」

「警察からの委任状も取っているわ。……民間人のあれだけの被害、ギルドとしても黙ってはいられない。せめて次の動きを探る手掛かりが残っていないか調べてみたのだけど……完全にもぬけの殻だったわ。」

「そうですか……」

「拠点を移した……ということでしょうか?」

エレインの話を聞いたアニエスは手掛かりが無い事に僅かに複雑そうな表情を浮かべて頷き、フェリはある推測をした。

「というより、事務所という体裁すら取っていなかったみたいね。無人だったのはともかく、物が置かれていた形跡すら残っていない。例の半グレ達がたむろしていた痕跡ならあったけど。」

「文字通りのダミーカンパニーってわけか。」

「ただ、その半グレ達すら姿を消しているということは……昨夜の事件が彼らと関係しているのはほぼ間違いないでしょう。」

「だろうな。……納得できない点もあるが。」

「そうね……」

「納得できない、とは?」

ヴァンとエレインの会話が気になったフェリは不思議そうな表情で訊ねた。



「……過剰、すぎるのよ。残された遺体の状態、与えられたと思われる徹底的な暴力が……」

「あ………」

「半グレどももタチは悪いが所詮セミプロ――――――殺しは慣れていない。にも関わらず、昨夜行われた”虐殺”では一切の手加減もなく暴力が振るわれた。正式な構成員でもないのにそこまでやれるかっつーことだな。………そうなると、実際にアーロンの仲間達を殺ったのはやはり”奴等”という事になるな。」

「はい。マルティーナさんから聞いた彼らの武装等も考えると、間違いないでしょうね。」

「?その口ぶりだとまさか、貴方達……何か心当たりがあるのね?それに”マルティーナ”という名前……確か、件の渦中の人物の義理の姉の事よね?」

自分の話を聞いて心当たりがある様子の会話をしたヴァンとフェリが気になったエレインは真剣な表情で訊ねた。

「ああ、実はあの襲撃の時――――――」

そしてヴァン達はマルティーナから聞いた話をエレインに伝えた。



「………そう。やはり、彼の身内である彼女にも襲撃があったのね。しかも襲撃した人物が"A"の幹部かつ劣勢になったその幹部の援軍に現れた二人の幹部らしき人物達の武装等の件も考えると今回の件、やはり"A"が深く関係しているようね。この事件―――――最悪を更に超えてくるでしょうね。私は別の方面も当たってみる。貴方たちも深入りするつもりならくれぐれも注意してちょうだい。」

ヴァン達からの話を聞いたエレインはその場で考え込んだ後ヴァン達に忠告をしてその場から立ち去った。

「ったく、気を付けるのはお前も同じだろうが……」

「はい……いくら腕が立つと言っても。その、改めて協力し合った方がいいんじゃないでしょうか……?」

「……ま、必要があればな。」

アニエスの提案にヴァンは静かな表情で頷いた。

「えと、わたしたちも一応中を調べてみますか?」

「いや、あいつが調べて何もなけりゃあ時間の無駄ってモンだ。それにどうやらアーロンのヤツも立ち寄ってなさそうだしな。」

「はい……一体どちらに行かれたんでしょう。黒月の皆さんにもわからないみたいですし。そういえば半グレの人達も結局、どこに行ったんでしょう?ラングポートから出た形跡は確かまだ無いんでしたよね?」

「ああ、そこがポイントだな。この街は黒月の目が行き渡ってるがそれでもデカイ分、完全じゃねえ。なにせ人口55万の大都市―――巨大な港商区にメンフィル帝国軍の基地もある。」

「それらを虱潰しにするわけにも行かなさそうですね……」

「いや、実際黒月の連中はやってる最中だとは思うがな。―――――だが俺達は”裏解決屋”だ。せいぜい鼻を働かせないとな。」

フェリの悩みに答えたヴァンはザイファを取り出して何かの操作をした。



「……よし、ここがよさそうだな。」

「導力ネット、ですか?」

「一体何を……」

「不動産関連の取り扱いサイトだ。”メッセルダム商事”が入ったのと同じタイミングでの動きを調べてみる。」

「………」

「……?フドウサン?」

ヴァンがやろうとしている事を察したアニエスは呆けた声を出し、初めて聞く言葉にフェリは首を傾げた。そしてヴァンが操作を終えると目的の情報が見つかった。



「―――――あった、コイツだな。港湾区にある大規模倉庫の一つがほぼ同じタイミングで借りられている。倉庫の場所と借主までは見られねえが、クク……わかりやすい尻尾を残しやがって。」

「えっと……」

「―――――”メッセルダム商事”は目暗ましの意味でもダミーカンパニー。それらの倉庫に、半グレの人達も含めた対黒月の戦力を整えているわけですね?」

「……!なるほど!」

アニエスのヴァンへの確認を聞いたフェリは目を見開いて納得した表情を浮かべた。

「正解だ、そんじゃ行くぞ。」

「え……場所や借主はわからなかったんですよね?では不動産業者の方を訪ねるとか?」

「いや、仮にアルマータが借りてるなら業者が話すとも思えねぇ。話したが最後、消されるだろうし。………もう消されてるかもしれねえな。」

「っ……」

「……いかにもありそうです。」

ヴァンの口から出た血生臭い推測にアニエスは思わず息を呑み、フェリは真剣な表情でヴァンの推測に同意した。

「ここから先はこの街で俺以上に鼻が利くヤツを当たってみるぞ。いい歳して年下の相棒に頭が上がらない、低血圧の自称本業ギャンブラーにな。」

「ああ……!」

「ジャックさん、怒りますよ……」

ヴァンがこれから訪ねようとする人物を知ったフェリは納得した様子で声を上げ、アニエスはヴァンのジャックの扱いに困った表情で指摘した。そしてヴァン達はジャックとハルの所を訪ねた。



~東方人街・酒場~



「ジャック、聞きたい事がある。」

「……いきなりだな。」

「こういう状況だからな。時間がない、本題に入るぞ。」

二人を訪ねたヴァン達は奥の席に座り直して話を始めた。

「―――――”メッセルダム商事”と同じ日に契約が結ばれた港湾区の大型倉庫……その場所と、借主の名前が知りたい。」

「……やっぱりか。」

「なに……?」

ジャックが自分達を訪ねた理由を察した様子にヴァンは眉を顰めた。



「――――――実は今朝、アーロンから同じことを聞かれたぜ。」

「本当は口止めされたんだけど……ここまで追いつかれたらもう同じよね。」

「アーロンさんが……!」

「ついに辿り着きましたね……!」

ジャックとハルの答えを聞いたフェリは驚き、アニエスは明るい表情を浮かべた。

「……俺がそのネタに気づいたのはとある不動産業者が変死した事からだ。8月末――――3週間くらい前だな。あくまで副業の一環でそいつの周辺を洗って最近の取引物件なんかも控えてたんだが。」

「まさかそれが”メッセルダム商事”と同じ日に借りられてたなんてね……業者も別だし、アーロンに言われるまで私達も気付かなかったよ。」

「では、アーロンさんも同じ線を……」

「……それとやっぱり不動産業者の方は………」

「―――――で、借主と倉庫の場所は?」

二人の話を聞いたフェリはアーロンの行動や考えを推測し、アニエスは新たな死者の判明に辛そうな表情を浮かべ、ヴァンは続きを促した。



「ああ……まず借主は”サルバッド通運”だ。」

「サルバッドというと……カルバードの南東部にある?」

「ええ、大陸中東部への玄関口でもある街ですけど……」

「また妙な名前が出て来たな。……いや、当然それも偽名か。」

「うん、調べてみたらそんな会社、どこにも登録されていなくてね。サルバッドっていう名前に何の意味があるかはわからないけど。」

「適当かもしれねぇしな。――――それと肝心の倉庫の場所だが。ザイファを出せ、位置を送ってやる。」

「へっ、用意周到じゃねえか。」

ジャックにザイファを出すように促されたヴァンは口元に笑みを浮かべてザイファを取り出し、ジャックが送ったデータを確認した。



「って、新市街を抜けた先の波止場の近くじゃねえか……!?」

「本当ですかっ……!?」

「さっき立ち寄った際には気づきませんでしたが……」

データを確認したヴァンとフェリは驚き、アニエスは戸惑いの表情で指摘した。

「よし――――とにかく行ってみるぞ。」

「はいっ!」

「ジャックさん、ハルさんもありがとうございました……!」

「いや……俺も迷ったんだがな。」

「アーロン……無理もないけどかなり思い詰めてる様子だった。ヴァン、アニエスもフェリもできれば彼の力になってあげて?」

「ああ、ルウ家にも頼まれてるしな。」

「それに、放っておけませんから。」

「わたしたちも力を尽くします!」

「ああ、頼んだぜ。――――おっと、一つ肝心なことを言い忘れていた。お前達が俺達の所に来る少し前、”エースキラー”の連中もアーロンやお前達と同じ内容を俺達に聞きにきたぜ。」

ヴァン達の心強い言葉に口元に笑みを浮かべて頷いたジャックはある事を思い出してヴァン達にそれを伝えた。



「えっ!”エースキラー”の人達もですか……!?」

「アーロンさんのような地元の人でもないのに、どうやってわたし達よりも速く気づけたのでしょう……?」

「ま、向こうには優れた先読み能力で知られている”氷の乙女(アイスメイデン)”がいるからな。お得意の先読み能力もそうだが、もしかしたらこの煌都にいるかもしれない情報局の連中からの情報で気づいたのかもな。――――で、いつ頃聞きに来たんだ?」

ジャックの情報を聞いたアニエスは驚き、信じられない表情で疑問を口にしたフェリに推測を答えたヴァンは続きを促した。

「つい、さっき――――大体10分前くらいだよ。一応”エースキラー”の人達にもアーロンの事は頼んでおいたけど……」

「連中の目的は”A”に繋がる情報が最優先らしく、”情報源と思われるメッセルダム商事の社員達を皆殺しにする可能性が極めて高い”アーロンは場合によっては、”力づくで無力化せざるを得ない”と言っていたがな……」

「そんな………戦場でもないのに相手を殺す事はさすがに許されない事ですが、アーロンさんの気持ちにも少しは考えてあげるべきですのに………」

「ヴァンさん、クレイユ村の時のように”エースキラー”の人達と協力し合う事はできないのでしょうか?」

複雑そうな表情で答えた二人の話を聞いたフェリは辛そうな表情をを浮かべ、アニエスは不安そうな表情でヴァンに訊ねた。

「10分前にジャック達の所に来たって事は、急げば連中がアーロンと鉢合わせになる前に追いついて交渉する事ができるかもれねぇ。――――急ぐぞ!」

「「はいっ!」」

アニエスの提案に答えたヴァンは急行する事を二人に告げ、ヴァンの答えに力強く答えた二人はヴァンと共にアーロンと”エースキラー”の面々が向かった倉庫へと急行し始めた――――

 
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