仮面ライダーAP
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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第6話
前書き
◆今話の登場ライダー
◆ジュリウス・カドラリス/仮面ライダーSPR-16サムライスパルタン
「地獄の第4基地」から選抜された北欧某国の陸軍大尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。非常に我の強い剣術の達人であり、機体のテストより自身の剣技を追求する無鉄砲な女傑。彼女が装着するサムライスパルタンは元々「ガジェットスパルタン」と呼ばれる換装素体型の機体であり、多岐に渡る装備を状況に応じて使い分けるのが本来の運用方法なのだが、本人の意思により超振動刀剣「サムライソード」と超振動装甲「サムライアーマー」で構成された7番目の装備のみを使い続けている。当時の年齢は23歳。
※原案は魚介(改)貧弱卿先生。
バレットスパルタンとランバルツァーの一騎打ちが始まった頃。時を同じくしてエンデバーランドの各地では、マルコシアン隊のスパルタン達がグールベレーとの戦闘を開始していた。自分達の「完全上位互換」である超人達を前にしても、彼らは臆することなく敢然と立ち向かっている。
「良い……良いわグールベレー! この血肉を削ぎ落とし合うような闘い……この滾り! 私は……こういう果し合いがしたかったのよッ!」
グールベレーの戦闘員と交戦している、第16号機――「SPR-16サムライスパルタン」の鎧を纏うジュリウス・カドラリスもその1人であった。未だに稼働している市内の製鉄所。その施設内で戦闘員と刃を交えている彼女は、かつてない強敵との殺し合いに心を躍らせていた。
「さぁ……もっと、もっとよ! 血反吐吐くまで戦って、私を楽しませて見なさいッ!」
仮面の下で狂気の笑みを露わにしている彼女は、高周波ブレードの一種である超振動刀剣を巧みに振るい続けている。溶鉱炉の真上に位置する狭い鉄製の足場を舞台に、彼女は戦闘員との剣戟を繰り広げていた。
本来この外骨格は、「アームドアーマー」と呼ばれる多様な追加装備を状況に応じて使い分ける「ガジェットスパルタン」という換装素体型であり、黒基調のアーマーの各部には武装マウント用の取付部が備わっている。
さらに両肩には黒と金のツートンカラーで塗装された裃型の追加アーマーが装備されており、その外観はさながら和の要素を取り入れた「仮面ライダーリュウガ」のようであった。
「あの『主任』からはまた、『テスト装着者としての自覚を持て』……なんて言われるんでしょうけど! 兵器として最も肝要なのは……相手に勝つことなのだから! しょうがないわよねぇえぇッ!?」
彼女は独自の拘りで、この近接戦特化の装備のみを使い続けている。それは、命を間近で削り合うような殺し合いがしたい……という倒錯的なものであった。
物理ダメージを減じる超振動装甲の副作用で何度も吐血しながら、彼女はなおも歓喜の笑みで刃を振るい続けている。これまでも散々聞かされて来た「開発主任」からの「小言」など、意にも介していない。
「はぁあぁあッ!」
狂気を剥き出しにした振る舞いとは裏腹に、その太刀筋は流麗であった。まさに、達人の剣術と呼ぶに相応しい一閃。その閃きが、グールベレーの戦闘員を絶え間なく攻め立てている。しかし戦闘員の方も、同系統の高周波振動大剣でその悉くを受け流していた。
「狂人め……貴様のような人間、我々でなくても生かしては置けぬわッ! この場で細切れにしてくれるッ!」
「……ッ!?」
しかも――サムライスパルタンの斬撃を払い除けた瞬間。彼は背面に隠し持っていた「2本目」を引き抜き、虚を突くように振り抜いて来る。
咄嗟に身を引いてかわそうとしたサムライスパルタンの腹部装甲が、その一閃でぱっくりと切り裂かれていた。超振動装甲と言えども、その防御力を上回る高周波ブレードで斬られてはひとたまりもないのだ。
「ふふっ、この鎧を簡単に切り裂いちゃうなんて……ますます昂るわ」
「気に召したようで何よりだ。ではもっと楽しませてやろうッ!」
「……!?」
さらに戦闘員は、2本の剣の柄同士を連結させることによって双刃刀を作り上げ、変則的な軌道で斬り掛かって来る。柄の両端に備わる高周波ブレードを巧みに回転させながら距離を詰めて来る戦闘員に対し、今度はサムライスパルタンが防戦一方となっていた。
「随分とユニークな機能が付いてるのね……! 男のロマン、ってヤツ?」
「敵を仕留めるための『拘り』をそう呼ぶのなら、貴様と同じだ。尤も……『実力』は雲泥の差だがなッ!」
単純に「手数」が優っているだけではない。双刃刀を巧みに使いこなす戦闘員の剣術は、サムライスパルタン――ジュリウスの技量とほぼ互角なのだ。そこに改造人間の膂力も加われば、サムライスパルタンはより劣勢となってしまう。
「く、うぅッ……!」
防御に徹していた彼女は徐々に後退して行き、ついには溶鉱炉を背にした位置にまで追い詰められていた。あらゆるものを焼き尽くし、溶かしてしまう溶鉱炉。その熱気を背にしたサムライスパルタンは、仮面の下で汗だくになっている。
「……くっ、ふふっ……うふふっ……! うふふのふ……!」
だが、それは暑さや焦燥が理由ではない。血湧き肉躍る闘争への悦びが、彼女の肉体に滲む汗に表れているのだ。絶体絶命の窮地に立たされていながら、仮面の下で愉悦の笑みを浮かべている彼女は、喜びを噛み締めるように愛刀の柄を握り直している。
(こんなものではないわ……あの時に味わった緊張感は、こんなものではない……!)
この土壇場で脳裏を過ぎるのは、走馬灯……などという綺麗なものではない。数ヶ月前、第4基地でジークフリートと剣を交えた時に味わった、身を焦がすような緊張感。その時の、魂まで燃え尽きてしまいそうなほどの滾りと、昂り。
(まだね……! まだよ……! まだ私は、こんなにも渇いている! この剣技を、枯れ果てるまで使い尽くせるような戦いに……飢えているッ!)
それらを思えば、これほどの死地であっても。まだ、「足りない」のだ。ジュリウス・カドラリスという女を徹底的に打ちのめし、心を折るには、あまりにも「足りていない」。その渇きが、飢えが、仮面に隠された狂気の笑みに現れている。
「……ここまで追い詰められて、なおも折れぬか。やはり貴様は……危険過ぎるッ!」
そんなジュリウスことサムライスパルタンの狂気を、戦闘員も察知していたのだろう。彼は圧倒的な優位に立っていながらも、慢心することなくとどめの一閃を繰り出そうとしていた。
双刃刀を勢いよく振り回す彼は、サムライスパルタンを溶鉱炉に突き落とそうと肉薄して来る。だが、双刃刀の切っ先がサムライスパルタンに届く前に――
「ありがとう、嬉しい褒め言葉だわ」
「なにッ……!?」
――彼女はなんと、愛刀を上方に放り投げてしまう。さらに自ら、足場から飛び降りようとしていた。
一見すれば、戦うことも生きることも放棄した自殺行為。戦闘狂としか思えない彼女の振る舞いからは、想像もつかない選択だ。
(なんだ、奴は一体何をッ……!?)
この行為には、何か「裏」があるのではないか。そう睨んだ戦闘員が、彼女の「真意」に気付きかけた瞬間。溶鉱炉に向かって飛び降りた……かのように見えたサムライスパルタンの両手が、足場の縁を掴む。
「はぁッ!」
その勢いを利用して、縁にぶら下がった状態から身体を前に振ったサムライスパルタンは、足場の裏面を蹴り上げて穴を開けていた。彼女はその穴から飛び出すように、一瞬で戦闘員の背後に回り込んでしまう。
「なッ、にィィィイッ!?」
鉄製の足場の下側を通って戦闘員の背後を取るという奇策。その不意打ちに虚を突かれた戦闘員が振り返ろうとした瞬間、先ほど上方に放り投げられていたサムライスパルタンの愛刀が、持ち主の手元に落下して来る。
「ぬッ……あぁああッ!」
そうはさせるか――と言わんばかりに、戦闘員は振り向きざまに双刃刀を振ろうとする。だが、その切っ先よりも。愛刀の柄を掴み、居合の構えを取ったサムライスパルタンの方が、僅かに疾い。
「――お先」
それが、戦闘員が耳にした最期の言葉となった。互いに振り向きざまに放った一閃。その一太刀は、サムライスパルタンの方が先だったのである。真横に振り抜かれた高周波ブレードの刃が、戦闘員の上半身と下半身を瞬く間に両断して行く。
「あ、がッ……!」
断末魔を轟かせる暇もなかった。真っ二つに切り分けられた彼の身体は、そのまま力無く溶鉱炉に向かって墜落して行く。その最期を見届けたサムライスパルタンは勝利を確信し、静かに踵を返していた。
「……ふふっ。あなたの言う通り……『実力』は雲泥の差だったようね?」
振動機能を切った愛刀を腰に納め、サムライスパルタンはゆっくりと製鉄所を後にして行く。そんな彼女の後ろでは、溶鉱炉に落とされた戦闘員の遺体が跡形もなく消し去られようとしていた。
――互いに敵を倒すための「拘り」を持っていた2人。その明暗を分けたのは、「武器」か「技」か、という違いだったのだろう。
いくら武器の性能に拘ったところで、使い手の技量が伴わなければ最大の成果には繋がらない。ただその一点においては、サムライスパルタンの方が僅かに優位だったのだ。
例え性能面においては「完全上位互換」なのだとしても、その力を振るう「技」の違いには大きな「可能性」が秘められている。
マルコシアン隊を去ったランバルツァーでは知り得ない、隊員達が自らの手で密かに練り上げていた「技」。改造人間の力に頼らない、生身の人間としての努力だからこそ辿り着ける領域。カタログスペックには決して含まれない、計算では測れない不確定な要素。
ただ、それのみが。圧倒的に不利な状況に立たされているマルコシアン隊に与えられた、唯一無二の「勝機」なのだろう――。
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