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仮面ライダーAP

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第4話

 
前書き
◆今話の登場ライダーと登場怪人

◆バイル・エリクソン /仮面ライダーSPR-06バレットスパルタン
 北欧某国の陸軍2等兵であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。元不良でもあるボクシングの達人であり、直情的な熱血漢。彼が装着するバレットスパルタンは、機動性を重視した軽量型の機体であり、部隊のパーソナルマークを刻んだシールド兼用ガントレットが特徴となっている。当時の年齢は16歳。
 ※原案は幻の犬@旧名は赤犬先生。

◆アビス・ランバルツァー
 シェード北欧支部最強の戦闘集団「グールベレー」の隊長であり、かつてはジークフリートと共にマルコシアン隊を創設した元陸軍大佐。マルコシアン隊の元戦術教官でもあり、当時よりも遥かに過酷な訓練を現在の部下達に課している。改造人間の優位性を祖国に知らしめ、その力の必要性を認識させるために軍部から失踪し、シェードに参加していた。ジークフリートに匹敵する圧倒的な戦闘技術に、改造人間の膂力も加わっている最恐の強敵。当時の年齢は35歳。
 

 

 ――男が強くなろうとする理由なんて、いつも単純なものだ。俺もそうだった。

 10年前に隊長(ボス)達に拾われるまで、俺はどうしようもない札付きの悪ガキだった。そんな俺が心を入れ替えようなんて思い始めたのは……俺が育った孤児院の隣に住んでいた、3歳年上の姉貴分が居たからだ。
 俺は心底、彼女に惚れ込んでいた。彼女に見合う男になりたかった。だから俺は、俺を強くしてくれる隊長達に喜んで付いて行った。その先は案の定、地獄だったけど……後悔はない。だって、10年経っても彼女は俺を待ってくれていたんだから。

 マルコシアン隊の皆が、この恋路を応援してくれたおかげで……俺も変われた。歳も階級も上の皆に散々囃し立てられながら、彼女を初めてのデートに誘った時のことは……今でも昨日のことのように覚えている。
 隊長達に拾われてからもずっと、周りに反抗してばかりのやんちゃ小僧だったけど……もう違う。これから俺は、恋人として彼女を守り抜いて行くんだ。その日々を、未来を、10年鍛えたこの拳で切り開くんだ。

 ――そう、心から信じていたんだ。

 何度呼び掛けても、笑い掛けても、何も応えてくれない。俺を見つめてくれない。そんな彼女の骸を抱き締めた、この日までは。

 ◆

 エンデバーランド中央区。その区内に位置する孤児院も他の建物と同様、無惨に破壊し尽くされていた。その跡地に辿り着いた1台のスパルタンハリケーンが停車し、エンジンの鼓動を止める。

「ここは……」

 深緑の愛車からゆっくりと降りた、第6号機「SPR-06バレットスパルタン」――バイル・エリクソン2等兵は周囲を見渡しながら、かつての「故郷」に足を踏み入れていた。「仮面ライダージャンヌ」のようなスマートな印象を与えるその装甲は赤一色に統一されており、シールドを兼ねている両腕のガントレットには、マルコシアン隊のパーソナルマークである猟犬(ハウンド)のエンブレムが刻まれている。

「……」

 ベルトを操作して仮面をガシャンと開き、素顔を露わにした彼は、その端正な貌に寂寥の感情を滲ませていた。この孤児院で育った彼は10年前にジークフリート()に引き取られて以来、兵士としての訓練を受けて来た。幼少期の思い出が詰まった故郷が、恋人(・・)の生家が破壊し尽くされている光景に、かつての孤児は拳を震わせている。

「やはり……ここに来たのはお前だったか、バイル」
「……!」

 その時――低く重厚な男の声が響いて来る。声が聞こえた方向に振り返ってみれば、そこには「見慣れた背中」があった。食屍鬼(グール)を描いた暗赤色のベレー帽に、シェード仕様の野戦服。その姿を見れば、シェードの戦闘員であることは一目で分かる。

 だが、その野戦服を纏っているのは――ジークフリートと共に自分を引き取り、10年もの時を一緒に過ごして来た、もう1人の「父親」だったのである。筋骨逞しい肉体を持つ、身長210cmはあろうかという大男。その巨漢はゆっくりと振り向き、鋭い眼差しでかつての教え子を射抜く。

「俺とジークフリートが、お前をこの施設から引き取って……もう10年になるか。時の流れは早いものだな。幼く無力だったお前の姿は、今でも昨日のことのように覚えている」

 見間違えるはずもなかった。数ヶ月前に消息を絶ち、行方不明となっていたマルコシアン隊創設メンバーの1人。ジークフリートの同期にして、マルコシアン隊の戦術教官だった陸軍将校。そして、ジークフリートと共にバイルを育て上げた「もう1人の父親」。

 北欧某国陸軍所属、アビス・ランバルツァー大佐。その男こそが、シェード北欧支部精鋭部隊「グールベレー」を率いていた「隊長」だったのである。
 自分達マルコシアン隊を苛烈に鍛え上げていた鬼教官が、シェードに寝返っていた。薄々予感していた中、その現実を改めて目の当たりにしたバイルは、静かに唇を噛み締める。夢であって欲しかった。しかし、これが現実なのである。

「……あまりに迅速で無駄のない侵攻。この街の……この国の軍部の弱点を知り尽くしているかのような攻撃。もしかしたら……とは、薄々思ってたんだ。隊長(ボス)も、皆も……俺も」
「ほう、どうやら最低限の『勘』は働いていたようだな。その落ち着きを見るに、嘘ではないようだ」
「それでも……誰1人、それ(・・)を口にはしなかった。隊長達も、俺も……最後の最後まで、あんたを信じたかったからだ」

 懐から取り出した、亡き恋人の形見であるペンダント。その遺品に視線を落としながら――最後の確認をするかのように、バイルは感情を押し殺して言葉を紡ぐ。そんな彼の様子を神妙に観察しながら、ランバルツァーは丸太のような太い腕を組み、鋭く眼を細めている。

「そうだろうとも。俺も、お前達ならそうだろうと信じていた。だから……この作戦は『上手く行った』のだよ」
「……ッ! ランバルツァー大佐、あんたはどうしてッ……!」
「……お前達もその身で十分思い知っただろう。シェードの改造技術は素晴らしい。この力を我が軍に取り込むことが出来れば、我々の国は真に強き国家へと生まれ変わる。誰も侵略など出来ん、最強の国となるのだ。人間を超えた改造人間……その力の前には、スパルタンシリーズなど足元にも及ばん」
「そのために……これだけのことをしたというのか。人間としての身体どころか、心まで捨てちまったのか。そんなことを言ってる、あんたが……!」

 以前から、ジークフリートとランバルツァーは改造人間の是非について何度も対立していた。あくまでも人間としての矜持に拘るジークフリート。全ては「力」の後に付いて来るのだと譲らないランバルツァー。双方の口論は絶えず続き、隊員同士でもその話題で議論になることがあった。
 その過去を思えば、ランバルツァーがこれほどの暴挙に出ることも、ある程度は予想が付いたのかも知れない。しかしその可能性が脳裏を過っても、それを口にすることは誰にも出来なかったのだ。ジークフリートでさえも、それだけは口に出来なかった。

「破壊と創造は常に表裏一体。俺の信念を理解出来なかったお前達に、俺が伝えたかったものを示すには……『現象』を以て説くより他はないと判断した。そして事実、お前達はここに辿り着くまでに多大な犠牲を払って来た。ヴィルヘルム、エドガー、レオン。お前達に人間を超えた力があれば、奴らが死ぬこともなかったはずだ」
「……ッ!」

 ランバルツァーが隊員達に課していた、苛烈なまでに厳しい訓練の数々。それら全てが祖国に対する深い愛国心があってこそのものであったことを、隊員達も肌で理解していた。そうであるからこそ、これほどまでに歪んでしまった彼の姿に、バイルは無言のまま怒りを露わにしている。

 国を愛するが故に軍人となった男が、祖国に力を齎すためだけに怪物に堕ちる。これほど皮肉なことはないだろう。破壊を伴わなければこの国に未来はない。その結論に至ってしまった師父の言葉に、ペンダントを懐にしまったバイルは鋼鉄の拳を握り締める。

(……大佐。あんた、変わったよ……!)

 最愛の恋人を奪い。仲間達を裏切り。故郷を破壊し。自分から全てを奪い去った、かつての父。そんなランバルツァーを睨み上げるバイルの双眸は、殺意にも似た憤怒の色で満たされていた。

「とはいえ……ここまで大勢生き残っていたのは想定外だった。スパルタンシリーズの性能限界など知り尽くしていたつもりだが……どうやらお前達は俺が居ない間に、そのスーツの性能を限界以上にまで引き出す術を編み出していたようだな」
「……」
「だが……俺が育てた『グールベレー』には勝てん。かつてお前達に課したものよりも、遥かに過酷な訓練を乗り越えた奴らだ。人間の限界を超えた改造人間が、さらに俺の戦闘技術を継承すればどれほどの域に達するか……想像出来んお前達ではなかろう。人間を超えた者だからこそ到達出来る、真に強き兵士……それが今の我々だ」

 シェードに寝返ったランバルツァーが新たに創設したグールベレー。それは、マルコシアン隊の隊員達が経験したものよりも、さらに苛烈な訓練を潜り抜けて来た猛者の集まりなのだ。
 生身の人間では到底耐えられないような訓練でも、改造人間の身体能力なら最後まで付いて行くことが出来る。その訓練の中で獲得した戦闘技能は、人間の集まりに過ぎないマルコシアン隊のそれを遥かに超えているのだ。

 同じ師の元で育った、いわば兄弟のような関係であるマルコシアン隊とグールベレー。しかしそこには、肉体のスペック差という絶大な違いがある。超人的な身体能力という下地を持った上で、同質の訓練を経験しているグールベレーはまさしく、マルコシアン隊の「完全上位互換」なのだ。

 当然、まともに戦えばマルコシアン隊に勝ち目などない。条件が同じであるならば、生身の人間が改造人間に敵うはずがない。しかしその現実を頭で理解していながら、バイルは一歩も退くことなく、鋭い顔付きでランバルツァーと対峙している。

「……『兵士』とは、血の通った人間がその責務を背負うからこそ『兵士』たり得る。人間であることを捨て、ヒトの形をしているだけの『兵器』に成り下がったあんた達に、俺達マルコシアン隊は……絶対に負けない」

 その宣言と共に、ボクシングのファイティングポーズを取るバイル。そんな彼の構えが完成した瞬間、仮面上部と顎部装甲(クラッシャー)がガシャンと閉鎖され、「変身(セタップ)」が完了する。外骨格の各部から噴き出す蒸気が、戦闘開始の狼煙を上げていた。
 例え相手が、自分達の全てを上回っているのだとしても。人間としての誇りという最大の武器を持つ自分達が、改造人間の暴威に屈するわけには行かない。この国を、この国で暮らす人々を想えばこそ、ここで退くわけには行かない。愛した人が願った平和を、取り戻すためにも。

 ――その想いは、別々の場所でグールベレーの隊員達と対峙している、他のスパルタンライダー達も同様であった。彼らは皆、自分の「上位互換」を相手に真っ向から宣戦を布告し、各々の戦いを始めている。

「ふん、それがジークフリートの教えか。奴のそういう無駄な潔癖さが、この事態を招いたということがまだ分からんようだな。……いいだろう、ならば最期の『稽古』を付けてやる。掛かって来るがいい」

 そんな元教え子達の勇姿を前に――ランバルツァーは口元を歪め、獰猛な笑みを浮かべていた。バイルことバレットスパルタンが見せたものと同様のファイティングポーズを取る彼は、真っ向から「愚息」の挑戦に応じようとしている。

「『例え全世界が絶望したとしても、お前達だけは最後まで諦めるな』。……これは、あんたの教えだ」
「……俺は、お前達の教育を誤ったようだ。出来もしないことを教えてしまった」

 マルコシアン隊とグールベレー。命と誇りを賭けた最期の一騎打ちが、始まろうとしていた。
 
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