魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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AXZ編
第195話:猛き炎に支えられて
アダムが周囲にばら撒いたアルカノイズ。雲霞の如く迫るそれらを、颯人を始めとした魔法使いと奏を始めとした装者、そしてアダムとは完全の袂を分かつたサンジェルマン達錬金術師が相手取る。
「おぉぉぉぉっ!」
響の拳が一撃でアルカノイズを粉砕する。最早手慣れた作業の如しだが、彼女は油断なく一撃一撃を相手を見据えて叩き込み、周囲を取り囲まれれば地面を殴りつける衝撃で纏めて粉砕した。
「ハァァッ!」
装者の中でも随一の戦闘経験を持つ翼。彼女は二本の剣を連結させた薙刀に炎を纏わせ、足のブレードをブースターにして地面の上を滑る様に動きながらすれ違いざまに青く燃え盛る刃でアルカノイズを切り裂く。炎と剣技を交えた必殺技『風輪火斬・月煌』は、アルカノイズを焼き払うと同時に切り裂き消滅させた。
「ほっ! はっ! そこッ!」
装者の中で最も遠距離・広範囲への攻撃を得意とするクリスはアームドギアを拳銃に変形させて小回りの利くガンカタで迫るアルカノイズを本来の彼女の得意とするレンジよりも近い至近距離での戦いで仕留めていく。本来接近戦を不得手とする筈の彼女ではあるが、単調な動きしか出来ないアルカノイズが相手であれば何の問題もない。
何より彼女には、傍で共に戦ってくれる魔法使いが居る。透のグロウ=メイジが彼女と背中合わせになり、2人でダンスを踊る様に入れ代わり立ち代わり立ち位置を変えながら両手にそれぞれ持つ刃を振るいアルカノイズを彼女に近付けさせない。
切歌と調、この2人は装者の中でも連携が随一だ。互いを信頼し合う2人は、このパヴァリアを巡る戦いで更に大きく成長した。特に調は、切歌以外とも共に歩む為の一歩を踏み出す勇気を得られた。これからの長い人生、彼女が他者と共に歩む事に勇気を出せるようになった事は大きい。
その勇気を力に変える様に、彼女は切歌とアームドギアを合体させ、全方位を切り裂くアームドギアでアルカノイズを膾切りにしていった。
その戦いの最中、切歌は嘆かずにはいられない。これほどまでに続く戦いと言う理不尽に対して。
「どうしてこんなにも、争いは続くのデスかッ!」
その嘆きに調が一つの答えを示す。
「何時だって争いは、信念と信念のぶつかり合いッ!」
それは1つの真理でもあるだろう。これまで装者達が対峙してきた敵は、その多くが譲れぬ何かを持っていた。フィーネ然り、ウェル博士然り……そしてキャロル然りだ。誰もが例え利己的であろうとも、そこには譲れぬ想いがあった。
唯一未だに彼女達が推し量れていないのは、享楽主義者を思わせるワイズマンだけである。
「正義の選択が、争いの原因とでも言うのかよッ!」
信念と信念のぶつかり合いが戦いの原因であるのなら、心に正義の心を持つことそのものが争いの原因となる。その結論に至ったクリスが堪らず嘆いた。そうであるならば、正義ではなく悪が蔓延る世界の方が正しい事になってしまう。そう、ワイズマンの様な邪悪な人間こそが正しいと。
しかし翼はそれに否と答えた。
「安易な答えに、歩みを止めたくはないッ!」
それが人間と言うものだ。人間は……否、生命は常に道を探し続け歩みを止めない。原初から続く生命の持つ力。例え弱くとも歩み続ける意志があれば、必ず道は開けると彼女は信じていた。
いや、今も信じている。何しろ彼女達はたった今、その道を探し歩み続けた結果奇跡を手にした者達をその目で見たばかりなのだから。
「そうだッ! 人は誰しも迷う。だがそれに甘んじて停滞を許せば、待っているのは支配され搾取された末の滅びのみッ!」
「そんなの真っ平御免よッ!」
「例え意見が食い違ったとしても、何処かで必ず道は交わるワケダッ!」
サンジェルマン達は正に戦い続けてきた者達だろう。やり方を、道を違えはした。それが原因で颯人達と争う事にもなったが、しかし悩み苦しみながらも歩み続けた末に互いに手を取り合う道を見つける事が出来た。それもまた一つの奇跡であり、そして革命だと言えるだろう。
「だからこそッ!」
「アイツらみたいに、俺達も可能性を信じるんだッ!」
マリアとガルドが、大型のノイズに向け砲撃を放つ。その余波が周囲のアルカノイズを纏めて吹き飛ばし、アダムに向かう為の道が出来た。
その道を、颯人と奏の2人が突き進む。眼前に迫った彼らに向け、アダムは錬金術の火球を放った。
「図に乗るなッ! バラルの呪詛で、心に互いを分かり合えないお前達如きがッ! お前のような人間がッ!」
「関係ないなッ! バラルの呪詛がどうとか、そんなこと知ったこっちゃないッ!」
アダムが放った火球は全て颯人に命中したが、彼は毛ほどのダメージも受けていない。レギオンファントムの攻撃すら完全に防ぎ切った今のウィザードの鎧を前には、黄金錬成が相手であってもどれ程のダメージとなるか。
実際どうなるかは試してみなければ分からないが、しかしアダムにその余裕は与えられなかった。
迫る颯人のアックスカリバーの刃が振り下ろされる。アックスモードの一撃がアダムに迫るが、彼はそれを流れるような動きで回避してしまった。如何に防御力が桁外れになろうとも、動きそのものが大きく変わる訳ではない。特に、どうしても動きが大振りになってしまうアックスモードでは、だ。
だから颯人は、最初の一撃が回避された直後にその勢いを利用しながらアックスカリバーをカリバーモードに持ち替える。
〈ターンオフ!〉
先程に比べて遥かに早く鋭くなった一撃がアダムに迫る。今度はアダムも軽やかに回避とはいかなかったのか、錬金術で目くらましにしかならない攻撃を放ちながら距離を取ろうとした。
そこに今度は奏が飛び掛かる。羽織ったマントを羽搏く翼の様に靡かせながら、変形したアームドギアをアダムに突き立てようと刺突を放つ。
「オラァッ!」
「チッ、エクスドライブでもないそんなものでッ!」
本気を出すことにした今のアダムにとって、最大限の脅威はやはりエクスドライブのシンフォギアであった。颯人のインフィニティーもそれに並ぶが、奇跡の結晶と言っても過言ではないエクスドライブの力は彼であっても侮れない。
だがこの状況ではそれも気にするほどの事はない。何しろ今この場には、エクスドライブを発動できるだけのフォニックゲインが無いのだから。
「奇跡を纏えるだけのフォニックゲインがないこの状況で、シンフォギア風情に何が出来るッ!」
アダムが錬金術を放ち牽制しながら奏に接近し、一瞬の隙を突いてアームドギアを蹴り上げた。そして無防備になった奏の腹に、彼はその体を穿つほどの威力を乗せた蹴りを容赦なく放つ。
「まずは、1人ッ!」
「奏さんッ!?」
このままでは奏の腹が文字通りアダムの足に蹴破られる。それを危惧した響がそうはさせじと拳を握り締めアダムに迫るが、絶望的なまでに距離が開いた今ではそこまで手が届かない。例え足のジャッキと腰のブースターを起動しても無理だろう。
そのまま何も出来ぬままに奏がアダムにやられるのを見ているしか出来ないのか……そう思った矢先、響はある事に気付いた。
颯人がアダムの妨害をしないのである。彼女を第一に思う彼であれば、この状況で奏を助ける為に動かない筈がないのに、だ。
彼女が抱いた疑問への答えは程なくして示された。響が見ている前でアダムの足が奏の腹に突き刺さるかに思われたその時、アダムの足が奏に触れた瞬間、彼女の体は炎となって散り素早くアダムの背後へと移動していたのだ。
「何ッ!?」
「フンッ!」
「ぐぉっ!?」
まさかの事態にアダムが一瞬言葉を失う、その間に奏が振り抜いたアームドギアの一撃がアダムを殴り飛ばした。
それだけでは終わらず、そこから再び体を炎に変えた奏は殴り飛ばされたアダムに先回りし、お返しとばかりに蹴り飛ばす。流石に今度は反応が間に合ったのか、アダムも防御してダメージを最小限に留めつつ彼女から距離を取った。
「ととっ、流石にそう何度も上手くはいかないか」
「いや? 初めてにしちゃなかなか上手く扱えてると思うぜ?」
二撃目がアダムに防がれた事に不満を口にする奏を颯人がフォローする。それを見ていた響は、急いで2人に近付き何が起きたのかを訊ねた。
「ちょ、颯人さん奏さんッ! 今の何ですかッ!」
「これがアタシの新しい力の一つって事さ」
今奏がやった事は、颯人のウィザードがウォータースタイルの時のみ使えるリキッドの炎バージョンとも言うべきものである。本来この肉体を掴む事の出来ない物へと変える事はかなりの魔力を消耗するので、普段のウィザードギアであろうとも出来る事では無い。
だがブレイブとなった今のウィザードギアであれば話は別だった。この姿の奏にはある秘密があったのだ。
「今、奏と俺はかなり深い所で繋がってるみたいな感じでな」
「深い所?」
「簡単に言えば、俺の魔力がそっくりそのまま奏にも流れてるって訳だ」
今までのウィザードギアであれば、奏が使えるのは颯人が意図的に彼女に流すか普段何もしなくても勝手に彼女に流れ込む魔力のおこぼれ程度でしかない。それでも数分の戦闘を支えるのには十分な量ではあるが、それでも強敵との戦いではどうしても制限が付いて回る。
対してブレイブとなったウィザードギアは、見えないバイパスで颯人と奏が魔力を共有しているのに近い状況となっていたのだ。そして颯人は、魔力を回収して還元・ほぼ制限なしで魔力を使う事が出来る。
つまり何が言いたいかと言うと、颯人がインフィニティースタイルを使用している時限定ではあるが、奏もまた魔力の制限なしに全力で魔法を使えるようになったのである。そのお陰で本来であれば魔力消費が大きく使う事の出来ない体の炎化による驚異的な再生と瞬間移動も可能となったのだ。
「まさか……そんな事が……!?」
状況を理解したアダムも思わず唸る。颯人は死の運命を乗り越えただけでなく、奏限定ではあるが驚異的な力を分け与える事が出来るようになったのだ。
状況は完全に颯人達に傾いた。それを察してか響も力強い目でアダムを見やる。
「アダムさん、まだやるんですかッ!」
正直に言って、今のアダムには最早勝ち目が見られなかった。颯人には一切の攻撃が通じず、奏はそれに準ずる力を持つ。そして周囲のアルカノイズは着実に数を減らし、本来彼の仲間であったサンジェルマン達も寝返っている。
普通に考えれば詰みの状況。だがもう何も失うものが無くなったアダムは、ここで諦める事を良しとしなかった。
「やるか、だと? 神殺し? まだやるかと言ったのか? 人間風情が……!?」
アダムにとっては虚仮にされたも同然の言葉だった。完全である筈の自分が、不完全な人間風情に降伏を迫られているのが彼には我慢ならなかった。
アダムの目が怪しく光ると、突如として失われていた左腕の切断面から新たな腕が伸びる。だがそれは、最早人の腕の形をしてはいなかった。
「えっ!?」
「うぇ、何だあれ?」
まるで肉塊を無理矢理腕の形にしたような左腕を見て、響と奏が生理的嫌悪に思わず後退る。一方颯人はそれを見ると、仮面の奥で溜め息を吐きながら目をクルリと回した。
「あ~ぁ~、ったく。ラスボスは第2形態あり、なんてお約束要らねえっての」
「そう言ってくれるなよ、僕も限界なんだ。力を失っているからね。保てなくなっているんだよ、僕は…………僕の完成された美形をッ!」
次の瞬間、アダムは来ている衣服を吹き飛ばし、その姿を完全に異形の怪物へと変化させた。肉体は人間のそれとかけ離れた筋骨隆々としたものとなるが、その肌色は腐った肉の様などす黒いものへと変化し、多くの女性が振り向くだろう美形の顔も華の様に開く異形の嘴と多数の眼球を持つ複眼、そして牡牛の様な角を持つ頭部へと変化した。
「見られたくなかった……あの男の血族には特に……見せたくなかった、こんな姿を……! だけどもう頭に角を頂くしかないじゃないかッ! 僕も同じさ負けられないのはッッ!!」
アダムの感情の爆発を表すかのように凄まじいエネルギーが放たれる。暴力的なエネルギーの波動を颯人は持ち前の防御力を活かして奏と響を守り耐えたが、周囲に残るアルカノイズはそれに耐えきれず消し飛んでいった。
「ッ、くぅ~、大分頭に血が上ってんな。怒髪天を衝くってのはこの事か」
「んな暢気な事言ってる場合かっての」
「人の姿を捨て去ってまで……そんなに憎いんですか、颯人さんが、その家族がッ!」
「あぁ、憎いともッ! もう全てがどうでもいい。だがあの男は、あの男の血族だけはどうしても許せないッ! 端末と作られた猿風情が、僕を侮辱するなんてッ!」
その言葉と共にアダムは目にも留まらぬ速さで動くと、一瞬で輝彦の前まで近付き彼を殴り飛ばした。
「な、ぐぉっ!?」
「輝彦ッ!?」
まず真っ先に輝彦を狙う辺りに、アダムがどれ程明星家を憎んでいるかが分かると言うもの。彼は知っていたのだ、輝彦が戦闘に置いて大きく制限を掛けられている事を。
殴り飛ばされる輝彦の姿に、サンジェルマンが彼をフォローすべく動く。だがその時にはアダムは既に標的を別の者に変え行動に移っていた。
次に狙われたのは翼であった。
「あっ!? くっ!」
輝彦が一撃でやられた光景に唖然としていた彼女ではあったが、それでも彼女はギリギリのところで反応が間に合った。振るわれる拳を大剣に変形させたアームドギアで防ぐ。が、見た目に違わぬ膂力は容易く彼女の防御を崩し、がら空きとなった胴体に頭部の逞しい角を使った刺突が襲い掛かる。
「あぐっ!?」
幸いな事に腹に風穴があくという事は無かったが、それでも杭打機を腹に叩き込まれたかのような一撃は翼をしばらく動けなくさせるだけの威力を持っていた。
その巨体に似合わぬスピードを目にして、調と切歌は行動に迷った。
「巨体に似合わないスピードでッ!?」
その時突然2人の背後でアンティークな電話が着信音を鳴らした。こんな瓦礫の山と化した場所に小綺麗な電話機が置かれているというシュールな光景に2人の意識もそちらへと向いてしまう。
「何でこんな所に電話がッ!」
「ッ! 逃げろ、罠だッ!」
ガルドの警告も空しく、電話機に気を取られている2人をアダムが纏めて殴り飛ばした。単純なパワーとスピードだけでなく、人間の姿を保っていた時から持っている狡猾さも用いて戦ってくる。その厄介さを目の当たりにしつつ、切歌と調を不意打ちで無力化したアダムにガルドとマリア、そしてクリスは怒りを露にした。
「クソッタレッ!」
クリスのガトリングが火を噴き、放たれる銃弾をアダムガ両腕で防御する。弾幕を前に釘付けにされているアダムの姿を、好機と見たマリアとガルドが背後から襲い掛かった。
「汚い手を使ってッ!」
「よくもッ!」
槍と短剣をアダムの背に振り下ろそうとした2人だったが、アダムの複眼は背後から飛び掛かってくる2人の姿も捉えていた。アダムはガルドを尻尾で地面に押し潰す様に叩き付けると、そのまま尻尾をマリアに巻き付け締め付けながらクリスに向けて放り投げた。
「グハッ?!」
「あ、うぐぅっ!? あぁぁぁぁぁっ!?」
「うっ!?」
マリアを投げつけられたクリスは彼女を何とか支えるが、そのせいでクリス本人は動けなくなってしまう。動けないクリスはただの的となり、アダムは彼女に渾身の一撃を叩き込もうと殴り掛かる。
「くっ!?」
「ッ!!」
〈イエスッ! アーマースペシャルッ! アンダスタンドゥ?〉
それを黙って見ている透ではなく、彼は自身の中の魔力を全力で駆使するアーマードメイジとなりアダムの攻撃を受け止める。颯人のインフィニティースタイルには及ばないながらも高い防御力を持つこの姿なら、クリスを守る事くらいは出来ると踏んだのだ。
彼の読みは正しく、多少足が地面にめり込みはしたがそれでもアダムの拳を防ぎきる事は出来た。その事に彼が束の間安堵したその時、アダムの嘴が開き炎が集まると火球となって吐き出され透の背後にいたクリスとマリアを纏めて吹き飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ッ!?」
「いけないね、余所見をしちゃ」
背後でクリスとマリアが吹き飛ばされた事に意識を持っていかれた透を、アダムは最初に殴ったのとは逆の手で殴り飛ばした。如何に防御力に優れるアーマードメイジであろうとも、意識が別の方を向いていては意味がない。あえなく彼もまたアダムの手により殴り飛ばされてしまった。
「これで残るは、君らだけか……」
邪魔者は全て消したと言わんばかりにアダムが颯人達の事を見る。その視線に思わず慄いた響が身構えたその時、アダムにサンジェルマン達が挑みかかった。
「私達を忘れてもらってはッ!」
「困るのよねッ!」
「コイツを喰らうワケダッ!」
手始めにプレラーティが巨大な鉄球をアダムに叩き付ける。ちょっとした建物程度なら一撃でペシャンコに潰すだろうその攻撃を、アダムはあろうことか片手で防いでしまった。
「んなっ!?」
防がれる事は予想していたが、それがまさか片手だという事に衝撃を受けたプレラーティ。アダムはそんな彼女を逆に振り回して地面に叩き付けると、倒れた彼女を踏みつけながらけん玉の形をしたスペルキャスターを奪い取った。
「あぐ、ぐぁぁっ!?」
「もう君達に必要ないだろう、これは」
「何する気よアンタッ!」
プレラーティからスペルキャスターを奪ったアダムが何かをする前にと飛び掛かるカリオストロ。しかし飛び掛かって来た彼女が次々と繰り出す連撃を、アダムは巨体に似合わぬ速度で追随し殴り合い、逆に彼女を圧倒した。
「くっ!? この、不細工なツラしてッ!」
「分からないだろうねぇ、君にはさぁッ!」
「うあぁぁぁっ!?」
遂に打ち負けたカリオストロが殴り飛ばされ、地面に叩き付けられる。そしてアダムは、叩き付けたカリオストロの手からもスペルキャスターをもぎ取った。
「残るは、君だけか」
「よくも2人をッ!」
サンジェルマンは倒された仲間2人の健闘を無駄にしない為、銃撃でアダムに対抗する。これまでの戦いを見る限り、アダムが得意としているのは接近戦だ。ならば遠距離からの攻撃でならまだ打つ手はあると考え、遠距離から強烈な錬金術による銃撃を叩き込む。
だが今のアダムに隙は無い。何とアダムはサンジェルマンが放った牙を剥いた狼の様な銃弾を口で吸いこむと、それを逆に吐き出して彼女にお見舞いしたのだ。
「そんなっ!? あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
自身の渾身の一撃がそんな形で返されるとは思っていなかった為、サンジェルマンは防御も間に合わず吹き飛ばされる。そしてアダムは、吹き飛ばされた際の彼女の手から離れたスペルキャスターを取るとそれを先の2人の分と纏めて握り潰した。
「あっ!?」
「これは元々僕が君達に与えた力だ。返してもらうよ……あの男を始末する為にねッ!」
アダムは握り潰してスペルキャスターから抽出したファウストローブを形成する為のエネルギーを自身の攻撃に乗せて颯人達に放った。サンジェルマン達3人分のファウストローブを形成する為のエネルギーは想像を絶する威力を誇り、砲撃が通り過ぎた場所はその熱量に溶解していた。
「させるかよッ!」
こんなのを下手に避ければ逆に被害が大きくなる。颯人は自身の鎧の防御力を信じて、アダムの必殺の砲撃を受け止めた。あらゆる攻撃を防ぐアダマントストーンの鎧は、ファウストローブを形成する為のエネルギーすらも防いだ。
「大したものだ、その鎧……ならば耐久試験と行こうじゃないか! 何処まで耐えられるかな、この負荷に……!」
アダムはまだまだ余裕で砲撃が出来そうな様子だ。ファウストローブ3つ分のエネルギーを使っているのだから当然か。対する颯人もまだ余裕を残してはいるが、まだ手にしたばかりの力で何処まで持ち堪えられるかは彼自身にも分からない。
そんな時、響が動いた。彼女は颯人の前に出ると、アダムの砲撃を両手で受け止めたのだ。
「だったら私が、これを無力化してみせますッ!」
「響ちゃんッ!」
「何をッ!」
一体彼女が何を考えているのか分からなかった颯人達だが、次に響の口から出た旋律に思わず目を見開く。
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl」
「これは、絶唱かッ!」
「まさか響、S2CAをッ!」
響はエネルギーの調律を行えるS2CAを応用し、アダムの放った砲撃のエネルギーを無力化しようというのだ。それに気付いた翼達他の装者も次々と彼女に取りつき、彼女を支えて砲撃の無力化を図った。
「S2CAヘキサコンバージョンをッ!」
「応用するってんならッ!」
響の背中にマリアが手を添え、アガートラームが形状を変化させる。アガートラームが響のガングニールにより調律されたエネルギーを、他の装者達に再分配していく。
だがこれには大きな問題があった。
『無茶だッ!? フォニックゲイン由来のエネルギーじゃないんだぞッ!?』
『皆止めなさいッ!? そんな事をすればギアが耐えられなくなって、爆発してしまうわッ!?』
朔也と了子が響達を止めようとする。先の魔法少女事変でも響達はキャロルが放った全力の砲撃を同じようにして受け止めたが、あれはキャロルがフォニックゲインを利用した絶唱に匹敵するエネルギーの攻撃だったから出来た事。ファウストローブを形成する為のエネルギーはフォニックゲインとはまた別ものなので、ギアが負荷に耐えきれる保証はどこにもない。
それこそ、奇跡でも起こらなければ…………
「だったら俺達に任せろッ! 奏ッ!」
「あぁッ!」
「えっ? 2人共、何を……?」
颯人と奏は手を繋ぐと、アダムの砲撃を受け止めている響達の最後尾に立った。そして頷き合うと、奏は指輪を嵌めた手を颯人のハンドオーサーに翳した。
〈ブレイブ!〉
奏の魔法が、颯人の魔力を消費して発動する。すると2人の背から炎の翼が飛び出たかと思えば、その翼が装者達を優しく包んだ。
「こ、これは……!」
「炎の翼?」
「でも、熱くない」
「むしろ、温かくてホッとするデス」
見た目は燃え盛る炎で出来た翼なのに、熱さを感じないどころか寧ろ優しく抱きしめられているような温かさと安心感を感じる。それだけでなく、絶唱と砲撃の威力を受け止めることで感じている筈の負荷すら感じなくなっていった。それは気のせいなどではなく、全ては颯人と奏による奇跡であった。
「アタシの魔法で、皆の負荷を軽減するッ!」
「魔力は全部、俺が賄ってやるッ! 安心しろ、使った魔力は全部また還元するッ!」
「だから響、迷うことなく全力でやれッ!」
「はいッ!」
これは颯人と奏だからこそできる芸当だった。ウィザードギアブレイブの最大の強みは、自身の肉体の炎化による攻撃の無力化、そして炎を介しての他者の補助であった。ちょうど、命の灯に炎を分け与えるように、奏の歌を力とした命の炎を魔力として仲間達に分け与え負担を軽減させているのだ。そしてその魔力は颯人が捻出し、使用された魔力はそのまま颯人自身へと返っていく。
正に永久機関。この8人が揃えば、あらゆるエネルギーによる攻撃は調律され無力化されていく。
それが結実したものが今形となる。
「程がある、悪足掻きに……!」
恐ろしい事にアダムがラピスの魔力を使って放った砲撃は、その威力を完全に無力化されるどころかエネルギーが装者全員に分配されてしまった。このままではマズイとアダムが巨大な火球を生み出し、それをまだその場に纏まってとどまっている颯人達へと向け投げつける。
「あれは、マズイぞッ!?」
黄金錬成にも匹敵する熱量の火球が放たれたのを見て、ガルド達により助け起こされていたサンジェルマンが焦りの声を上げる。だが彼女が声を発したと同時に、火球は彼らに炸裂し周囲が火の海に包まれた。
間に合わなかった……恐らくあの場で無事なのは、颯人と奏の2人だけだろうと誰もが絶望しかけた。
その時、炎のドームの中から8つの影が飛び出した。
「何ッ!?」
それは颯人と奏、そしてクリスが放ったミサイルに乗った6人の装者達であった。常識外れの防御力を持つ颯人と、炎による自己再生を無力化が行える奏のみならず、装者達の誰にも傷一つない。それどころか、彼女達のギアは先程と明らかに形状が変化していた。だがそれはエクスドライブとも、イグナイトとも別の形状であった。
「それは……!」
アダムが見ている前で、翼とマリアが剣を手にミサイルから飛び降りる。
「生意気にッ! 人類如きがぁッ!」
アダムは両手を伸ばして2人に掴み掛るが、2人は伸ばされた手を剣で切り払いすれ違いざまに切断してしまった。その威力はどう考えても先程のギアのそれを超えていた。それが何を意味しているのか、本部でモニターしている了子は直ぐに気付いた。
『出力が上がっている? まさか、リビルドされた? アダムが放ったファウストローブを形成するエネルギー、それに加えて颯人君と奏ちゃんの魔法のバックアップを受けて、急激な変化を遂げたの?』
『ですがそれだと、ギアの出力の変化にギアと皆さんの体が持ちませんッ!』
『いえ、奏さんの魔法と颯人の魔力が皆を支えれば、これも不可能ではないでしょう』
本部で技術班と言える了子・エルフナイン・アリスの議論が交わされる。それは概ね的を射ており、本来であればギアが軋むほどの負荷を受けている筈の装者達は驚くほど軽やかに動けていた。
「この土壇場で、こんな奇跡がッ!?」
あまりにも理不尽と言える奇跡の連続に吠えるアダムの体を、調のアームドギアのヨーヨーが縛り切歌の回転鋸の様になった大鎌の刃が切り裂く。
「これなら全力で戦えるッ!」
「この機を逃す訳にはいかないデスッ!」
動けないアダムが状況打開の為周囲を見渡す。その彼の目に飛び込んできたのは、さらに大型のミサイルを形成したクリスであった。
「エクスドライブじゃなくてもッ!」
最早ロケットと見紛う程の大型ミサイル。切歌と調はそのミサイルの爆発に巻き込まれないようにと距離を取り、その直後炸裂したミサイルがアダムをまだ無事なドームの壁面に叩き付け大きな爆発を起こした。
その爆炎の中へ、響が拳を握り突っ込んでいく。ガントレットはドリルの様に回転し、アダムの強固な肉体を穿つべく突撃する。
「おぉぉぉぉっ!」
「クソガァァァッ!」
迫る響をアダムが嘴を開けて放つ火炎で迎え撃つ。強化されたシンフォギアの一撃は、アダムが放つ炎をもかき分けて突き進み抉り込む様にしてその身に叩き込まれる。
「うぐぉぉぉっ!?」
「颯人さん、奏さんッ!」
立て続けにアダムにダメージを与えた響は、ここで颯人と奏に合図を送った。今2人は、響達装者の負担を軽減する為に力を使っている。だが本来今この場で最大の力を持つのは彼ら2人なのだ。リビルドされた事で出力は大幅に増大したが、しかしそれもエクスドライブには及ばない。
アダム程の者を確実に倒す為には、やはり彼らの力が必要だった。
「よっしゃ、任せなッ!」
「ダァァァァァッ!」
響の合図に奏は仲間の装者達への支援を切り、残りの魔力を自分と颯人に全て還元させた。全力で戦えるようになった2人は、一目散にアダムへと突っ込んでいく。自身に向かってくる2人の姿、取り分け颯人の姿を見てアダムは激昂し開いた口から光線を放った。
「近付くんじゃないよ、あの男の子孫がッ!」
当たればあらゆるものを木端微塵に吹き飛ばすだろうその光線。しかし颯人の鎧には意味を為さず、光線は弾かれるように散り散りになり霧散した。
「起こせばいいってもんじゃないぞ奇跡はッ!」
「それが俺の得意技でねッ!」
〈インフィニティー!〉
目にも留まらぬ速さで動き回る颯人に、アダムはついていく事が出来ない。アダムの素早さは飽く迄も身体能力に由来する素早さ。時間そのものを操作しての、颯人の高速移動にはついていく事が出来ない。
軌跡だけを残して動き回る颯人により、アダムの体が切り刻まれていく。それをアダムは、体の隙間からエネルギーを放出することで対抗した。
「否定させるものか、この僕を誰にも……お前には絶対にッ!」
「ふざけんな! 颯人が何時お前を否定したッ!」
「何をッ!」
エネルギーの放出で周囲が火の海に包まれる中、奏が炎に変えていた体を実体に戻してアダムに斬りかかる。振り下ろされた槍をアダムは受け止め、お返しに殴り返すが奏は再び体を炎に変えて攻撃を無力化。そしてアダムの死角に回り込むと、回転させた槍から無数の火炎弾をアダムに向けて放った。
「うぐ、おぉぉっ!」
「俺が言ったのは、飽く迄もお前も完璧じゃないって事だけだ。お前の存在自身を否定しちゃいねえんだよ」
「黙れッ!? 僕は完全で完璧なんだッ!? それを否定するって事は、僕自身を否定するに等しいッ!!」
「現実を見ろよッ!」
〈ターンオン!〉
飽く迄も自分は完全であるという前提の下、感情のままに力を振るうアダム。しかしその姿は完全からは程遠く、そもそも完全というある意味に置いた今居な基準が明確でない今颯人にはどうしてもアダムが彼自身の言う完全な存在とは思えなかったのだ。
その想いをアックスモードにしたアックスカリバーに乗せて叩き込む。
「完璧って何だ? 完全って何だよッ! お前を作ったカストディアンとやらも、お前を失敗作と判断した時点で不完全ろうがッ!」
「なっ!?」
「この世に完全なんてないッ! だからアタシ達は、こうして手を取り合って生きてるんだッ!」
「皆互いに誰かを、何かを支えてるッ! 世界ってのはな、完全であっちゃいけないんだよッ!」
蝶の羽搏きが何かを引き起こす様に、世に存在する万物は絶えず何かに影響を与えている。だからこそ颯人と奏は互いを愛する事が出来るのだ。そして彼らは、お互いを愛する事が出来るこの世界そのものも愛している。故に、完全など彼らにとって不要な言葉であった。
「だったら……だったら僕は何の為に生まれたんだッ!?」
颯人と奏の言葉に、アダムは自身の存在意義を失い絶叫しながら残りの全エネルギーを懸けての砲撃を口から放つ。その威力はディバインウェポンが衛星を吹き飛ばした威力にも相当した。
それを見て颯人と奏は同時に魔法を発動した。
〈〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉〉
「生まれた事じゃなくて、生きることに意味を持たせろよッ!」
「生きる事を諦めないってのは、そう言う事だろうがッ!」
颯人と奏の魔力を集束させた蹴りが、アダムの攻撃を正面から受け止める。最初は拮抗していた両者の攻撃だったが、次第にアダムの砲撃の威力が衰えたのかそれとも颯人達の攻撃の威力が上がったのか、徐々に2人の蹴りが砲撃を押し戻し遂には打ち破ってアダムの胸板へと直撃した。
「うぐっ!?」
「「ハァァァァァァァァッ!!」」
「うぐぉぉぉぉぉっ!?」
颯人と奏の蹴りの威力はアダムに直撃しただけでは終わらず、彼の巨体をそのままドームの外へと押し出した。壁を粉砕し、他の建物も突き破りながら進み地面に叩き付けた所でその勢いも止まる。
そして次の瞬間、大きな爆発が起こった。空にも立ち上る程の大きな火柱を見て、響達が現場へと駆け付ける。
そこで彼女達が見たのは、倒れ伏したアダムの喉元にカリバーモードのアックスカリバーの切っ先を突き付ける颯人の姿。
それは正しく、この戦いの決着を意味する光景であった。
後書き
と言う訳で第195話でした。
ウィザードギアブレイブの能力は、ビルドでいう所のフェニックスロボに近い体を炎に変えての瞬間移動と癒しの炎による仲間のサポートです。ハリポタとかでフェニックスがハリーを助けたりしてたのがあるので、それをモチーフにしています。加えて奏自身の歌で人々に希望を与えるというあり方が魔法で形になった感じですね。
次回で遂にAXZ編も終わりを迎えられそうです。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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