| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

冥王来訪

作者:雄渾
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三部 1979年
孤独な戦い
  匪賊狩り その3

 
前書き
 以前読者希望であった、マサキを戦術機に乗せたらという話を基に作りました。
  

 
 コロンボにあるカトゥナーヤカ空軍基地。
滑走路には、整備員を始めとして大勢の軍人が待機している。
 マサキの護衛を務める白銀は、身に纏う77式強化装備の最終確認をしていた。
「中々似合う。うむ……」
御剣から渡された機密兜の顎ひもを締めながら、彼の話を聞いていた。
「木原は天才科学者だ、わがままで怖いもの知らずだ。
日本政府の信任も厚い。加えて世界一の戦術機ゼオライマーを持っている。
この男のバックアップなくして、BETA戦争の貫徹も難しい……
といっても、下手(したで)に出たくはない。
私も武家としての誇りがある」
 強化装備の上から、航空機パイロットの着るSRU-21/P サバイバル ベストを付ける。
 なぜ、そんな装備を付けるのであろうか。
今回の作戦は、空を飛ぶ戦術機からの落下傘降下で、相手の意表を突く作戦のためである。
「人間としては好きではないが、失うには惜しい人材だ。
白銀……木原を守ってくれ」
「力の及ぶ、限りは!」
 既に、エンジンの温めてあるF-4戦術機。
それは、出撃を今か今かとばかりに待ち望んでいるようであった。
 白銀は、押っ取り刀で、格納庫の方に走り込む。
マサキは、機体前面にある管制ユニットの入り口に立ちながら、 
「早く乗れ」
 マサキは、さすがにゼオライマーのパイロットだけあって、乗りなれない戦術機の操縦席に座ることに抵抗はなかった。
あれこれ準備している白銀の姿を見ると、むしろ笑って言った。
「何をしている!怖かったら乗らなくていいぞ。
乗らなければ、俺の護衛も出来ないだろう、フハハハハ」
「落下傘がいると思って準備させていたんです」
 白銀が持ってきたのは、落下傘だった。
米軍が、人員降下作戦に使用するRA-1型パラシュートハーネスシステムであった。 
 するとマサキは、一笑のもとに、
「フハハハハ、俺はそんなものを一度も使ったことがない!
自分が作ったマシンにはそれなり信用をしているからな。ハハハハハ」
 白銀が後部座席に移ると、管制ユニットのハッチを閉める。
「エンジン始動!」
 右側に跳躍ユニットにあるエンジンからエアを送り、エンジン回転数をあげる。
ファントムはその機体特性として、左右のエンジン始動を時間差で行なう必要があった。
理由は、点火ボタンがスロットルグリップの後方にあり、両エンジンの点火ボタンを同時に押すことが難しいためであった。
車輪止め(チョーク)はずせ!」
 その言葉と共に、機体の足元にあった車輪止めと呼ばれる固定装置が外される。
まもなくエンジンの回転数が10パーセントになると、スロットルレバーを低速運転(アイドル)位置に前進させて点火装置(イグニッション)を押す。
 エンジンの回転数が40パーセントになったところで、スロットルをアイドルに前進させ、燃料をエンジンに送り込み、ノズルから豪快に炎が出た。
跳躍ユニットから甲高いジェットの排気音を立てながら、滑走路を突っ切っていく。


 複座に改造されたF-4ファントムは、高度100メートルの匍匐飛行で、スリランカ北部に接近した。
迎撃してきた敵の戦術機・サーブ35を認めると、WS-16A突撃砲で応戦する。
「博士、脱出準備をして下さいッ、飛び出しますッ」
 その声を聴いたマサキは、意外だという顔だった。
国籍表示のない深緑の三機編隊による追撃を受けて、自動操縦に切り替えようとしたところであった。
「バカな、F‐5の偽物など、訳なく撃墜して見せるさ」
 マサキには、勝つ自信があった。
簡易版とはいえ、運転支援システムとして、人工知能を搭載しており、操縦が簡素化していた。
 素人でも乗れるようにと、自動変速機付(オートマチックトランスミッション)の乗用車並みの操作性を実現。
一度離陸さえすれば、フットペダルとスロットルで目的地まで難なく行けるように改造されていた。
「誰が、脱出するものか!」
 その時、サバイバルベストに装着していたM10リボルバーを取り出す。
計器に向けて、一斉に射撃を始めた。
「わァ、何をする!」
 マサキは座席にあるシートベルトを締め、操縦桿を引き、機体を水平の位置に持って行く。
機体が水平であればあるほど、低高度での脱出が有利になるからだ。
 左手側にあるコンソールパネルを開けると、その中にある脱出装置のボタンを強打した。
その瞬間、被っていた機密兜ごと頭部全体が固定された。
 頭部全体が固定されたのは、衛士を強力なGから守るためである。
戦術機が登場する前のジェット戦闘機まで、操縦士が被っていたのは単純なヘルメットであった。
 だが戦術機では、ヘルメット自体が頭部装着投影機(ヘッド・マウント・ディスプレイ)となり、形状の複雑化や重量増に繋がった。
 その為、従来のヘルメットよりも射出される際に、頭部や首、頚椎への負担が大きくなる。
その事から、射出時に座席が強制的に衛士の頭部を固定するというシステムが採用された。
 また頭部のみならず、新規開発されたロケットモーターや姿勢制御の高精度化により、負傷の危険性も低減された。
その進化は、BETA戦争での戦訓によるところが大きい。
「脱出して生き残れればよい」ものから、「脱出しても戦線復帰できる」ものが求められた為である。 

 背面にある完成ユニット脱出用のカバーが、内部にある爆薬で吹き飛ばされる。
 ロケットモーターが点火し、管制ユニットがモジュールごと空中に射出された。 
間もなく、内蔵されている落下傘が自動展開すると、地表に向かってゆっくり降下していった。
「馬鹿野郎!」
 制御を失ったF-4ファントムは敵機の機関砲で、機体を損傷されるもミサイルで応戦した。
管制ユニットの制御を失った際に対応できるよう、電子機器搭載のミサイルを装備していた為であった。
 ファントムは黒煙を吐きながら、地表に落下していくも、敵機はミサイルによって全滅した。
管制ユニットのない戦術機から、攻撃を受けることはない、と油断したためであった。


 落下傘降下したマサキたちは、強化装備を脱ぎ捨てると、用意した深緑色の野戦服をまとう。
グレネードランチャーを装着したM16小銃と、日本刀や手投げ弾といっためいめいの武器を持つ。
モジュールから脱出し、暮夜密かに基地に侵入した。
 マサキには、不安で仕方なかった。
いくら、M203擲弾筒付きの最新のM16A2自動小銃でも、数百名が潜む基地に乗り込むのは自殺行為。
 弾薬はそれぞれ20連マガジン15本で、300発と、グレネードが6発。
リボルバーは、予備のスピードローダー二つで18発に、手投げ弾6つ。
 白銀は、そのほかに鞘袋に入れた軍刀を背負ってはいるが、不安はぬぐえなかった。
「どうするのだ……」 
「切り込みます」
「何!」
「上杉謙信公は、かつて、こう申されました。
死中(しちゅう)(せい)あり、生中(せいちゅう)(せい)なし』」
 敵地に潜入するからは、覚悟のまえだった。
この()になって、もがくこともない。
 精一杯、この一瞬を生き残る。
白銀の悲壮なまでの決意に、マサキは圧倒されるばかりだった。
「日本人に、帝国軍人にのみ、出来る戦い方です」
 そう言って、背中にある軍刀のひもを解く。
鞘ごと握って、マサキの目の前に突き出した。
「だから、これを持ってきたんです」
 そう言い残すと、軍刀を背負い、駆けだしていった。
基地へ近づくや、立ちどころに歩哨を斬り捨て、無言で、陣中へ入った。
 軍刀をふりかぶったまま、血けむりの中へ消えこむように駆けてゆく。
その姿を後ろで見ていたマサキは、白銀の猪武者ぶりに、呆れる事しかできなかった。


 不意の襲撃に、寝耳に水の愕きを受け、ジャハナにある敵基地は、上を下へと、混乱を極めていた。
暗さは暗し、「イーラムの虎」の戦闘員は、右往左往、到る所で、同士討ちばかり演じた。
 白銀は、思う存分、あばれ廻った。
それに呼応するように、マサキは持ってきたグレネードを全弾発射した。
 たちまち、諸所に火の手があがる。
前からは、敵兵、三千ほどが、ふたりの影を認めて、雨のごとく、銃を撃ってくる。
 しかし、わずか二人では、ひとたまりもない。
持ってきた300発の銃弾は、既に60発を割るほど少なくなってきていた。
マサキの生命は、暴風の中にゆられる一本の燈火にも似ていた。
 武勇にも、限度がある。
白銀も、やがては、戦いつかれ、マサキも進退きわまって、すでに自刃を覚悟した時だった。
 
 突如として、象牙色の軍服を着た一隊が、銃剣を構えて、彼の前にあらわれた。
顎ひも付きのパナマハット、ドラグノフ小銃や最新鋭のAK74小銃などの装備から、GRUのスペツナズであることが分かった。
「ソ連兵を救いに来た部隊の様ですね」
 覆面を付けたスペツナズ隊員は、マサキ達の方に小銃を振り向ける。
ソ連兵の突いてくる銃剣の柄にしがみついて、マサキは離さなかった。
日本野郎(ヤポーシカ)、このまま、お前を殺してやりたいところだが……」
黙然と、見つめていたが、やがてマサキは、フフフフと、唇を抑えて失笑した。
「そんな事は出来ないな……、さっさと銃を下ろせ」
 マサキは眼を怒らして、ソ連兵を睨みつけ、拳銃に手をかけていた。
ソ連兵の笑っている目に気づいた。見くだしているのである。
「フッ、さっきのお礼という訳かい」

「『イーラムの虎』の首領の首を取って、ラトロワたち二人とともに帰るんだ」
「何故、俺たちに預ける?貴様らの仲間だろう」
「……囮だ。
ラトロワと同志大尉に敵の目が集まっている最中に、この基地を根こそぎ爆破する為にな」
「人質の露助のお守りを俺たちに押し付けた方が、かえって好都合という訳か」
「あと2時間もすれば、航空支援が来て、ここは一面灰に覆われるであろう。
貴様ら、しっかり戦えよ。精々、俺たちの足手まといにならないようにな」
と言ったソ連兵のその唇もとが、マサキの方には必然な挑戦の笑みかのように眼に映った。
そこでマサキは、間髪をいれずに、ソ連兵へ、こう言いかぶせた。
「露助どもよ、お前らと組むのは、これが最後だぜ。
この決着は、必ずつけてやるからな!」
マサキは、大容(おおよう)に、ふてぶてしく、笑って退()けた。 
 

 
後書き
 今回は戦術機の操縦を、設定資料集と、実際のF-4戦闘機の操作法を基に、より詳しく書き起こしました。
変だな、おかしいなということがあったら、意見ください。
 ご意見、ご感想お待ちしております。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧