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終末世界デ最高ノ結末ヲ

作者:久遠-kuon-
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第1章 守らなければならないものがある
  3話「ポーラン」

 このあたりにはかつて肥沃な土地があり、たくさんの人が住みついて農作物を生産していたらしい。高いビルがたくさん立ち並ぶような都市もあったり、工業も行われたびたび排出されるガスが問題になっていたりもした。私が開発される途中、記憶領域に知識をインプットする段階があるそうなのだが、そこで過去の情報についても知識を入れているようだからわかる。
 もし開発段階ではなく、今誰かに言われたのだとしたら、絶対に信じることはなかっただろう。なぜなら、今ではもう緑も、都市も、工業地帯も何も残っていないから。

 十数年前。"銀の雨"、そして異能を使う暴徒たちによって、この辺りで数千年という長い長い年月をかけて築き上げられてきたものは全て塵へ還った。奇跡的に生き残った人間も一定数いたそうだが、彼らにこの土地を蘇らせるほどの気力は残っておらず、空の彼方へ逃げ行ってしまったらしい。
 数多くの人間たちがこの土地を捨て逃げたわけだが、ここに留まらざるを得ない者がいるのもまたいた。その一人にマキが含まれていたらしい。

 マキの過去に何があったのかは残念ながら記憶領域をどれだけ探してもわからなかったが、事実としてわかることとして、彼は宇宙に作られた新しい生活空間へ行くための舟に乗ることを許されなかった。なので地球上に取り残され、さらに異能の才が開花することがなかったために身動きが取れなかった。
 だが、力ない者たちを守るための力が欲しくて熱心に魔法の研究を行い、誰でもコツさえ掴めば使える"魔法"という力をモノにした。その後、この星にはまともな建材が残っていなかったため、魔法を駆使して再びこの土地に都市を作り、力ない者たちをその都市の中に招き入れることで匿い、守ることにしたそうだ。

 特に名前もなく、シンプルに"シティ"と呼ばれているこの場所だが、何重にも張り巡らされた外壁はしっかりと区分けがされており、障壁も完備。戦闘員が常駐する防衛地点や、戦闘員と司令官がやりとりをするための連絡手段なども用意されていて、今回の襲撃も壁の中で暮らす一般人への被害は一切出ていない。生活の面についても、病院はもちろん、食料を購入するための店や、娯楽施設などがあるそうで、なかなか快適に暮らせる場所だと聞いている。

 なぜ宇宙に逃げていった者たちは、こんなにも立派なマキを地球に残していってしまったのだろう。それに関して、私はたびたび頭を悩ませることがある。
 今日も今日とて、襲撃があった一番外側にある外壁から、いつも閉じ込められている部屋がある一番都市に近い壁の方へ歩きながら熟考する。

「宇宙船……方舟に乗れるかどうかは確か……」

 まず最初に優先されたのは、各国の要人やセレブだったか。次に未来のある子供や若者と、その面倒を見る者たち。次に繁栄が可能な男女を、遺伝子に優劣をつけながら運び……
 ン? 方舟計画が始動した頃、マキはまだ若者と言っても問題ない程度の年齢のはず。もし若者の枠から外れたとしても、体力もありまだまだ元気な頃だったろうに。
 方舟への乗船が断られる事例として、犯罪歴があるとか、人格に問題があるとか、そういうチェック項目もあったはずだが、マキはそれに該当するような人物とは到底思えない。
 となると……

「……もう、元気がないのか」
「なーに神妙な顔つきでぼやいてんだー?」
「わっ!?」

 とても口に出せないようなことを考えていたところに話しかけられ、驚きのあまり後ろに大きく跳んで声の主から距離をとる。心臓____正しくは心臓を模した、体内に流れる魔力の回りを司どる器官だが____がドキドキと大きく鼓動するのがわかる。もしかすると先程の襲撃の時より鼓動が早いまである。
 「そこまで拒絶されると傷つくぞー」と、全く傷ついていなさそうな顔で男はぼやく。
 マキ以上の長身。黒いカッターシャツは体が動かしやすいように腕まくりしてあり、戦闘員随一の鍛え上げられたたくましい腕が見せつけられている。だが鍛えすぎている、ということもなくバランスが取れていてとても清潔に見える。アメジストのような奇麗な紫の瞳を持っているくせに目つきが悪いのは少し残念だが、左目の下にある泣きぼくろと彼の極上の体付きを見れば、その魔力に女性たちは卒倒するだろう____なんて、誰かが言ってたような気がする。
 私は正直、心底興味ないけれども。よくこの男の容姿について熱烈に言葉を紡げるなと感心する。

 よー、と軽く手を振ってくるこの男は、名前をポーランという。役割としては戦闘員と、マキの相棒、そして私の"付き添い役"だ。

「この前、また私の部屋の前にあなた宛の贈り物が山積みになってましたよ」
「マジか。俺の部屋に直接置きにこいとは伝えてんだけどなあ……」

 普段シティの生活区域の方まで顔を出しに行くことはないが、外壁や研究室には頻繁に顔を出すため、そこにいる女性たちの人気をこれでもかというほどポーランは集めている。私に植え付けられた人間にできるだけ近付けられた感性からすると、ポーランよりマキの方が人気が出そうなのではと思うのだが、そもそもマキはあまり人前に出てくることがなく認知度が低いため、ポーランほど人気がないように感じるのだろう。
 でもまあ、これだけ嫌味のような印象を持っているが、嫌いということは一切ない。むしろ感謝している。私は人形であるわけだが、ポーランはそんな私に対してもこのようにまるで一人の人間に接するかのように話しかけてくれる。かなり優しいというか、もはや優しすぎる、また面倒見が良い人格の持ち主だとは思うが、彼がいなかったら私はどうなっていたかまるで想像がつかない。
 魔法自動人形は動き続けるために魔力の供給が欠かせないのだ。今はポーランが魔力を絶えず供給してくれているため、私は生きていられる。

 ああ、私の興味が彼の容姿に向かない理由を一つ思いついた。自分の中で"とにかく優しい人間"という印象が強いあまりに、容姿はなんでもいいと思い込んでいるのかもしれない。
 目つきのせいで怖そうな印象が強いから、そのことに気付いている人間が少ないのがちょっとだけ不憫だ。

「それで? 一応逃げるつもりとかは一切なく、部屋に戻ろうとしているんですけど。何かありました?」

 反射的に距離をとってしまったので、話しながら歩いてまた元の位置まで戻る。

「マキがさ、"治癒魔法"の練習をしろって」
「治癒魔法……」
「お疲れのところわりいけど、Uターンだ。行くぞー」

 肩を掴まれ、くるんと半回転。そのまま背中を押され、歩き出す。
 別に疲れてはいない。全速力で駆け抜けた道を、三分の二くらいの地点まで歩いて戻ってきて、またそこから引き返すことになるが、別にそれも苦だとは思わない。
 ……それでも少し足取りが重くなるのは。 
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