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Fate/WizarDragonknight

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変態紳士

 
前書き
あけましておめでとうございます!
今年も、Fate/WizarDragonknightをよろしくお願いいたします! 

 
「この勝負、俺が預かる」

 蝶の面をした変態紳士は、クルクルと回転しながら、ウィザードとゲートキーパーの間に着地する。

「へ、変態だああああああああああああああああああああああ!」

 思わずウィザードが叫んだ。
 両腕を天に伸ばし、あたかもバレリーナのように全身を細く長く保ち、つま先立ちのままウィザードとゲートキーパーを流し目で見つめている。

「ひどいなあ、折角お見知りおきと思っていたのに」
「近づくな気色悪い!」

 普段絶対言わないようなことを口走る途端、ウィザードは思わず魔力の制御意識を身だし、その変身が解除された。
 だが、この変態は全く悪びれることなく自らの頬に手を当てる。

「失礼な。変態じゃないよ。仮に変態だったとしても、変態という名の紳士だよ」
「やっぱり変態じゃないか!」
「変態……」

 ハルトの評を、ゲートキーパーが繰り返す。氷のように鋭かった目は、まん丸に切り替えられており、先ほどまでの敵意は微塵も感じられなくなっている。

「変態……変態……?」
「ほらァ! さっきまでクールで冷徹っぽかったゲートキーパーが、なんか面白い顔になってる!」
「ふっ。この戦いを止めた、()停役ということだな」
「うっ……それを言われると……」

 何も言い返せない。
 この聖杯戦争を終わらせることを目的として動いている立場として、この変態紳士の行いには、敬意を表さなければならない。
 ハルトは変態へ言いたい言葉を飲み込む。

「ふむ。時に、君とそこのレディは、聖杯戦争の参加者ということで間違いないかな?」

 聖杯戦争、参加者。
 その二つのキーワードを同時に口にした時点で、もう確定だろう。

「お前も、参加者なのか……!」
「!」

 ハルトの確信に、ゲートキーパーも顔を顰める。
 彼女の周りの空気が、三度冬の到来を告げる。

「お前も戦士か。ならば……今すぐこの場で戦え……!」

 身構えた彼女の手から、氷の冷気が溢れ出す。その手から白い息吹となったそれは、変態紳士へ放たれようと……

「……っ!」

 突如として、ゲートキーパーの動きが止まった。彼女は自ら体を意識的に止めようとしているようにも見える。
 そして、その原因がようやくハルトの位置から見えた。
 彼女の周囲を、あの黒い蝶が舞っている。下手な動きをすれば、ゲートキーパーは至近距離から爆発を受けることになるだろう。

「ノンノン。今日は戦うつもりはないよ。話がしたくて来たんだ」
「話だと……」

 さらに、ゲートキーパーの周辺を舞う蝶の数がさらに増えていく。
 一匹、二匹。やがて彼女の白い衣装を黒く塗りつぶせるほどの蝶。
 これ以上この場での戦いに拘る必要はないと判断したのか、ゲートキーパーは手を下ろす。
 だが、彼女の周囲の空気が白くなっていく以上の変化がないことから、様子を窺っているだけだと判断できた。
 それは変態紳士も同じようで、自らの頬を撫でながら、指で別の方角を指差す。

「近くに行きつけの店があるんだ。場所を変えないか?」



 行きつけの店。
 その言葉を聞けば、まず思い浮かべるのは、人気のないバーや居酒屋、あるいは真逆に、会員制のレストラン等だろうか。これまでハルトが目を通したことがある物語でも時折登場している。
 だが。

「行きつけの店って言われて、ここを通されるとは思わないよ」

 そう言ってハルトは、自分の前でレジカウンターへ注文を行う変態紳士を見つめた。
 某有名ファストフード店。
 真司がバイトしている店で、変態紳士、ハルト、そしてゲートキーパーの順番で並ぶというシュールな光景に、冷や汗が止まらない。

「こちらでお召し上がりになりますか? それとも、テイクアウトで?」
「こちらで」
「ハイ どうぞごゆっくり……」

 そして今、変態紳士の前でがっくりと肩を落としているのは、桃色の髪の少女。
 彼女には見覚えがある。以前、アイドルイベントの舞台裏に潜入した時に遭遇した。まだ駆け出しアイドルということで、プライベートではアルバイトをしているのだろう。
 名前はなんだったかな、と思っていると、隣のレジから、より見慣れた店員が「お次でお並びのお客様こちらへ!」とハルトに呼びかける。

「おいハルト! 何なんだよ、あの変なタキシード仮面は!?」

 レジ打ちしながら尋ねてくる、自らのサーヴァントである真司。
 ハルトは財布を取り出しながら答えた。

「俺もよく知らないけど、参加者の可能性がある。色々聞き出そうと思って。後コーヒー単品でお願いします」
「何だって……! アイツ参加者なのか……? セットはいかがでしょう?」
「そう。真司がいる店を選んだのは、ある意味では不幸中の幸いかな? あ、コーヒーだけでいいです」
「分かった。俺もドラグレッダーを近くに待機させておくぜ……皆様でお食事なら、セットメニューがオススメです」
「助かるよ。あの謎仮面に戦うつもりはなさそうだけどね。あと俺常に金欠なんだからセットメニュー押し付けてこないでよ」
「ちぇっ……」

 真司は口をつぐんで、隣のレジを見つめる。
 すでに変態紳士は意気揚々と注文したハンバーガーセットを持って移動しており、続くゲートキーパーがメニュー表と睨み合っている。

「……あの子も、参加者なんだよな? ほいコーヒー」
「うん。さっきまで殺気凄かったんだけどね」

 たどたどしい口調で何かを注文しているゲートキーパー。明らかに外食に慣れていなさそうな彼女の代わりにコーヒーを注文し、そのまま戸惑いながらカップコーヒーを両手で持つ彼女を連れ、変態紳士が待つ座席を探す。

「お前、本当に聖杯戦争の参加者か?」

 二階への階段を登っている最中、ハルトのすぐ後ろを歩くゲートキーパーが問う。

「そうだよ。ほら、この通り。さっき俺にレジ打ちしてくれた店員がサーヴァントね」

 ハルトは自らの右手の甲を見せつけながら答えた。
 ハルトの右手に刻まれた、龍の顔の紋章。
 それこそが、ハルトが聖杯戦争の参加者、マスターである証。令呪と呼ばれる、この見滝原にいる魔力が高い人間に刻み付けられる、地獄の舞踏会への参加券。

「本来なら、お前とはどちらかが(たお)れるまで戦うはずなのだがな」
「俺はせいぜい君が戦闘不能になるところまでって思ってたけどね。二階じゃないのかよ……!」

 ぐるりと二階を探し終えたハルトは、そのままゲートキーパーへ「もう一階上だね」と連れて行く。

「……私を殺すつもりはなかったと?」
「言い訳らしく聞こえる?」

 階段の利点は、周囲を壁に囲まれること。この段差を昇っている間だけ、周囲に会話が漏れることはない。

「単純な疑問だ」

 彼女のその返答に、ハルトは足を止めた。
 すぐ後ろの段のゲートキーパーへ振り返り、彼女の次の言葉を待つ。

「願いを叶えるつもりがないなら、お前はなぜ聖杯戦争に参加している?」
「まあ、当然そう思うよね……」
「私が倒してきた参加者たちも、それぞれ願いを持って戦ってきた。だがお前は、奴の誘いに反対することもなく、なぜここまで付いてきた?」
「……俺の願いは、別に叶える必要もないから、かな?」

 ハルトは顔に薄い笑みを浮かべた。

「……叶える必要がない?」
「そう。叶える……理由もない」

 ハルトはそれ以上を語ることはない。
 あの変態仮面はどこだ、と三階を探る。
 そして。

「やあ♡ 待っていたよ」

 やはり視界に入れたくないタキシード仮面がそこにいた。
 二つあるテーブル席をつなげ、その長い両足をテーブルに乗せながら、全身で壁際の椅子にもたれかかっていた。

「……テーブル席の意味分かってる?」
「もちろん」

 にっこりと蝶の仮面の奥で笑みを見せる変態紳士。
 ハルトは彼の足をどけて、そのまま変態紳士の向かいに座る。続いて、ゲートキーパーもまたハルトの隣に腰を下ろした。

「おや? 君たちはそれだけかい? ここのハンバーガーは絶品だぞ」

 変態紳士は、二人のコーヒーを見下ろしながらポテトを摘まむ。
 だがハルトは彼の言葉を無視し、逆に尋ねた。

「行きつけの店じゃなかったの?」
「行きつけの店だよ? 三日前から」
「たった三日前からかよ!」

 その発言に叫びながら、ハルトは「はあ」とため息を付いた。

「この状況で、気軽に食べられるわけないでしょ。ましてや、君たちが他の人たちに危害を加えないとも限らないのに」

 ハルトは周囲を横目で見ながら言う。
 大型ファストフード店というだけあって、夕食には早い平日の夕方であっても、人は多い。
 真司がドラグレッダーを待機させていると言ってはくれたものの、いざとなればウィザードの力をもってして、どこまで守り切れるだろうか。

「さてと。聖杯戦争の参加者である君たち……君たちはには、色々と聞きたいことがある」

 変態紳士は組んだ手に顎を乗せる。
 ハルトはゲートキーパーの様子にも常に気を配りながら、「何を?」と変態紳士へ先を促す。

「何。ただの、興味さ」
「私達に何を聞きたい?」

 ゲートキーパーから警戒が失われることは決してない。
 だが、変態紳士は「ノンノン」と指を振る。

「そんなに怖い顔をしないでくれ。さっき言った通り、今日は戦うつもりはないんだから」

 おちゃらけたままの彼は、そう言ってハルトとゲートキーパーの前にポテトの山を移動させた。
 ハルトは警戒しながら一本取り、口に運ぶ。
 それを見ていたゲートキーパーも、それに続いた。

「折角の食事の場だ。ここは一つ、楽しく談笑でもしようじゃないか」
「まあ、戦いよりはマシか……」

 ハルトは頷いて、彼の言葉に耳を傾けることにした。
 一方ゲートキーパーは腕を組み、目を閉じる。どうやら静観を決めるようで、その後はあたかも氷像のように動かなくなった。

「オーケーオーケー。それでは早速、自己紹介から始めようか?」

 変態紳士は手を振りながら名乗った。

「改めて。俺は蝶人☆パピヨン。よろしく☆」
「パピヨン……」
「ノンノン。パピ♡ヨン♡。もっと愛を込めて」

 変態紳士(パピヨン)は、指を振って、「リピートアフターミー」とハルトに繰り返させる。

「パピ……ヨン……」
「もっと愛を込めて」
「パピ、ヨン……」
「もっと情熱的に!」
「パピ ヨン! ……なんか韓国人みたいになった」
「もっと美しく!」
「話を進めてくれ、パピヨン」

 眼を閉じたまま、ゲートキーパーが促す。

「ふむ。折角だから、俺の呼び何も拘って欲しいんだ♡ ほらほら☆愛を込めて」
パピヨン(・・・・)。これ以上無駄な時間を費やすのなら、問答無用で戦いになるが?」

 ゲートキーパーは見せつけるように、手にしたティッシュを氷漬けにする。ティッシュはプレートに置かれた瞬間、粉々に崩れていった。

「おお、おお。怖い怖い」
「私はそれほど気が長い方ではない。要件に入るか、氷漬けになるか。好きな方を選べ」
「俺は君たちと話がしたいだけさ。君たちがなぜ戦い、なぜ願いを聖杯などというオカルティズムに満ちたものに託すのか」
「そんな質問をして何になる?」

 ゲートキーパーは冷たく吐き捨てた。

「それで何かが変わるのか? 聖杯に疑問を抱いたところで、参加者である私たちは、それに願いを賭ける以外の道はないのだから」
「ノンノン。思考停止は愚か者の道だよ。万能の願望器。果たして本当にそんなものが存在するのか? あまりにもナンセンスじゃないか?」
「……」

 その発言に、ハルトは押し黙った。
 実際、ハルトは聖杯そのものを___少なくとも、聖杯戦争の運営が聖杯本体とみなしているものを目撃している。ルーラーのサーヴァントに力を与え、強大な敵となった過程をしっかりと目にしていた。

「それに答えるならば、聖杯が存在しないとは思えんな」

 だがハルトの意外にも、ゲートキーパーが一足先にパピヨンの疑問へ答えた。

「ほう? それはどうして?」
「……まあ、答えても不利にはならんか」

 ゲートキーパーは言葉を続けるよりも先に、自らの手を見下ろす。数回拳を握っては開き、その手を下ろす。

「私は病でな。本来はすでに死んでいる」
「病気……!」
「その私が、この別世界で、しかも病の症状が全くない状態でこうして立っている。それだけの力がある聖杯ならば、願いを叶える奇跡も起こせるのではないか?」
「なるほど。冷たい顔をしている割には、随分とロマンチストじゃないか♡ 君」

 パピヨンが顔を低くしてにやりとした顔でゲートキーパーへ迫る。
 一瞬彼女の周囲に氷が湧き出たようにも見えたが、机の上で翼を動かす蝶の存在に、彼女の冷気は収まった。

「……病。君の願いは、元々その病を治すことだったの?」
「……私の……願いは……」

 ハルトが思わず口に出た言葉。だがゲートキーパーは、反発することなく押し黙った。
 やがて彼女は、自らの首元に手を伸ばす。服の中に忍ばせてあったのは、銀色のペンダント(ロケット)
 ハルトもよく知る企業のロゴ入り。おそらくこの世界に来てから手に入れたものに、自らの手で中身を差し替えたものなのだろう。

「……家族に、また……」

 ほとんど聞き取れないほどの小声。
 だが、ハルトはその願いが、何となく聞こえた気がする。見えた気がする。

 家族に、また会いたいと。

「それで? 君たちは何て言うのかな? ああ、参加者としての登録名(クラス)じゃなくて、本名を教えてくれ☆ 俺も名乗ったのだから」

 パピヨンって本名なのかよ、と心の中でのツッコミを封じ込めたハルトは、隣のゲートキーパーの様子を窺う。彼女は無言を貫いているので、口を開くことにした。

「松菜ハルト。……仮面ライダーウィザードだよ」
「仮面ライダー……ウィザード……」

 パピヨンは頬を撫でながら、その言葉を口に含ませる。

「素敵☆な名前じゃないか。ウィザード……魔術師にピッタリの名前だ」

 パピヨンはそのまま、ゲートキーパーへ「君は?」と促す。
 だがゲートキーパーは彼には応えず、逆に聞き返す。

「お前はサーヴァントか? この世界の人間の姿にはとても見えないな」

 それには、パピヨンも口角を大きく上げる。

「俺は蝶人パピヨン。この見滝原に舞い降りし、美しき蝶さ☆」 
 

 
後書き
店長「真司ぃ……」
真司「うおっ!? て、店長!?」
店長「さっきの不審者、お前の知り合いなんだってなァ?」
真司「ち、違いますよ! 知り合いなのはその次にいた奴であって……」
店長「お客様が迷惑しているんだ。何とかしろ!」
真司「そんな無茶苦茶な……」
彩「こ、怖かった……!」
真司「彩ちゃん、大丈夫か?」
彩「うん……でも、しっかり対応できたのは、私も成長しているってことだよね! 噛まずに言えたし!」
真司「いいぞ! このまま頑張ろうぜ!」
彩「うん! あ、お客さん! いらっしゃいませー!」



___なかよくしたいとホンキで思うのなら わたしのことをもっと ちゃんとわかってよ___




???「店員さん、注文お願いします!」筋肉ムキムキ眼帯のメイド
彩「」
メイド「お嬢様のために! ハンバーガーセットとダブルバーガーセットとチーズバーガーセットをそれぞれハッピーセット付きでお願いします!」
彩「はい……こちらでお召し上がりますか? それともテイクアウトで?」
メイド「ふむ。お嬢様は……もうすぐ来るか。こちらで」
彩「テンチョー!」
店長「彩……その……まあ、頑張れ」
メイド「お構いなく! もうすぐ愛しのお嬢様が参られますので! きっとお喜び頂けると思い、ここで待たせていただきます!」
彩「ひいいいいっ!」
真司「……はい、彩ちゃん。セット三つとハッピーセット出来たぜ」
彩「はい……」
メイド「なんと! 三つしっかり頂けるとは、サービスのいい! しばらく通おう!」
彩「」
真司「……これ、誰がこの人のアニメ紹介するの? あ、カンペ来た」
真司「うちのメイドがうざすぎる! 2018年10月から12月に放送していたってよ。軍人上がりの家政婦、鴨井つばめが、軍人時代に偶然見かけたミーシャに惚れこんで、一緒に仲良く(一方通行)暮らしていくコメディだそうだ」
メイド「アイ ラブ お嬢様!」
真司「でもこんなに圧が凄いと、そりゃ逃げたくなるよなあ……」 
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