Fate/WizarDragonknight
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氷結の白兎
残る残滓が、空気中の冷気を少しずつ温めていく。
だんだんと今の時期に相応しい温度に戻っていくころに、ウィザードライバーのハンドオーサーを操作する。
それはスイッチとしての役割を果たす。魔法陣がウィザードを包み、変身を解除。ウィザーソードガンの本物のみを手にしたハルトの姿に戻っていく。
「君は……?」
ハルトの問いに、彼女は答えない。しばらくハルトとファントムだった破片を見比べ、静かに口を開く。
「意味もなく片方に加担してしまったな」
氷に閉ざされたグールの破片が、氷ごと解けていく。魔力の塊が消失し、虚無へと帰っていく。
「聖杯戦争の参加者同士の潰し合いだと思ったのだがな」
聖杯戦争。
その単語が出て来た時点で、確定してしまった。
ハルトは項垂れるように天を仰ぎ、
「その口ぶりだと、君も聖杯戦争の参加者ってことだよね」
「お前もか」
その言葉を最後に、ハルトと氷結の女性の間に沈黙が流れる。
「……ライダーのマスター、松菜ハルト。仮面ライダーウィザード」
「ウィザード……お前がか」
すでにどこかでウィザードの名を聞いたことがあるのだろうか。
彼女がハルトに手を伸ばすと、やはり氷の塊が生成される。
鋭く研磨されたそれを浮遊させながら、彼女は名乗る。
「ゲートキーパー……と、名乗ればいいのだろうな?」
彼女は静かに目を伏せる。
「ゲートキーパー……って、門番? そんなわけ分からないクラスまであるのか」
「私も門番になった覚えはないのだがな」
彼女はそう言いながら、息を吐く。
もう、周囲の気温は温かい。春を超え、これから夏に向かう準備をし始める季節だ。
それなのに、彼女の周囲だけが冬を切り取ってその場に残している。
「安心しろ。聖杯戦争の魔術師よ」
彼女の開いた目が、氷のごとく冷たくなった。
すると、より一層周囲の気温が下がる。
凍てつく空気が、また春を塗りつぶす。ハルトの吐く息さえも白くなり、体が震え出す。
「少しも苦しませぬように殺してやろう」
「優しい、とは言い難いね。それ」
『ドライバーオン プリーズ』
ハルトは静かに、腰にウィザードライバーを出現させる。
銀で出来たウィザードライバー。気温に電動され、触れるといつもに比べて冷たく感じる。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
詠唱される呪文とともに、ハルトは手にしたままのルビーの指輪をベルトに押し当てる。
「変身!」
『フレイム ドラゴン』
変身のため、指輪から発生する魔法陣。
同時に、ゲートキーパーの周囲より吹雪が広がる。
さんさんと輝く太陽光を反射する白い景色を阻み、逆に押し返す炎の魔法陣。炎がある程度吹雪を押し切ったところで、ハルトは魔法陣を走り抜ける。
『ボー ボー ボーボーボー』
再びその深紅のローブを身に付けた、ウィザード フレイムドラゴン。
手に持ったままのウィザーソードガンを振り降ろし、彼女が壁として作り上げた氷を砕く。
だがウィザードはすさかずウィザーソードガンをガンモードに切り替え、大きく腕を振る。
無数に放たれる銀の銃弾は、大きな弧を描きながら、バラバラの方向からゲートキーパーへ向かっていく。
「……っ!」
銀の弾丸の想定外な動きに、ゲートキーパーは目を見開く。
だが彼女は、軽快な身のこなしで銃弾の往来を回避し切る。
「避け切った……」
「終わりか?」
「……挑発したんだから、後悔しないでよ」
ウィザードは、更により一層多くの銃弾を放つ。
まるで銀の壁のように、ゲートキーパーへ迫る銃弾。だが、眉一つ動かさないゲートキーパーの吹雪は、より強く吹き荒れる。
すると、銀の銃弾の勢いがあっという間に凍結していく。雪化粧をした銃弾がポロポロと零れ、さらに今度はこちらの番だと、彼女が手を伸ばす。
すると、吹雪が大きな唸り声を上げながらウィザードへ襲い来る。
『ビッグ プリーズ』
それに対し、ウィザードは使い慣れた指輪を発動。
炎の魔力が混ざった巨大化の魔法。魔法陣を貫通し、燃え上がる手が氷の竜巻を握りつぶす。
「はあっ!」
魔法陣を通じて大きくなった腕が、ゲートキーパーを潰さんと叩き付けられる。
「……っ!」
ゲートキーパーは手を掲げ、氷の柱を作り上げる。それは炎の腕を抑え、やがて押し返していく。
「すごい力……」
元に戻した腕を振りながら、ウィザードは呟く。
手のひらには氷の破片が張り付いており、振り落とすと同時に氷が舞った。
『バインド プリーズ』
続く、拘束の魔法。
地面に数個生成された魔法陣より炎の鎖が発生、それぞれが氷の柱を縛り、地面に突き落とす。
「……!」
ほんの少し、ゲートキーパーの顔が歪む。
さらに、ウィザードはウィザーソードガンの手のオブジェを開く。
『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』
『フレイム スラッシュストライク』
押し当てられるルビーの指輪。
すると、ウィザーソードガンの刀身に深紅の魔力が宿る。
十字を描く斬撃の軌跡。それは、大きく回転しながら、ゲートキーパーへ向かう。
すると、斬撃は回転しながら、ゲートキーパーの氷の壁を切り崩していく。さらに、その余波は彼女の周囲の氷を溶かし、徐々に冬の木組みの街を春に戻していく。
「……!」
「行くよ……!」
さらに、怯んでいる間に、ウィザードはゲートキーパーへ接近。
彼女の息が刃となり、氷の剣となる。赤い軌跡を食い止める水色の氷は、そのまま銀の剣と打ち合いになる。
「っ!」
やがて切り結んだ瞬間、彼女の目が見開かれる。
氷の剣が一気に拡大、それはウィザーソードガンを瞬時に包み込んでいく。
「まずいっ!」
その影響範囲を理解したウィザードは、即座に手を放す。
すると、ウィザードの愛用武器は一気に氷に閉ざされ、勢いそのままに奥の壁まで吹き飛んで行った。
さらに、ウィザードの顔面、丁度その目前で、ゲートキーパーが手を開く。
「くっ……!」
「凍えて眠れ」
「!」
ウィザードは即、飛びのく。ウィザードがいた箇所が氷となり、人一人分の空気を閉じ込める。
ゲートキーパーは続けて、氷の塊を小突く。
すると、氷の塊は鳳仙花のように破裂。無数の弾丸となり、ウィザードの体を貫いた。
「ぐあっ!」
大きく散った火花とともに、ウィザードは転がる。
さらに、彼女の周囲に再び吹雪が発生。
「やばいっ!」
新たな指輪を手にするものの、間に合わない。
ウィザードの目前に迫った吹雪は、ウィザードの体を包み、凍結させた。
「しまった……!」
今度こそ、ウィザードの体の大半が氷に閉じ込められてしまう。ウィザードの命であるウィザードライバーを全て閉ざし、右半身以外の全身が動けなくなってしまった。
「くっ……この……っ!」
自由が利く右腕で氷部分を叩くが、極寒の氷は壁のように体への干渉を許さない。
「硬い……」
「終わりだ」
動けなくなっている間に、ゲートキーパーの周囲に、より一層強い吹雪が集まっていく。
彼女の腕から伸びる吹雪の竜巻は、強く振り下ろされていく。
だが。
「うおおおおおおおおおおっ!」
ウィザードは叫びながら、体内の魔力を大きく回転させる。
それを特に、腰のウィザードライバー周辺に集中させることで、ウィザードライバーを覆う氷のみが溶け飛ぶ。
即座にウィザードライバーを動かし、指にしてある指輪を発動させる。
『チョーイイネ スペシャル サイコー』
それは、ウィザードが新たに手にした強さを持つ指輪。
ウィザードの背後に出現した大きな魔法陣は、その体を通過すると同時に、巨大な炎の幻影を出現させる。
ウィザードの周囲を回転するドラゴン型の炎は、拘束する氷を次々に溶かし破壊していく。完全にウィザードを氷の中から解放したドラゴンの幻影は、そのままウィザードの背後から頭を突っ込み、貫通した部分が実体となる。
「……っ!?」
突如として出現した異変には、ゲートキーパーにも大きな警戒を抱かせる。
大きく吠えたドラゴンへきっと口を食いしばった彼女は、力を込めて構える。
すると、より巨大な氷塊が彼女の背後に生成されていく。やはり規模が大きくとも、それは彼女の意思に反映してウィザードへ迫る。
それを見据えながら、ウィザードは足を軽くステップ。
すると、その体がゆっくりと浮かび上がる。胸元のドラゴン、ドラゴスカルの口に、非にならないほどの強烈な炎が沸き上がっていく。
足で軽くステップを踏む。
すると、炎の余剰魔力により、ウィザードの体が少しずつ浮かび上がっていく。
「はああああああっ!」
ドラゴンの口よりあふれ出す炎。
冬の世界に出現した太陽のように、白を照らし出していくそれは、やがて吹雪を掻き消していく。
それをじっと見守っていたゲートキーパーは、その手を広げる。すると、より大きな吹雪が、大きな咆哮とともにウィザードを襲う。
そして吐き出されるドラゴブレス。
強烈な炎と氷、大きな温度差が空間を満たしながらも、その二つはせめぎ合う。
「だあああああああああああっ!」
「……っ!」
ほとんど同等の威力を誇る二つ。互いに足場に力を入れながらも、せめぎ合いは均衡を保つ。
やがて。
「蝶……?」
その異変に、ウィザードは思わず気が反れた。
赤い炎と白い氷。二つの奔流の中に、突如として黒い蝶の群れが羽ばたきに割り入る。
それは丁度、ゲートキーパーにとっても予想外の出来事らしく、彼女の目もまた点になっている。
蝶の群れは、やがてウィザード、ゲートキーパーの間に満ちていく。
そして、蝶たちは一気に爆発。
突如の爆炎は、炎と氷をそれぞれの発生源である使用者ごと吹き飛ばす。
「ぐあっ!」
「うっ……!」
爆発によって、ドラゴスカルを造り出す魔力が霧散してしまった。
通常のフレイムドラゴンとなったウィザードと、手を引っ込ゲートキーパー。
互いに何が起こったのか理解が出来ていないところで、天より声が降って来た。
「ちょっと待ちたまえ、お二人さん」
冷えた戦場に全く似つかわしくない妖艶な声。
その声を見上げたウィザードが、変態だ、と真っ先に考えたのも無理はないであろう。
蝶の形をした面をした男性。ぴっちりとタキシードを(こんなに寒くなっているのに)着こなしながら、近くのビルの高いところから声を高々と上げた。
「蝶☆サイコー!」
見たくもない全身のシルエットがくっきりと浮かび上がってくる彼は、恥ずかしげもない笑顔で、ウィザードとゲートキーパーを見下ろしていた。
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