渦巻く滄海 紅き空 【下】
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七十九 人柱力VSペイン六道
悲鳴と爆発音。
木ノ葉の里のあちこちで、響き渡るそれらはつい寸前まで無縁なモノだった。
この平和を代表する里では。
しかし今まさに、その平穏が崩れ去る音が間近に迫っている。
家々が半壊し、砂煙が高く舞い上がり、戦力である木ノ葉の忍びが焦燥感を露わに、混乱していた。
「どうなってる!?侵入者は一人ではなかったのか!?」
「すぐに【白眼】で確認します!」
屋根の上で、あれだけ穏やかで平穏だった木ノ葉の里が戦場と化している様をまざまざと見せつけられる。
敵の姿を絶え間なく捜し続けながら、木ノ葉の忍び達は逃げ回る里人を守ろうと尽力していた。
「ええい!結界班だけでは間に合わん!他の部隊に連絡して救援を要請しろ!」
「そ、それが…」
「どうした!?」
【白眼】で里の隅々を探っていた日向一族の忍びが困惑顔で振り返る。
「同じ『暁』のようですが、我々の味方らしき“暁”まで現れて…」
「は…?それは本当に味方か…?いやそれより本当に“暁”なのか…?」
「わかりませんが…黒衣の『暁』を食い止めているようです」
黒衣とは真逆の純白の衣を翻す謎の集団。
けれど裏地に赤き雲があることから“暁”を示す彼らの正体を、彼らは判じ兼ねていた。
「とにかく、その新たな“暁”も含めて火影様にも報告だ!急げ!!」
里のあちこちで火の手があがる。木ノ葉の忍者達は火影邸へ視線を投げながらも戦闘態勢を崩さなかった。
しかしながら、そんな優秀な忍びと言えど、そう時間もかからずに今回の侵入者の首謀者が火影の前へ姿を現すとは微塵も考え付かなかった。
(……──どういうことだ)
ペイン六道。
彼らは総じて無表情である。感情が表に出ることはまずない。
何故なら彼らは結局のところ、死人だからだ。
けれど表情とは裏腹に、現在、彼ら、いや、彼らを操る彼の内心は酷く動揺していた。
木ノ葉の里から遠く離れた場所。
ペイン六道を操る長門本人は六道に反して、困惑顔を浮かべ、狼狽する。
(尾獣を集めるのは全てナルトに任せていた…ヘマをしたのか?いや…ナルトに限ってそれはないだろう)
一瞬そう思うも、すぐに前言を撤回する。
そうすぐにその結論に至る理由にはナルトへの信頼感はもちろん、彼の実力の高さに対する信用もあった。
(しかし尾獣を抜かれた人柱力は死に至るはず…それが何故、)
困惑の渦から解放され、少しばかり落ち着いた長門は頭を冷やそうと深呼吸する。
けれど術の使い過ぎで酷使し続け、渇き切った唇からはひゅひゅう、と喘息の類しか零れ落ちない。
それでも。
「──真偽を確かめねばならんな…」
その為には。
思考を切り替える。
今まさに直面する敵へと意識を集中させたペイン六道は、視覚を共有する故に、それぞれの相手を改めて確認する。
はたけカカシを相手にしていた天道と修羅道の前には、金髪の女性と緑髪の少女がいる。
外見から判断して、二尾と七尾の人柱力で間違いないだろう。
接触した木ノ葉の忍びからチャクラを吸収して里で暴れるよう指示した陽動班の餓鬼道は、現在大柄な男と直面している。
おそらく五尾の人柱力だ。
木ノ葉の尋問部隊とそれをガードする暗部と交戦になっていた畜生道と人間道は、小柄な少年と老人という対照的なふたりを相手にしている。小柄な少年のほうはよく知っている。
元水影の三尾の人柱力であるやぐら。そして老人のほうは四尾の人柱力に違いない。
そして敵と接触するたびに九尾の居場所に関する質問を繰り返していた探索班の地獄道は、首に長い布を巻いた少年を捕まえようとした矢先、着崩した水色の着物姿の青年と遭遇していた。
すらりとした長身で切れ長の眼。
涼やかな風貌のその青年もまた消去法からして、六尾の人柱力であることに間違いない。
六人全員で視覚を共有し、視界をリンクさせているが故に、ペインはすぐに現状を把握した。
九尾を捕らえにきたはずが、八尾を除いた全ての尾獣の人柱力が木ノ葉の里に集結している。
この状況にさしものペインも困惑せざるを得ないが、逆に考えると一網打尽にする良い機会だ。
「九尾だけではなく、五匹もの尾獣を手に入れられるとはな」
ペイン天道の一声をきっかけに、二尾の人柱力であるユギトと、七尾の人柱力のフウは地を蹴った。
「思いあがりも甚だしい…なっ!」
「やれるもんならやってみろっス!」
突然乱入してきた女性陣に目を白黒させていたカカシは、現状を見極めようと【写輪眼】を凝らしていた。
(えーっと…木ノ葉の忍びじゃなさそうだけど…味方、なのか?)
そのわりには『暁』に似た服装だ。もっともこちらは純白の衣の裏地に、紅の雲が浮かんでいるが。
猪突猛進でペインに攻撃を仕掛ける緑髪の少女が妙に、自分の生徒である波風ナルと被って見える。
対して、冷静だがかなりの俊敏さでペインの攻撃を避け、緑髪の少女を上手くフォローしている金髪の女性はかつてのサスケを思わせた。
幼い頃の波風ナルとうちはサスケのタッグを思わせる連携に、カカシはほんの一瞬、懐かしさを覚える。
それが原因だろうか。カカシは彼女達へはペインほど警戒心を抱けなかった。
敵か味方かわからないが、ペインと敵対していることから考えるに、現時点では加勢してもらっていると考えてもいいのではなかろうか。
「どこのどなたか存じませんが…助太刀、感謝します」
カカシの謝礼を背中で聞いて、ユギトはちらりと視線を背後に寄こした。
どうやらペインの能力を見極める為に影分身を駆使しており、カカシ本人は先ほどのペインの攻撃で崩れた後ろの瓦礫の下に潜んでいるようだ。
抜け目のないヤツだな、と内心感心しながら、ユギトは俊敏な動きでカカシの傍らへ跳躍した。
「手を貸す。その代わり、条件がある」
「……なんです?」
「此処で生き残れたら“暁”がただの犯罪組織じゃないという生きた証人になりな」
「…今まさに戦っているあのペインこそが暁なのでは?」
「そうだな」
支離滅裂な問答にカカシは眉間の皺を濃くする。
相手の疑問ももっともだ、と苦笑しながらそれでもユギトは頑なに言い張った。
「だが我々も“暁”なのでな。悪い不評ばかりでは居心地が悪いんだよ」
「…!?どういう、」
「話は終わりだ、来るよ」
強引に会話を切る。奇妙な姿形へと変貌を遂げたペインの一人。
顔が三つ・腕が六本、そして背中に鋭利な刃を生やした機械のような風貌のペインが仕掛けてきた攻撃をユギトは華麗に避けた。
回避すると同時にしなやかな動きで、刃の上へ飛び乗る。
ぎょっとするカカシと同じく、機械のような風貌であるペイン…修羅道もまた虚を突かれたようで、刃の上に立つユギトを振り落とそうとした。
だが逆に、まるで猫のような軽やかな動きで翻弄され、気が急いた修羅道は右腕の手首を掴んで引き抜く。
途端、セットされたミサイルが発射された。
「まったく次から次へと…ビックリ人間かい、アンタは」
【弾頭の火矢】と言われるミサイルに追われながら、ユギトはそれでも余裕綽々な表情で肩を竦める。
ミサイルでさえも追いつけない彼女の俊敏性に焦れて、修羅道が左腕を翳した。
【怪腕の火矢】たるロケットパンチがユギトへ向かって放たれる。
「危ない…!」
前方のロケットパンチ、後方のミサイル。
挟み撃ちにされたユギトに向かってカカシが叫ぶ。
ロケットパンチとミサイルが前からも後ろからもユギトの身体を串刺しにせんと迫りくる直前、ほんの僅かにユギトが身体をずらした。
驚異的な俊敏性で回避した彼女の頭上で、ロケットパンチとミサイルが直撃する。
ロケットパンチを破壊しても猶も動きを止めないミサイルは、主人であるペイン修羅道本人の胴体を貫いた。
「ば、かな…」
自らの兵器に貫かれ、倒れ伏した修羅道。
すぐに距離を取り、警戒を怠らないまま、ユギトは次いで、フウが相手にしているペイン天道へと鋭い眼光を向けた。
「一丁上がりだね。次はアンタの番だよ」
「なんてことだ…身体の軽やかさと俊敏性だけでペインのひとりを…」
猫のようなヒトだな、と感嘆するも、直後、天道を相手にしていた緑髪の少女が視線の先で吹き飛ばされる。
波風ナルとどことなく雰囲気が似ている緑髪の少女をカカシは慌てて抱き留めた。
「いたた…すまないッス」
「やはり奴には物理攻撃も忍術も通用しないか…」
先ほどのカカシの攻撃をも無効化したのだ。むしろペイン天道相手にひとりでよく持ち堪えたと言える。
フウが吹き飛ばされるや否や、ユギトはクナイを投擲した。
しかしながらそれらは、カカカッ、とむなしく地面に突き刺さる。
けれど、カカシはクナイを避けた天道の行動を見過ごさなかった。
すぐさま煙玉付きクナイを投げる。
天道の能力で弾かれたクナイはその衝撃で、逆に煙玉を発動させた。
白煙が立ち込める。
その隙に、ユギトとフウと共に物陰に隠れたカカシは、己の策を語った。
「煙に紛れようが、この眼の前では無駄なこと…」
【輪廻眼】である紫の瞳で天道は相手の出方を窺う。
不意に、足許の地面が罅割れた。
地中から飛び出してきたカカシの攻撃が当たる寸前、天道の術が当然炸裂する。
「【神羅天征】」
「ぐぁ…!」
弾き返されたカカシが衝撃で吹き飛び、地面に勢いよく転がった。
起き上がる暇も与えぬまま、天道はカカシのすぐ眼前に迫る。
「なかなか良い動きをする…術も多彩だ」
「…それはどうも」
軽口を叩くカカシに構わず、天道は袖に隠し持っていた武器を振り上げた。
「お前のような奴は後々厄介になる。今の内に殺しておく」
刹那、左右同時に、ユギトとフウが凄まじい勢いで迫りくる。
カカシに気を取られている隙に攻撃を仕掛けようという魂胆か、と天道は手のひらを左右に掲げた。
「遅い──【神羅天征】」
吹き飛ぶ。
ユギトとフウが弾き飛ばされたのを確認するより前に、己の身体を縛り付ける鎖の存在に天道は気づいた。
ちょうど両腕を封じる形で縛り付けられた天道は、そこでようやくカカシの意図に気づく。
(はたけカカシ…地面からの攻撃前にこの鎖を地中へ仕込んでいたのか)
しかも連続で【神羅天征】を使った隙を狙ったということは、この術の弱点にも気づいているはず。
【神羅天征】は一度使うと再使用まで最低でも5秒のインターバルが発生する。
明らかにそのインターバル中を狙った攻撃。
やはり侮れんな、と感心するペイン天道の眼に映る視界が一瞬、ぼやけた。
しかしそれも一瞬で、しかしその一瞬がカカシに術を発動させる時間を与えてしまう。
【雷切】を発動させたカカシの攻撃を防ごうとした矢先、頭上から翅音が聞こえる。
ハッ、と空を仰いだ天道の眼に、空を飛ぶ緑髪の少女の姿が飛び込んだ。
「な、に…!?」
前方から【雷切】を放つカカシにばかり気を取られていた。
そうだ、七尾の人柱力は尾獣の恩恵か、虫の翅で空を飛翔できるのだ。
(──ということは、)
視線を奔らせる。
鎖で左右から己の身体を拘束するユギトとフウを確認すると、そこには白煙が立ち込めていた。
予想通り、白煙が晴れたその先で、カカシが鎖を引っ張っている。
(【影分身】に変化させていたか…)
降り注ぐ鱗粉により頭上からのフウ本人の攻撃に気づけた天道は、まずは彼女からの攻撃を防ごうと咄嗟に【神羅天征】を放つ。
自由に空を飛ぶ翅を持っていようが、この術の前では意味を成さない。
吹き飛ばされたフウを視界の端に捉えつつ、すぐさまカカシの攻撃に対処しようと、倒れ伏せている修羅道に視線を投げる。
途端、ユギトによって胴体をミサイルで貫かれた修羅道がカカシと天道の間に割り込んだ。
「さっきの…!まだ動けたのか…っ」
驚愕するも、この機会を逃したらもう勝機はない。そのまま“雷切”で押し切ろうとするカカシ。
カカシの攻撃をフェイクに見せかけ、上空からのフウの攻撃に虚を突かれ、やはり本命であった【雷切】。
二段構えの攻撃に、ペイン天道は称賛と同時に、非情な現実を突きつけた。
「二段構えか…だがまだ甘い」
修羅道を盾にして、カカシの【雷切】を防ごうとした、その瞬間。
「だろうね。だから三段構えだよ」
刹那、背後から聞こえてきたユギトの声に、天道は振り返ろうとした。
だがガッシリと身体を背後から拘束され、身動きがとれない。
「決めろ、はたけカカシ…!」
既に修羅道は身体の前に割り込ませ、カカシの攻撃を防ぐ盾としている。
故に背後から拘束してくるユギト本人の接触を許してしまった。
つまり最初に地面から仕掛けてきたカカシの攻撃も。
ユギトとフウに変化したカカシの影分身の左右からの攻撃も
その際に地中に仕込んでおいた鎖で動きを取れなくさせたのも。
カカシに気を取られておきながら上空からのフウの攻撃を避けることも。
そしてカカシの攻撃が防がれるのを見越して、更に背後から拘束するのも。
全て計算の内だったというわけだ。
(俺が攻撃を避けるのを見越しての三段構えか…!)
修羅道の身体ごと貫かんとするカカシの“雷切”。
後ろから拘束してくるユギトを振り払おうとするも、まるで自らも“雷切”に貫かれても構わないとばかりにガッチリと雁字搦めにされ、避けようがない。
次の【神羅天征】の再発動まで、あと───。
「チャクラが使えないなら拳で決めりゃいいだけだで」
チャクラや忍術を吸収され、難儀していた木ノ葉の忍び達の前に現れた鎧の男。
五尾の人柱力であるハンは、忍術を吸収するペインのひとりに拳を向けた。
【封術吸引】という術を使い、チャクラを用いた術を全て吸収する餓鬼道は、急に割り込んできた鎧の男をまじまじと眺める。
全身の鉄壁の鎧。
一部の隙もない防御力の高そうな壁のような大柄の男。
顔の大半まで鎧で覆っている男の素顔は判別できないので、木ノ葉の忍び達は皆、敵か味方か判断がつかなかった。
「五尾の人柱力か…何故此処にいる」
「ご、五尾だと…!?」
ペイン餓鬼道の発言に驚く木ノ葉の忍びを尻目に、ハンは面倒くさそうに腕を回した。
「御託はいい。とっととやるだで」
そうしてニヤリと嗤い、挑発する。
「それとも怖気づいたのか」
「ほざくな。お前のようなデカブツに何ができる」
挑発に挑発を返した餓鬼道は、直後、自分のすぐ間近で聞こえてきた声に、眼を見開いた。
「デカブツに何ができるか見せてやるだで」
瞬間、吹き飛ばされる。
周囲の建物を突き破り、地面を抉りながら、かなりの距離を吹っ飛ばされた地獄道を、周りの木ノ葉の忍び達はぽかん、とした表情で眺めていた。
「い、今の…見えたか?」
「あ、あんな重そうな鎧を着ているのに、凄い素早さだ」
驚愕する周りの目線を気にせず、ハンは地獄道に飛び蹴りを喰らわす。
チャクラを使わず、純粋な力と体術だけでハンは地獄道を圧倒的に追い詰めた。
全身を鎧に纏っているにもかかわらず、怪力と速さと防御力を兼ね備えているハンは、チャクラを吸収する地獄道の天敵だった。
相性が悪すぎたと言っていい。
蹴りだけで、瓦礫を巻き添えにしながら、再び地獄道が吹き飛ばされる。
あれだけ苦しめられていた地獄道をあっさり倒した五尾の人柱力であるハンは、聊か物足りなさそうに肩を竦めた。
「蒸気を使うまでもなかったな…期待外れだで」
「…─惜しかったな」
ペイン天道を中心に穿たれる穴。
周囲の建物ごと吹き飛ばされた其処は悲惨たる様だった。
元は一軒家だった壁に背をもたれさせて、もう微塵も動けないカカシは目線だけを周囲に奔らせた。
緑髪の少女と金髪の女性が倒れ伏せている最悪な現状に歯噛みする。
「流石、人柱力…骨が折れる」
ザリ、と元は何かの看板だった板を踏みつけて、ペイン天道は相変わらずの無表情で称賛した。
「だが彼女達は生きたまま尾獣を抜かねばならん。あとでゆっくり回収するとしよう」
(人柱力だと…!?つまり彼女達はナルと同じ…)
ペイン天道の発言からようやく、彼女達が波風ナルと同じ尾獣を封じられた存在である事実に、カカシは気づいた。
ユギトにまで“雷切”が届くかもしれないという一瞬の躊躇が勝敗を分けてしまった。
カカシのミスだ。
せっかくのチャンスを不意にしてしまった。
だから自分が今ここで死ぬのは仕方のないこと。
「だがおまえは別だ、はたけカカシ」
元は看板だった板に打ちつけられている釘。その一本がグラグラと勝手に板から引き抜かれる。
引き寄せた釘を手に、ペイン天道は満身創痍のカカシに狙いを定めた。
「この身体に傷をつけられたのは随分久しぶりだ、誇っていい」
かつて、ナルトによって受けた傷よりずっと些細なモノだが、それでもここ数年は天道に傷ひとつつけられた猛者はいなかった。
故の称賛。
「その誇りと共に、散れ」
カカシの額目掛けて投擲された鋭利な釘。
標的をカカシに定めたソレが風を切った。
「その借りを、今ここで返してもらおう」
思いもよらない言葉に、大蛇丸は眼を瞬かせた。
確かに返すとは言ったが、今、此処で?
困惑めいた表情でナルトを見上げた大蛇丸は、彼の望みに益々動揺した。
「大蛇丸。おまえにはアマルを木ノ葉へ連れ帰り、彼女の居場所をつくってもらおう」
「……は…?」
眼を丸くする大蛇丸よりも遥かに狼狽したのは、アマルだ。
急なナルトの発言についていけず、口をぱくぱくと開閉させるアマルをよそに、ナルトは大蛇丸の返答を待っている。
ようやっと我に返った大蛇丸は、自嘲気味に嗤った。
「木ノ葉の抜け忍である私が?この子を木ノ葉へ?冗談でしょ」
なによりあえて『連れ帰る』などという言い方をしたナルトの皮肉を鼻で嗤う。
木ノ葉を随分前に抜け、更に“木ノ葉崩し”の主犯たる己に、帰るだなんて、何の冗談だ。
「自来也のほうが適任じゃないかしら」
「俺はおまえに頼んでいる──大蛇丸」
ナルトの有無を言わさぬ強い語調に、大蛇丸はしばらく二の句が継げなかった。
あの時、三代目火影の封印術から逃れる為に、腕を代償にした。
けれども命とは引き換えにならない。故に命を救われた相手に強く出れない。
なによりナルトに逆らう意味を、大蛇丸は知っていた。
随分な間を置いてから、大蛇丸は苦虫を嚙み潰したような顔で、やがて溜息をついた。
それは諦めと、承諾の嘆息だった。
「────わかったわよ」
「まっ、待って…!かみ…いや、な、ナルト様…!?」
ナルトと再会して流した感動の涙が、焦燥と絶望に変わる。
愕然とした面持ちで、勝手に自分の処遇を決められたアマルは、ナルトへ反論した。
「様はよせ」というナルトの声すら耳に届かなかったのか、焦燥感に満ちた表情で彼女は乞う。
「お、オレもあなたと一緒に…!」
「それはできない」
即座に否定され、顔色を喜色から一気に絶望に染めたアマルに対し、しかしながらナルトは心動かされなかった。
「君は医療者として優秀だ。だが忍びではない」
「ならオレも忍者に…っ」
「そう易々と忍びになれると思っているのか」
ナルトの強い語気に、アマルはすぐさま反応できなかった。
それが彼女の迷いを露わにしていた。
なんせアマル自身が今まで、医療忍者ではなく、あくまでも医者だと名乗っていたのだから。
医者の端くれだと言って医療忍者とは頑なに言わなかった己自身を否定できずにアマルは押し黙る。
ナルトは忍び以外の人間を傍に置くつもりなど毛頭なかった。
正直言って、足手まといに他ならない。
忍びである以上、ある程度の覚悟は持ち合わせてもらわなければ困る。
誰かを殺し、或いは己が死ぬ覚悟。
忍びでない以上、アマルにそういう覚悟が足りないのは明白だ。
その覚悟がない者を傍に置くつもりは微塵も無い。
せっかく念願の『神サマとの再会』を果たしたのに、絶望の淵に沈んだアマルは、無意識に涙を流しながら、「どうして…」と唇を噛み締める。
悲壮感溢れる彼女に、流石に自来也や大蛇丸も同情めいた視線を向けた。沈黙に耐えられなくて、アマルは血反吐を吐くようにして再び、「どうして…!?」と叫ぶ。
涙ながらの訴えに折れたのか、ナルトは溜息をつくと、自来也と大蛇丸へ視線を向けた。
「すまないが、彼女と少し、話をさせてくれないか」
その言葉の響きには、アマルとふたりきりでいる間、この場で待機しろという意味が込められている。
アマルと話している間、この場所からすぐに立ち去るのを良しとしない傲慢な物言いだった。
一刻も早く木ノ葉の里へ向かい、ペインのことを報告したい自来也にとっては拷問にも等しい。
「そんなことが許されるとでも…ッ」
「自来也」
けれどすぐさま、大蛇丸に諫められる。
あの大蛇丸が異様に怯えているその様に自来也が動揺している間に、アマルがナルトの傍へ向かう姿が視界の端に過ぎった。
自分達から少しばかり離れた場所で会話しているであろう二人の話が気になる。
チラリと自来也は大蛇丸へ目線を送った。
大蛇丸なら蛇を駆使して盗み聞きなど容易だろう。
けれど自来也の視線の意図を理解しつつも、大蛇丸は肩を竦めるだけだった。
「どうした。おまえなら…」
「私の蛇ならとっくに首と胴体が別れたわよ」
どうやら自来也が言わずとも盗み聞きさせる為に派遣した蛇は、即座に頭を落とされたらしい。
ナルトの目敏さに舌を巻くと同時に、何もせずに呑気にこの場で待機する時間を惜しみ、自来也はずっと抱いていた疑問を大蛇丸にぶつけた。
「──アイツは何者だ?」
自来也の問いに、大蛇丸はチラリと一瞬流し目を向け、すぐにナルトがいる方向へ顔を向ける。
「愚問ね」
そうして、かつて自分が思い描いていた理想そのものだとでも言うように、蛇に似た切れ長の双眸を眩しげに細めた。
「我々には手が届かない高みの存在よ…」
彼はいつも自分のことを“ただの忍び”だと言うけどね、と告げる大蛇丸の瞳には、憧憬の色が色濃くある。
『忍者とは忍術を扱う者』という見解を持ち、全ての術を知りたい大蛇丸にとって理想の完成形とでもいうべき存在。
その理想形だと、蛇に似たその眼は確かに物語っていた。
後書き
今回は二尾&七尾vsペイン天道&修羅道と五尾vsペイン餓鬼道
場面がころころ変わるので読みにくかったらごめんなさい。
本当は今回で人柱力vsペイン六道、全部書きたかったんですが、長すぎるので切りました。
六尾と、三尾&四尾の戦闘は次回に回します。新年早々、大暴れな巻…
実際人柱力の皆さん、尾獣の力借りなくても十分強い気がします。
ただ、人柱力の皆さんの能力、あまり把握できてないので、捏造も含まれるかもしれない…ご容赦ください~
今年は大変お世話になりました!
来年もどうぞよろしくお願いいたします!!
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