イベリス
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第百三十一話 吹っ切れてその六
「笑えていたらな」
「いいんですね」
「どんなに金持ちになって偉くなっても」
それでもというのだ。
「苦しんで死んだり絶望したりだとな」
「駄目ですね」
「ああ、もうこれ以上はないってまでな」
そこまでというのだ。
「幸せだって思えてな」
「笑って死ねたらですね」
「もうな」
それこそというのだ。
「最高だろ」
「笑って死ぬことですか」
「笑顔でな、だから嬢ちゃんもな」
咲もというのだ。
「やっぱりな」
「先は長いけれどな」
「笑顔で、ですね」
「死ねる様になりなよ」
「わかりました」
咲もそれはと応えた。
「僕も」
「そうしていけよ」
「そうします」
「贔屓のチームだってな」
「私ヤクルトです」
「俺西武だけれどな」
マスターは自分のチームの話もした。
「サッカーは柏でな」
「あちらですか」
「ああ、それでな」
そのうえでというのだ。
「西武が強かった頃はよかったよ」
「広岡さんや森さんの頃は
「最近は折角ペナントを制覇しても」
「クライマックスで負けたりしますね」
「そうなってな」
それでというのだ。
「今一つさ」
「ヤクルトだってそうですよ」
咲はマスターに苦笑いで応えた。
「優勝することはです」
「あまりないか」
「最下位にはなっていないですが」
「巨人がいるからな」
「あそこがいるお陰で最下位はないですが」
毎年勝率一割台で二十年連続最下位である、巨人には夢も希望もないというのが誰もが言うことである。
「けれど」
「ヤクルトはか」
「あまりです」
「優勝出来ないっていうんだな」
「ですから」
「今の西武もそんな風だしな」
それでとだ、マスターは応えた。
「優勝はな」
「難しいですか」
「ああ」
実際にというのだ。
「どうもな」
「西武も頑張ってますね」
「頑張って絶対優勝することはな」
「どのチームも同じですね」
「巨人は何もしてないだろ」
このおぞましさに満ちたチームはというのだ。
「そうだろ」
「だからあんな風ですね」
「弱いんだよ、けれどな」
「それでもですね」
「他のチームはな」
それでもというのだ。
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