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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第8章】なのはとフェイト、復職後の一連の流れ。
   【第4節】意外な取り合わせの合同訓練。(後編)


 こうして、3月24日、一行は予定どおりの時刻に、アルピーノ島の簡易次元港に到着しました。今回は、バムスタールがマイクロバスの運転手を務めます。
 そして、ホテル・アルピーノに到着すると、一行はまず、メガーヌ(戸籍上、47歳)から改めて正式にバムスタール・ノグリザ元陸曹(戸籍上、45歳)を紹介されました。
 元々はクイント准尉の部下だった人物ですが、今でもメガーヌとは完全に「上司と部下の関係」であり、それ以上の人間関係にはなっていないようです。

 メガーヌ「私も8年ほど昏睡していたけど、彼は18年も昏睡していたのよ」
 ティアナ「それで、見た目の年齢が、私たちともあまり変わらないぐらいなんですね」
 ヴィヴィオ(そう言えば、あれからもうじき9年になるけど……イクス、まだ目覚めないのかなあ……。私、もう成人(おとな)になっちゃったんだけど。)

 ギンガとスバルは「母クイントの昔の話」なども聞けそうだと喜んでいましたが、ヴィヴィオは内心とても寂しいものを感じていました。
 一行は続けて、メガーヌから『ルーテシアとファビアは、今ちょっと仕事で首都ベルーラの方へ出払っている』と聞いて、やや落胆したのですが……。
 実を言うと、今年の1月から、「あの」ジークリンデがルーテシアとファビアに保護される形で彼女らの「秘密の別荘」に潜伏(?)しており、メガーヌはこの時、彼女たち三人の「居留守」に協力して、巧みにウソをついていたのでした。
【この件に関しては、「キャラ設定9」を御参照ください。】


 総勢9名の一行は、取りあえずメガーヌの(すす)めに従って、テラスで軽い朝食(?)を取ることにしました。
 そして、その食事が終わる頃、それを見計(みはか)らったかのように、昨日からホテル・アルピーノに滞在していた総勢7名の別グループが、朝の散歩から戻って来ます。
 そのメンバーが、また「とんでもないサプライズ」でした。
 元々こちらに来る予定だった四人組は、コロナ(18歳)とジョルドヴァング(24歳)、ジャニス(21歳)とスラディオ(24歳)の、二組の若夫婦です。
 さらに、途中からこの四人組に合流したのが、ヴィクトーリア執務官(25歳)と執事のエドガー(27歳)と侍女のコニィ(21歳)の三人組でした。

 スラディオは、ジョルドヴァングともよく似た体格の、筋骨たくましい大男です。
 その大男が小児(こども)のような笑顔で、舞台俳優のように大袈裟(おおげさ)な身ぶり手ぶりを(まじ)えながら、一同を代表してこう語りました。
「皆さん、初めまして。私は、スラディオ・サラサールと申します。こちらは、愛妻のジャニス。そちらは、親友のジョルドヴァングとその愛妻のコロナさん。
 そして、向こうにおられるのが、私の遠縁(とおえん)でもあるヴィクトーリア執務官と、その補佐官のエドガーさんとコニィさんです。
 昨日は、私たちもこちらに着くなり、マダム・メガーヌから『明日には、皆さんが来られる』とお聞きして、心待ちにしておりました。皆さんのお話は、コロナさんたちからいろいろと(うかが)っております」

 聞けば、スラディオたち二組の夫婦は、少し気が早いのですが「結婚一周年」を祝い、お互いの予定を合わせて先月の下旬から、スラディオの父親が所有する「自家用船」を借りて、近隣の諸世界を巡る長旅に出かけていたのだそうです。

【サラサール家「第二分家」の当主である「スラディオの父親」は、今年もう66歳で、少し気が早いようではありますが、秋にはもう家督を一人息子に譲って引退することを考えていました。
(スラディオは「4女と1男」の末子なので、親との年齢差が大きく、「3女と1男」の末子であるジョルドヴァングとは、その意味でも「似たもの同士」となっています。)
 しかし、サラサール家が「名門中の名門」である以上、一度(ひとたび)家督を継いでしまうと、もうあまり気軽にはミッドを離れることなどできなくなってしまいます。そこで、スラディオは春のうちに愛妻とともに旅行に出かける計画を立て、親友のジョルドヴァングとその奥方のコロナを誘ったのでした。
(もちろん、バムスタールは『コロナやジャニスが、スバルたちの知り合いである』などとは知る(よし)も無く、ルーテシアたち三人の「居留守」に協力しながらも、この件に関してはメガーヌからサプライズを受ける側の立場となっていました。)】

 スラディオたちは一か月ほど前にミッドを()ち、ルーフェンとセクターティとイラクリオンとラシティを経由して、十日ほど前にはデヴォルザムに到着しました。
 場所は、主にベルカ系の移民が暮らす、第二大陸「ゼーガンスライヒ」です。
 その時点では、まだ『予定どおり、最後はカルナージに立ち寄って、少し遊んでから帰ろう』というだけの話だったのですが、三日前に、東部辺境の視察(?)を終えて州都次元港に戻って来たところで、四人は不意に、現地での仕事を無事に終えたヴィクトーリアたちと出くわしました。
 その遭遇自体は「全くの偶然」だったのですが、そこで、スラディオはすかさず『もしもミッドに戻るのが月末になっても構わなければ、の話ですが』と、自分たちの船に同乗してゆくように、彼等を誘ったのです。
 一方、ヴィクトーリアたちは元々「即時移動」でデヴォルザムに来ていたのですが、『いささか荷物が増えてしまったので、帰りは次元航行船に乗らざるを得ない』という状況でした。報告書の提出などもすでに終わっているので、急いで帰る必要は特にありません。
 そこで、ヴィクトーリアたち三人は、スラディオの厚意をそのままに受け入れ、アペリオン経由で、ここカルナージに立ち寄ったのでした。

 スバル(それで、一昨日(おとつい)になって、急に「他の客が四人から七人に増えた」って話になったのか……。)
 ヴィクトーリア「ティアナさん。お久しぶりですね。こんなところで、また偶然にお会いできるとは思っておりませんでした。(ニッコリ)」
 ティアナ「あんたたち、またデヴォルザムで暴れて来たの?(ゲッソリ)」
 ヴィクトーリア「いえいえ。今回は、そんなに暴れてはいませんよ。場所も第二大陸の方でしたからね。ほとんど話し合いだけで済ませて来ました」
 コニィ「それで、どうにも暴れ足りないから、こちらで少し体を動かしてから帰る、という話になったんです」
 ヴィクトーリア「ちょっと、コニィ。その言い方には問題があるんじゃないかしら?」
 コニィ「でも、要約すると、そういうことですよね?」
 ヴィクトーリア「だから、要約しすぎだと言ってるのよ!」

 ヴィクトーリアはテーブルを平手でバンバン叩きながら、少し声を(あら)らげました。その背後では、エドガーもさすがにちょっと苦笑しています。
【どうやら、この辺りの「ポンコツお嬢様ぶり」は今もあまり変わっていないようです。(笑)】

 コロナ「もう少し要約せずにお話しすると……私たち四人は元々『こちらでは訓練場の(すみ)っこを借りて、スラディオさんがみずから「ジャニスさんの撮影会」をする』というぐらいのことしか考えていなかったんですけど……」
 アインハルト「え? 撮影会ですか?(困惑)」
 スラディオ「私が当主になれば、妻もまた奥方として『家』に縛り付けられる身となってしまいますからね。そうなる前に、妻の『格闘家』としての雄姿(ゆうし)を、もう少したくさん記念に残しておきたいと思ったのです。私は妻との出逢いが『本来の、あるべき運命』よりも随分と遅くなってしまったものですから」
 ティアナ《ええ……。何、言っちゃってるの、この人……。》
 スバル《う~ん。ロマンチストかな?(苦笑)》

 スラディオ「そもそも、君がいけないんだぞ、ジョルド。IMCSにこんなにも(ぼく)好みの女性がいることを、どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ!」
 ジョルドヴァング「いくら(おさな)馴染(なじ)みでも、君の女性の好みまでは把握してないよ!」
 スバル《そう言えば、私もティアの男性の好みとか、把握してないなあ。(笑)》
 ティアナ《しなくていいわよ、そんなの!(怒)》

 聞けば、スラディオは最初からカルナージで「ジャニスの(かたき)役」を演じてもらうために、ジョルドヴァングとコロナをこの旅行に誘ったのだそうです。

【なお、サラサール家の所在地はザスカーラ地方、メルドラージャ家の所在地はクヴァルニス地方で、少々距離が離れているのですが、サラサール家には昔から『男子は里子(さとご)に出して「それなりの家」で育てさせる』という慣習がありました。
 そのため、スラディオも物心つく前から、クヴァルニス地方に住む「分家筋」の、ちょっとした名家に預けられ、義務教育課程を修了するまでは、自分をその家の夫妻の子供だと信じて育ったのです。
 また、その家とメルドラージャ家は「家格」もほぼ同じで、両家は以前から親しく「ご近所づきあい」をしていたので、スラディオとジョルドヴァングはごく自然に幼馴染みとなり、魔法学校の初等科と中等科ではずっと「似た者同士」の親友として過ごしました。

 しかし、卒業後、ジョルドヴァングは管理局の士官学校に進み、一方、スラディオはサラサール家に引き戻されました。
 そこで、彼は苦悩の末に、少年時代の「舞台俳優」や「映画監督」といった夢をすべて(あきら)め、これからは「名門中の名門」であるサラサール家の一員として、その立場に相応の社会的な責任(地球で言う、ノブレス・オブリージュ)を背負って生きて行くという「運命」をそのままに受け入れたのです。
 その際に、両親に対して出した「たったひとつの要求」が『妻だけは自分で選ばせてほしい』ということでした。
(もちろん、もしも「第二分家」ではなく「本家」の方だったとしたら、そんな要求すら認めてはもらえなかったことでしょう。)】

 さらに聞けば、その自家用船は、今はベルーラの中央次元港に寄港させているのだそうです。
それは、悪く言えば、『邪魔者はあらかじめ遠ざけておこう』という意図による措置でしたが、それと同時に、スラディオの『同乗した船員や使用人たちにも、休暇は必要だろう』という優しい配慮によるものでもありました。


「それでは、真面目な訓練は明日からにして、今日はまず撮影会を済ませておこうか」
 ザフィーラの発案で、今回はメガーヌとヴィヴィオも参加することになりました。基本シナリオは「諜報員奪還戦」です。
 それは、本来は『二つのチームに分かれて、互いに相手の陣地の奥から「傷ついて自力では動けなくなった、味方の諜報員」を、先に自分たちの陣地まで連れ戻せた方が勝ちになる』というシナリオでした。
 ただし、今回は「すべてを隠滅しようとする第三勢力」が存在しており、双方に攻撃を仕掛けて来るので、時には共闘が必要になる場合もあり得る、という設定です。
 双方の人数の差も考慮して、ザフィーラとティアナとウェンディとコロナは、「第三勢力」の役を演じることになりました。
 スラディオは私物のドローンを駆使して、純粋に撮影を担当します。

 ヴィヴィオとメガーヌは両手を軽く縛られ、「捕らわれた諜報員」の役となりました。
(この役なら、戦闘ができなくても、シナリオに参加することができます。)
 また、ヴィヴィオの味方は、ギンガとチンクとスバルとアインハルトとミウラの五名で、ギンガとチンクは基本的に攻撃担当(敵陣へヴィヴィオを奪還しに行く役)を、他の3人は基本的に防衛担当(自陣で敵のメガーヌ奪還を阻止する役)を演じます。
 一方、メガーヌの味方は、ジャニスとジョルドヴァングとヴィクトーリアとエドガーとコニィの五名で、ジャニスとジョルドヴァングは基本的に攻撃担当(敵陣へメガーヌを奪還しに行く役)を、他の3人は基本的に防衛担当(自陣で敵のヴィヴィオ奪還を阻止する役)を演じます。
 冷静に考えれば、相当な戦力差ですが、あくまでも「ジャニスの撮影会」が目的なので、敵方が強い方が面白いのです。
(しかも、パワーバランスの悪さは、第三勢力の介入の仕方で、いくらでも調整ができます。)

 そして、いよいよシナリオの開始です。
 まず、コロナは新デバイス〈ブランゼルⅡ〉を使って、ゴーレムを2体、同時に起動しました。『離れた場所からでも、これらをバラバラに動かせる』と言うのですから、コロナの成長ぶりも(たい)したものです。
(ルーテシアさんにも見てほしかったなあ。)
 コロナは10歳の時に、最初のデバイスをルーテシアに組んでもらっており、それだけに、今回は「自分の手で造った自信作」を見てほしかったのですが……残念でした。
 ゴーレムそれ自体には攻撃用の装備など何も無いので、ティアナとウェンディがそれぞれのゴーレムの肩に乗り、二人はザフィーラとコロナの指示に従って攻撃を担当する、という趣向です。

 レイヤーで組まれた「廃墟と化した街」の中で、スバルとアインハルトとミウラは、ノリノリでジャニスとジョルドヴァングを迎え撃ちました。
 もちろん、あくまでも「撮影会」なので、ジャニスが()えるように、ジャニスにはあまり本格的なダメージは与えないように、三人ともギリギリの(ライン)を狙って行きます。
【なお、ミウラは、この頃にはもう「両腕を使った抜刀」も完全に使いこなせるようになっていましたが、当然ながら、この撮影会では「ブレイカー」は封印しています。】

 ジャニスが無事に、メガーヌを抱き(かか)えて自陣に戻って来たところで、撮影会は一旦、終了となりました。
 休憩後、今度は「スラディオのリクエスト」に(こた)えてメンバーを一部交代し、もう少しゴーレムの出番を増やす形で二回目の撮影会を行ないます。
 これで、スラディオは大いに満足しましたが、一日目の午前は本当に撮影会だけで終わってしまいました。(笑)

 昼食後は充分に休憩を取ってから、各人の要望も踏まえつつ、一対一の試合形式での実戦訓練が行なわれました。
 ザフィーラも参加しましたが、さすがに強く、対戦相手はみな、『試合をしている』と言うよりも、むしろ『稽古(けいこ)をつけてもらっている』に近い状況でした。
【ザフィーラの実力は、元々相当な代物でしたが、新暦84年の8月に、例の「強化プログラム」をインストールされて以来、また一段とモノ凄い代物になっていました。
 また、それ以来、彼は戦闘用の能力の他にも、ちょっと変わった「秘密の特殊能力」を身に付けていたのですが……その件に関しては、また第一部で述べます。】

 夕食後の反省会でも、ザフィーラからは一人一人に対して的確な指導がなされます。
 なお、その際に、ザフィーラはジョルドヴァングを「首都警邏隊にはもったいない人材」と評価し、本人に対しても『昔の機動六課のような「独立性の高い少数精鋭部隊」の方が、向いているのではないか』と助言をしました。
 ザフィーラの見立てでは、ミウラもゆくゆくは、そうした部隊に転属した方が良さそうです。

【二日目には、いつものチーム戦をやったり、三日目には、全員でアインハルトの訓練に協力したりもしたのですが……その辺りの描写は書き出すと本当に際限(キリ)が無くなってしまうので、例によって割愛させていただきます。】


 さて、スラディオは元々が戦闘向きの魔法の持ち主ではありません。
 カルナージに立ち寄った「本来の目的」も、24日のうちに充分すぎるほどに(かな)えられてしまったので、25日以降、彼はもっぱらメガーヌやヴィヴィオと親しく話し込んだりしていました。
 その際に、メガーヌはふと「娘から頼まれていた用件」を思い出し、スラディオにも『今、この島は移民を募集中である』ということを伝えます。
 すると、スラディオも『ゼーガンスライヒの東部辺境ならば、この辺りとはせいぜい3時間ほどの時差しかありません。あの土地には、季節の変化の激しさに辟易(へきえき)している人たちも大勢いるようですから、少し呼びかけてみましょう』と約束してくれました。

【結果として、この年の秋頃から、ゼーガンスライヒ(デヴォルザム第二大陸)の東部辺境で厳しい生活を送っていたベルカ系の人々が、少人数ごとにミッド語を習得してはアルピーノ島へ移民して行き、五年後の新暦92年には、この島の人口はついに万を超えることになります。】


 また、スラディオは『どうせ船室など余っているのですから』と、ザフィーラたちにも帰途には「サラサール家の自家用船」に同乗していくよう勧めました。
 スバルたちも下手な遠慮はせず、帰りのチャーター便はキャンセルして、御厚意に甘えることにします。
 そうして、四日目。3月27日(ミッドでは、春分の当日)の朝には、島の簡易次元港に再びサラサール家の自家用船が降り立ち、総勢16名の乗客を乗せて、取りあえずは「ミッド首都中央次元港」へと戻って行ったのでした。


 
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