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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第8章】なのはとフェイト、復職後の一連の流れ。
   【第2節】新暦86年の出来事。(後編)



 また、話は少し(さかのぼ)って、5月のことです。
〈管61スプールス〉の第五大陸では、意外な人物が「自然保護隊」の隊舎を訪れ、現地の部隊長に対し、エリオ陸曹長(21歳)への面会を求めていました。
〈管5ゼナドリィ〉の富豪「モンディアル家」に(つか)える、老執事です。

【なお、ゼナドリィとスプールスを直接につなぐ航路は存在していません。また、民間では、どの会社も「直通便」は就航させていないので、途中のドナリムで一度、次元航行船を乗り換えなければなりません。低速船ならば、ほとんど40時間はかかる道程です。】

 実のところ、「今のエリオ」がモンディアル家で生活していたのは、「ほんの二か月ほど」のことでしかなかったのですが、それでも、その人物の特徴的な顔立ちに、エリオは確かに見覚えがありました。
 もちろん、エリオとしては、今さら会いたくもありません。
 しかし、部隊長からも『是非に』と頭を下げられてしまい、エリオはやむなく、特別室で二人きりになって老執事の話を聞くことにします。
 そして、忠誠心の強い執事は、エリオに次のように語ったのでした。

『奥様は元々あまり体の強い方ではなく、三十を幾つも過ぎてから難産の末にようやく一人の男子を産んだのですが、その際に医者から「二人目は、もう無理だ」と言われてしまいました。
 だからこそ、お二人は「この世でただ一人の息子」のあまりにも早すぎる死を受け入れることができず、その死を隠したまま、とある犯罪組織に違法クローンである「あなた」の製造を依頼したのです。
 もちろん、お二人はあの(あと)、当局からも罪に問われ、自分たちのしたことを激しく悔やみ続けて来たのですが、そうした長年の「自責の念」によるものでしょうか。まだ50代だと言うのに、お二人は昨年から、揃って不治の病にかかり、実を言うと、今ではもう『余命は幾許(いくばく)も無い』という状況なのです。
 しかし、お二人はつい先日、全く偶然にも、「あなた」が今も生きていることを、しかも、立派な管理局員となって、局からも「人間として」認められていることを知りました。
そこで、旦那様は私を病室に呼び、こう語られたのです。』

『お前も知ってのとおり、私たちにはもう身内がいない。法律上、私たちの財産を「当然に」相続できる人間は、このゼナドリィには、もう一人もいないのだ。……しかし、だからと言って、顔を見たことも無いような「遠縁(とおえん)の者たち」に、わざわざ遺言状を書いてやる義理も無い。
そこで、だ。……もちろん、私も今さら「(かね)(つぐな)いができる」などとは思っていない。だが、もしも……もしも「あの子」が私たちのことを許してくれるのであれば……妻ともすでによく話し合ったのだが、私たちは改めて「あの子」を「養子」に迎え、(ほか)ならぬ「あの子」にこそ、私たちの遺産を相続してほしいと願っている。
 彼は今、スプールスの自然保護隊にいると聞いた。そこで、お前には今から彼に会って、何とか話をつけて来てほしいのだ』

 もちろん、エリオは今さらそんな「お涙ちょうだい」な話を聞かされても、全く乗り気にはなれませんでした。
 しかし、部隊長からも『きれいな金は、いくらあっても困ることはないぞ』と説得され、「直接には会わないこと」を条件に、その願いを聞き入れることにします。
 こうして、エリオは改めて、あのモンディアル夫妻の「養子」となったのでした。

 その翌月には、実際に、モンディアル夫妻は仲良く同じ日にこの世を去りました。
 そして、老執事が「複雑な書類手続き」をすべて一人で済ませた後、7月には、エリオは21歳にして、実際に「莫大な額の遺産」を単独で相続したのです。
 相続税などで半分以上はゼナドリィの当局へ持っていかれましたが、それらをすべて差し引いても、実際の相続額は「一般サラリーマンの生涯賃金」の一千倍以上でした。
(日本の感覚で言ったら、ざっと数千億円、といったところでしょうか?)
【なお、エリオは思うところあって、普段づかいの通帳とは別に「ミッドでの通帳」を作り、遺産はすべて、ミッドの通貨に換金してそちらに振り込んでおいてもらいました。(←重要)】

 なお、その際に、老執事は再びスプールスに来て、書類の確認手続きなどをすべて終えてから、最後の別れ際にエリオにこう言い残して行きました。

『今から、秘密の話をいたします。これは、旦那様と奥様が生きていらっしゃった時には、決して口にすることのできなかった話です。私は独り、墓の中まで持って行こうかとも思っておりましたが、お二人に先立たれてしまった今、あなたにだけはお伝えしておきましょう。
 オリジナルのエリオ様は、通常の病気で死んだのではありません。クローンを売り込むために、意図的に病気に見せかけて殺されたのです。
 エリオ様を殺して「あなた」を製造した犯罪組織の名は〈永遠の夜明け〉と言います。旦那様や奥様には秘密にして、私が独自に調べ上げました。
 もしも、この先、あなたが管理局員としてその組織と対峙(たいじ)することがあったら、どうかオリジナルのエリオ様の(かたき)を取ってあげてください』

 老執事は珍しく感情を込めて語っていましたが、それでも、エリオは冷静にこう返しました。
「正直に言うと、ボクの側には、彼のためにそこまでしてあげなければならないほどの義理は無いんだけどね。まあ、一応、話としては聞いておくよ」
 それでも、老執事はエリオに深々と一礼して去って行きます。
 その後、エリオが彼の姿を見ることは二度とありませんでした。

【なお、実際に、その組織を完全に「殲滅」することができたのは、これからさらに16年あまり後のこと。新暦102年の秋、エリオが(戸籍上は)37歳の時のことでした。しかし、それはすでに「この作品の守備範囲」ではありません。】


 また、この年の8月の下旬には、トーマ(20歳)はメグミ(16歳)を連れてヴァイゼンを訪れました。
 メグミの学校(高等科)が夏休みになったので、トーマは両親の命日(10回忌)を好機と見て、両親の身魂(みたま)に『来年には、この女性(ひと)と結婚する予定です』と伝えに行ったのです。
 ところが、現地に着いて見ると、結構な規模の「合同慰霊祭」が(もよお)されていました。それなりの人数が集まっていましたが、慰霊碑には「トーマ・アヴェニール」の名前もあったので、トーマは咄嗟(とっさ)にメグミと口裏を合わせ、二人で「それっぽい偽名」を記帳します。
 ヴィスラス(タウン)の人々は(トーマを除いて)全滅していたので、参列者の中にも「直接の遺族」など、トーマ以外には一人もいませんでした。トーマとメグミ以外は、みな「犠牲者の遠い親戚」や「当時のカレドヴルフ・テクニクス社(CW社)の関係者」ばかりです。
 トーマの素性(すじょう)がバレる心配は、まずありませんでした。

 しかし、トーマはそこで、偶然にも「元CW社の人間同士の会話」を小耳にはさみ、「やや不審な情報」を手に入れてしまいました。
『この鉱山で発掘作業をしていた人々は「スクライア一族」の技術を継承していたという話だが、実は、会長のグレイン・サルヴァム自身もスクライア一族の出身だったらしい』と言うのです。
 そう言えば、トーマは小さい頃、母親から「アンロック」の魔法を習った時に、『この魔法は、私たちのお祖父(じい)さん・お祖母(ばあ)さんが、スクライア一族の人たちから教わった魔法なのよ』と聞かされたことがありました。
 また、トーマは今になって唐突に思い出したのですが、父はよく酒が入った時に、『お前がまだ赤ん坊だった頃のことだ。俺たちの両親が四人そろって落盤事故で死に、次の仕事も見つからずに困っていた時に、あのグレイン会長は「昔の縁故(よしみ)」で俺たちをここへ呼んでくれた。もちろん、「100%の善意」という訳では無かったんだろうが、それでも感謝はしているよ』などと語っていました。
 となると、父が言っていた「昔の縁故(よしみ)」というのも、「元々、同じ一族の出身だった(えん)」という意味だったのでしょうか。
 その合同慰霊祭が(とどこお)り無く終わった後、トーマはメグミには何も知らせぬまま、二人で静かにミッドチルダへ帰りました。


 そして、9月になると、トーマはその件についてユーノ司書長(30歳)に確認してもらおうと、ゲンヤとはやてを経由してアポを取った上で(今はリンカーコアが損傷したまま魔力が全く使えない状態なので)一人で次元航行船の定期便に乗って〈本局〉の〈無限書庫〉を訪れました。
 そこで、トーマはユーノから思わぬ歓待を受けます。

「やあ。よく来てくれたね。実のところ、僕は、君からは深く静かに(うら)まれているかも知れないと思っていたんだが」
「え? 何故ですか?」
「その表情からすると、君の方は本当に気にしていなかったようだね」
 ユーノは思わずひとつ安堵の息をつきました。それから、トーマの疑問に答えようと、こう言葉を続けます。
「いや。五年前のリベルタでの件なんだが……今でも、僕は時おり思うんだよ。もし自分があんなギリギリのタイミングで情報を提示したりしていなければ、リリィ君もいきなりあんな無茶はしていなかったんじゃないだろうか、とね」
「まあ……確かに、彼女のことは思い起こすと今でも結構、(つら)いんですが……それでも、司書長さんからの情報が無ければ、最悪、リベルタで特務六課全体が負けていたかも知れなかった訳ですからね。あの状況であなたを怨むのは、さすがに(さか)怨みというものでしょう」
「君自身の口からそう言ってもらえると、僕としても肩の荷がひとつ下りた気分だよ。……さて、こんな場所(ところ)にまで、はるばる何を訊きに来たんだい? 他でもない君の頼みなら、できる範囲内で大概のコトは引き受けさせてもらうよ」

 トーマとしては、ここまで好意的な態度は予想外のものでした。今までそれほど親しくしていた訳では無いので、正直なところ、もっと雑な対応をされても文句は言えないと思っていたのです。
 そこで、トーマは素直に疑問をぶつけました。
「実は、つい先日のことですが、ヴァイゼンで少しあやしい話を耳にしました。自分の曽祖父母がスクライア一族の出身だったと言うのです。……そこまでは、まだそれなりに信憑性(しんぴょうせい)のある話なんですが……さらには、CW社の会長もスクライア一族の出身だったと言うんですよ。
 真偽のほどは定かではありませんが、妙に気になるんです。もしよろしければ少し調べてはいただけませんか? 確か、曽祖父母の出身地は、マグゼレナだったと聞いたことがあります」

 そこへ、ふとダールヴが顔を出しました。
「ああ。ちょうど良いところに来てくれたね、ダールヴ。紹介しよう。こちらは、五年前の某事件で重要な役割を務めてくれた、トーマ・ナカジマ君だ。……それから、トーマ君。あちらは、なかなか身動きの取れない僕の代わりに、あちこち飛び回ってくれているダールヴ・スクライアだ」
「初めまして、ダールヴと言います。まあ、事実上、ユーノ司書長の従者のような存在だと思ってやってください」
「ああ。どうも、初めまして。トーマです。昔はいろいろありましたが、今はミッドの地上部隊で普通の事務員をやっています」
 そんな挨拶が終わると、ユーノはダールヴに「先程のトーマの話」を伝えました。
「確か、マグゼレナの(あた)りは、君の支族のテリトリーじゃなかったかな?」
「そうです。私たちの支族では、昔から戦災孤児や浮浪児を同族に迎えるのも、さほど珍しいことではありませんでしたからね。私と同じように『あの支族に拾われた』という小児(こども)も、決して少なくはなかったと思いますよ。……ああ。実は、私も7歳の頃まで、ドナリムの廃都オルバランで浮浪児をしていたんです」
 最後の一節は、トーマに向けた説明です。それは、トーマにとっては、少しばかり親近感の湧く話でもありました。

 ちなみに、「スクライア一族の名簿」は五年ごとに管理局に提出され、五十年で公開情報となります。
 しかし、ユーノが実際に名簿を確認してみると、ダールヴの支族の名簿の「新暦元年版」と「新暦6年版」に、「アヴェニール四兄妹(長子ガルムス、長女ロミア、次子タルース、次女ファリア)」の名前は確かにありましたが、「グレイン・サルヴァム」の名前はどこにも見つかりませんでした。
 年齢から考えて、トーマの曽祖父母は、タルースとファリアの方でしょう。
 なお、前5年の版にも新暦11年の版にも、アヴェニール四兄妹の名前は記載されていなかったので、どうやら、彼等は改暦の直前にスクライア一族に加わり、それから十年ほどで一族から離籍したようです。
 一方、グレインは、タルースよりもさらに十歳ほど若いはずですが……似たような時期に離籍した少年は、その支族の名簿の中には特に見当たりませんでした。
 あるいは、同じスクライア一族でも、また別の支族の出身だったのでしょうか。

 結局のところ、その日は、ユーノもただ調査を「約束」しただけでしたが、それでも、トーマは充分に満足してミッドチルダに帰りました。
 そして、ダールヴは早速その調査を引き受け、明日にでも、まずはアヴェニール四兄妹の故郷である〈管13マグゼレナ〉の廃都ディオステラへ向かうことにします。
 しかし、ユーノはふと「嫌な予感」に駆られ、念のため、広域捜査官のギンガとチンクに頼んで「時効成立事件の再捜査」という名目で、護衛を兼ねてダールヴに同行してもらうことにしました。

【実際には、ユーノの「嫌な予感」も、「今回は」杞憂(きゆう)に終わったのですが……ダールヴは、この調査の過程でギンガとチンクからは随分と「人格的に」気に入られたようです。
 調査を終えて〈本局〉に戻る際に、ダールヴは二人から『今後も今回と同じように、ただスクライア一族の出身だというだけでは、現地で調査に協力してもらえないこともあるだろうから、今後、司書長の名前を出しづらい時などには、「広域捜査官の外部協力者」と自称して私たちの名前を出してくれても構わない。ただし、その場合には、事前に一言(ひとこと)、連絡してほしい』と言ってもらえました。
 その後、ダールヴは「広域捜査官の外部協力者」という肩書きのおかげで、ユーノからのいろいろな調査依頼をより手際よくこなせるようになります。】

 今回の調査の結果、アヴェニール四兄妹は、確かに、前4年の「ディオステラの悲劇」における直接の被災者であることが確認されました。
 当時、長兄ガルムスもまだ10歳児でしたが、彼は8歳と5歳と2歳の弟妹を助けて、崩壊した都市の中で生き延び、翌月にはスクライア一族に拾われたのです。

 一方、ユーノも〈本局〉の側で「グレイン・サルヴァム」のことを調べようとしたのですが、彼の素性(すじょう)に関しては、何故か「特秘事項あつかい」になっていることが解りました。
 どうやら、四年前の〈モグニドールの惨劇〉には、一般に知られている事実以外にも、何かもっと重大な秘密が隠されているようです。
【この話は、また「インタルード 第3章」で詳しくやります。】


 また、同じ頃(86年9月)、ミウラ(19歳)はついに「法定絶縁制度」を利用して、実の父母や兄たちと正式に縁を切りました。
 決して『深刻に憎み合っていた』というほどの状況ではなかったのですが、お互いに『もう縁を切りたい』という気持ちがどうにも強くなりすぎてしまったのです。
 これによって、ミウラは遺産の相続権などを失った代わりに、『今後、兄たちの結婚式があろうが、父母の葬式があろうが、それに顔を出す義理は全く無い』ということになりました。

【なお、「リナルディ」は、「ミッドならば、どこにでもある苗字」なので、互いに「あえてそれを変えるほどの必要性」は感じませんでした。
先に「キャラ設定1」でも述べたとおり、ミッドでは「法定絶縁」に際して、一方が苗字を変えてしまうことも決して珍しくは無いのです。】


 さて、話はまた少しだけ遡って、IMCS第34回大会のお話ですが……。
 昨年に続き、「ミッド中央」の地区予選では、またもや大波乱がありました。昨年の優勝者テッサーラ・マカレニア選手(17歳)が、エリートクラスの一回戦で「全く無名」の新人選手ディアルディア・ヨーゼル(12歳)にいきなりKOされてしまったのです。

 ちなみに、テッサーラ・マカレニア選手は、アンナと同じく、「81年のIMCS第29回大会に、12歳で初出場」しました。
(つまり、彼女は、ヴィヴィオやコロナやリオとも同い年です。)
 彼女は非常に優秀な選手でしたが、同時に、コンディションが今ひとつ安定しない選手でもありました。84年にも、ミッド中央の都市本戦で優勝しておきながら、都市選抜では格下の選手(西半部の都市本戦優勝者)に思わぬ不覚を取っています。
 それにしても、86年の地区予選では、彼女は明らかに精彩を欠いていました。
 最初から顔色も悪く、初戦でいきなりKOされた後は、記者会見も何もかもを拒否して試合会場から姿を消し、後に「文書で」運営に競技選手の引退を報告します。
 当然ながら、『出場した時点で、すでにどこか体を悪くしていたのではないか?』との噂も流れましたが、何分(なにぶん)にも彼女は「無所属」の選手であり、DSAAの側にも彼女のプライベートを知る者など一人もいなかったため、真偽のほどは誰にも解りませんでした。

【その後、テッサーラ・マカレニアは五年ほど「消息不明」となった後、新暦91年には首都圏で「薬物中毒による暴行傷害事件」を起こした挙句(あげく)に、逃亡先のパドマーレで自殺(薬物中毒死?)してしまい、今度は悪い意味で再び有名になってしまうのですが……この話は、また「インタルード 第7章」で詳しくやります。】

【なお、このディアルディア・ヨーゼルについても、ここで少しだけ詳しく述べておきましょう。
 彼女は新暦74年の生まれですが、9歳の時に、すでに陸士となっていた兄(17歳)に連れられて、ミッド中央の都市本戦の決勝戦「アインハルト対ミウラ」などを会場で間近に観戦しました。そこで、格闘型の選手同士の力と技の応酬に感動し、自身も中等科の3年間は頑張ってIMCSに出場してみたのです。
 髪はくすんだ金髪で、ややクセ毛です。成人後の身長は170センチほどで、「ベルカ系のミッド人」としては、ほぼ標準と言って良いでしょう。
 戦技は当然ながら格闘術で、地元のスポーツジムで普通に習っただけのストライクアーツです。魔力はそれなりに強い方でしたが、「大人モード」の資質が無かったので、IMCSには当時のそのままの体格で出場しました。
(その代わり、彼女はなかなか希少な「小動物変身」のスキルを持っており、ユーノがフェレットのような姿に変身できるのと同じように、彼女は黒猫のような姿に変身できるのですが、当然ながら、このスキルはIMCSでは使い(みち)がありませんでした。)

 新暦86年の第34回大会では、スーパーノービスクラスで初出場して、二戦目となる「エリートクラスの一回戦」では、優勝候補のテッサーラ選手をKOして不用意に注目を集めてしまったものの、「エリートクラスの二回戦」では、相手選手からガチガチに警戒されていたため、あっさりと判定負けになりました。
 翌87年の第35回大会では、エリートクラスの四回戦(準々決勝)で、一つ年上のエトラ・ヴァグーザ選手と戦い、()しくも判定負けとなります。
 結局のところ、彼女のIMCSにおける総合評価は「それなりに優秀ではあるが、『それなり』でしかない選手」といったところで、三年目に出した最高成績も「地区予選の準決勝でナカジマジムのプラスニィ選手に判定負け」という程度の代物でした。
(それでも、『三回もIMCSに出場して、一度もKOされたことが無い』というのは、なかなか立派な経歴です。)
 しかし、彼女は中卒で陸士訓練校に入り、90年に16歳で故郷ヘレニゼア地方の陸士138部隊に入隊してからは(にわ)かに頭角を現し、同部隊の捜査官を経て、95年の春には21歳の若さで本局所属の広域捜査官(尉官待遇)になりました。
(やはり、「地道な捜査」には、「小動物変身」のスキルは大いに役に立つようです。)
 彼女はそこで偶然にも「同期の広域捜査官」となっていたエトラと再会し、(指導員不足のため?)新人同士でコンビを組まされ、4月の中旬には「いたって地味な初任務」で〈管13マグゼレナ〉の廃都ディオステラへ赴くことになります。
 そのお話は、第二部でチラッとやる予定ですので、この「エトラとディアルディア」のことも、どうぞお忘れなく。】


 一方、昨年のヴィヴィオとコロナの引退によって、ナカジマジム所属のIMCS選手は、今年からアンナ(17歳)と「一卵性双生児のファルガリムザ姉妹」プラスニィとクラスティ(14歳)の三人だけになってしまって、ちょっと寂しい感じでしたが、今年は組み合わせ順にも恵まれて、三人はそろって都市本戦に出場することができました。
 結果としては、アンナは「今のところ自己最高」の3位に入賞しましたが、双子の方は残念ながらベスト8には残れませんでした。
(それでも、翌87年からは、ナカジマジムにもまた新人が増えて、彼女ら三人がナカジマジムを再び盛り上げていくことになります。)

 また、都市本戦が終わった後、アインハルトも「二度目の挑戦」で執務官試験に、今度は余裕で合格しました。
 アインハルトは、リグロマ会長に呼ばれてナカジマジムの「打ち上げ会」にも顔を出し、「覇王流の弟子」であるアンナと互いの健闘を(たた)え合いました。


 なお、ノーヴェがミッドに帰って来たのは、それらがすべて終わり、11月も下旬になってからのことでした。
 彼女はすぐに、八神提督と何やら「内密に」連絡を取ります。
 そして、その後、ギンガとチンクも「時効成立事件の再捜査」を無事に終えて、ミッドに戻り、ナカジマ家はまた久しぶりに家族全員がミッドに揃ったのでした。


 また、管理局では、半年に一度、ベルカ世界で発掘調査などに(たずさ)わっている現地在住の人々の健康のために、大規模な「定期健診」を実施していました。
 12月には、そのための医療船団がまた〈本局〉からベルカ世界へと向かいます。
 そして、今回は、シャマルもはやてからの「秘密の指示」に従って、そのうちの一隻に乗り込んでいたのでした。
【そして、翌87年1月、シャマルは「とある人物」を秘密裡に一隻の小型船に乗せて、(ひそ)かに〈本局〉へと帰投します。】


 また、同12月、アインハルトはフェイト執務官の(もと)を離れ、執務官研修のために〈本局〉へと向かいました。すなわち、事実上の「補佐官卒業」です。
【そして、翌年の4月には、アインハルトは正式に執務官となりました。】


 
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