浮気店長の末路

　　　　　　　　　　　　　　　　浮気店長の末路
　そのチェーン店の店長である坂下忍の評判は実に悪い、このことは本社でも有名であった。
「経営はいい加減でさぼり癖はあるし」
「パワハラモラハラの話もあるし」
「特に女癖が悪くて」
「結婚してるのにそうした話が尽きなくて」
「どうしたものか」
「そうですね」
　地域マネージャーの吹石真弓、太く短い眉に二重のキラキラした大きな目に面長で整った形の唇を面長の顔に持つ長い黒髪を後ろで束ねた一七〇の背のスタイルのいい特に胸が目立つ彼女が濃紺のスーツと膝までのタイトスカート姿で言った。
「あの人は昔からです」
「評判悪いですね」
「何かと」
「そうですね」
「そうです、何かあったら」　
　それこそというのだ。
「更迭、最悪です」
「退職ですね」
「それも考えないといけないですね」
「あの人については」
「はい、兎角問題が多いので」
　その為にというのだ。
「何かありましたら」
「その時は、ですね」
「処分も検討しないといけないですね」
「まことに」
「穏健に済めばいいですが」
　吹石は真剣に思っていた、だが。
　ある日坂下の店でトラブルが起こったと聞いて店に駆け付けるとだ。
　バイトの女子高生能登奈緒、小柄で丸い顔にあどけない顔と黒のおかっぱ頭の彼女が必死の顔で言ってきた。
「お客さん同士が喧嘩はじめまして」
「何か取っ組み合いらしいけれど」
「あの通りです」
　店内を指差して話した、見れば実際にだった。
　若い女と中年女が取っ組み合いをしていた、そして叫んでいた。
「忍さんは私と結婚するの！」
「いいえ、私よ！」
「奥さんと別れるって言ってたわ！」
「私にもよ！」
「お二人共店長さんの浮気相手みたいで」　
　能登は吹石に困った顔で囁いた。
「お店に来て店長さんに投げキッス送ったのが同時で」
「それでお互いそれを見て」
「あんた何よってなりまして」
　それでというのだ。
「言い合いになってそれで」
「今ああなってるの」
「はい、そうなんです」
「女癖の悪さで有名だったけれど」
　吹石は坂下の社内での評判のことを話した。
「まさか浮気相手が複数で」
「それでたまたまお店に来まして」
「お互いが気付いてなのね」
「ああなっています」
「それで坂下さんは何処なの？」
　吹石は能登に元凶の所在を尋ねた。
「一体」
「それが騒ぎを見まして」
　能登は正直に答えた。
「本社に用事があるって言われて」
「本社には来てないわよ」
　吹石はその話に眉を顰めさせて答えた。
「あの人は」
「そうなんですか」
「私本社から飛んで来たけれど」
　それでもというのだ。
「全くね」
「じゃあ何処に」
「雲隠れしたわね、それなら」
「それなら？」
「兎に角このままだと他のお客さんに迷惑がかかるから」
　それでというのだ。