仮面ライダーAP
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聖夜編 悪魔の影と騎士の絵本 後編
前書き
◆今話の登場人物
◆亜灰縁
アメリカ合衆国・ノースカロライナ州に位置する大規模研究施設「ニノマエラボ」の研究員であり、ジャスティアドライバーの開発者・一光博士の助手を務めている怜悧な美女。ジャスティアライダー達の問題行動が露見しないように情報を陰から操作し、対策室の捜査を密かに撹乱していた。当時の年齢は20歳。
※原案はX2愛好家先生。
◆???/仮面ライダーマレコシアス
ジャスティアドライバーの適合者であり、新世代ライダー達とは異なる枠組みで暗躍している「ジャスティアライダー」の1人。数多の実戦を経験して来た元傭兵であり、「冬来たりなば春遠からじ」を座右の銘とするミステリアスな女性。狼と聖職者をモチーフとするジャスティアタイプ35番機「仮面ライダーマレコシアス」を任されている。当時の年齢は25歳。
※原案はアルキメです。先生。
「こいつッ! ……はあぁッ!」
「ガァア……ァアッ!」
突如蘇り、背後から立ち上がって来た構成員。その影に気付いたヘレンは、咄嗟に後ろ蹴りを繰り出す。
条件反射で振るわれた長い美脚が、構成員の腹部に直撃した。その反動で、釣鐘型の爆乳と安産型の巨尻がどたぷんっと弾む。
「ウゴォアァ、アァッ……!」
「……ッ! こいつ、まだッ……!」
真凛に鍛え上げられたヘレンの蹴りは、並の人間なら一撃で昏倒する威力だ。しかし、突然変異を起こしたこの構成員を仕留めるには至らなかったらしい。
彼女の蹴りで吹っ飛ばされ、地を転がった構成員は、近くに居た警察官達に襲い掛かろうとしていた。
「う、うわぁああ! こ、こいつまだ生きてっ……!」
「う、撃て撃てぇえっ!」
「なっ……こ、こいつ効いてないのか!? 銃で撃たれてるのに、何で止まらないんだよっ!」
改造人間の「失敗作」ばかりが集まっているノバシェードにおいて、並々ならぬポテンシャルを有している数少ない個体。その一つだった構成員は、生ける屍のような挙動で警察官達に迫ろうとする。警察官達も咄嗟に拳銃で応戦するが、動揺しているせいで狙いが定まっていないのか、急所を外し続けていた。
「皆、危ないから下がって! ここは私達、ノバシェード対策室が引き受けるわ!」
「こういう輩の相手は……俺達の方が『専門』だからなァッ!」
だが、ノバシェード対策室の特務捜査官達は違う。即座に振り返ったヘレンとビリーは、凶悪な貌でこちらに迫って来る構成員に怯むことなく、冷静に愛銃を構え直している。ヘレンのワルサーPPKは眉間を、ビリーのコルトパイソンは心臓を狙っていた。
「ガァ、アッ……!?」
すると、その時。「赤い炎」と「蒼い氷」が突如視界に飛び込み、2人の眼前で爆ぜた。次の瞬間、構成員の身体が2度に渡り「痙攣」し、足を止めてしまう。まるで、何者かに「狙撃」されたかのような動きだ。
(……ッ!? 今のは何だッ!? しかも、奴の動きが……どういうことだ……!?)
(分からないけど……狙うなら今しかないわねッ!)
何が起きたのかは分からないが、これは確実に構成員を仕留められる最大の好機。決して外すわけにはいかない。ヘレンとビリーは互いに頷き合いながら、それぞれの愛銃の引き金に指を掛ける。
「ビリー!」
「分かってる、心臓は任せろッ!」
その直後、2人の銃口が同時に火を噴く。狙い澄ました一撃は二つの急所を瞬時に撃ち抜き、このゴミ捨て場を再び鮮血で染め上げていた。
「ヴガァアッ、ァッ……!?」
「……俺達からのささやかな『クリスマスプレゼント』だ。ありがたく味わいな、化物野郎」
ノバシェードに対抗するため、「禁じ手」である.44マグナム弾を使用出来るようにカスタマイズされている、ビリー専用のコルトパイソン。
その火力は、「失敗作」の改造人間が相手なら十分に通用するのだ。今度こそ確実に「とどめ」を刺された構成員は、2人に向かってもがくように両手を伸ばし、膝から崩れ落ちて行く。
「悪魔だろうと何だろうと……私達は、絶対に退かない」
「あぁ。……それが俺達、ノバシェード対策室だからな」
2人の呟きは、自分達に「忠告」して来た「声」に対する宣戦布告でもあったのだろう。毅然とした表情で構成員の「最期」を見届けたビリーとヘレンは、静かに愛銃をホルスターに収めていた。2人の鮮やかな早撃ちに、周りの警察官達も息を呑んでいる。
(それにしても、さっきの構成員の動き……あれは間違いなく……)
(えぇ……あれは確かに、誰かに撃たれた時の動きだった。それも……この雪の中で、銃声が聞こえないほどの遠距離から……連続で2発。まさか、さっきの「声」の主の仕業なの……?)
(構成員がぐらつく直前、俺達の前に飛び込んで来た「炎」と「氷」……あれは何かの見間違いなんかじゃねぇ。一体、何がどうなっていやがる……!?)
一方。ビリーとヘレンは、自分達にチャンスを与えた構成員の「異変」に思考を巡らせていた。あれは明らかに、どこかから「狙撃」された時の挙動だった。
しかし、警察官達が狙撃手を呼んだという情報は入っていない。ケージもオルバスも、長距離から狙撃出来る装備など持っていないはず。何より――視界が悪くなっているこの雪の中で、銃声も聞こえて来ないほどの遠距離からの狙撃など、並大抵の技量では到底不可能だ。
ならば先ほどの「異変」は、何者の仕業だったのか。視界に飛び込んで来た「赤い炎」と「蒼い氷」は、一体何だったのか。その真相を探し求めるように、ビリー達は警戒を解くことなく、鋭い眼差しで周囲を見渡し続けていた。
「……」
――そんなヘレン達の様子を、遠く離れたビルの屋上から静かに見つめている、1人の女性が居た。風に靡く長い髪からは、艶かしい女のフェロモンが振り撒かれている。
しなやかな曲線を描いた優美な肉体を白衣に包む、絶世の美女。その白く瑞々しい柔肌から滲む甘い匂いが夜風に流され、マンハッタンの空に漂っていた。
黒と白が入り交じり、腰まで伸びているロングヘア。その長髪を夜風に靡かせている彼女は、白く艶やかな手指で耳元の髪を掻き上げ、宝石のような瞳を鋭く細めている。その鋭利な眼差しは、氷のように冷たい。
「……まぁ、この程度の『忠告』で引き下がるほどお利口な方々ではありませんよね。あなた方……ノバシェード対策室は」
彼女の名は、亜灰縁。悪魔の力を持つ影の戦士――ジャスティアライダー達の背後に立つ、闇の研究者であった。1杯のホットコーヒーを嗜んでいる彼女は、特務捜査官達の諦めの悪さにため息を吐いている。
「……」
そんな彼女の隣に立っているもう1人の人物も、ヘレンとビリーを穏やかな佇まいで見据えていた。鉄仮面に隠されているその表情は冷たくもあり、優しげでもある。
「狼」と「聖職者」を想起させる意匠を持った外骨格を纏っている、謎の人物。彼女もまた、悪魔の力を宿したジャスティアライダーの1人だ。
2本の鋭い牙を彷彿させる独特の顎部装甲。赤と青に輝くマスクアイ。十字型のフェイスシールドに、関節部各所に装着された十字型のパーツ。深青色のラインが走る、赤紫を基調とした流線形の外殻。白い模様が入れられている。布形状の腰部装甲。
狼の如き荒々しさと、聖職者のような洗練さ。相反するその二つが混じり合った姿形は、悪しき力を正しき道のために振るう、「仮面ライダー」の生き様そのものを体現しているかのようであった。
「……射撃の精度、反応の速さ、体術の冴え、躊躇の無さ。確かに、戦闘技術は申し分無い。けれど……直前まで奴の『変異』に気付けなかった詰めの甘さは致命的だ」
仮面の下から、くぐもった女性の声が響いて来る。それは、数多の戦場を潜り抜けて来た元傭兵としての分析。そして、改造人間の力を己の肌で思い知って来た戦士としての、忌憚のない意見だった。
弱者は戦場に立つべきではない。戦場の弾雨は全て、戦士である自分が全て受け止める。その確固たる信念に基づき、ノバシェードと戦って来た彼女としては、ビリーとヘレンは放って置けない存在だったのだろう。
「ハッキリ言って、彼らではこれ以上の戦いには付いて来れないだろう。彼らは……これ以上、前に出て来るべきではない」
彼女の両手に握られている、十字架型の2丁拳銃。その銃口から放たれた「炎」と「氷」のエネルギー弾が、変異した構成員を遠方から「狙撃」していたのである。人知れずヘレンとビリーを手助けしていた彼女は、2丁拳銃をくるくると回転させて腰に収めながら、静かに踵を返していた。
「一応聞きますが、その動作に何の意味が?」
「……『カッコイイ』だろう?」
「はぁ……相変わらず理解に苦しむことを言いますね、マレコシアス。遊んでいる暇があるのなら、あなたも直ちに動いてください。数時間前、ワシントンD.C.でコブラ型怪人が確認されたとの情報が入っています」
彼女の背中を流し目で見遣る縁は、桜色の艶やかな唇を開き、ため息混じりに「次」の出動命令を告げる。どうやら、ノバシェードの構成員達は他の都市でも暗躍しているらしい。扇情的な唇をコーヒーカップに寄せる彼女は、冷ややかな眼差しで「マレコシアス」という戦士の背中を射抜いていた。
「世間はクリスマスだというのに、ノバシェードも働き者だね。了解、すぐに向かう」
縁の冷たい声を背に受けた仮面の戦士――ジャスティアタイプ35番機、「仮面ライダーマレコシアス」。彼女は縁の指令に頷きながら、颯爽とビルの屋上から飛び降りて行く。軽やかに地上に降り立った彼女の眼前には、路肩に停められた1台のオートバイがあった。
狼の頭部を模したフロントカウル。その額に十字架の紋章が刻まれている、専用のオフロードバイク「ヴォルフクロッサー」。赤紫を基調とするその愛車に跨ったマレコシアスは、ハンドルを握り締めエンジンを始動させていた。車体後部のマフラーが火を噴く瞬間、彼女を乗せたマシンはマンハッタンの道路を勢いよく走り抜けて行く。
「……冬来たりなば、春遠からじ。いつか春が来ると思えば……この風も悪くない」
全身で冬の風と雪を浴び、仮面の下で頬を緩めるマレコシアス。彼女は次の戦場を目指し、聖夜の大都市を駆け抜けて行く。規格外の馬力を誇るヴォルフクロッサーは、瞬く間に最高時速の500kmに到達していた。その行き先を知るのは当人と、同質の力を持った悪魔達のみであった。
常軌を逸するヴォルフクロッサーの加速。その疾さが齎す猛風は、路傍に捨てられていた新聞紙を舞い上げている。その紙面には、新世代ライダー達の功績を綴る記事が載せられていた。
「さぁ……行こうか、ヴォルフクロッサー。私達にはまだ……やるべきことがある」
連日のようにメディアで報じられる、新世代ライダー達の華々しい活躍。その裏側で、人知れず悪魔の力を振るう闇のジャスティアライダー達。彼らの「暗躍」はまだ、始まったばかりなのである。
◆
――その頃。クリスマスパーティーがお開きとなったケンド家の寝室では、ベッドの温もりに包まれたモリーが寂しげな表情を浮かべていた。
そんな愛娘の側に寄り添うビリーの妻は、愛おしげな表情でモリーの頬を撫でている。僅かな灯りが、壁に飾られた新世代ライダー達の絵を照らしていた。
「パパとヘレン、大丈夫かな……。真凛みたいに……居なくなったり、しないよね……?」
「大丈夫よ、パパもヘレンもとっても強いんだから。……さ、そろそろ寝ましょうか」
真凛の失踪を察しながらも、父に心配を掛けまいと口を噤んでいたモリー。その頭を優しく撫でるビリーの妻は、娘を寝かし付けようとしていた。
しかしモリーの視線は、今年のクリスマスプレゼントである1冊の絵本へと向けられている。11年前の2009年頃に発売されて以来、密かに人気を集めている「隠れた名作」らしい。
「ねぇ、ママ……あの絵本、読みたいな」
ヘレンがこの日のために用意していたその1冊は、モリーが以前から欲しがっていた絵本なのだ。ヘレンからの贈り物だと察していた彼女は、少しでも「姉代わり」になるものを近くで感じていたかったのかも知れない。
「……そうね、そうしましょう。せっかくのクリスマスプレゼントなんだから」
そんな愛娘の胸中を悟っていたビリーの妻は、モリーの小さな身体を抱き寄せながらゆっくりと絵本を開く。そこに描かれていたのは――友との悲しい別れを経験しながらも、その友の願いを叶えようとする勇敢な騎士達の御伽話だった。
◆
むかしむかし、とおいくに。そこには、くにをまもるゆうかんなきしたちがいました。
あるとき、ひとりのきしがいいました。「ぼくは、このくにをまもれるつよいちからがほしい」。けれどそれは、とてもおそろしいのろいのちからのことだったのです。
ほかのきしたちはもちろんだいはんたい。それでも、そのきしはちからをもとめてたびだってしまいました。
そして、そのきしは、おそろしいすがたのひとくいおにになってかえってきたのです。きしは、なかまたちのこともわからなくなっていました。
なかまたちはおどろき、かなしみ、おにになったきしをやっつけてしまいます。
くにをまもれるつよいちから。それをほんとうにもっていたのは、のろいになんかたよらない、このくにのきしたちだったのです――。
後書き
今回のお話は、番外編「クリスマス・ライダーキック」と連動している夜戦編の最終話の「直後」を描いた物語となりました。あまりにも元ネタが露骨なビリー捜査官をゲスト主人公に据えつつ、ノバシェード対策室の人間模様をちょっこし掘り下げたエピソードとなっております(*^ω^*)
次回は、本編開始から7年前の2009年を舞台とする「前日譚」になります。どうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
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