仮面ライダーAP
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聖夜編 悪魔の影と騎士の絵本 前編
前書き
◆今話の登場人物
◆ビリー・ケンド
ノバシェード対策室のベテラン特務捜査官であり、ニューヨーク市警から対策室に抜擢されたマグナムリボルバーの名手。真凛・S・スチュワートとは同期であり、彼女が対策室を去ってからもその身を案じ続けている人情家。「仮面ライダーアスモデイ」こと暁月レイラが起こした殺戮事件の捜査を担当していた。使用銃器は.44マグナム弾を撃てるようにカスタムされた専用のコルトパイソン。当時の年齢は29歳。
◆モリー・ケンド
ビリーの愛娘であり、ヘレンと真凛を姉のように慕っている可憐な美少女。まだ幼いが利発であり、ヘレンと真凛の事情を悟りながらも心配を掛けまいと涙を堪えていた。新世代ライダー達のファンでもあり、ケンド家には彼女が描いたライダー達の絵が飾られている。当時の年齢は9歳。
◆ヘレン・アーヴィング
ノバシェード対策室の若き特務捜査官であり、真凛・S・スチュワートの跡を引き継いだ新進気鋭のアメリカ人美女。元同僚であり師でもあった真凛の分まで、ノバシェードを追い続けている才媛。使用銃器は真凛から譲り受けたワルサーPPK。当時の年齢は20歳。
スリーサイズはバスト106cm、ウエスト61cm、ヒップ98cm。カップサイズはJ。
『……何ですって? ケージとオルバス以外の『仮面ライダー』が、このニューヨークで目撃されている……?』
――2020年12月25日。仮面ライダーケージと仮面ライダーオルバスが逃走中の蜘蛛型怪人を撃破し、ノバシェードのニューヨーク支部を壊滅させていた頃。
ノバシェード対策室の本部が設置されている高層オフィスビルで、独り事務作業に没頭していたヘレン・アーヴィングは、同僚の特務捜査官から掛かって来た電話の内容に眉を顰めていた。
『そんなはずはないわ。他の新世代ライダー達は全員、他の現場に散っているはずよ。どうせあなたのことだから、市警に配備された試作量産型と見間違えたのでしょう? 馬鹿なこと言ってないで、今夜くらいは家族と一緒に居てあげなさい。あなたが担当していた事件の記録なら、私が代わりにチェックしておくから』
新世代ライダーの一員ではなく、対策室のデータベースにも無い謎の「仮面ライダー」。そんな得体の知れない影が、ニューヨーク市内で目撃されている。その荒唐無稽な内容にため息を吐くヘレンは、取り付く島もなく一方的に電話を切ってしまう。
「おい、待てよヘレン! 本当なんだって! 俺も目撃者達の写真を確認したが、フェイクの痕跡なんて無かったんだ! あれは間違いなく――って、ちょっ!? ああクソッ、アイツ切りやがった!」
その電話の相手だった同僚の男性――元ニューヨーク市警のビリー・ケンド捜査官はスマホを握り締めたまま、困り果てた様子で声を荒げていた。口髭を蓄えた、筋骨逞しい強面の色男だ。彼は同僚の身を案じるように、自宅の窓から外の夜景を見上げている。
マンハッタン区の住宅街に位置する一軒家で、家族と共にクリスマスの夜を過ごしていたビリー。彼は目撃者達から寄せられた情報をヘレンに報せようとしていたのだが、どうやらまともに相手にして貰えなかったようだ。パーティーを楽しんでいた彼の妻子も、心配そうにその様子を見守っている。
「あなた、ヘレンは何て……?」
「馬鹿なこと言うなってさ。全く、最近のアイツには参ったよ。独りで思い詰めてどんどん突っ走ってしまう。先輩の悪い癖が移っちまってるみたいだ」
ヘレンの友人でもある妻の言葉に、ビリーは深々とため息を吐く。問題行動の累積が原因で対策室から除名され、行方を眩ましてしまった元同期――真凛・S・スチュワート。彼女のことを気に掛けていたビリーは、その後輩であるヘレンの今後も案じている。
(シャドーフォートレス島の時だって、かなり危うい捜査だったはずだろうに……無茶なところばかり真凛に似やがって。その上、俺が担当していたあの事件の記録まで見ようだなんて……心配するなっていう方が無理な話だぜ)
「仮面ライダーアスモデイ」こと暁月レイラが数ヶ月前、北欧某国で起こしていた凄惨を極める殺戮事件。その捜査を担当していた彼は当然、悍ましい「現場」の惨状を目の当たりにしていた。
地面を染め上げる夥しい鮮血と、漂って来る強烈な血の匂い。その光景と死臭は、今もビリーの脳裏と嗅覚に深くこびり付いている。同行していた同僚達の多くは、この事件に直面したことで精神に深い傷を負い、今も現場に復帰出来ていない。
それほどまでに酷い事件の記録を、自分に代わってチェックしているヘレンの心労を思うと――否応なしに胸が締め付けられてしまう。
(ヘレン……)
このような世の中だからこそ、少しでも家族と共に過ごせる時間を大切にしなければならない。そうと頭で理解していながらも、ビリーはヘレンの胸中に胸を痛め、眉を顰めていた。
「パパ……ヘレンと真凛、今年はパーティー来れないの……?」
「あ、あぁ……ごめんな、モリー。2人は、その……今はちょっとお仕事が忙しいんだ。寂しい思いをさせてしまって、済まないと思っている。だがどうか、分かってあげて欲しい。これも……世界の正義を守るためなんだよ」
一方。父の背中を寂しげに見上げる幼い少女――モリー・ケンドは、去年のクリスマスにヘレンと真凛から貰ったクマのぬいぐるみを抱き締め、幼気な瞳を潤ませていた。父に心配を掛けたくないという気持ちと、胸に募る「寂しさ」が鬩ぎ合っているのだろう。
彼女は父と肩を並べている新世代ライダー達のファンでもあるらしく、リビングの壁には彼女が描いた仮面ライダータキオンや、仮面ライダーオルバスの絵が飾られている。自分達の仕事に理解を示し、応援してくれている愛娘の瞳に、ビリーは苦々しい表情を浮かべていた。
「私……2人に、会いたかった……元気な姿、見たかったな……」
「あぁ、そうだよな……パパも同じ気持ちさ。いつか平和になったら、その時はまた……昔みたいに、皆で遊ぼう。真凛も、ヘレンも一緒だ」
頻発にケンド家に遊びに来ていたヘレンと真凛は、モリーにとっては歳の離れた姉のような存在だったのだ。そんな2人がこの場に居ない寂しさが、その可憐な貌に顕れている。愛娘の涙を目の当たりにしたビリーは悲しげに眉を寄せると、片膝を着いて我が子を優しく抱き締めていた。
「……うん、分かってる。パパもヘレンも真凛も、今は……悪くて怖い人達から、皆を守るために戦ってるんだよね」
「モリー……」
「だからね、パパ。私、来年もずっと良い子にしてる。そしたら、またサンタさんにお願いするの。今年はちゃんと、皆揃ってパーティーしたい……って」
「あぁ、あぁ……そうだな、来年はそうしよう。大丈夫だ、サンタさんはきっと叶えてくれる。その頃にはきっと、世の中も平和になってる。真凛だって……絶対、帰って来るさ」
幼いなりにも、ヘレンと真凛の事情を気遣っているのだろう。モリーは涙を堪えるように唇をきゅっと結び、来年のクリスマスに想いを馳せていた。そんな愛娘の姿に胸を打たれたビリーは、口髭を擦り付けるようにモリーに頬擦りしている。
(……真凛。例え離れ離れになっても……俺達は仲間だ。そうだよな……?)
対策室の一員として、共に幾つもの死線を潜り抜けて来た、かつての同期。そんな真凛の行方に思いを馳せるビリーは、愛娘を抱き締めながら遠い眼差しで窓の向こうを見つめていた。
脳裏に過ぎるのは、屈託なく戦友達と笑い合っていられた日々。人ならざる怪物達との戦いの中だからこそ輝く、仲間達との思い出。それが少しずつ「遠い過去」になって行く感覚に、ビリーは寂寥感を覚えていた。
「……ん?」
するとその時、ビリーのスマホから着信音が鳴り始めた。画面に表示されたのは――ニューヨーク市警に居る飲み仲間の名前だ。今はそれどころではないのに、とため息を吐きながら、ビリーはその通話に出る。
「なんだお前か、一体どうし……なにッ!?」
そして――思いもよらぬ「殺人事件」の発生に、驚愕の声を上げるのだった。
◆
対策室の本部がある高層オフィスビル。そのすぐ近くにある路傍のゴミ捨て場に、ノバシェード構成員の死体が遺棄されているというのだ。
「これは……」
パトカーのサイレン音が辺りに響き渡る中、通報を聞き付けた警察官達がゴミ捨て場に集まっている。市警時代の仲間達と共にその現場に急行していたビリーは、死体に残されていた凄惨な傷跡に眉を顰めていた。特務捜査官としての「勘」が、警鐘を鳴らしているのだ。これは只者の仕業ではない、と。
「ビリー! モリーのことは大丈夫!?」
「あぁ心配要らない、ウチのカミさんが付いててくれてる!」
そこに、ビリーが着ているものと同じトレンチコートを羽織ったヘレンが、ブロンドのショートヘアを靡かせて駆け付けて来る。あまりの「豊満さ」故にコートの前を閉められなかったのか、100cmを超える釣鐘型の豊満な爆乳は、ばるんばるんと上下に揺れ動いている。
「悪かったな、ヘレン。せっかく家族の時間を作ってくれてたってのによ」
「いいえ、気にしないで。それより状況は……?」
「……見ての通りだ、酷いもんだぜ」
周囲を警戒していた現場の男性警察官達が、ヘレンの美貌とスタイルに思わず目を奪われる中。屈託ない様子で「戦友」と合流したビリーは、彼女と共に現場を確認し始めていた。
改めて死体を目の当たりにしたヘレンも、死体の様子に思わず顔を顰めている。片膝を着いて死体の状況を確認する2人の捜査官は、共に鋭く目を細めていた。
「確かに……これは間違いなく、ノバシェードの戦闘員だわ。改造人間の兵士を、一体誰が……!?」
「見ろよ、側頭部に等間隔で並んだ3箇所の刺し傷がある。まるで真横から、三叉の槍でブッ刺されたような傷跡だ」
死体に遺されていた「外傷」は、頭部にある3箇所の刺し傷のみ。それ以外には傷らしい痕跡はなく、着衣の乱れもほとんど見られない。つまりこの構成員は、衣服が乱れるほど動く暇もなく――まともに戦う暇もなく、何者かに殺されたのだ。
「……改造人間の戦闘員を、抵抗する機会も与えずに一瞬で刺殺……か。当たり前だが、只者の仕業じゃねぇ。並の腕力と武器じゃあ、改造人間の頭部をブチ抜くなんて不可能だからな」
「使い手の技量、膂力……それに武器。どれを取っても、『仮面ライダー』に匹敵し得るものであることは間違いなさそうね。しかも現場の足跡を見るに……『実行者』は女性型の外骨格を使っていたようだわ」
兵器としては「失敗作」であるとはいえ、人間を遥かに超えていることには違いない、ノバシェードの改造人間。その身体を持つ構成員が、為す術もなく一撃で即死させられている。
それが意味するものを察していたビリーとヘレンは、互いに顔を見合わせ、眉を寄せていた。雪の凹みから足跡の特徴を看破していたヘレンは、透き通るような碧眼を鋭く細めている。
「……使われたのは三叉の槍。女性型の外骨格らしき足跡……。やはり、ケージとオルバスの装備ではないわね。それに、彼らからの報告にもこの件は含まれていなかった」
「あぁ、それにあの2人はそろそろニューヨークを出た頃だが……コイツは死後1時間も経ってない。まず彼らの仕業じゃあないな」
「じゃあ、まさか本当に……あなたの言っていた『仮面ライダー』が……!?」
ケージでもオルバスでもないのなら、「可能性」は大きく絞られる。ネット上でも話題になっていた、新世代ライダーとは異なる謎の「仮面ライダー」。それが単なる都市伝説の類ではなかったのだという事実に、ヘレンはついに辿り着こうとしていた。
「……!?」
だが、その時。ヘレンとビリーの背後から――凍て付くような「風」が吹き抜ける。その寒気が季節のせいではないことを、2人は捜査官としての直感で悟っていた。これは絶大な力を持った存在が放つ、「殺気」の風なのだと。
さらに。
――止めた方が良いですよ。これ以上、悪魔達の世界に「深入り」するのは。
そんな得体の知れない女性の声が、2人の耳元で囁かれた――ような気がした。聴覚を通り越して、魂に直接語り掛けて来るような声だ。その声の「近さ」は到底、幻聴の類と言えるようなものではない。
鈴を転がすような澄んだ声は、確かに2人の耳に残っている。優雅さと冷たさを兼ね備えた、悪魔の声。そして、僅かに漂う女のフェロモンに混じる、コーヒーの香り。その波紋が、2人の「芯」に伝播していた。
「……ッ!」
「ぬッ……!」
次の瞬間、2人はトレンチコートを翻して腰のホルスターに手を伸ばし、それぞれの愛銃を引き抜く。ヘレンはワルサーPPK、ビリーはコルトパイソン。
それらの愛銃を振り向きざまに構えた2人は――誰も居ない空間に銃口を向けていた。周りの警察官達は何も感じなかったのか、ヘレンとビリーの挙動に困惑している。
「ビリー、今っ……!」
「お前も聞こえたか、ヘレン……!」
「さっきの声は一体……!?」
だが、先ほどの女性の声を確かに聞いていたヘレンとビリーは、戦慄の表情で拳銃を構え続けていた。鼻腔に残るコーヒーの匂いと女の芳香が、幻覚の類ではないのだと確信させる。今の「殺気」を背後から放って来た声の主を探すように、2人の銃口はクリスマスの夜に揺らめき続けていた。
「ヴ……ヴゥ、ガァ、アァアァッ!」
「……ッ!?」
すると次の瞬間、死亡していたはずの構成員が白目を剥いて起き上がって来た。この構成員も、ギルエード事件の時にヘレンが遭遇したものと同じ――「突然変異体」だったのだろう。理性を失った怪物は獣のような雄叫びを上げ、無軌道に暴れ始めていた。
後書き
※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをまたしても再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。改めて、彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m
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