魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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AXZ編
第183話:地に輝く星座を巡って
颯人は何とかカリオストロ、そしてプレラーティからの協力を取り付けた。一時的なものであれ、互いに背中を狙わない間柄と言うのは非常に大きい。だが本当の問題はこれからであった。
「さ~てと。んじゃ、本題に移りますかね」
颯人はコーヒー片手に懐中時計を眺めながら話を切り出した。
「サンジェルマンさんが今どこで何してるか、2人なら知ってるんじゃない?」
そもそもプレラーティは念話でサンジェルマンに対し連絡が取れないからこそ、危険を承知で街中を疾走してサンジェルマンに危険を知らせようとしていたのだ。つまり、少なくともプレラーティは彼女の居場所を知っている。何よりも彼女とは共闘関係を結んでいるのだから、知らないなどと言わせるつもりは無かった。
目の前で地図を広げる颯人を前に、プレラーティも観念したように溜め息を一つ吐くと地図上の一点……鏡写しのオリオン座の一部を指差した。
「ここだ。ここがサンジェルマンが祭壇を設置している場所。彼女は今ここで、最後の祭壇設置の為の作業に追われている筈なワケダ」
「確か、その祭壇設置の為に必要な生命エネルギーが足りてないって話だったな?」
「そうよ。だからあーしはそこの坊やを使おうと思ったのよ」
そう言ってカリオストロが透の方を見れば、クリスが露骨に不機嫌な顔をして犬の様な唸り声を上げて警戒する。もう彼女に――暫くは――敵対する意志はない事を分かっている透はそんなクリスを宥め、険しい視線を向けられているカリオストロは両手を肩の所まで上げ何もしない事をアピールした。
「安心しなさいな。もうその子には手出ししないわ。迂闊に手を出すとまた痛い目に遭わされそうだし?」
そう言えば、カリオストロは愚者の石回収作戦において、透から飛び出したデュラハンファントムにより手痛い反撃を受けていた。別に死にはしないだろうし、戦っても負ける気はしないのだろうが、だからと言って好き好んで無駄に苦労をするのも御免なのだろう。誰だってそうだ。
ちょっぴり剣呑になりかけた空気を紛らわす様に、颯人は懐中時計のチェーンを持ち時計を振り子の様にブラブラと揺らしながら話を戻した。
「ま、重要なのはだ……必要な生命エネルギーを確保できなくなった今、あの人がどんな行動に出るかが問題だわな」
颯人の言葉にプレラーティとカリオストロが無言で頷く。この2人は特に組織の長であるアダムが如何にロクデナシのヒトデナシかをよく理解している。故に、彼が今後どのような判断を下すかは容易に想像がついた。だからこそここは必要以上にふざける事も無駄に周りを挑発する事も無く真剣な表情をしていた。
一方、颯人が吊り下げて揺らしている懐中時計を見てある違和感を覚えた者が居た。颯人と共にカリオストロ達を見張ってやって来た弦十郎と、エルフナインと共に食事の為食堂にやって来たキャロルである。
「ん?」
「どうした? 風鳴 弦十郎?」
「あ……あぁ、いや。何でもない」
弦十郎は颯人が持っている懐中時計を見ても、僅かに違和感を感じた程度でそこまで深くは考えなかった。だが別の角度から見ていたキャロルは話が別だった。
「あれ?」
「どうしたの、キャロル?」
「あの人……颯人が持ってる時計、何処かで……」
キャロルの言葉にエルフナインも颯人が揺らしている懐中時計を凝視する。なかなかに凝ったデザインの懐中時計だ。デジタル時計やスマートウォッチ全盛のこの時代に、あんなアナログな懐中時計自体珍しいのにあそこまで凝ったデザインとなると相当な根が張りそうだ。だが問題はそこではなく、エルフナインもまた颯人が持っている時計に既視感を感じていた。
――何だろう? あの時計、何処かで……?――
違和感の正体を突き止めようとエルフナインが更に近付いて懐中時計を見ようとした矢先、颯人はそれを懐に仕舞ってしまった。それを残念に思う間もなく彼らの話は進んだ。
「つまり、アダムって奴はこのまま行くとサンジェルマンさんを生贄にして計画を最終段階に進めるって事になるのか?」
「恐らく……と言うか、確実にそうなるワケダ。あの男は私やカリオストロの命も計画の礎の勘定に入っていると言った。まず間違いなく、サンジェルマンの命も犠牲にする筈」
「だからこそ、一刻の猶予も無いわ。多分もう、サンジェルマンは最後の儀式の為に動いている」
2人の話に、颯人は顎先を指で撫でた。状況は一刻を争う。悠長にしている場合ではないが、焦ってミスをしては本末転倒だ。現場では恐らくアダムによる妨害か、説得が失敗した場合のサンジェルマンとの戦闘、そしてジェネシスかレギオンファントムの乱入による戦闘が予想される。
「おっちゃん、今すぐ動ける装者って奏とマリア以外だと誰か居る?」
「了子君の報告だと、響君と切歌君、クリス君のギアの反動汚染の除去が間も無く完了するとの事だ。今すぐ、とは言わないが、それでも次の戦闘にはギリギリで間に合うだろう」
「つー事は、こっちの戦力は俺達魔法使い3人に装者が5人、んでカリオストロとプレラーティを含んだ計10人か。うん、何とかなるか」
無論、それは机上の空論に近い。アダムの戦闘力は未知数だし、ジェネシスがどれ程の戦力を投入してくるかも分からない。尤もジェネシスに関してはそもそも介入してくるのかという疑問もあるが、これまでの事件ではここぞと言う大きな戦いにはほぼ必ずと言って良い位奴らは乱入してきた。まるで場を引っ掻き回す様な動きだが、だからこそ今回も何か仕掛けてくるだろうと言う確信があった。
敵戦力には未知数な部分が多いが、それでもこちらだって粒揃い。特に結社幹部の2人の存在は大きかった。この2人の存在は特にサンジェルマンを相手にする時に必ず意味を持つ。
颯人はその確信を胸に、冷めたコーヒーを一気に流し込むのだった。
***
カリオストロとプレラーティにより情報提供された神社は、S.O.N.G.、そして八紘らの調査により敵の最終目標と目された場所と一致した。弦十郎は即座にその場所にエージェント達を派遣。サンジェルマンが来た時の為の警護に当たらせていた。
しかし…………
「うわっ!?」
「ぐっ!?」
神社境内の各所に配置されていたエージェント達は、サンジェルマンの錬金術により次々と分解され生命エネルギーへと変換され無力化されていた。普段の男装とは異なり、裸足の上に白いコートを羽織っただけのサンジェルマンが境内を進む。その後に続くティキは、あちこちから上がる悲鳴を耳に疑問を口にした。
「有象無象が芋洗いって事は、こっちの計画がモロバレって事じゃない? あの2人、連中にチクったんだよッ!」
アダムの計画を邪魔するなんて許せないと地団太を踏むティキ。対してサンジェルマンは、2人が裏切ったかもしれないと言う可能性に対して否と答えた。
「そうとは限らない。あの子なら、こちらの作戦に気付いてもおかしくはないわ。それだけの材料は既に向こうも手にしている筈だし」
実際問題、調神社を訪れて古文書を読み解いた時点でS.O.N.G.は大まかな計画の概要を察していた。だからカリオストロ達の寝返りが無くともここにエージェントを配置していた事は間違いない。だがそれにしたって行動が迅速過ぎる。この状況にサンジェルマンは仲間と思っていた2人に裏切られたのではないかと言う疑念を抱かずにはいられなかった。
――だとしても……もう、私は止まれない。例え1人になろうとも――
孤独な戦いに臨む覚悟を胸に、コートを脱ぎ去り白磁の様な裸体を晒して儀式を行おうとした。
その時である。
「見つけた……見つけたぞ、サンジェルマンッ!」
「ッ!? お前は……!」
茂みの中から現れたのは、目の下に隈を作った痩せぎすの男。レギオンファントムとして各地で騒ぎを起こしていた、レンと言う男であった。
「何故ここが分かったの?」
「見くびらないでくれ。私も、元は君らと同じ錬金術師だったじゃないか」
そう、何を隠そうレンも元は錬金術師。嘗てはサンジェルマンと共にパヴァリア光明結社に身を置く男であった。昔は彼も、組織の計画の一端を担おうと精力的に活動していたのだが、その活動の最中に事故で体内の魔力が活性化。制御できずファントムと化してしまったのである。
人間としての肉体を失い、ファントムとしての意識に完全に乗っ取られてしまったレンは文字通り人が変わり、ファントムとしての欲望……即ち清らかな人間の心を破壊する事に快楽を求める異常者となった。
辛くもファントムと化したレンを追い払ったサンジェルマンは、その後風の噂で彼がワイズマンにより封印されたと言う事を耳にした。嘗ての同志が怪物に身を堕とし、怪物として封印されてしまった事に心を痛めはしたがそれも過去の話である。
「何をしに来た……は、もう今更な質問ね」
「そうだとも。今日こそは君のその清らかな心、壊してあげようッ!」
レンはレギオンファントムとしての姿となり、サンジェルマンに襲い掛かる。対するサンジェルマンも、素早くスペルキャスターを取り出しファウストローブを纏うと振り下ろされたハルメギドを変形させ剣にしたスペルキャスターで受け止めた。
「お前如きに邪魔はさせないッ!」
「エキサイティングッ! そうだ、それでこそだッ! 己の命を犠牲にしてでもこれまで犠牲にしてきた命に報いようとするその姿ッ! 実に美しいッ!」
激しく戦い始めるサンジェルマンとレギオンファントム。サンジェルマンは剣戟でレギオンファントムの動きを封じると、一瞬の隙を突いて後方に跳躍しつつ肘の銃口からの連続射撃でそのまま相手を釘付けにし、その隙にスペルキャスターを銃に変形させると引き金を引き青い炎の龍の様な攻撃を放つ。迫る炎の龍を前に、レギオンファントムはハルメギドを一閃。発生した赤い亀裂により、サンジェルマンの一撃は容易く防がれてしまった。
儀式そっちのけで戦うサンジェルマンを前に、ティキは人形であるにもかかわらず心底うんざりした様子で頬を膨らませた。
「え~、もう、どうするのよこれ。これじゃ計画が進まないじゃんッ!」
ティキが文句を口にすると、直後直ぐ近くで電話が着信を知らせるベルが鳴り響く。音のする方をティキが見ると、何故かそこにはアンティークなダイヤル式の電話が地面に鎮座している。
それがアダムからの連絡であると気付いたティキは、先程までの不満など何処へ行ったのかと言う様子で受話器を手に取り状況を話した。
「アダム、大変なのよッ! 例の化け物がまた出てきて、サンジェルマンの儀式の邪魔してるのッ!」
『いけないね、それは。ここで彼女に傷付かれては困る。今からそっちに行くよ、仕方ないからね』
そう言って通話を切るアダム。ティキが通話の切れた受話器を置くと、その直後にサンジェルマンと戦っていたレギオンファントムに高速回転する白い帽子が直撃した。
「ぐぉっ!? ぬぅッ!」
「これはッ!」
突然の横槍にサンジェルマンとレギオンファントムが揃って帽子が飛んでいく方を見ると、そこでは空中に佇む白いスーツ姿のアダムが飛んできた帽子をキャッチしていた。
「局長ッ!」
「手を貸してあげるよ。仕方が無いからね。儀式を優先してほしいんだよ、君には」
「……はい」
正直、アダムの手を借りるのは癪ではある。普段ロクデナシと罵り、颯人をも容易く犠牲にしようとする彼の事が信用できるかと言われれば、それは否としか答えようが無い。
答えようが無いが、同時に背に腹は代えられないのも事実。流石にレギオンファントムの相手をしながらでは儀式は行えない。恥を忍び、また虚を突かれる覚悟を持ってサンジェルマンはこの場をアダムに任せた。
ファウストローブを解除し、全裸になるとそのまま儀式を行い始めるサンジェルマン。その身を犠牲にしての儀式により、天に光が昇り地上に鏡写しとなったオリオン座が輝き始める。
このままではサンジェルマンの命が失われる。そうはさせじとレギオンファントムはアダムを抜けるべくハルメギドを構え直した。
「そこを退けッ! あの女の心は俺が壊すッ!」
「させないよ、そんな事は。大事なんだよ、僕にとってもね。仲良くしようじゃないか、同じヒトデナシ同士、折角だから」
儀式が行われ、一触即発の空気となる神社の境内。
今そこに、ヘリに乗った颯人達が向かっているのだが、アダム達はそれを知る由も無かった。
後書き
と言う訳で第183話でした。
今回軽くですが、本作のレギオンファントムの過去を描写しました。物語の本筋にはあまり深く関わる内容では無いのでこれ以上の深堀をするつもりはありませんが、サンジェルマン達が前々からレギオンファントムの事を知っていた理由付けとしてはこれくらいで十分かな、と。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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