魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)
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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
【第6章】なのはとフェイト、結婚後の一連の流れ。
【第1節】新暦82年の出来事。(前編)
前書き
原作の補完や後日譚を終えて、この章からようやく、この作品それ自体としての「本題」が始まります。……我ながら「前置き」が長かったなあ。(苦笑)
なお、この章の内容は、取りあえず「各キャラクターのその後の状況、まとめ」という感じで、かなり雑多な内容となっております。何人かのキャラクターは、早くも「原作の延長線上」からは外れ始めていますが、悪しからず御了承ください。
明けて、新暦82年。
首都クラナガンが「遷都200年祭」で大いに盛り上がりつつある中、まず、この年の3月には、二人の全く対照的な10歳児が聖王教会本部にやって来ました。
一人は「名門ヌエラ家」の息女フェネイザです。
彼女は幼児期から好奇心があり過ぎて、素行にもかなりの問題があったのですが、彼女の父親(50歳)は、この年、父の跡を継いで「ヌエラ家の当主」となると同時に、とうとう匙を投げて、自分の末娘の躾を末妹のシスター・シャッハ(35歳)に「丸投げ」にしたのでした。
もう一人は、ルーヴィ・スパーレスと言います。
彼女は生まれて間もなく、聖王教会系列の「聖スパーレス孤児院」の前に捨てられ、以来10年間、そこで親の名も知らずに育ちました。
しかし、その孤児院がまた新たに何人もの幼児を引き取って「定員オーバー」になると、彼女は『私はもう充分に育ててもらいましたから』と自発的にそこを出て、『ここで働かせて下さい。何でもします』と自身の小さな手で教会本部の門を叩いたのでした。
【後に、シスター・フェネイザは管理局に出向して、そこで幾つもの資格を取るようになります。一方、シスター・ルーヴィは7歳年上のシスター・シャンテの「弟子」となり、やがて彼女と同じ武器を使いこなすようになります。】
また、この新暦82年3月には、ザミュレイ(20歳)はノーザ(22歳)との同性婚によって正式に「ジェガニィ地方の名門」であるハグディ家の一員となりました。
同性婚にも理解のある義父母からは、「変人の末娘」の許にわざわざ嫁いで来てくれた「奇特な嫁」という大変に好意的な扱いを受けて、地平線まで続く広大な敷地の片隅に新築の一軒家を与えられ、『二人はここで仲良く暮らすと良い。別に働かなくても良いから、できれば子供は作っておくれ』と言われて、「怖いほどに何の不自由も無い、愛に満ちた生活」を送り始めます。
【その後、翌83年の5月には、まずノーザが長女を産み、その二年半後には、ザミュレイが次女を産み、二人はそれからも、おおよそ二年半ごとに交代で出産を続け、最終的には二人して6女の母となりました。
なお、二人の長女ヴォナリエは、後に(性格的には、ともかくとして)能力的にはとても優秀な空士になります。】
そして、同3月には、第11代の総代ラプトヴォク・カルヂェティス(68歳、ドナリム人)が、健康上の理由により、退官しました。エクリプス事件による、事実上の引責辞任です。
後任には、中央評議会での議決により、スラウドル・ダヴァーリス大将(57歳、ヴァイゼン人)が選出されました。
【なお、同3月に、レティ・ロウラン提督(55歳、ミッド人)は少将に昇進しました。】
その一方で、ヴィクトーリア(20歳)は、同82年の4月に、やや不本意ながらも叔父ダミアンの少将への昇進と同時に、まずは空士訓練校に入りました。
(なお、「諸般の事情」により、エドガーとコニィが彼女の「固有戦力」という立場で正式に入局するのは二年後、84年の4月のこととなります。)
【そして、ヴィクトーリアは空士訓練校を「半年の短期プログラム」で卒業した後、その年の秋には、執務官の「第一種・甲類」補佐官試験に合格し、翌83年の春からは一年間、実際に「炎の英雄」ラウ・ルガラート執務官(当時、36歳)の許で現場担当補佐官を務め、相当に鍛え上げられることになります。】
また、この年の4月には、「小柄で童顔の」クヴァルゼ・ムルダンも、15歳で地元パドマーレの陸士訓練校に入りました。
【その後、彼女もハリーと同様に、IMCS上位入賞の実力を評価されて、「半年の短期プログラム」で陸士訓練校を卒業した後、いろいろあって一旦は故郷を離れました。
そして、彼女は同82年の秋には、まず三等陸士として首都圏の陸士104部隊に配属され、一年半ほど「デュマウザ捜査官」の直属の部下として経験を積んだ後、84年の4月からは(産休に入ったデュマウザの後を引き継ぐかのように)捜査官となりました。
しかし、翌85年の春には、またいろいろあって故郷のパドマーレに異動となります。
(なお、デュマウザに関しては、「キャラ設定7」を御参照ください。)】
さて、アルト・クラエッタは、機動六課の解散後、ミッド地上本部を経て陸士108部隊に転属していましたが、この年の4月には、ヘリパイロットとしての優秀さを認められ、23歳で陸曹に昇進し、同時に、フォルガネア地方の陸士147部隊に転属となりました。
【そして、翌83年の7月には、彼女は24歳で、同じ職場の三歳年上の「先輩」ボーレン・ブラッソネア三等陸尉と結婚し、84年の8月と88年の10月には、それぞれ男の子を出産することになります。
なお、ルキノ・リリエは、80年の3月に21歳でグリフィス・ロウランと結婚していましたが、その後、83年の2月には男子を、87年の5月には女子を出産しました。
このアルトとルキノも「第二部」でチラッと「二児の母」として登場する予定ですので、どうぞお忘れなく。】
なお、この4月には、アインハルトとミウラ(15歳)は、それぞれ高等科に進学し、ヴィヴィオやコロナやリオやアンナ(13歳)は、それぞれ中等科の2年生に進級しました。
一方、なのはとフェイト(26歳)は丹念な治療とリハビリの結果、この年の4月上旬に、ようやく「肉体的には」完全に回復しました。
そこで、二人はすぐに退院し、入院中に話し合っていたとおり、4月の中旬には多くの仲間たちから祝福を受けて「法的にも正式な結婚」をしました。
(アリサやすずかの結婚からは「一年遅れ」という形になります。)
自分たちの休職期間(リンカーコアの回復までに要する時間)は、理論上、最低でも残り二年半はあるはずなので、なのはとフェイトは『それだけの時間があれば、「申請から認可までと、妊娠の開始から(出産をはさんで)授乳の終了まで」をすべて余裕でやり遂げられるだろう』と考えたのです。
戸籍上、どちらがどちらの籍に入るかで少しばかりモメたりもしたのですが、結局は、フェイトの方が「婿入り」をすることになりました。(笑)
これによって、なのはのフルネームは「高町なのは」のまま、フェイトの戸籍上のフルネームは「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン・高町」になり、ヴィヴィオも戸籍上は「ヴィヴィオ・ハラオウン・高町」になりました。
【以後、多くの人々が「テスタロッサ」をフェイトの「ミドルネーム」と勘違いするようになります。まあ、半分ぐらいは、彼女のことを頑なに「テスタロッサ」と呼び続けていたシグナムのせいなのですが。(苦笑)】
なお、なのはとフェイトが『あまり大きな式にはしたくない』と望んだので、二人の結婚式は、式場の規模それ自体はごく普通の規模となりましたが、当然ながら、その結婚式と披露宴に出席したのは、錚々たるメンバーでした。
まず、六課枠では、八神家の七人と旧六課のフォワード四人組。アルトやルキノやグリフィスの他、レティ提督も仕事の合間を縫って出席してくれました。
親族枠では、クロノ提督とエイミィとカレルとリエラ。さらには、リンディの名代として、アルフも大人の姿でやって来ます。
【地球の「現地駐在員、詰所」を完全に留守にしてしまう訳にもいかないので、今回、リンディは『涙を呑んで』の欠席となりました。ちょうど時間の空いていた士郎と桃子、アリサとすずかも自宅に呼んで、動画のライブ配信で我慢することにします。
なお、リゼル提督も、一応は呼んだのですが、残念ながら、今回はやや面倒な仕事の真っ最中でした。】
次に、聖王教会からは、カリムの名代として、シャッハとヴェロッサ。万が一に備えての「現場警護役」として、セインとシャンテも出席しました。
【カリムとオットーとディードも、一応は呼んだのですが、カリムがどうしても外せない用事で自治領内をあちこち回らなければならなかったので、今回は、オットーとディードもカリムの身辺警護の方を優先させました。】
それから、フェイトの同業者として、ファトラとその使い魔ウェルザ。昨年に結婚したばかりのルキーテとその夫ヴァニグーロ。さらには、サプライズで「炎の英雄」ラウ・ルガラートまでもが二人の補佐官とともに顔を出してくれます。
また、当然ながら、「娘」のヴィヴィオや「幼馴染み」のユーノ司書長や「補佐官」のシャーリーも、出席しました。
他にも、アルピーノ家のメガーヌとルーテシアとファビアや、ナカジマ家のゲンヤと戦闘機人姉妹や、「娘の友人枠」でナカジマジムの面々も来てくれました。
さて、厳粛な儀式の後、披露宴は立食パーティーのような形式となりました。
また、その結婚式と披露宴の出席者の中では、カレルとリエラ(10歳)が最年少者だったのですが、カレルはその席で、アルトとルキノから『全体的に線が細く、体も今ひとつ丈夫ではなさそうに見える』と指摘され、また、この双子が「アンナ(13歳)の学校の後輩」であると判明したことも手伝って、カレルは翌5月から急遽ナカジマジムに通わされることになりました。
【当時、カレルは母親のエイミィとよく似た、やや女性的な顔立ちをした少年で、一方、リエラの方は、祖母リンディにとてもよく似た顔立ちの(髪の色を別にすれば、クローンかと思えるほどによく似た外見の)少女でした。】
一方、アインハルトは、昨年の夏にはヴィヴィオが襲撃されたり、秋には彼女の両親が入院したりして、それ以来ずっと『自分はこのままで良いのだろうか』と考え続けていました。
もちろん、半年前に八神司令から言われたとおり、今しばらくは、もう少し地力を蓄えるべきなのでしょう。また、それとも関連して、IMCSのような公式の陸戦競技会で「覇王流」の強さを世に示すことも、確かに、今はまだ大切なことです。
しかし、これからも末永く、ヴィヴィオとともに人生を歩むのであれば、クラウスのような陸戦の技能だけでは足りないのではないだろうか。「なのはのように」とまでは行かなくても、やはり、ある程度までは空戦もできるようになっておくべきなのではないだろうか。
アインハルトはそんなことを考えていたのですが、実のところ、彼女にとって『空戦の「基礎」を教えてほしい』というのは、意外と周囲に頼みづらい話でした。
なのはやフェイトやはやてのような「オーバーSランクの空戦魔導師」に対してそんな初歩的なことをお願いするのは、さすがに申し訳ない気がするのですが、そうかと言って、他には空戦の得意な知り合いなど、周囲に一人もいなかったからです。
【アインハルトの魔法の術式は「古代ベルカ式」なので、あえて言うならば、同じ術式のシグナムやヴィータから教わるのが理想だったのですが、いかんせん、アインハルトは今まで彼女らとはほとんど面識がありません。】
普段からそんなことを考えていたアインハルトにとって、披露宴の席で、IMCSにも関心が深く、父親譲りの「近代ベルカ式」魔法を使うファトラ執務官(33歳)の方から積極的に声をかけて来てくれたのは、まさに願っても無い展開でした。
相手が非常に好意的な態度なので、思い切って「お願い」をしてみると、ファトラは一瞬の躊躇も無く、快諾してくれます。
「実は、いろいろあって先月の末から『四か月の長期休暇』を取ったんですが……正直なところ、もう早々と暇を持て余してしまっているんですよ」
訊けば、彼女の実家はヴァゼルガム地方の中南部にある大きな牧場で、彼女自身も今はそちらで寝泊まりをしている、とのことでした。
「私も、朝晩には毎日、実家の仕事を少しだけ手伝わなければいけませんし……クラナガンでは、人目も気になるでしょう。もし良ければ、私の実家の方で練習してみませんか。都市部でもなく、丸ごと私有地ですから、牧場の敷地内を飛び回る分には、わざわざ当局に申請して飛行許可など取る必要もありませんよ」
申請の手間を省くことができるというのは、確かに魅力的な話です。
念のため、アインハルトは具体的な場所を尋ねてみました。
「ここからだと、中央幹線で北上し、ゼガラム駅でローカル線に乗り換えて、東へ四つ行ったところが最寄り駅です。急行は止まらない駅なので、乗り継ぎに少し待ち時間が必要になりますが、昼間なら、ここから二時間もはかかりませんよ。もちろん、その駅からは車で送迎します」
アインハルトも、普段から聖王教会本部へ行くには中央幹線を利用しているので、ゼガラム駅の場所ならば解ります。
「それでは、何曜日なら御都合がよろしいでしょうか?」
「休暇中はずっと時間が空いていますから、毎日、通って来てくれても構いませんし、どうせ部屋も余っていますから、何なら泊まり込みで長期滞在してくれても構いませんよ」
「そこまで言っていただけるのは、本当にありがたいのですが、平日はまだ学校がありますので、さすがに休み続ける訳には……」
アインハルトが、いかにも申し訳なさそうな口調でそう言うと、ファトラは一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべてから、一転して少し慌てた口調で応えました。
「ああ、そうか! 高等科にまで進学しているんですね。……すいません。私は自分が中等科しか出ていないものですから、15歳と聞いて、てっきり『もう教育課程は修了したのだ』とばかり思い込んでいました」
こうして、アインハルトは、これからIMCSの地区予選が始まるまで三か月あまりの間、『毎週五曜日の午後にはファトラの実家を訪れて泊まり込み、六曜日は朝から晩まで空戦の基礎訓練をする』という生活を続けることになったのでした。
(平日には、もちろん、ジムの方でIMCS選手としての鍛錬も続けています。)
あまりにも自分にばかり都合の良い状況なので、アインハルトも2週目には、さすがに心苦しく思い、『本当に何か対価を支払う必要は無いのですか?』と問うたのですが、すると、ファトラは「実に、にこやかな口調」でこう答えました。
「そこまで仰るのなら、いずれ体で支払ってもらうことにしましょう」
その時点では、アインハルトも『何か、牧場の方で肉体労働でも手伝わされるのかな?』ぐらいのことしか思いつかず……よもや自分が乳房を揉まれる事態になろうとは、まだ夢想だにしていなかったのでした。(笑)
ここで、また話は戻りますが、メガーヌは「なのはとフェイトの結婚式」の直前に〈本局〉から連絡を受けていました。
『緊急の要件ではないが、先日、「ゼスト隊の生き残り」の二人目が15年の昏睡から目を覚ましたので、元上官として、また近いうちに医療部に来て、会って話を聞いたりしてやってほしい』と言うのです。
そこで、メガーヌは、なのはとフェイトの結婚式と披露宴の後、『八神司令と少し話がある』と言う娘たちをミッドに残したまま、次元航行船で独り〈本局〉に向かいました。
(メガーヌ自身はすでにリンカーコアが壊れているので、転送ポートはもう使えないのです。)
そして、「かつての部下」といろいろな話をしましたが、結局は、彼も一人目と同様、リンカーコアが損壊して、もう魔法は使えなくなっていたので、(そして、両親がまだミッド地上で普通に生きていたので)管理局を退役して、リハビリが終わったら実家に戻ることになりました。
男性の場合は『長期の昏睡で精巣が機能不全に陥る』という話もあるので、この男性も『今から結婚して、親に孫の顔を見せる』というのはちょっと難しいのかも知れませんが、それでも、なるべく親孝行はしてほしいものだ。メガーヌはそう思いました。
メガーヌの両親は、彼女が昏睡している間に殺害されており、メガーヌ自身には、もう親孝行の機会が無かったからです。
その後、メガーヌは一旦、またミッドに戻り、今度は、はやてや娘たちと内緒の話をしました。ルーテシアとファビアの「今後の運用」についての話です。
思えば、ルーテシアも、今年で17歳。法律の上でも、もう立派な「成人」となっていました。
メガーヌにとっては、いろいろと感慨深いものがありましたが、ルーテシアももう小児ではありません。いくら実の親でも、もうあまり子供の人生に干渉などするべきではないのでしょう。
メガーヌは、はやてと娘たちの要望をそのままに受け容れて、二人の将来をはやての手に委ねたのでした。
さて、4月の中旬には「半年間の謹慎処分」も解け、八神はやて(26歳)は、所属を〈本局〉の「次元航行部隊」に移して、また職務に復帰した訳ですが……最初の仕事は、『同様の処分を受けていた八神家のメンバーとともに、改修を終えた〈ヴォルフラム〉に乗って、管理外世界への違法な武器密売事件を捜査する』という、随分と手間がかかる割には、地味なお仕事でした。
しかし、必ずしも『全員で出かけなければならない』という訳でもなく、また、未成年のミウラ(15歳)を一人だけ家に放置して出かける訳にもいきません。
(高町家では、なのはとフェイトが入院している間、ヴィヴィオが一人きりだったので、しばらく「住み込みの」ハウスキーパーを雇っていたようですが……八神家はいろいろと秘密が多すぎるので、あまり「外部の人間」を住み込ませる訳にもいかないのです。)
そこで、今回はザフィーラが「一人でミッドに居残り」という形になりました。
彼の「本業」は、はやてのボディガードなのですが、今回の任務では、はやてはずっと〈ヴォルフラム〉に乗っているはずなので、それも特に必要ありません。
結果として、ミウラはこれから四か月ちかくの間、ザフィーラとの二人暮らしを満喫(?)することになりました。
また、今回の任務はちょうど良い機会だったので、はやては、ルーテシアとファビアにも、しばらく〈ヴォルフラム〉に乗り込んでもらうことにしました。
以後、はやては、この二人を「秘密の切り札」として育成してゆくことになります。
また、この「武器密売事件」の捜査は予想外に長引き、7月になってから、〈外9コリンティア〉でようやく決着がつきました。
【その件に関しては、「キャラ設定6」を御参照ください。】
一方、『なのはとフェイトは』と言うと……。
フェイト自身がクローンであることが一部で問題視されたらしく、申請から認可まで二か月以上も時間がかかりましたが、二人は結婚式の後、例の病院で自分の卵細胞と相手の卵子の核とを融合させた「疑似受精卵」をお互いに幾つも作って凍結保存しておいたので、何とか無事に認可が下りた後、二人はすぐに自分の疑似受精卵を自分の子宮内膜に着床させる形で、同年の7月には仲良くお互いに相手の子供を妊娠しました。
【通常の動物は「二倍体」であり、ほとんどの染色体をそれぞれ二本ずつ持っています。一方は父親の精子から来た染色体で、他方は母親の卵子から来た染色体です。
そして、哺乳類に限って言うと、実は、『一方の親から受け継いだ遺伝子だけが発現して、他方は生涯、発現しない』という決まりになっている遺伝子が数多くあります。
当然、それらの遺伝子には、『それが父親から来たものか、母親から来たものか』を示す「分子レベルのマーキング」が施されている訳ですが、この現象を「ゲノムインプリンティング」と言います。
そして、一方から受け継いだ遺伝子だけが発現するタイプの遺伝子の中には、もしもそれが全く発現しなければ個体に致命的な障害が発生するような遺伝子が幾つもあります。
したがって、現実には、ただ単に卵子同士を融合させただけでは、(父親由来とマーキングされた遺伝子が一つも無い訳ですから)その個体は『ほぼ確実に、発生の段階で死んでしまう』ということになります。
そこで、この作品の裏設定としては、『こうした「卵子融合」に際しては、「相手の卵子の核」に一定の加工をして、それが父親由来であるかのようにマーキングを偽装している』ということにします。
これは、ミッドの技術力をもってしても、決して「ありふれたローテク」などとは言えない高度医療なのですが、「ただ単にマーキングの部分を加工しているだけで、遺伝子そのものに手を加えている訳では無いのだから、法律的にはギリギリでセーフ」ということになっています。
また、卵子融合で生まれて来た女児に関しては、『外見や才能は「生みの母」よりもむしろ「もう一方の母」に似ることの方が多い』という設定で行きます。
(あくまでも、ただ『多い』というだけですが。)】
しかし、その同じ7月の中旬には、ヴァイゼンで〈モグニドールの惨劇〉が勃発してしまったのでした。
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