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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第5章】エクリプス事件の年のあれこれ。
   【第6節】背景設定5: 宇宙の成り立ちと魔法の原理について。


 さて、この宇宙から「いわゆる、霊的な領域」をすべて取り除いた残りの部分を「物理次元」と呼びます。
 既知の物質およびエネルギーは、すべて、この物理次元の側にのみ存在しているため、我々人間もまた肉体を持ったままでは、当然ながらこの物理次元から離れることは決してできません。
【一部には、『意識を肉体から遊離させて、霊的な領域へと飛ばすことができる』と主張する人たちもいますが、それはあくまでも「オカルト分野」の話です。
 霊的な領域の分類については、「背景設定10」の方にまとめておきましたので、そちらを御参照ください。】

また、物理次元は、実のところ、「時間や距離に関する制約の強さ」によって大きく四種類の空間に分類されます。それら四種類の空間を、制約の強い方から順に、通常空間、亜空間、異空間、虚数空間、と呼びます。
 まず、通常空間とは、今も我々が普通に生活している「この空間」のことであり、速度に関しては「光の速度」という明確な上限があります。
 次に、亜空間とは、一般の「次元航行」に用いられる空間のことで、距離や上限速度の概念が、通常空間とは大きく異なっています。
【いわゆる「個人転送」や「即時移動」も、この亜空間を利用したものですが、一方、『A’sの最終戦で、〈ナハトヴァール〉のコアを軌道上に転送した』という時の「転送」は、あくまでも「通常空間経由の高速移動」であり、実際には、亜空間など一切、経由していません。
 惑星上にいる人物を、軌道上にある次元航行船の中に収容したり、逆に、次元航行船の中にいる人員を、惑星上に送り込んだりする際の「転送」も、(もちろん、魔導技術の一種ではあるのですが)実際には、単なる「通常空間経由の高速移動」です。】

 そして、異空間とは、いわゆる「召喚魔法」に用いられる空間のことです。この空間では原則として物体の移動は常に「時間の経過を伴うこと無く」(つまり、距離には関係なく、瞬時にして)行なわれます。
 ただし、人間を始めとする大半の生き物は、別の世界からの「遠距離召喚」には全く耐えられません。これに耐えられるのは、ただ、真竜のような一部の大型竜族と、俗に「召喚獣」と総称される特殊な生物群だけなのです。
【裏を返すと、同じ世界(惑星)の中での「近距離召喚」であれば、人間を召喚することは充分に可能です。Vividのコミックス第3巻でも、キャロがアインハルトを自陣に呼び戻す際に召喚魔法を使っていました。
『召喚魔法の魔法陣だけが少し特殊な形をしているのも、それが「異空間」を利用する特殊な魔法だからだ』という設定です。】

 最後に、虚数空間とは、基本的に「時間の経過」そのものが存在しない空間のことです。
【原作では一貫して「虚数空間」という用語が用いられておりますが、数学の世界では同じ用語が全く別の意味で用いられており、少し(まぎ)らわしい状況になっています。
 それ故、本来ならば、この用語は「虚空間」とでも言い換えた方が良いのだろうとは思うのですが……この作品では、取りあえず原作に従っておくことにします。】

 つまり、理論上は『虚数空間に落ちた物体は、すべて、その瞬間の状態を永遠に保持し続ける』はずなのですが……実際には、一度(ひとたび)虚数空間に落ちた物体を、再び亜空間や通常空間に引き戻すことなど、(理論上はともかくとして)技術的には全く不可能なため、その理論が本当に正しいのかどうかは、誰にも検証することができません。


 さらには、この「通常空間」も、実は「物質的な実体性の強さ」によって、ごく大雑把に言うと三つの(もう少しだけ細かく言うと五つの)「階層」に分類されます。
 それらの階層を、実体性の強い方から順に、実体階層、半実体階層(表層、中層、深層)、非実体階層、と呼びますが、実のところ、「地球式の唯物論的な科学」で把握することができるのは、基本的には実体階層の事柄だけとなっています。
 一方、非実体階層とは、オカルト用語で言う「エーテル階層」のことで、その階層には「唯物論的な科学に基づいた技術」では全く感知することができない種類の、さまざまな諸力や諸実体が存在しています。
(それ自体としては肉眼に映ることのない「生命力」も、そうした諸力の一種であり、実体としては「エーテル質料」と呼ばれています。)
 詰まるところ、「魔導」とは、こうした「実体階層以外の階層」や、さらには「通常空間以外の空間」にまで、直接に働きかけることができる「技法」のことなのです。

 また、この「階層」という用語は、ただ単に「層」(layer、レイヤー)とも言います。
 これらの階層は互いに「空間の位相」が少しずつズレているだけで、実は「虹の色」のような「連続したグラデーション」であり、一般に「層」と呼んではいますが、実際には層と層との間に「何かしら明瞭な境界」が存在している訳ではありません。

 ちなみに、ミッドチルダを始めとする多くの世界では、虹の色は「赤・橙・黄・緑・青・紫」の六色、もしくは「赤・黄・緑・青・紫」の五色であるものと考えられています。五色で考えると、「赤」の幅が大変に広くなってしまいますが、『各色の幅は元々、均等ではないので、それはそれで構わない』という考え方です。
【実際、地球式の七色で考えても、各色の幅は不自然なまでに不均等です。多少なりとも均等さを求めるのであれば、やはり、「(あい)」を(はぶ)いて六色で考えた方が「まだマシ」というものでしょう。】

 また、あくまでも比喩(たとえ)ですが、「赤と黄緑青と紫」の五色が「実体階層と半実体階層の表層・中層・深層と非実体階層」にそれぞれ対応するものと考えると……。
 虹の「赤」にも実際には一定の幅があり、その中には「微妙な色合いの違い」があるのと同じように、この「実体階層」の内部にも、その「位相」には一定の幅があり、空間の位相を魔法で少しだけずらすことによって、『広さとしては非常に限定された範囲内で』ではありますが、「周囲とは微妙に違う階層」を造り出すことができます。
 つまり、通常の空間において「結界」で位相をずらした封鎖空間も、外部と隔絶されてはいますが、一応は「実体階層」の一種なのです。
【なお、亜空間の位相をずらす技術は、「現在の」次元世界には全く存在していません。「最後の地上の聖王」アルテアが〈本局〉に(ほどこ)した封印は、あくまでも「ベルカ聖王家の秘術」だったのです。】

 この種の結界(もしくは、空間隔絶)は、上手く使えば、例えば魔法文化の無い世界などでも、現地の住民をまとめて保護する際にはとても効果的な手段となります。
【実際、A’sの最終戦におけるアリサとすずかのように『魔力の無い人間が結界の中に取り残されてしまう』などという「想定外の事故」が起きる確率は、極めて小さなものでしかありません。】

 なお、半実体階層の「表層」の存在は、実体階層の存在に対して物理的にも直接に影響を及ぼすことができるので、人間の五感による認識としては、一般に「実体階層」と「半実体階層の表層」との区別はあまりつきません。
 このように「半実体階層の表層」を把握することができるか(いな)かが、「生身の人間の感覚」と「唯物論的な科学技術に基づいた機械での計測」との違いなのです。
 また、言い換えれば、人間の身体(からだ)は、実際には「肉体」と「エーテル体」とが不可分に結合した存在であり、人間の五感もまた、本来は「肉体による感覚」の上に「エーテル体による感覚」が「ある程度まで」加味されたモノなのです。

 ちなみに、ここで言う「ある程度」が、『具体的に、どの程度なのか?』については、個人差が非常に大きなものになっています。
 いわゆる「霊感の強い人」は、半実体階層の中層や深層まで「明瞭に」把握することができますが、言うまでも無く、これはごく少数派であり、大半の人々は、『半実体階層の表層のことならば「何となく」解る』という程度に(とど)まっています。
 また比喩(たとえ)になりますが、「橙」を加えて虹を六色と考えれば、この橙は「半実体階層の最表層」に(もしくは「実体階層の最深層」に)対応する色となります。
 この(レイヤー)は、ほとんどすべての人々が実体階層とおおむね同じ程度に把握することができ、正式な学問用語ではありませんが、俗に「オレンジゾーン」などと呼ばれています。

 また、「魔導プログラム」や「個々の魔導師が持つ強固なイメージ」によって半実体階層に形成された明瞭なヴィジュアルは、そのまま実体階層に(より正確に言うならば、オレンジゾーンに)「具現化」させることができます。
(この「具現化」は、『階(レイヤー)を重ねる』と表現しても構いません。)
 古代ベルカの「守護騎士プログラム」も元々はそうした具現化技術の産物であり、また、バリアジャケットの構築やデバイスの変形なども基本的には同じ原理によるものです。
 魔法訓練室のような閉鎖空間の中でなら、「レイヤーで組んだ環境を、丸ごと具現化すること」は、統合戦争の時代から可能になっていましたが、「レイヤーで組んだ街並みを『屋外で』丸ごと具現化すること」は、新暦60年代後半になって初めて実用化された技術でした。
【その結果、StrikerSやVividの時代には、実際に「魔法の訓練」や「実戦形式の試合」の舞台として、そうした街並みが利用されています。】


 次に、亜空間における「次元航路」とその等級について述べます。

 さて、実のところ、次元航行船も亜空間を(いわゆる「次元の海」を)それほど自在に航行できる訳ではありません。
 実際には、ほとんど『世界と世界とを「直線的に」結んでいる〈次元航路〉の中を(惑星なみの直径を持つ、巨大なチューブ状の特殊な亜空間の中を)航行できるだけ』なのです。
【これは、原作には全く存在しない設定なのですが、この作品では、物語の都合上、こういう設定でやらせていただきます。】

 亜空間は(通常空間における「宇宙空間」と同様に)ほぼ真空ではありますが、空間そのものに或る種の「抵抗」が存在しているため、宇宙空間のような「慣性飛行」ができません。惑星表面での(車などによる)移動と同様、一定の速度を保つためには一定の推力を維持しなければならないのです。
 そして、その「亜空間抵抗」が、〈次元航路〉の中に限っては、通常の亜空間のざっと百二十分の一にまで小さくなっています。つまり、次元航路の外で航路内と同じ速度を出そうと思ったら、単純計算でおよそ120倍の推力が必要になってしまうのです。
(しかし、もちろん、そんなモノ凄い推力を出せる次元航行船など、この世には実在しません。)

 逆に言うと、同じ推力ならば、航路外での速度は航路内での速度のおよそ百二十分の一となり、当然に、特定の世界までの所要時間もおよそ120倍になってしまいます。
 例えば、Vividのコミックス第2巻には『ミッド首都からカルナージまでは約四時間』と書かれていますが、これも、もちろん『普通に次元航路の中を行けば』の話です。もしも航路の外を無理矢理に進んだら、『ミッドからカルナージへ行くにも約480時間。つまり、およそ20日もかかってしまう』という計算になります。
 つまり、往復には40日もかかる訳ですが、もちろん、「補給なしで」そんなにも長く飛び続けることのできる次元航行船など、現在の管理局には存在していません。
 しかも、通常の亜空間には、或る種の「海流のような流れ」が存在しているため、次元航行船にとっては、ただ直進するだけでも困難な作業であり、それ故に、次元航行船は古来、必ず〈次元航路〉の中を(とお)ることになっているのです。
(そもそも、この「海流のような流れ」があるために、亜空間は「次元の海」などと呼ばれているのです。)

 また、航路の途中で推力を失って停止したモノはすべて、次元航路そのものが持っている「自浄作用」によって脇へ脇へと追いやられ、せいぜい十日あまりで「航路の外」の亜空間へと排除されてしまうのですが……次元航路というものは基本的に、双方の可住惑星の近傍に開いている「先端部」からしか進入することができません。
 つまり、一度(ひとたび)航路の途中で「外」(通常の亜空間)に排除されてしまった艦船は、もう決して「その地点から元の航路に戻ること」はできず、また、どこかの世界(可住惑星)に帰り着くことも遠すぎてできません。そのため、「推力を失って航路から排除されること」は、事実上の「死」を意味しているのです。
 無印の最終戦で、虚数空間へ落ちずに次元航路の側に残された「時の庭園の残骸」も、次第に脇へ脇へと追いやられ、十日あまり後には(クロノたちが地球から〈本局〉へ帰る途中で立ち寄り、「プレシアの手記」などを回収した後には)とうとう「航路の外の亜空間」へと跡形(あとかた)も無く排除されてしまいました。
 こうした「自浄作用」のおかげで、通常の次元航行(次元航路内の亜空間航行)においては、通常の宇宙空間における「スペースデブリ」のような問題は、基本的に発生しないのです。

 なお、航路内の亜空間が充分に安定した「一等航路」であれば、近くの世界にならばA’sにおけるヴィータたちのように「個人転送」で移動することもできますし、また、遠くの世界でも一度「転送ポート」を築いてしまえば、一定の(さほど高くはない)基準値以上の魔力の持ち主は生身のままでの「即時移動」が可能になります。
 これは、名前こそ「即時」ですが、実際には距離に応じて、数秒から十数秒程度の時間がかかります。航路内の空間抵抗は、その物体の「魔力密度」によっても相当に変わって来るので、生身の魔導師は(空間が充分に安定してさえいれば)次元航行船よりも格段に速く動けるのです。
【ただし、「個人転送」や「即時移動」の場合は、必ず『全身を球形のバリアで覆って移動する』という形になるので、バリア内に収まらないほどの大きな荷物は運べません。
 また、「個人転送」は通常の「即時移動」とは違って、魔導師の中でも何百人かに一人程度の、かなり特殊な「魔力資質」が要求されます。】

【前に述べたとおり、「リリカルなのはStrikerS サウンドステージ01」の内容は、『機動六課の面々が突然の「出張任務」で地球の海鳴市へ行き、そこで「ちょっとしたロストロギア」を回収して帰って来る』というものなのですが、その描写を「すべて」正当化しようと考えたら、以上のような少しばかり面倒な設定になってしまいました。(苦笑)
 なお、『別の世界にいる次元航行船の内部へと、人員を亜空間経由で直接に転送する』というのは、実は、極めて高度な技術であり、現在の次元世界においては、基本的に〈時空管理局〉がこの技術を独占しています。】

 しかし、航路内の亜空間が少しだけ不安定な「二等航路」では、(たとえ一等航路であっても、魔力がほとんど無い人の場合や、大量の荷物がある場合には)やはり、「次元航行用の艦船」が必要になります。
 そして、当然ながら、そうなるともう「即時移動」はできません。
【また、この作品では、『次元航行船は一般に、大気圏内からいきなり〈次元航路〉に入ることはできない。一旦は大気圏外に出なければいけない』という設定で行きます。
 具体的には、『地表からその惑星の直径と同じぐらいの距離(高度)を取らないと、亜空間への出入りはできない』といったところでしょうか。】

 さらに不安定な「三等航路」になると、もう民間船は進入を全く許可されません。局としても、事故の責任など取ることができないからです。
 また、「次元震」によって航路内の空間の安定度が急に低く(三等航路なみに)なると、最新鋭の次元航行艦でもしばしば損傷し、航行不能に陥ってしまいます。
 さらには、巨大な「次元震」などによって「次元断層」が発生すると、次元航路そのものが崩壊してしまうことすら(最悪の場合には、特定の世界が他の諸世界から「完全に孤立」してしまうことすら)あり得るのです。
(だからこそ、「次元震」や「次元断層」は、とても恐れられているのです。)
【また、「次元震」や「次元断層」は、しばしば周辺の世界(可住惑星)の環境にまで深刻な影響を与えてしまうため、その意味でも大変に恐れられています。】

 なお、次元航路は「崩壊」しても、決して「完全に消滅」する訳ではありません。それは、ただ単に空間の安定度が低くなりすぎて、事実上、進入できなくなっているだけなのです。
 そうした航路は、言わば「潜在化」した航路であり、正式な用語ではありませんが、俗称としては「四等航路」などと呼ばれることもあります。
 もしも、そうした「裏道」をも安全に航行できるようになれば、現在の「次元航路網」ももっと便利に運用できるようになるはずなのですが……。(←重要)

 ともあれ、普通に〈次元航路〉と言ったら、一般には「実際に安全に航行することができる一等航路と二等航路」だけを差して言う用語です。
(特定の世界に『何本の次元航路が接続している』と表現する際の「次元航路」も、もっぱらその意味で用いられています。)
 また、両者の違いは、実はかなり微妙な代物で、『何かの拍子に、一等航路が二等航路に変わってしまったり、逆に、二等航路が一等航路に変わってしまったりする』といった現象も、歴史的に見れば幾度となく起きています。


 ところで、無人世界にも「人間以外の生き物」は必ず最初から存在しています。
 と言うのも、実のところ、〈魔力素〉とは本質的に「惑星規模での生命活動」の副産物であり、「陸上に多細胞生物が存在していない惑星」では、そもそも〈魔力素〉など発生しないからです。
 そして、〈次元航路〉とは基本的に、その航路が接続した両世界から「余剰魔力素」が供給されることによって維持されている存在であり、すなわち、『その世界の大気中に〈魔力素〉が一定の基準値以上の密度で存在していること』が、その世界に〈次元航路〉が接続するための「最低必要条件」なのです。
 だから、『通常の次元航行や個人転送によって到達可能な世界(惑星)には、必ず最初から地上にも生命が存在している』と断言することができるのです。
【こういう設定にしておかないと、例えば「個人転送した先の世界(惑星)」に普通に呼吸できる大気が無かったりした場合には「転送、即死亡」という結果になってしまうので、この作品では、是非ともこの設定で行きたいと思います。】

 なお、『その航路の両端にある世界から供給された余剰魔力素が、その次元航路の存在を支えている』というのは確かに事実なのですが、「その世界の生命力の強さ」と「その世界に接続する航路の本数や等級や総延長」は、ある程度の「相関関係」はあるものの、必ずしも単純に「正比例」している訳ではありません。
【また、〈中央領域〉では、個々の世界に接続する次元航路の数は10本ないし12本ぐらいが標準であり、そのうち一等航路は1本ないし3本ぐらいが標準です。
 一方、〈辺境領域〉では、世界の分布そのものがやや()であり、個々の航路の平均的な長さもやや長くなっているためでしょうか。個々の世界に接続する航路の数は相対的に少なくなり、8本ないし10本ぐらいが標準となっています。】

 また、魔力素が形成されるには、「陸上の多細胞生物」の体から漏れ出す余剰生命力という素材と「気体の酸素分子」という触媒が大量に必要です。
 ただし、気体の酸素はあくまでも「触媒」なので、酸素自体は(普通は)減ったりしませんし、一度出来上がった「魔力素」には、もう酸素は必要ありません。
 つまり、水中では「水に溶け込んだ形」でしか触媒となる酸素が存在していないので、いくら生命力があっても魔力素はほとんど発生しないのです。
 また、単細胞生物の場合は、「生命力の増大」と完全に同期(シンクロ)した形で「細胞分裂」が起きてしまうので、体の外に「余剰生命力」が漏れ出すことは、ほとんどありません。
 だから、「陸上」の「多細胞生物」がいなければ、魔力素は形成されないのです。
【しかも、「魔力」は水に溶けやすい性質を持っているので、一般に海中では(魔力素がほとんど無い上に、魔力もすぐに海水に溶けて拡散してしまうため)熟練の魔導師であっても、魔法はなかなか上手く使うことができません。
 そのため、一人前の空士であっても、海に落ちると、そのまま溺死してしまうことが決して珍しくは無いのです。】

 まとめると、魔法による「力」の変換経路は、以下のような順序となります。
『その「世界」の生命力そのもの→ 陸上の多細胞生物の繁栄→ 非実体階層における「余剰生命力」の発生→ 半実体階層の深層における「魔力素」の発生→ リンカーコアでの結合→ 半実体階層の表層における「魔力」の発生→ 実体階層への影響力』


 また、余談ではありますが、「魔力素の強い惑星の周囲を巡る大型の衛星」は、その衛星自体には生命など存在していないにもかかわらず、全く例外的に、しばしば莫大な魔力素を保有してしまいます。
 実は、彗星の核が太陽風に吹かれて反対の側に長く「彗星の尾」を伸ばしているのと同じように、魔力素の強い惑星も太陽光に吹かれて夜の側に長く「魔力素の尾」を伸ばしています。
 要するに、大気中から宇宙空間へと漏れ出した「余剰魔力素」が太陽光によって「吹き流されている」訳ですが……衛星は満月の度にその尾の中を「突っ切って行く」ため、そうした行為を何度も何度も繰り返すことによって、衛星の表面には少しずつ(本来ならば、宇宙空間に無駄に散って行くはずの)魔力素が蓄積されていきます。
 どれだけ多くの魔力素を蓄積できるかは、おおむねその衛星の素材と質量によって決まります。と言っても、素材はおおむね「普通の岩石」と相場が決まっているので、事実上、ただ単に質量によって決まります。
 そのため、大型の衛星は(何しろ、魔力素は蓄積されるばかりで、誰も消費しないので)結果として実にしばしば莫大な魔力素を保有してしまうのです。
 そして、長い歳月を経て、衛星の魔力素密度が飽和状態に達すると、今度は衛星の側から惑星の側へと、蓄積された魔力素がしばしば「定期的に逆流」するようになります。
 多くの世界において、或る種の魔法が「月の位置や月齢」の影響を強く受けてしまうのは、まさにこのためなのです。

【聖王教会の騎士カリム・グラシアの希少技能(レアスキル)〈プロフェーティン・シュリフテン〉は、その好例でしょう。TVアニメのStrikerS第13話では、カリムがみずから『二つの月の魔力が上手く揃わないと発動できませんから、ページの作成は年に一度しかできません』と語っています。
 とは言っても、まさか『毎年、必ず同じ日付(ひづけ)に発動する』という訳ではないでしょうから、この作品では、上記の発言も『おおよそ年に一度ぐらいしかできません』という程度の、比較的ユルい意味合いに解釈しておきます。】

 当然ながら、月(衛星)が近い世界(可住惑星)の方が、月の影響力はより大きなものとなります。
 ベルカ世界や(第一部の舞台となる)ローゼン世界は、「月の影響力の大きな世界」の代表格であると言って良いでしょう。
【惑星ベルカの唯一の衛星は、いささかその母惑星に近い軌道を巡っていたので、朔望周期(月の満ち欠けの周期。つまり、その世界における一か月)が18日しかありませんでした。ローゼンもまた同様です。】


 また、人間の身体(からだ)とは、実際には「実体階層に存在する肉体(物質体)と、非実体階層に存在するエーテル体(生命力体)とが、緊密に結合した存在」です。
 もう少し正確に言うと、肉体は「半実体階層の中層部」にまでその存在を拡げており、同様に、エーテル体もまた「半実体階層の中層部」にまでその存在を拡げています。
 そして、「半実体階層の中層」に存在する「両者の結合部」が崩壊すると、両者は自然に分離します。それが「死」という現象の本質なのです。

【聖王教会の教義によれば、『人間の死に際して、エーテル体は「質の良い部分」だけが身魂(みたま)に吸収されて、「あの世」へと旅立ち、「質の悪い部分」はそのまま亡骸(なきがら)の中に残って、やがては無駄に散ってゆく』ということらしいのですが……こうした「聖王教会の教義」に関しては、また「背景設定10」を御参照ください。】

 なお、人間が死亡する際に、その人が「極めて強烈な思念」を持ったままで死ぬと、その思念はしばしば「半実体階層に残されたエーテル質料」をまとって「その人物の肉体や霊魂からは完全に独立した存在」と化し、半実体階層にそのままの形で(すえ)長く残り続けることになります。これが、いわゆる「残留思念」です。
【こうした残留思念は、基本的にはエーテル体の「質の悪い部分」から造られることになるので、元が「よほどの人格者」でない限り、大体において「ロクでもない代物」に成り下がります。】

 また、先にも述べたとおり、人間の五感による認識では、一般に「実体階層」と「半実体階層の表層」との区別はつきません。
 そのため、「半実体階層の存在」がふと表層にまで浮かんで来ると、それは「普通の人間」にもしばしば認識できるようになります。
 実は、いわゆる「幽霊やお化け」の大半は、「半実体階層に刻印された、何らかの残留思念が、何かの拍子に表層にまで浮かび上がって来たモノ」なのです。
 それは、もう「死者本人」ではないので、(喩えるならば、脱ぎ捨てられた古着が勝手に本人の振りをして動いているようなモノなので)力ずくで駆逐してしまっても何ら問題はありません。
(あの世にいる死者本人からは、かえって感謝されるぐらいでしょう。)

 ちなみに、現在の管理局の技術でも「非実体階層」を直接に観測することは全くできないので、正直に言えば、非実体階層のことはまだ「正確なところ」は解っていません。
 非実体階層(エーテル階層)に関する言説の多くは、実際にはまだ「作業仮説」の域を出るものではないのです。


 また、一説によれば、人体には以下に述べるような「三つのコア」があります。

 1.イネートコア(innate core)
(innateは、「生まれつきの、先天的な」という意味の形容詞。)
 2.リンカーコア(linker core)
 3.サードコア(third core)、もしくは、セレスティアルコア(celestial core)
(celestialは、「天上の、神聖な」という意味の形容詞。)

 古くは、イネートコアのことも、セレスティアルコアと(つい)を成す形で、テレストリアルコアと呼ばれていました。
(terrestrial は、「地上の、現世の」という意味の形容詞。)
 また、リンカーコアの link も、本来は『天上のコアと地上のコアを結びつける』という意味であり、『魔力素を結合させて魔力にする』という行為を link と表現するようになったのは、ずっと後の時代のことです。
(なお、より正確に言うならば、これらのコアはみな、本質的には「エーテル体」の内部器官です。)

 次に、「シード仮説」とは、比喩的に表現するならば、『三つのコアに、それぞれ「種子(地中)→ 出芽→ 成長→ 開花」の四段階がある』という考え方のことです。
(この「出芽」のことを、一般の用語では「顕現」と言います。)
【なお、地中は非実体階層の、地上は半実体階層の比喩(たとえ)です。非実体階層の存在を「直接に観測する」ことは、まだ技術的に不可能なので、それを「上から見ただけでは、そこに何があるのか(無いのか)解らない土の中」に(たと)えているのです。】

 どのコアも、「種子」の段階は非実体階層に対応し、「出芽・成長・開花」の各段階は半実体階層の「深層・中層・表層」におおよそ対応しているものと考えられています。
 そこで、「シード仮説」では、『種子の存在それ自体は技術的に確認することができないだけで、実は「大半の人間」が生まれつき種子を持っているのではないか』と考えます。そう考えれば、「魔力の隔世遺伝」という現象も合理的に説明がつくからです。
(と言うより、そもそも「シード仮説」は、本来的には「魔力の隔世遺伝」を説明するためにこそ考案された仮説なのです。)


 それでは、最後に「三つのコア」について、おおよその説明をしておきましょう。

 まず、「イネートコア」は腹部にあり、万人が例外なく、生まれた時点ですでに「顕現」しています。胎児のうちにこれが顕現しないと、死産になってしまうからです。
(もちろん、決して『死産のすべてがこの原因によるものだ』という訳ではないのですが。)
そして、イネートコアが「成長」すると、健康で生命力の旺盛な人物となり、さらに「開花」すると、ISが使えるようになります。
 このコアは本人の基礎生命力と密接に結びついたコアであり、一般にISホルダーが女性ばかりなのも、基礎生命力は「基本的に」女性の方が上だからです。
(ただし、あまりにもISを使い過ぎると、基礎生命力が削られすぎて、不妊や短命になる確率が高くなってしまうようです。)
 イネートコアの顕現率は100%ですが、成長と開花については遺伝情報に依存する割合が大変に高く、また、リンカーコアの顕現が「イネートコアの開花」の絶対必要条件となります。
(つまり、「魔力を全く持っていないISホルダー」は実在しません。)

 次に、「リンカーコア」は胸部にあり、生まれつきその資質を持っている小児(こども)の場合は、一般に4歳か5歳で「顕現」します。つまり、リンカーコアが半実体階層にまで浮かんで来て、「外部からの観測」が可能となるのです。
 だから、リンカーコアの有無は、大半の場合、6歳児の集団検診で確認できます。
(なお、リンカーコアの顕現も「多少は」遺伝情報が関与しているようです。)
 このコアが「成長」すると、強い魔力の持ち主(魔導師)になれます。
 そして、リンカーコアの「開花」は、まだ正式に確認された事例は無いのですが、おそらくは、「とんでもないレベルの」魔導師となります。
 これを花に喩えて「開花」と呼ぶ理由は、『肉体から溢れ出した魔力はそのまま可視化されて、あるいは翼のように、また、その数が多ければ「花芯から伸びた花弁」のようにも見えるはずだ』と想定されているからです。(←重要)

 最後に、サードコア(セレスティアルコア)は頭部にあると言われていますが、現状では、まだ「オカルト分野」の存在であり、これを顕現させたのが、いわゆる「異能者」です。
(推測でしかありませんが、おそらくは、サードコアの顕現が「リンカーコアの開花」の絶対必要条件となっています。つまり、「とんでもないレベルの」魔導師は、理論上、全員が異能者であるものと考えられます。)
 異能者に関する言い伝えは幾つもありますが、いずれも「真偽不明の伝説」の域を出るものではありません。
(一説によれば、「最初の〈ゆりかご〉の聖王」も、異能者だったそうです。)
なお、サードコアの顕現に遺伝情報が関与する割合は、おそらくは、ほぼゼロであるものと考えられています。

 また、エクリプスウイルスも、本来は「サードコアの人為的な顕現」を目的として造られたモノでしたが、実際には、その「失敗作」でした。
 そのため、エクリプスウイルスの感染者たちは、みな、イネートコアとリンカーコアが不自然な形で癒着してしまっており、その「癒着」ゆえに、ISにも魔法にも分類できないような特殊な能力を行使することができたのです。
 しかし、その癒着は大変に「不自然」なものなので、決して長続きはせず、やがては必ず体内で二つのコアは融合を起こしてしまい、即座に「自己対滅」が起きます。

【この作品では、「第1章 第5節」にも書いたとおり、『リンカーコア同士は「無理に」融合させると、「対滅(ついめつ)」を起こして双方ともに死ぬ』という設定で行きます。
 その節では、あくまでもリンカーコアの話をしているので、「二人の人間がともに」という表現になっていますが、これと同じことを、同一人物のリンカーコアとイネートコアでやってしまうのが「自己対滅」なのです。】

 おそらくは、『サードコアを顕現させるために、他の二つのコアを人為的に動かす』という考え方だったのでしょうが、その意味では明らかに失敗作です。
(ただし、ハーディス・ヴァンデインは、ごく短時間ではありますが、融合機の力を借りて現実にサードコアを顕現させていたのかも知れません。)


 
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