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イベリス

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第百二十六話 言葉を受けてもその一

               第百二十六話  言葉を受けても
 速水は店に来た咲からミルクティーを受け取って一口飲んでから言った。
「今日もまた」
「美味しいですか」
「はい」
 微笑んで答えた。
「お見事です」
「それは何よりです」
「はい、お陰で楽しくお仕事が出来ます」
「それは何よりです、ただ」
 咲は速水の微笑んでの返事を聞いてふと気付いたことがあり彼に言った。
「私も他のお店の人もいつも」
「美味しいと言われていますか」
「お茶を煎れますと」
「いつも美味しいからですよ」
 速水は咲に微笑んだまま答えた。
「ですから正直にです」
「言われてるんですか」
「左様です」
「そうですか」
「何でも美味しいと思うことが出来ればそれでいいのです」
「それで幸せですか」
「そうです、逆に言えばとびきりのご馳走を食べたり美酒を飲んでも」
 その様にしてもというのだ。
「不平不満ばかりでは」
「駄目ですか」
「傍から聞いていても不愉快です」
 そうした輩の発する言葉はというのだ。
「確かにどうにもならないまでにまずいものもありますが」
「それでもですね」
「お料理をする人が丹精込めて作ったものをまずいだの駄目だのばかり言っては」
「横で聞く方もですね」
「もう食べるな、付き合わないとなります」
「それが普通ですね」
「文句ばかりでは」
 とてもというのだ。
「何がいいのか」
「不幸せですね」
「そうした人は報いを受けるものです」
「報い受けます?」
「受けます?不平不満これを一口に愚痴と言いますと」
「愚痴ばかり言うとですか」
「愚痴は不徳の一つですので」
 そう考えられるものだからだというのだ。
「そればかり言っては」
「報いを受けますか」
「そうなるものです、それに自分自身も面白くありません」
 不平不満即ち愚痴ばかり言ってはというのだ。
「素直に美味しいと思えれば」
「そしてそう言えばですね」
「幸せです」
「それじゃあ店長さんは幸せですか」
「はい」
 ここでもだった、速水は咲に微笑んで答えた。これ以上はないまでの説得力がその微笑みには存在していた。
「とても」
「そうなんですね」
「幸せは自分が幸せと感じれば」
「それで幸せですか」
「例えお金がなくとも」
 貧しい、世間では不幸の一つと考えられている状況下にあってもというのだ。
「幸せと感じていれば」
「その人は幸せですか」
「事実お金は穿かないものです」
「絶対のものじゃないですね」
「若しインフレが起きれば」 
 その時はというと。
「大金も紙屑です」
「ジンバブエみたいに」
「世界恐慌の時のドイツもですね」
「幾らお金があってもですね」
「何の意味もありません」
 酷いインフレ俗に言うハイパーインフレが起こればというのだ。 
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