神々の塔
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第四十四話 狐狸その十二
「それがたぬきうどんさ」
「それで揚げを入れると」
「きつねうどん、きつねそばだよ」
「そうなりますね」
「そうさ、まあほうとうでもいいけれどな」
この食べものでもというのだ。
「よく信玄さんにもご馳走になるよ」
「武田信玄さんと」
「そうだよ、あの人もほうとうがお好きでな」
それでというのだ。
「おいらもよくな」
「ご馳走になってますか」
「そうなんだよ、まあほうとうも美味いからな」
だからだというのだ。
「機会があったら食ってくれよ」
「ほな」
「そういえば滝沢がそっち生まれやったな」
芥川はここで彼のことを思い出した。
「それでほうとうもな」
「好きなんだな」
「そうですね」
「いいことだよ、甲斐もいいとこだよ」
かちかち山の狸は笑って話した。
「だからそっちも宜しくな」
「ほうとうも」
「ああ、何なら宿屋で食ってくれよ」
こう言ってだった。
「そっちは」
「ほなそうします」
「ああ、それでな」
「ほうとうを食ってから」
「先に進んでくれよ」
こう言ってだった。
狐狸の神霊達は自分達に勝った一行を讃えた、そして先に行く前に休めと言って宿屋に行かせた。その宿屋で。
一行は風呂に入ってから乾杯をしてほうとう中にそれと鶏肉、人参、葱、白菜、茸を入れて味噌で味付けしたそれを食べた。そうしてだった。
綾乃は日本酒を大きな杯で一杯飲んでからだ、仲間達に笑顔で言った。
「いや、ほうとうもええね」
「そやな」
中里は自分のお椀の中のほうとうを食べつつ応えた。
「きし麺みたいで」
「美味しいね」
「これはこれでな」
「甲斐は山に囲まれてて」
綾乃はほうとうのあるこの地域の話もした。
「水田が少なくて」
「それであってもな」
「呪い田があって」
「あれや、日本住血吸虫な」
「あの怖い虫がおって」
「下手にな」
「水田入られへんで」
この寄生虫の害は非常に恐ろしいものだった、死に至る場合も多く甲斐即ち山梨の人達を長い間苦しめてきた。
「それでお米作られへんで」
「仕方なく麦をってなってな」
「ほうとうが出来たんやね」
「そやった、そのほうとうをな」
「うち等はこうしてやね」
「食べてるんや、美味しいしな」
「身体もあったまるし」
綾乃は鶏肉や人参味噌で味付けされたそれも食べつつ話した。
「ええね」
「そうした事情で出て来たもんでもな」
「そやね、ほなほうとう食べてお酒も飲んで」
「ゆっくり休んでな」
「またやね」
「冒険をしよな」
「ほなね」
綾乃も他の面々も頷いてだった。
ほうとうを飲みながら酒も飲んだ、そのうえで今は勝利を喜ぶのだった。
第四十四話 完
2023・10・1
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