神々の塔
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第四十四話 狐狸その八
「無垢で純真でもな」
「邪悪やな」
「人の痛みも苦しみもわからんで」
そのうえでというのだ。
「延々嬲り殺しにしてな」
「その後で何も思わん」
「汗かいたで終わる様な」
まさに何とも思っていないというのだ。
「邪悪や」
「それになるな」
「無垢で純真は善か」
果たして、こう言うのだった。
「そうした問題もな」
「語ってるお話やな」
「僕はそう思うわ」
太宰のかちかち山はというのだ。
「狸はほんまな」
「悪いことしてへんさかい」
綾乃も難しい顔で述べた。
「好きになっただけやのに」
「中年の醜男でもな」
「誰か好きになってええし」
「それをあそこまで踏み躙って殺す」
「ほんま邪悪やね」
「太宰さんは偽善を嫌った」
このことは作品にも出ている。
「しかしな」
「この兎はどないか」
「偽善はなくて」
それでというのだ。
「ほんま美少女のや」
「純真無垢な」
「穢れのない娘や」
「そやけど善か」
「果たしてな」
それはというのだ。
「それを見るとな」
「あの兎はやね」
「悪と言わずしてや」
それも邪悪と、というのだ。
「ないわ」
「そうなるね」
「ああ、ほんまな」
それこそと綾乃に話した。
「あの兎は」
「純真無垢な邪悪」
「それも吐き気を催す位な」
「そういうのもあるんやね」
「世の中にはな、自分が悪と気付いてへん」
芥川はこうも言った。
「最もドス黒いな」
「悪やね」
「そうかも知れん」
「純真無垢、真っ白でも」
「ドス黒い」
「そうした悪もあるんやね」
「悪を悪と自覚して」
そしてというのだ。
「悪をせんのもな」
「善やね」
「そうかもな」
「何か難しいね」
「ほんまあの作品ではな」
「そういうの書いてるんやね」
「太宰さんは色々言われてるけど」
その人生はあまりにも何かとあってだ。
「あの作品に書いてることはな」
「大事やね」
「そう思うわ」
こう言うのだった。
「ほんま」
「そやね」
綾乃も否定しなかった。
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