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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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SAO編 主人公:マルバ
四人で紡ぐ物語◆ヒースクリフの謎
  第三十一話 キリトvsヒースクリフ

 
前書き
デュエルシーンを一行ごとに改行することで臨場感を出してみましたが、いかがでしょうか? 

 
「へーい、らっしゃいらっしゃい! 黒エール、50コルだよ!」
「サンドイッチいかがっすかー? 一つ40コルっすよーっ」
「『タイムリー』号外、一部100コル! 今日の見所いっぱいだよ! さあ買った買った!!」
「『キングス』誌もまけちゃいねえ! 二人のユニークスキルを徹底紹介だ! 一部80コル!」

 食べ物屋の他、数々の新聞屋も号外を刷って売り出している。本来前線、中層、低層に分かれて活動しているはずの新聞屋すべてが今日の大イベントであるキリトとヒースクリフのバトルに注目しているようだ。
 低層の引きこもり以外のほぼ全プレイヤーがこのバトルの観戦に来ているらしい。

 ミズキとアイリアの姿も見える。マルバは二人がいることに気づいたが、気づかないふりをしておいた。せっかくのイベントだ、シリカと一緒に見たい。
 ちらりとミズキたちを見ると、ミズキが分厚い本のようなものを開き、そこに何かを書き込んでいるのが見えた。アイリアはそれを優しそうな表情で見つめている。一体何をしているのだろう。気になったが、ずっと見ていると気づかないふりは難しくなるため、これ以上の詮索はやめておいた。

 マルバはいつも購読している新聞である『タイムリー』誌の号外を買い、更に中層プレイヤー向けの『キングス』誌の号外も購入した。
 シリカと二人で回し読みして、今回のバトルの二人のスキルについて簡単におさらいをしておく。


 ユニークスキル、《二刀流》。
 片手用長剣二本を同時装備して戦う、スピード系だが一撃一撃の重さが片手剣スキル並の重さを持つ、チート級のスキルだ。

 それに対し、ヒースクリフの《神聖剣》。
 大盾と長剣を二本同時装備して戦う、攻防一体型のスキルだ。一撃一撃が非常に重く、また盾の防御力をブーストする効果もあるのではないかという意見があるほどの防御力を誇る。盾で発動するスキルと剣で発動するスキルの二つによって構成されるらしい。


「こうやって見ると、両方ともありえない強さですね……」
「そうだね。なんか不自然だなぁ」
 マルバとシリカの言うとおり、フェアネスを貫いているはずのSAOにおいてはこの二つのスキルは不自然なほど強い。剣を二本同時装備というのも盾でスキル発動可というのも両者とも単純に攻撃手段が二倍に増えるのだから、本当にチート級のスキルだ。

「マルバさんも二刀使いますけど、あれは制限が多いですからね」
「そうだね。僕のは二刀のうち同時には片方しか短剣として使えないし、スキルを二つ繋げばディレイも二倍になっちゃうしねぇ」
「それに《二刀流》はともかく《神聖剣》っていうのは変な名前だと思いません?」
「どこが?」
「《片手用直剣》、《短剣》、《曲刀》、《投剣》。SAOのスキルってすごくわかりやすいのばかりじゃないですか。それなのに《神聖剣》は名前だけ見てもなんのスキルなのか全然分からないですし、『神』とか付いてるとすごく特別なものに思えます」
「確かに。茅場晶彦自らがデザインしたのかな?」
「じゃあ、なんでそんな特別なスキルをあの二人は使えるんでしょうか?」
「……シリカ、鋭いね。うーん、確かに妙だな。キリトの話によれば、《二刀流》スキルは『いつの間にか習得していた』スキルらしい。つまり、習得条件があるってことになるね」
「だとするとすごく厳しい条件なんでしょうね。キリトさんしか習得できていないスキルなんて」
「あるいは……これはただの予想だけど、『SAOの中で特定のフロアボスを撃破する』ことが習得条件だったりしたら、撃破した人以外は習得不可になるよね?」
「うーん、確かにそうかもしれませんね。……それが一番あり得る気がします」

 二人は持っている新聞を交換した。マルバはもう一部の新聞に目を通す。
「あれ? これ、『ヒースクリフの《神聖剣》が最初に目撃されたのは第五十層のフロアボス戦でのことだった』って書いてあるね」
「それがどうかしたんですか?」
「いや、五十層って言うと確か――あ、《軍》の一団が一撃で全滅して、それで一度戦線が崩壊したやつだ。あの時ミズキみたいな大盾持った奴が一人でしばらくボスの攻撃を受け続けてたけど、あれがヒースクリフだったのか」
「え!? 単独でボスの攻撃を耐え続けたんですか? しかも、パーティーを一つ壊滅させるような攻撃を!? ……さすがにおかしくないですか、その防御力は」
「うん、神がかってるよね。更にすごいことに、ヒースクリフのHPバーは今まで一度もイエローになったことがないらしい」
「そんなことが……」
「あっ、始まりそうだよ」

 キリトとヒースクリフが入場してきた。オーディエンスが沸く。中央で二人は何か言葉を交わすと、少し距離をおいて向かい合った。
すぐにカウントダウンが始まり、やがてその数値が0を指すと、二人とも同時に地を蹴った。



 それは恐ろしくハイレベルな戦いだった。
 キリトの剣が凄まじい速さで唸り、ヒースクリフは初見にも関わらずその全てをたたき落としている。
 瞬時に攻防が切り替わり、今度はヒースクリフの反撃が始まった。
 盾が光る。
 まっすぐに突き出された盾を、キリトはぎりぎりで回避した。

 一旦二人の間に距離ができた。
 ヒースクリフがキリトに何かを語りかけ、キリトがそれに短く応じる。

 そして再び剣が交わった。
 あんなに重そうな装備のヒースクリフだが、その速さはありえないほど速い。
 キリトの凄まじく速い剣先を、盾で難なく受け止め、隙があらば即座に反撃する。
 気づけば、ヒースクリフの口元はかすかに笑っていた。
 キリトも楽しそうに笑っている。

 ――もっと、もっと速く……!

 二人の戦闘はさらに加速した。
 すると、少し不思議なことが起こり始めた。
 ヒースクリフの動きが鈍くなってきたのだ。
 キリトの動きに付いてこれない。
 キリトへの反撃が挟めない。

 やがて、ヒースクリフが致命的な隙を見せた。
 盾を横に振りすぎて、がら空きになった胴に、キリトの一撃が迫り……



「……ッ!?」
「見えました、マルバさん!?」
「いや見えなかった! なんだ今のは!」
「私にも見えませんでした! でも……今のはどう見ても避けられない攻撃だった。どうやって避けたんです!?」
「あり得ない……あれも《神聖剣》の力なのかな?」
「スキルエフェクトがありませんでした。《神聖剣》じゃないです!」
「なら、あれはヒースクリフ自身の反射神経なんだろう。でも、あれはいくらなんでも速すぎる気がする」
「そうですよね。……わたし、ちょっとあれは気になります」
「そっか。……なら、戦うしかない、かな」
「そうですね。……行きましょう」


 勝利したにも関わらずなぜか暗い顔のヒースクリフは、キリトを一瞥した後その場をすぐに去ろうとした。しかし……
「ちょーっと待ったぁッ!」
「待ってください!!」

 ヒースクリフの行く手を、二人のプレイヤーが阻んだ。オーディエンスから矢次が飛ぶ。それを意に介さずに、マルバはヒースクリフに話しかけた。
「ヒースクリフさん、あなたの先ほどの回避、すごかったですね。僕もあなたと戦いたくなりましたよ」
「わたしもです。あんなに速く動ける人がいるとは思いませんでした。一度、わたしとデュエルしてくれませんか?」

 ヒースクリフはわずかに顔をしかめたように見えたが、すぐに無表情になった。
「そんなことをして私になんの得があると言うのかね?」
「本来一試合だったデュエルが三試合になるんだ。入り口の近くでやってる、どちらのプレイヤーが勝つかっていう賭けは《血盟騎士団》が主催なんでしょう? いい収入になるんじゃないですか?」
「ふむ。確かに《血盟騎士団》とはいえ資金は常に不足している。しかし、いいのかね? それでは私が勝っても負けても同じではないか。本気を出す理由がなくなってしまう」
「そんなことないさ。あなたはさっきのデュエルの最中、笑ってましたよね? デュエルが好きな人間がデュエルで真剣にならないなんてことはないはずですよ。それとも、僕ではあなたには敵わないとでも?」
「正直、敵わないと思うがね。まあ、それはやってみなければ分からないことだ。さて、どちらから戦うかね? 私は二人同時でも構わないが」

 ヒースクリフは二人の返事を待たず、会場中に聞こえるようにシャウトした。
「今ここでもう二人、デュエルに申し込んだ者がいる! せっかく人数が四人に増えたことだから、ここで総当り戦を行うことにしようと思う! せっかくの機会だ、楽しんでくれ給え!!」

 オーディエンスが再び沸き、マルバとシリカは話が違うとばかりに不満そうな顔をした。しかしヒースクリフはその恨みがましい視線を全く意に介さずにこう言ってのけた。
「こうでもしないと割に合わないのでな。さて、今聞いての通りだ。オッズが成立するまでに、三人でデュエルの順番を決め給え。私は何番目でも構わないのでな」 
 

 
後書き
さてさて、出ましたよ、原作との相当の矛盾が。
原作で軍のトッププレイヤーは25層で壊滅してますが、この話では50層で壊滅したことになっています。すみませんでした、許してください。

更新が遅れたのは、英検を受けてきたからです。あと学校の行事もありまして、間が開いてしまいました。また少しずつ公開していくので楽しみにして頂ければ嬉しいです。

裏設定。
気づいた方も多いと思いますが、新聞屋は現実の新聞をモチーフにしました。そう、イギリスやアメリカと同じように階級によって読む新聞が異なるんです。
前線のトッププレイヤーが読む『タイムリー』誌は『タイムズ』誌のパクリです。中層の上位プレイヤーが読む『キングス』誌は『キングス・クロス駅』から付けました。英国行ってみたいなあ。 
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