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八条学園騒動記

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第七百二十三話 狼へのイメージその十一

「だからだ」
「あの獣は狼ではない」
「断言している」
「そうですか」
「訓練された狼ならわからないが」
「そこは犬と同じですね」
「しかしな」
 それでもというのだ。
「そうでもないとな」
「狼は人を襲わないので」
「あの野獣が狼なぞだ」
 こうしたことはというのだ。
「まずだ」
「有り得ないことですか」
「そうだ」
 上等兵に強い声で言い切った。
「それは連合では常識だ」
「誰もあの獣が狼とは言っていないですか」
「そうなのだ」
「そこはエウロパとはですね」
「全く違っている」
「そうですね」
「そのことからもだ」
 まさにというのだ。
「偏見がわかるな」
「左様ですね」
「偏見は時として科学的根拠を無視してだ」
 そうしてというのだ。
「人に間違った判断をさせる」
「それは大きな過ちにもなりますね」
「最悪だ」
 大尉はこうも言った。
「魔女狩りの様な事態もだ」
「引き起こしますね」
「あれは汚点だ」
 大尉はその目を険しくさせて言った。
「何よりも酷いな」
「歴史における」
 上等兵はここではエウロパの、という歴史の前に入れるべき言葉を敢えて行間に入れてそうして隠した、やはり彼等がエウロパの者達だからそうしたのだ。
「それですね」
「そうだ、ああしたことにもだ」
「なりますね」
「それが偏見だからな」
「務めて持たない様にすべきですね」
「特に我々はな」
 敵国で情報収集を担っている者はというのだ。
「そうすべきだ」
「左様ですね」
「狼からもそれを見ることだ、そしてだ」
「そして?」
「この生きものについてもそれは言える」
 こう言ってだった。
 大尉は上等兵を新たな生きもののコーナーに連れて行った、そしてそこでまた偏見のことを話すのだった。


狼へのイメージ   完


                    2023・7・9 
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