ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
圏内事件~二人だけの答え合わせ編~
静かに扉を閉めたレンはしばらくの間、半ば放心したようにその場に留まっていたが、いつまでもそうしていることもできず、のろのろと右手を上げた。
真下に振り、涼やかな鈴の音とともにメニューウインドウが目の前に現れる。
左側に羅列するタブをスクロールし、メーラーボタンを押す。
浮かび上がったホロキーボードを手早く叩き、メールを送信する。安全に送信された旨のメッセージを一瞥し、ウインドウを消す。
数秒後、早くも返信されてきたメールを開き、その中身を見て、レンは静かにドアから出てきたときと同じように宿屋から退出した。
アインクラッドのとある低層の、主街区でもないマップの隅っこにある小さな村の、同じく小さな居酒屋。
それがレンのメールに返信したプレイヤーが出した、待ち合わせ場所であり会合場所であった。
目を閉じ、精神統一でもしているかのように、居酒屋の隅っこにあるテーブルについていたレンは、唐突に眼を開けた。
「……遅いよ、ねーちゃん」
「レン坊が早すぎるんだヨ」
にひひ、と笑うその顔にはネズミのような三本のヒゲがメーキャップアイテムでしっかりと書き込まれている。
通称《鼠》のアルゴ、アインクラッド一の情報屋だ。
「アルゴねーちゃん、単刀直入に言わせてもらうよ」
「にっひひひひ、雑談する時間もないってカ?」
小生意気なアルゴの言葉をさらりと受け流しつつ、レンは言った。
「あれは、この一連の圏内事件は、全部──」
一瞬、戸惑うような気配を滲ませて、レンは紡ぐ。その真実を。
「──自作自演なんだね」
レンの言葉に、アルゴは軽く肩をすくめ、手を振って先を促す。
「あの消滅現象は、転移結晶の転移光とアイテムの消滅光の相乗効果。そしてあの《生命の碑》に刻まれていたのは、恐らく同じ発音をする全くの別人……違う?」
つらつらと淀みなく喋り終えたレンをしばらく見据えていたアルゴは唐突に言った。
「ああ、その通りダヨ。ちなみに動機の方も解ってんだロ?」
軽く頷き、レンは答える。
「どーせ、リーダー殺害の真犯人でも探そうとしたんでしょ?標的はシュミットのおじさんかな?」
そこまで言ったとき、頼んであった飲み物がNPCの手によって運ばれてきた。運んできたNPCは、軽く一礼をし、奥に引っ込む。
アルゴは、二つある大きめのジョッキの片方を手に取り、一口ぐびりと飲む。
ぷはぁっ!と息を吐き出すティーンエイジャーを見て、本当に現実でもこの姿なのだろうかと疑わしく思いつつ、さらにレンは口を開く。
「あの武器を造ったのはグリムロック。こんなとこじゃない?」
「…………何で解ったんダ?レン坊。これまで完璧に騙されてたじゃないカ」
じろんと横目で軽くレンを一睨みし、もう一度ぐびりとジョッキを傾ける。
「気付いたのは、ついさっきだよ。ヨルコねーちゃんが落ちて、それを受け止めたときに、転移の発声が聞こえたんだ」
「にっひひひひ、なるほどナ。それじゃあ解るわナ~。………じゃあレン坊──」
アルゴはごとん、とジョッキをテーブルに置いた。
「…………なぜそれをオイラに言う?この件は、これ以上お前には関係のない話ダ。そんなことをオイラに話しても、何の得はないゾ」
「それは──」
答えに窮するレンを見て、にひひとアルゴは笑うと、きらりと眼を光らせながら言った。
「あのヨルコって女は、シュミットを殺すなんてことはしないだろうし、そもそもレン坊は、この事件に積極的に関わったんじゃなく、巻き込まれた方なんダヨ。レン坊がこの件にこれ以上首を突っ込む必要は全くないと思うがナ」
沈黙がテーブルの周りに漂った。寂れたところのようで、レン達の他には店員のNPCしかいない。まぁ、こんなところだからこそ、アルゴはこの場所を待ち合わせ場所に指定したのだろうが。
夕暮れも過ぎ、青紫色に染まっている外をレンはぼんやりと見つめた。狩りから帰ってきた昼型プレイヤーと、起き出してきた夜型プレイヤー達が織り成す喧騒が不思議な引力でも持っているかのように、耳に入ってくる。
しばらくして、レンは口を開いた。
「これは、これはね……ただの勘なんだけど…この事件は、まだ終わってない。そんな気がするんだ」
フン、という鼻息が隣から聞こえ、アルゴに向き直る。
《鼠》の異名を持つ少女は、どこか不貞腐れたような、どこか呆れたような、どこか面白そうな表情を、三本ヒゲの書かれた顔いっぱいに浮かべていた。
「まったく、鋭すぎるゾ。レン坊」
「……んじゃあ、僕の勘は当たってたって訳だ」
おどけた会話。だが、アルゴはその飄々とした表情をにわかに硬くした。
「…………………笑う棺桶が出張ってきてる」
「……………っ!」
その言葉は、冷静だったレンを混乱させるには充分だった。否、充分すぎた。
思わず立ち上がったレンの背後で、けたたましい音を立てて椅子が床に転がる。
テーブルに置かれた、二つのジョッキに入った氷がカランと鳴る。
「………なんで…………奴らが…………」
『こんな事件に』という言葉を飲み込んで、ようやく悟る。この期に及んで、未だに笑みを絶やさないアルゴを軽く睨みながら、ゆっくりと言う。
「………グリムロックが犯人なんだね。リーダーを殺して、指輪を奪ったのは。そして、この件に首を突っ込んだヨルコねーちゃん達を殺そうと、汚れ仕事を引き受ける殺人者を雇った………」
その通りダヨ、とアルゴは言った。
そして言う。助けるつもりなのカ?と。
「それは偽善という物じゃあないのカ?レン坊」
その問いに、レンは即答した。考える間もなく、即答した。
「やらないってゆーのが善だったら、僕は偽善者だったほうがいい」
そう言い切ったレンをしばらく見つめていたアルゴは、大きな溜め息を一つつき、やれやれとでも言うように首を左右に振った。
「どーやら、本物のバカらしいな。しょーがなイ──」
そしてアルゴの口が動き、ある層の名前を口にした。
後書き
なべさん「生まれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!始まりました、そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「はいはーい、今回は忘れたころにやってくる。お便り紹介コーナーでーす!」
なべさん「今回のお便りを送ってくれたのは、常連さんの月影さん!」
レン「えーと、内容は前回の最後についてだねー」
なべさん「あー、思わせ振りな感じで終わっちゃったからね」
レン「まさかの《鼠》さんの再登場って、出過ぎでしょ」
なべさん「いやー、あのキャラ好きなんだよねー。キャラが立ってるってゆーかさー」
レン「あー、まーね。あの語尾がね。確かに特徴的な感じだよネ」
なべさん「うつってるうつってる、語尾うつってるよ。はい、とゆーわけで月影さん、お便りありがとうございました!これからも本作品のご愛読をよろしくお願いします!!」
レン「はいはーい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー♪」
──To be continued──
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