古い民宿が続く理由
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第二章
「江戸時代からな」
「だからここにずっとあるんだな」
「一見何でずっとあるかわからないだよ」
「不思議に思ってたよ」
息子も否定しなかった。
「どうしてかってな」
「実はな」
「そんな事情があったんだな」
「そうだ」
息子に強い声で答えた。
「ごく一部の限られた人達がな」
「お忍びで来てか」
「楽しむんだ、あそこの部屋も温泉も食事もな」
「全部凄いか」
「ああ、ただ値はな」
それはというと。
「わかるな」
「そうした人達がお忍びだからか」
「そういうことだ、世の中はな」
父はさらに言った。
「そうした場所もあるんだ」
「そうなんだな」
息子はここまで聞いて唸った顔で頷いて応えた。
「そう聞くとな」
「いい勉強になったな」
「俺まだこの街のこと知らなかったんだな」
父にこうも言った。
「あそこがそうした場所だってな」
「狭い様で広いんだ」
これが父の返事だった。
「世の中はな」
「だからこの街もか」
「そうだ、もっと言えばな」
父は今度は小声で囁いた。
「お前ももう知ってるだろ、温泉街というとな」
「ここにはなくてもな」
「近く、ちょっと行くとな」
「車でな」
「そうした場所もあるだろ」
「そうだよな」
「そうしたこともな」
風俗街のことはオブラートに包んで話した。
「あるからな、そして俺達はな」
「行かない方がいいな」
「ばれるからな、近場は」
「そうだよな」
「ひいひい祖父さんはあそこが遊郭だった時よく行ってだ」
そうしてというのだ。
「病気にもな」
「なったんだな」
「幸いペニシリンが出てな」
「抗生物質が」
「それで助かったがな」
「そっちの心配もあるし」
「出来たらな」
息子に言うのだった。
「ああしたところはな」
「行かない方がいいな」
「そうしろよ」
「そうするよ」
彼もそれはと応えた、そして実際にそうした場所には行かなかった。そのうえでホテルの跡を継ぐ勉強をしていったのだった。
古い民宿が続く理由 完
2023・10・22
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