ハッピークローバー
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第九十九話 寝られるだけでもその十
「開き直ってね」
「ストレスもないですね」
「十試合して一勝か二勝よ」
「それだけしか勝てないから」
「もうね」
「開き直って」
「そのうえでね」
采配を執れるからだというのだ。
「だからよ」
「もうストレスも溜まらなくて」
「よく寝られるでしょうね」
「じゃあ巨人の監督は幸せですか」
「正直なったらね」
巨人の監督にというのだ。
「それだけでお給料貰えるし」
「年棒で」
「しかも監督は監督だし」
プロ野球のチームのだ。
「少しでもファンいるし」
「十二球団一少なくても」
「それでもね」
存在していることはしているからだというのだ。
「応援もしてもらえるし」
「幸せですか」
「もう殆ど誰も振り向かないけれど」
コーチはこう前置きして理虹に話した。
「歴史もあるし」
「昔強かった」
「日本で最初に出来たプロ野球のチームのね」
「それで、ですね」
「あるものもあるから」
二十年連続最下位のチームでもというのだ。
「だからね」
「なれたらいいんですね」
「しかも今更負けても」
「勝率一割台だと」
「それで二十年連続だしね」
そうした有様だからだというのだ。
「もうね」
「開き直ってるんで」
「幸せよ、まあ私は阪神ファンだし」
「どうでもいいですか」
「巨人はあのままずっと弱くていいのよ」
こうまで言うのだった。
「その分阪神も勝つしね」
「前シーズン巨人に一敗しかしてないですしね、阪神」
「今年は全勝してるでしょ」
九月に入った時点でだ、最早伝統のカードではなく阪神の勝利数稼ぎ即ちボーナスステージと呼ばれている。
「完全試合もあって」
「殆ど毎試合二桁得点で」
「もうね、あのままね」
「巨人はですね」
「ずっと弱くていいわ」
「その分阪神も勝てますし」
「私達もよく寝られるでしょ」
巨人が負ける姿を見ればというのだ。
「ご飯も美味しいし」
「そうですね」
「そしてお話を戻すけれど」
コーチはこう前置きしてまた言った。
「気分がいいとそれだけね」
「よく寝られもしますね」
「そのことも覚えておいてね」
「わかりました」
理虹はコーチの言葉に確かな顔と声で頷いた、そして部活で汗を流して家に戻るとご飯が実に美味かった。
それを食べて風呂に入った後で妹と会ったので彼女にこう言った。
「受験勉強もいいけれど寝なさいね」
「わかってるわ、寝ないとかえってね」
妹もそれはと返した。
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