| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

暗躍.6「一番のマニア」

(グランバニア城:国王執務室)
コリンズSIDE

この部屋の主であるリュカさんは迷惑そうだ。
昨日ウルフ宰相に昼食(俺とウルフ君は肉ジャガ定食。ポピーは納豆定食)を奢って得た絵を持って、ネル家の四男に確認をした。

その結果、ポピーの読み通りドンを助けたのは絵の女であることが判明。
因みに着ていた服もまさにコレだったらしく、鮮明に覚えているとのこと……
勿論、事の詳細は馬鹿(ドン)には教えず、適当にはぐらかしてその日は撤退。

翌日である今日(ってか今)……
リュカさんの執務室にウルフ宰相を伴って威風堂々と登場。
威風堂々は嫁だけだ。

「お父さ~ん……ちょっとそろそろ部下の質を考え直した方が良いわよ~♥」
「何だこの女、藪から棒に……妊娠のストレスでイカれたか? 俺は天才だ!」
こんな遣り取りを見せられて当然リュカさんも困り顔……のはずなんだが。

「やっぱりあの一言が拙かった?」
と、ポピーに尋ねる。
「ちょっと不用意すぎましたわね」
と、ポピーも答える。

何だか解らないのは俺とウルフ君。
二人揃って互いの顔を見ると、眉間にシワを寄せて首を傾げる。
この後に説明をしてはもらえるのだろうか?

「ウルフはポピーに何って言われたの?」
「何について?」
「マーニャちゃんだよ」
「あぁ……リュカさんが過去の世界に居た時の愛人って説明した」

「それだけ?」
「昨日、昼飯を奢ってもらう引き換えにマーニャさんの絵を描いてやった」
「はぁ~……完全に僕の失態だ」
「え? な、何かやらかしましたか俺!?」

「実は……」





「……ってな事があったのさ(笑)」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 俺は悪くないじゃん! だって知らされてなかったし、関わってもいなかったんだから!」
その通りではあるが……

「何を言うかと思えば。私だって知らなかったわ! しかも私は欺される方。でも私はお父さんの事をよく知ってるから、ちょっとした機微で気付いちゃうのよねぇ~。アンタには無理でしょうけどね、ナンバー2さん(笑)」

「しかし凄いですね。ポピーの言う通りリュカさんの一人勝ちじゃないですか」
「ポピーが何を言ったか知らないが、別に僕の一人勝ちじゃないよ。皆がそれぞれに得をしている。僕が事態の中心に居て各人に仕向けたから、そう思われるだけ」

「『各人に仕向ける』? ではリュカさんは今回の件を全て仕切っていたと!?」
「全てではないよ。流石にどこぞの馬鹿貴族が義娘(むすめ)を襲うなんて考えても無かった。完全に偶然だよ」
それは……そうだが……

「コリンズには今回の件で納得がいってない部分があるみたいだし、ちょいと説明してやろう」
「い、いえ……納得してないというか、リュカさんだけが得をしている風にしか見えないからですね……」
サッサと納得をしない俺にリュカフリークスの二人(ウルフ君とポピー)から鋭い視線が突き刺さる。

「じゃぁさ、お前の所属する陣営の立場だけで考えてみよう」
「俺の……?」
俺側の立場って……ラインハット王国か?

「今回の件……誰が如何(どう)見ても婦女暴行……まぁ未遂だが、そんな事件だよね」
「ええ、まぁ……」
あの馬鹿(ドン)も言ってたけど、相手がグランバニアの王族だと知らなかった……と、しても大事(おおごと)だよね」
「当然ですね」

「ネル家は爵位持ちの貴族とは言え、その爵位は上から4位……つまり“公爵”・“侯爵”・“伯爵”・“子爵”・“男爵”となっている。発言力や影響力はかなり低いと言わざるを得ない。そんな中、巻き起こしてしまったのが今回の事件だ。世間……特に国内貴族連中には知られたくは無いだろう。違うかい?」
「全く以てその通りです」

「うん。ラインハット王家もネル子爵家だけが頼りになる味方じゃ無いけども、我が儘を言っている貴族の中では王家に味方をしてくれているのは少数だ。だから子爵家であろうと優遇しているし、その思いにも応えてくれているのが子爵家だ。理由さえあれば爵位を上げる事だって考えているだろう……考えていたよね?」

「過去形では無く考えてます! 現に例のアルカパの町興しにも参加させて、成功の暁には大々的にネル家の事を持ち上げる予定ですから!」
本当はもっと色々な面で活躍の場を与えたいんだ。

「じゃぁ今回の件はソレすらもダメにしてしまうな(笑)」
「笑い事じゃ無いですよ!」
他国(他人)事だと思って!

「ほら。今の説明だけで、ネル子爵家にもラインハット王家にも大きな利益が舞い込んできてる」
「た、確かに……リュカさんが裏で暗躍せずに、事件が表沙汰になっていたら、ネル子爵家は最悪没落していたかも知れません。そうなれば我が王家の力も弱まりますし……」

「もっと多角的に考えよう。そう、今回の件では完全な被害国であるサラボナの事だ」
「サラボナ……彼の国は無関係なのでは?」
ワザワザ巻き込む必要は無いだろう。

「忘れてもらっては困る。今回の事件はサラボナで起こったんだよ。そこには国の統治責任が付いてくる」
「そ、それはそうですが……あまりにも理不尽では? だってサラボナはあの馬鹿(ドン)の入国もアルルさん等の入国も知らなかったのですから」

「“知らなかった”じゃ許されない。国家を統治するって事はそういう事なんだよ」
「で、ですが……今回の件でサラボナは如何様(どのよう)なペナルティーが科せられるのですか?」
何にしても理不尽だろう。

「考えてもみろ。サラボナから見たら今回の事件“ラインハットの貴族がグランバニアの王族に襲いかかった”って見える。勿論それは紛れもなく正しい事なんだけど……」
「で、ですが……あの馬鹿(ドン)は相手が王族だと知らなかったワケですし、結果として未遂で……しかもティミーがあの馬鹿(ドン)を夜中の雪山に放り投げてるではないですか! 双方の痛み分けで終わらせられませんか?」

先刻(さっき)から言ってるだろ……これはサラボナ視点での考え方だ」
「サ、サラボナ視点!?」
分かってるんだ……現状が一番良いって事は……でもリュカさんの暗躍を知ってしまったから……

「サラボナからしてみれば、自国で勝手に婦女暴行……未遂を犯した貴族は許す訳にはいかない。まぁ被害者女性が平民であれば『今回は未遂だし金をやるから無かった事にしろ』って言えなくも無いだろうけど……ところがどっこい被害者は王族なんだよなぁ。あぁ残念ザンネン(笑)」
笑い事じゃぁ……(怒)

「本来であればサラボナもネル家……引いてはラインハット王家とは対立したくない。でも被害者側のグランバニア王家の不興を買いたくない。現状で両国と仲良しこよしであるのに、今回の事件でどちらかとは仲違いをしなきゃならなくなる。理不尽じゃないか! サラボナは直接何もしてないのに、大口の顧客を最低でも1件は失わなければならないんだ」
あれ、理不尽さを訴えてたのは俺なのに、何時の間にかリュカさんが言う様になった!?

「ネル家の横暴を金で目を瞑れば、グランバニアが黙っちゃいない。実際に僕はサラボナとの友好を断ち切る。でも、だからといってグランバニアとの仲を優先してネル子爵家を弾劾したらラインハット王家との繋がりが弱くなる。どっちに転んでも大損は免れない」
「で、ですが……何も知らない状況にする必要は無いのでは?」

「サラボナは今回の事件の事を知っているよ」
「え!? し、知っているんですか!?」
な、ならばどうして何も言ってこないんだ?

「今回の事件で僕が何もしなければサラボナはネル家の馬鹿(ドン)を捕らえて口封じをしただろう」
「“口封じ”? つまり殺す……と?」
そ、そこまではしないのでは?

先刻(さっき)言った通り、ラインハットとグランバニアのどちらかと決別するのだから、中途半端な事は出来ないんだ。だとすると“蒸気船”だったり“魔道街灯”だったりと各種発明で利益を得られる分、グランバニアとの仲を優先する事は間違いないだろう。そうなると今回の事件で余計な事を言わせない為にも犯人である男の口を封じるのは常套手段。それを以てラインハットには今後は高額な取引を持ちかける事になる訳だ。当然だがラインハットはその条件を飲まざるを得ないのだが、他の貴族連中は拒絶するだろう。そしてそうなった原因であるネル子爵家に対して当たりがキツくなり、王家としてもネル家を追放するしかなくなる訳だ」

「そ、そんな事になったらラインハットは混乱します! 現状は程よいバランスで王家が統率出来ているんですから!」
「そうだね。ヘンリーが凄く頑張っているよ。でもこのバランスだって、グランバニアがラインハット王家と仲が良いから保たれているだけで、今回の事件で僕等が喧嘩し始めたら瓦解しかねないよね」
か、考えただけでも恐ろしい。

「どうだい。僕が暗躍したからこそ、僕だけじゃ無くて皆が得をしてるだろ? だからコレは僕の一人勝ちじゃぁなくて、あの馬鹿(ドン)の一人負けなんだよ。どう転んだって今回の件ではあの馬鹿(ドン)は一人負けなんだから、その負けっぷりを最大限に利用させてもらった訳さ。でもコリンズは知りたくなかっただろ……こんな真っ黒な裏側なんて」

「知りたくなかったです……昨日の朝までは晴れやかな気分だったのに」
俺はこの気分の原因を作った嫁を横目で睨む。
だが嫁は何時もの……いや、それ以上の可愛い笑顔で受け止める。

寧ろ俺の視線的に嫁よりも奥に居るウルフ君の方が苦虫をすりつぶした様な顔をしている……何故君が?
君は今回、殆ど関わっていないのだろうに。
そんな風に思っていると、俺の視線の先に気付いたポピーが勝ち誇った顔になってウルフ君の方に向いた。

「あ~ぁ……アンタが私に余計な事を言わなければ、私の旦那が心にモヤモヤを抱えなくて済んだのに! 自称“リュカさんの腹心”を名乗るのなら、そのくらいは直ぐに対応しなさいよね! あぁ私だったら絶対に尻尾を掴ませないのに(ドヤ!)」
あぁそうか……そういう事か。

「ねぇねぇお父さぁん! 見てよウルフが描いてくれた絵を!」
「うわぁ相変わらず上手いな! このエロさ……ソックリじゃねーか」
妻は自分が一番のリュカフリークである事を証明したかったんだ。

これではサラボナ発行のフリーペーパーに自分の父親の偉業が掲載されている事をアンダーラインを引いて皆に配り回った妹と同レベルである。
無関係の人が見て微笑ましいか、心に黒い物を宿すかの違いだけだ……はははっ、些細な違いだな(泣)

「本当にこんな下着みたいな格好で生活している女って居るの? これ室内だけじゃ無いんでしょ?」
「僕も最初見た時驚いたけど、エロくて似合ってるから違和感が無いんだよ」
普段はウルフ君がリュカさんの力になっていて、その疎外感で鬱憤が溜まっていたのだろう。

「そ、そうは言うけど、その女……結構身持ちが堅いんだぞ! 俺が口説いたら蹴りを入れられたんだ!」
「アンタが口説いたって無理に決まってんじゃん! 馬鹿じゃ無いの?」
リュカフリークとしての実力を証明出来、目障りな小僧を口撃(こうげき)する事が出来てポピーは満足そうだ。

あぁ……そろそろ俺も胃薬を愛飲しようかな。
父には今回の件……の裏側は絶対に言えない。
胃が溶けて無くなってしまう。

勿論、父にだけじゃない。
世間にだって知られる訳にはいかない。
我が国の瓦解に繋がる。

そうなるとあの馬鹿(ドン)がしたくもない結婚をさせられる事に多少の同情をしていた事が苛ついてくる。
アイツの所為で世の中……少なくとも三国は大変な事になっていたんだ。
リュカさんも言っていたが、簡単に死んで済ませられる事ではない!

でも……
今回の事で一層リュカさんに頭が上がらなくなる。
ラインハットも然り、サラボナも然り……(つい)でにネル子爵家も追加された。

これがリュカさんの一人勝ちだと思うんだよなぁ……

コリンズSIDE END



 
 

 
後書き
ファザコンでは無いマリーが真面に見えるという不思議現象w 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧