イベリス
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第百十九話 秋という季節その八
「教養もね」
「得られるなら」
「それならね」
そうであるならというのだ。
「いいよ」
「そうですか」
「哲学書に馴染めないなら」
それならというのだ。
「もうね」
「それならですね」
「読まないでいいよ」
「そうですか」
「うん、読まなくてもね」
そうせずともというのだ。
「別に死なないしね」
「それはないですね」
「もっと言えばね」
部長はさらに話した。
「他の本もね」
「同じですね」
「読まなくても」
それでもというのだ。
「死なないよ」
「そうですよね」
「けれど得られるものはあるから」
「読んでいいですね」
「そう、あと哲学書だからといっても」
それでもというのだ。
「無条件でいいかっていうと」
「違いますか」
「中にはつまらない哲学者や思想家もいて」
それでというのだ。
「変な造語か小難しい文章出すだけで」
「そうしたことだけで」
「中身はね」
肝心のこちらはとうのだ。
「ないって場合もね」
「あるんですね」
「正直戦争終わった後の日本だと」
部長は眉を顰めさせて言った。
「大したことないって聞いてるよ」
「そうですか」
「うん、戦後日本最大の思想家は吉本隆明っていうけれど」
「その人知ってます、カルト教団の教祖を褒め称えた」
「そうだよ、テロを起こして大勢の人を殺して」
「愛人さん一杯いて自分だけ贅沢していた」
「そんな人を最も浄土に近いとかね」
これは対談でこの輩が本当に言ったことだ、こうした輩が持て囃されたのが戦後日本の知性の象徴であろうか。
「言ってたから」
「馬鹿ですよね」
「馬鹿だよ、吉本隆明は」
部長は言い切った。
「それでそんな馬鹿がね」
「戦後最大の思想家ですね」
「そう呼ばれていたんだよ」
そうだったというのだ。
「それを見るとね」
「戦後の日本の哲学はですか」
「どうってことないどころか」
むしろという口調での言葉だった。
「読むと馬鹿になる位の」
「酷いものですか」
「北朝鮮を絶賛してもだよ」
例えそうしてもだ。
「問題なかったしね」
「あの国もおかしいですよね」
「誰がどう見てもね、巨人軍大鵬卵焼きとか」
部長は今度はこの言葉を出した。
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