とある星の力を使いし者
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第170話
前書き
今回は短いです。
昼休みになった。
カエル顔の医者の技術力はとてつもなく高く、スキルアウトとの勝負で額を割った上条だったが、半日で退院する事ができた。
傷跡も一つも残らないほど、綺麗に治療してある。
すき焼きなどの外食で家計が圧迫されつつある上条にとって、早期退院は嬉しかった。
昼休みになり、昼食を食べ終えた上条は暇そうにしている麻生を連れて、校内をブラブラと歩いていた。
ふと、窓を通して校庭に視線を向ける。
一〇月になったので、気温が一番落ちつているのか野球やサッカーなどしている生徒が多い。
「昼休みによくスポーツなんかできるよな。」
面倒臭がり屋の麻生恭介は尊敬と、どうしてそんな事をができるのかという疑問を込めて言う。
「飯食い終わったら、やる事ないしな。
暇だから、身体を動かそうって結論になったんじゃねぇ?」
「その結論に至った事が信じられない。
普通は寝るだろ。」
「それもありだから否定はしない。」
くだらない事で話をしていると、麻生の視界の端で白い物体が飛んできているのが分かった。
上条とは横一列に並んでいるの、一歩後ろ下がって、その物体をやり過ごす。
窓ガラスを割り、白い物体が麻生の前を通り、上条の頬にクリティカルヒット。
ここまでは麻生の予想通り。
しかし、予想外の事が起こる。
上条の頬に当たった白い物体は、壁に当たったかのように反射したのだ。
その向かう先は麻生の顔面。
これは予想できるわけがなく、どうする事もできずに、結局麻生の頬にもクリティカルヒット。
麻生の頬に当たったので勢いが完全に無くなったのか、白い物体は廊下にバウンドしながら転がる。
それは硬式野球ボールだった。
校庭で野球部の誰かが張り切って、フルスイングでもしたのだろう。
結果、運悪く上条達の所に飛んできたという訳だ。
「い、いってぇぇぇ!!!
何でボールが飛んでくるんだよ!!」
ボールが当たった頬を擦りながら、校庭に視線を向ける。
ホームラン級を打ったバッターはもちろん、その野球メンバーは既に校庭に姿はない。
その時、上条の視界を何かが埋め尽くす。
それは自分の顔をがっちり掴むと万力のように、こめかみを絞め始める。
「あたたたたた!!
骸骨が、骸骨が砕けるッッ!?」
「砕けるように絞めているからな。
いや、むしろ砕けろこの野郎。」
アイアンクローをしているのは麻生だ。
ボールが頬に当たった原因はあのバッターだが、上条の不幸も関係していないと言えない。
バッターはどこに行ったか分からない。
つまり、この恨みを晴らす対象は上条に向けられたのだ。
「き、恭介さん!?
本当に、頭がァァァァ!!!」
「てか、死ね。
お前は死ねばいいと思うぞ。」
二人がそんなやり取りをしていると。
「ぷっ、お前達は相変わらずだな。」
くすくす、と笑いながら割れた窓の近くに背中を預けている女性が立っていた。
この学校の冬用の女子生徒の制服を着ている。
麻生はその女性の事を知っている。
「何ですか、芹亜先輩。」
「よせよ、お前に先輩なんて言われたら癖になりそうだ。」
「もう二度と呼ばないから安心しろ。」
「それはそうと、そろそろ離してやらないと上条が昇天するぞ。」
芹亜の言葉を聞いて、視線を上条に戻す。
さっきまで騒いでいたのに、今では腕に力はなくだらしなく下がっている。
麻生は手を離すと、両手でこめかみを押える。
「し、死ぬかと思った。」
心の底から言う上条を見て、芹亜はくすくすと笑いを堪える。
芹亜に見覚えがない上条は誰?、と言った感じで首を傾げる。
「そう言えば、『今』のお前は初対面だったな。
彼女は雲川芹亜。
何年何組に所属しているかは誰も知らず、教師ですら彼女の所属クラスなどを把握していない、謎の多い女子生徒だよ。」
雲川芹亜とは何度か話をした事があった。
もちろん、麻生からではなく芹亜からだ。
それからちょくちょく学校で会えば二、三言話し合う程度に知り合った。
その際に、上条も話をした事があるのだが、彼は記憶喪失になっているので初対面という事になる。
「それって不審者じゃないの?」
説明を聞いて率直な感想を述べた。
「間違っていないな。」
「おいおい、本人を前にしてそれはない思うけど。」
そう言ってはいるが、芹亜は気にはしていないようだ。
「つか、俺達に何か用か?」
「別に意味はないけど。
相変わらずのコンビだから、それを見て笑っているだけだ。
本当にこの学園は飽きない。」
放課後になり、荷物を纏めて教室を出る。
横には制理も歩いている。
帰る家は一緒なので、麻生も何も言わない。
最初の方は二人が一緒に帰るたびに、クラスメイト達は冷やかしの言葉を言っていたが、もう慣れたのか誰もそんな事は言わなくなった。
彼らが一緒の家に住んでいると知られれば、比べ物にならないくらい騒ぎになるが。
「今日は病院に寄るぞ。」
「分かっているわよ。
黄泉川さんの退院でしょう。」
マンションに帰る道とは別の道を歩きながら話をする。
今日は黄泉川愛穂が退院する日だ。
腕と足を切断された愛穂だが、学園都市製の義手と義足をつける事になった。
彼女自身、警備員の仕事もやりたいと言っていたので、かなり丈夫で精巧な義手と義足を用意してもらった。
今までそれらを日常生活や仕事に影響が出ないように、リハビリをしていたのだが、昨日の夜にカエル顔の医者から連絡があり、今日に退院する事になった。
病院に着くと、カエル顔の医者が出迎えてくれる。
「よく来たね?
彼女が待っているよ。」
案内され、愛穂の病室に向かう。
ノックして扉を開けると、いつもの緑のジャージを着た愛穂が荷物を抱えて立っていた。
無くなった筈の左腕に荷物を抱え、しっかりと両足で立っている。
「黄泉川愛穂、完全復活じゃん。」
「退院できてよかったな。」
「おめでとうございます。」
制理の退院祝いの言葉は予想していたが、麻生からも言われるとは予想していなかったので、照れを隠すように頭をかく。
「頑丈に出来ているけど、無理はしないようにね?」
「世話になったじゃん。」
病院に世話になった人に挨拶しながら、病院を出て行く。
「今夜は退院祝いだな。
腕によりをかけるよ。」
「それは楽しみじゃん。
吹寄はどう?
生活には慣れた?」
「恭介や芳川さんのおかげで何とか。」
そんな他愛のない話をしながら、マンションに戻る。
戻ってから、麻生はすぐに調理に取り掛かった。
ケーキやら何やらを作るのには時間がかかるからだ。
その間に女性達による話し合いが始まった。
話題はもちろん麻生について。
「ウチが入院している間に、何か変わった事はあった?」
「特には。
前より優しくなったところくらいかしら。」
「一緒に暮らす訳だし、チャンスは一杯あるじゃん。」
「そうそう、愛穂。
ライバルがまた一人増えたわよ。」
桔梗は隣に座っている制理に視線を向ける。
それを感じた制理は顔を赤くする。
それだけで桔梗が何を言いたいのか分かった愛穂は。
「まさか一人増えるのは予想外じゃん。
でも、簡単に負ける気はないから。」
「そ、それは私もです!」
本院が近くに居ないので、本音を恥ずかしげに言う。
それを聞いて愛穂と桔梗は軽く笑い、マグカップに居れたコーヒーを掲げる。
「まぁ、これからも色々とよろしくじゃん。」
二人は愛穂のコップに自分のコップを当てて乾杯する。
夜になって麻生が腕によりをかけた料理を堪能。
それぞれが風呂に入り、就寝する時だった。
例によって、桔梗と制理が部屋にやってくるのだが。
「二人が行ってウチが行かない訳がないじゃん。」
予想はしていたが、黄泉川愛穂も麻生のベットに入ってきた。
ただでさえ、三人で狭いのに四人になると真ん中の圧迫感が半端ない。
しかし、彼女達が気にしているのはそこではない。
「散々今まで二人は恭介の隣にいたんだから、ウチに優先してもいいじゃん。」
「それとこれとは話が別よ。
一日に一度しかないイベントだから、簡単に譲ると思う?」
「わ、私もここは引けません。」
何が目的で話しているのか全く分からない麻生。
逆にここまではっきりと話をしているのに、気がつかない辺り鈍感というレベルではない。
「ここはジャンケンにしましょう。」
「それが公平ね。」
「負けないじゃん。」
麻生の隣で寝れるだけで、真剣に何を出すか考える三人。
ここまで本気でジャンケンをする人達はそうはない。
五回に及ぶあいこの結果。
右から、愛穂、麻生、制理、桔梗、という順番で寝る事になった。
ジャンケンで負けたのだから潔く引いた桔梗だが、内心はもの凄く悔しがっている。
騒がしい夜を終え、今日という一日が終わった。
後書き
次からはSS2巻の話をするつもりです。
たぶん、一話で全部終わると思います。
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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