とある星の力を使いし者
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第169話
データベースセンターはドーム状のメイン施設を中心に、二階建てや三階建ての小さなビルが隣接している、という構造になっている。
そのメイン施設の正面ホールだろうか、その通路の真ん中をゆっくりと歩いている男の影がある。
当然、警備員が入ってくるのを警戒して、見張りをする武装無能力集団がいる。
「おい、あれを見ろよ。」
拳銃を手に持っているスキルアウトの男が、隣で見張りをしている仲間に話しかける。
男に言われて壁を背にして覗くと、白髪の男がこちらに向かって歩いている。
「警備員か?
でも、見た目からして違うな。
風紀委員?」
「馬鹿、それならあの両手に銃を持っているのはおかしいだろ。
一応、連絡をとる。」
男は無線を使って、リーダーに報告する。
軽く説明して、指示を聞いた。
指示内容は至ってシンプルだった。
「殺せ、だとよ。」
「まぁ、当然だな。
それじゃあ・・・」
銃のグリップを握り直し、通路から出て発砲しようと、通路から姿を現した瞬間だった。
両肩に銃弾を受けたのは。
「あがあああああ!!!」
両肩に走る激痛に耐えきれず、悲痛な叫び声をあげる。
近くにいたもう一人の男も通路から出て、拳銃の引き金を引く。
しかし、照準も真面に合わしていないので、弾丸は麻生に当たらない。
二丁の拳銃が火を噴き、的確に男の両肩を貫いた。
痛みで銃を手放し、その場でのた打ち回る。
殺されると思った男だったが、白髪の男はその後は何もせずに前に進んでいく。
激痛で泣き出しそうになるが、必死に無線のスイッチを入れて連絡をする。
「白髪のッ・・・男に、突破された!
応援を、頼むッ!」
この正面ホールを見張っているのはこの二人だけではない。
当然、他にも何人もいる。
彼らも正面から入ってきた白髪の男は、只者ではない事は分かった。
だからこそ、この場に居る全員が一気に白髪の男に向かって発砲した。
それを読んでいたのか、白髪の男は前触れもなく前に走って弾丸を避ける。
スライディングのように床を滑りながら、正面ホールの二階の通路などを支える柱を踏み台にして、来た道を床に滑りながら戻っていく。
その際に、通路に隠れて銃撃をしているスキルアウトの両肩を精確に撃ち抜いて行く。
摩擦で停まると、そのまま横に回転しながら二階から襲い掛かる弾丸を避ける。
回転しながらその勢いを利用して、立ち上がりその際に二人を仕留める。
二階にいるスキルアウトは七人。
右手に持っているベレッタM92FS Inoxを口で噛み、どこから取り出したのか拳銃型のフックショットを右手に持っていた。
それを天井に向けて撃ち、一気に上に上がっていく。
途中でフックショットを離し、下を見るとスキルアウト達が空に向けて拳銃を向けようとしていた。
口で持っていたベレッタM92FS Inoxを右手に持ち直して、空中からスキルアウトを仕留めていく。
対するスキルアウトは落下していく白髪の男を正確に捉える事ができず、一人一人確実にやられていく。
白髪の男、麻生恭介が着地した時には銃声音はなく、痛みで叫ぶ声や呻き声しか聞こえない。
残り弾は両方合わせて二発。
そのまま前に進もうとした時、後ろから最後のスキルアウトが銃を構え麻生に発砲しようとする。
後ろに目でもあるのかその場で前に飛び込み、前転をして床に倒れながら引き金を引く。
最後のスキルアウトの両肩を貫いたのを確認して、立ち上がる。
マガジンを取り換えながら、麻生は呟く。
「さて、『サブ演算装置保管庫』はどこにあるかな。」
正面ホールならこのデータベースセンターの見取り図くらいはある筈。
そう考え、少しだけ周りを見渡しそれを見つけた。
今の居場所と『サブ演算装置保管庫』の位置を把握する。
(中央に行けば行くだけ、敵の数も多くなるはず。
『サブ演算装置保管庫』も中央に位置するから、ちょうどいいな。)
位置を把握した麻生は走る事なく、歩きながら『サブ演算装置保管庫』に向かう。
愛穂が襲われたこともあり、武装無能力集団はあまり好きではない。
だが、殺すわけにもいかないので、両肩を打って無力化していく事にした。
頭に描いた地図に従いながら、狭い通路を歩いて行く。
曲がり角はなく一本道だ。
すると正面から、バタバタと複数の足音が聞こえる。
さっきの銃撃戦で、怪我をしているスキルアウトの誰かが連絡したのだろう。
やってきたスキルアウトは麻生の姿を捉えると、足を止めてそれぞれ拳銃を構える。
通路は狭く、天井も低い。
後ろに逃げようにも、曲がり角などないので背中からハチの巣にされるだけ。
彼らもそれが分かっているのだろう。
少しだけ余裕の表情ができていた。
それを見て麻生は口を開いた。
「ひとつ教えてやる。
勝った、と思った時、それは負けた瞬間だ。」
そう言って麻生は近くの壁に向かって走る。
スキルアウト達は麻生に向けて発砲する。
壁に向かって走り、そのまま壁を蹴って向かいの壁まで一気に跳ぶ。
跳んでいる中で発砲してスキルアウト達の肩を撃ち抜く。
さらにもう一度、壁を蹴って前に跳びながら壁伝いに移動した。
突然の行動に照準が上手く定まらず、スキルアウト達は両肩を撃ち抜かれ無力化された。
彼らはスキルアウトと名乗っているが、ただの学生に過ぎない。
拳銃の訓練を受けた訳ではないので、こういう簡単なトリッキーな動きをされればすぐに照準がぶれる。
これが警備員などの訓練を受けている者なら、違った結果になっている。
もっとも、警備員が相手なら麻生も攻め方を変えるが。
後ろからも複数の足音が聞こえる。
挟撃するつもりだったようが、タイミングが全く合っていない。
このままここに居ても再び挟撃される可能性もある。
されても問題ないのだが、挟撃を受けるメリットもないので、この通路を抜ける事にする。
威嚇射撃で何発が撃つ。
弾丸が飛んでくるを確認すると、足音が止む。
その間に通路を出る。
出ると拓けた廊下に出た。
すぐ近くの通り口からまたしても複数の足音と銃撃が聞こえる。
(スキルアウト同士が仲間割れしたのか?)
すると、その通りから白い服に白い髪の毛、首にチョーカーをつけた男が出てきた。
咄嗟に拳銃を向け、対する男も麻生の存在に気がついて麻生に銃口を向ける。
二人が顔を見合わせるとそれ見知った顔だった。
「一方通行、何でお前がここに。」
「そりゃあこっちの台詞だァ。
ンで、お前がここに居る?」
「御坂美鈴から電話を受けてな。
スキルアウトに何故か狙われているから、助けに来たんだよ。」
「テメェも一緒の目的か。
何でアイツの連絡先を知ってンのか気になるが。」
「てか、お前今はどこにいる?
あの事件以来姿を見せないから、愛穂や桔梗が心配しているぞ。」
本当は姿を消した理由は何となく麻生は分かっている。
それでもあえて、一方通行に聞いた。
ちなみに彼らは呑気に話しているが、銃口はお互いの眉間に向けたままだ。
「教える事に意味なンてあるのかァ?
どォしようがこっちの勝手だろォ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その言葉を最後に無言で見つめ合う。
同時だった。
麻生の銃口と一方通行の銃口が横に逸らしたのは。
一方通行は、麻生の後ろの通路から出てきたスキルアウトの迎撃。
麻生は一方通行の出てきた通路から来るスキルアウトの迎撃だ。
互いは反転して、互いの視覚をカバーし合い、スキルアウト達を無力化していく。
これらを追手の無力化に五分も掛からなかった。
マガジンを交換しつつ、一方通行はどこかへ行こうとする。
それを麻生は止めはしない。
彼もまた目的地へ向かう。
「そうだ。
一人、俺の知り合いが美鈴を助ける為にこのセンターにいる。
間違って殺すなよ。」
ふと思い出した事を一方通行に教える。
「ンなの見分けがつく訳ねェだろ。」
「俺と同じ制服で髪は黒でツンツンした髪型だ。」
黒髪のツンツンヘアー。
これに一方通行は見覚えがある。
あの鉄道場で最初に戦った無能力者。
麻生とは別に一方通行に影響を与えた人物でもある。
「見分けがついたらなァ。」
適当に答えて一方通行は別の所へ向かう。
麻生は地図を覚えているので、そっちは遠回りである事を知っているのだが。
「まぁいいか。」
そんなこんなで、途中で単独行動している武装無能力集団に遭遇して、それらを物理で寝かしつつ『サブ演算装置保管庫』まで着いた。
扉から中を確認すると、木の年輪のように、同心円状にビジネスデスクが配置されている。
そこにはたくさんのコンピュータが置かれている。
施設の証明は落ちているが、モニタだけは生きているのか、部屋の中はぼんやりとした光に包まれていた。
そのドーム状の建物の片隅に、四、五人の少年達が固まっていた。
中央には、御坂美鈴らしき女性が無理矢理座らされている。
ドアの少し前には上条が床をこっそりと歩いているのが見えた。
向かっている先には鞄が床に落ちていて、中から拳銃が見える。
ここから美鈴の距離は一〇メートル程度。
これは直進の距離なのだが、間にパソコンの乗ったデスク列に遮られている。
上条は防弾ガラスのようなものを両手に持って、ゆっくりと鞄に近づいて行く。
鞄から拳銃を取って、何かに使うつもりなのだろう。
(さて、どうする?)
ここで能力を使って一気に取り戻すか、と考えた時だった。
「え?」
美鈴のそんな声が聞こえた。
上条と目があったので思わず声が出たのだ。
その声に反応してスキルアウトは一斉に上条の方を見る。
「ちっ。」
舌打ちをしつつ、麻生は勢いよく扉を蹴って開ける。
開かれる音が鳴り響き、全員の視線が麻生に集まった。
二丁の拳銃で、美鈴の周りにいるスキルアウトに威嚇射撃をする。
「当麻、走れ!!」
デスクの上に乗って、横に移動しながら威嚇射撃を繰り返す。
その効果は効いたらしく、周りにいたスキルアウトは美鈴を置いて物陰に隠れる。
自分の命を大事にしたらしい。
上条と美鈴に当たらないように援護する。
無事に美鈴の所についた上条はそのまま外に連れ出そうとする。
「させるか!
そいつを連れて行かれたら、俺達は!!」
鼻にピアスをつけた大男はそう叫んで、物陰から身体を出して、逃げようとする二人を拳銃で狙う。
その瞬間、麻生の蹴りが大男の顔面を捉える。
距離はかなり離れていたが、それを能力で一気に詰めた。
その近くにいた青白い顔をした少年の両肩を撃ち、無力化させる。
二人が出て行くのを確認して、その出口まで能力を使って一気に移動する。
二人くらい残っていたが、残りの弾を全部使って威嚇射撃する。
「お前達はすぐに逃げろ。
俺は残りのスキルアウトを無力化する。」
「あ、危ないわよ!
君も一緒に逃げるの!」
「ここで待っていた方が、敵が集まってやりやすい。
さぁ、早く行け。」
「必ず戻ってこいよ!」
上条はそう言って、美鈴を無理矢理連れて行く。
マガジンを交換していると、一足遅れて一方通行がやってきた。
「さっきの様子を見た限りだと、御坂美鈴を無事に連れて行けたらしいな。」
「俺に知り合いが連れて逃げている。
このあと残っているのは残業だが。」
それに応えるように、複数の足音が複数の方向から聞こえてくる。
さっきの銃撃戦を聞きつけて、こちらに向かっているようだ。
それを聞いた一方通行は。
「はっ、面白くなってきたンじゃねェかァ。」
どうやらやる気満々らしい。
麻生も何となく能力は使わず、ここまで来たら拳銃で行くかと思ったところで。
「そう言えばどうして能力を使わないんだ?」
疑問に思った事を聞いた。
「なァに、能力ばっかに頼ったら生きられねェからよォ。
実戦経験を積ンでる訳だ。」
深く聞くつもりはなかったので、その答えを聞いて麻生は納得した。
足音はどんどん近づいている。
彼らによる制圧戦を開始する合図が鳴り響く。
何でも、上条は病院に運ばれたらしい。
麻生が蹴り飛ばした大男はすぐに意識を取り戻して、上条達の後を追った。
上条と大男はぶつかり合い、結果は上条が勝ったのだが、出血が洒落にならないくらい出てたらしく、美鈴が救急車を呼んだ。
「ありがとうね。
ちょっと怖かったけど助けて貰って。」
「礼はいらん。
死なれたら目覚めが悪いから、助けただけだ。」
「またまた照れちゃって。」
「照れてないけどな。
どうして、学園都市に来たんだ?」
「私はね、美琴ちゃんを連れ戻しに来たの。」
すき焼き屋で小萌先生が言っていた、戦争に巻き込まれる恐れのある学園都市に住んでいる子供を親が呼び戻そうとしているあれだ。
美鈴がスキルアウトに襲われたのも、それを快く思わなかった『上』が雇ったなのかもしれないと麻生は思った。
「んでも、もう止めたわ。
どこに居ても危険は同じ。
それなら君達みたいな子が近くにいる、この学園都市に美琴ちゃんを置いておいた方がまだ安心よね。」
「言っておくが、守るつもりはないぞ。」
「でも、危ない目に合ったら助けてくれるんでしょう?」
「まぁ、気分が悪いからな。
助けられる状況なら助けてやるよ。」
凄い上から目線だが、美鈴は特に不愉快だと思わなかった。
視界の端である人物を見つけた麻生は、美鈴に挨拶してその場を離れる。
その人物は暗がりの路地の奥に進もうとした。
「一方通行。」
その声を聞いて一方通行は足を止めた。
振り返ると路地の入口で麻生が立っていた。
「やっぱりそっち側に行くんだな。」
麻生の問いかけに一方通行は何も答えない。
対する麻生も路地に入って連れ戻そうともしない。
まるで今の二人の居場所を示しているようだった。
何も答えずに彼は深い闇の奥へと足を進める。
それを黙って見届けた後、麻生も自分の居場所に戻るのだった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
ページ上へ戻る