イベリス
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第百十五話 知りたいことその十一
「そうしたしな」
「それ滅茶苦茶酷いですね」
「王様もたぶらかして」
バイエルン王ルートヴィヒ二世、美形で知られた王である。
「そうして一生安泰にもなったしな」
「そんな人が自殺する筈ないですね」
「むしろあそこまで図太いとな」
兎角図々しく尊大で我の強い性格だったという。
「何でもやっていけるかもな」
「ああで、ですか」
「自殺なんかしなくてな」
例え何があってもだ。
「それで生き残ってな」
「何かが出来るんですね」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「自殺南下するよりな」
「図太い方がいいですか」
「流石にワーグナー位は駄目だけれどな」
ここまで神経が太いならというのだ。
「ある程度はな」
「図太い方がいいですか」
「ベートーベンも自殺を考えたにしてもな」
「あの人も凄い人でしたね」
咲はベートーベンの性格も知っていた。
「物凄く尊大で頑迷で癇癪持ちで頑迷で」
「やっぱり我が強かったんだよな」
「自分を曲げたり媚びたりしなくて高潔でも」
「そんな人で敵も多くてな」
ワーグナーもそうだった、この二人程敵が多かった人間もそうはいないのではないであろうかという程だった。
「自殺する位弱くはな」
「なかったですね」
「だから生きられたんだ」
耳が悪くなる中でもだ。
「まだな」
「そうでしたね」
「けれど自殺することを考えると」
「ワーグナー位ですか」
「それかベートーベンか」
「それ位でいいかもな、まああの二人は凄過ぎるけれどな」
その神経がというのだ。
「それでも自殺するよりましさ」
「やっぱりそうですね」
「ああ、だからな」
「生きているとですね」
「神経は太い方がいいな」
「そうなんですね」
「ああ、お嬢ちゃんも太くなれよ」
咲を見て言うのだった。
「本当にな」
「身体じゃなくて神経が、ですね」
「身体もある程度太ってる方がいいかもな」
「そうですか」
「多少太ってる方が痩せ過ぎよりもいいさ」
こう言うのだった。
「太り過ぎも痩せ過ぎも命に関わるからな」
「健康によくないですね」
「そうだよ、まあ身体のことはそうでな」
「神経はですね」
「ああ、ある程度太くならないとな」
「駄目ですね」
「その方が生きられるからな」
こう言うのだった、そしてだった。
咲にそっと黒砂糖を差し出して彼女に言った。
「今度白砂糖以外にな」
「黒砂糖もですか」
「用意しようと思ってるんだよ」
「どっちのお砂糖もですか」
「ちょっとコーヒーに入れて飲んでみるかい?」
「あっ、もう白砂糖入れてるんで」
咲はマスターの言葉に申し訳なさそうに答えた。
「ですから」
「ああ、そうなんだな」
「はい、また今度試させてもらいます」
「わかったよ、じゃあ今度な」
「黒砂糖コーヒーに入れさせてもらいます」
マスターに笑顔で答えた、そして実際に次の日コーヒーに黒砂糖を入れて飲んでみた。するとそれはそれで美味かった。
第百十五話 完
2023・6・15
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