大阪の鵺
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第四章
「若し屋上にいるのが悪い妖怪でも」
「武器を持っていたら」
「対抗出来てね」
「身を護れるね」
「妖怪って生きものと変わらないわよね」
「喋るけれどね、身体の仕組みとかね」
こうしたものはというのだ。
「多くはね」
「生きものよね」
「だから悪い妖怪が襲って来ても」
例えそうしてきてもというのだ。
「武器があったら」
「安心出来るわね、私ブザーも持ってるから」
「音も立ててだね」
「怯ませられるわ」
「それで怯んだ隙にだね」
「逃げましょう」
「屋上から下の階段に」
「エレベーターは屋上で待機してるし」
二人が今乗っているそれはというのだ。
「逃げて駆け込んで」
「エレベーターで一気に一階まで逃げて」
「管理人さん連れてね」
そうしてというのだ。
「逃げましょう」
「若し悪い妖怪だったら」
「そうしましょう」
こう話してだった。
二人はエレベーターでビルの最上階に来た、最上階にも事務所や倉庫があり空いている部屋はなかった。
その中を進んでいき屋上への扉の鍵を開けてだった。
二人で屋上に出た、すると。
猿の顔に狸の身体に虎の足、蛇の尾を持つ妖怪がマイクを片手に立って歌っていた、二人はその妖怪を見て言った。
「音痴ね」
「そうだね」
まず思ったことはこのことだった。
「凄まじい音程の外し方だよ」
「これはないわ」
「鹿も声も悪いしね」
「身振り手振りもなってないわね」
「何かなこの曲」
武藤は妖怪が歌っているのを見つつ言った。
「一体」
「これ光ゲンジでしょ」
「ああ、ローラースケートの」
「デビュー曲のスターライトでしょ」
「昭和の名曲だよね」
「昭和の最後の方のね」
まさにこの頃のというのだ。
「曲よ」
「僕達が生まれるずっと前の曲だね」
「ええ、けれどとてもね」
英梨は武藤と共に妖怪をジト目で見たまま言うのだった。
「音痴過ぎてね」
「とても元の歌がわからないよね」
「いや、猫型ロボットの漫画のリサイタルみたいね」
「あのガキ大将の」
「今の声優さん実は歌上手だけれどね」
「前の人も実は、だったらしいね」
「おい、何を言ってるんだ」
歌い終えた妖怪が二人に気付いて言って来た。
「わしが音痴とか言ってるか」
「いや、実際に酷過ぎるでしょ」
英梨もこう返した。
「カラオケの祭典で零点よ」
「馬鹿を言え、千年以上歌っておるんだぞ」
「千年以上音痴のままなの」
「音痴とは何だ、わしは美空ひばりさん真っ青の歌手だぞ」
「今すぐ美空ひばりさんのお墓の前に行って全力で謝罪すべきね」
「そうだね」
武藤は英梨のその言葉に頷いた。
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