魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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AXZ編
第167話:策中模索
4人で協力して、見事に新型の大型アルカノイズを倒せた……と思ったのも束の間、颯人達の目の前で大型アルカノイズは4体に分離しそれぞれが別の方向へと向かってしまった。
空母としての能力を持ちながら、更に分離して再生できる高い継戦能力。どうやらあのアルカノイズも今まで彼らが相手にしてきたのとは一味どころではなく違うらしい。
その様子は本部でも確認されていた。
「分裂した巨大アルカノイズ、個別に活動を再開しましたッ! 総数4ッ!」
「それぞれが、別方向に進行……」
「くっ!」
首を綺麗に二本ずつに分け、別々の方向へと移動を開始する大型アルカノイズ。その光景に弦十郎も険しい顔をした。
敵の狙いは明らかだ。即ち、戦力の分断。魔法使いと装者達を個別に行動させて、疲弊か各個撃破を狙っているのだろう。
この状況に対し、本来であればこちらは戦力の一点集中を行い敵を逆に各個撃破するのが望ましい。だがあちらとこちらでは戦いにおける目的が違う。
敵はこちらの疲弊ないし撃破が目的だが、こちらはそれに対し更に街や民間人の保護・防衛が加わるのだ。この違いは大きい。何しろあちらは派手に暴れていればいいのに対して、こちらは周りへの被害までもを考えなければならないのだから。
――どうする? ウィズに協力を仰ぐか、待機している2人を向かわせるか……――
弦十郎は思考の海に入り込む。前者はあまり切りたい札ではない。ウィズは飽く迄外部協力者であり、S.O.N.G.に命令権は無いのだ。だから必然的に協力を願うと言う形になるが、彼に対し甘えると言う癖を付けたくはなかった。いざと言う時、見限られない為にも。
となると切れる札は必然的に後者となるが、これも安易に切りたくはない。彼らを待機させているのはそもそも現在好き勝手に動き被害を増やしているレギオンファントムに対抗する為。もしここであの2人を出して、その間に別の所にレギオンファントムが現れて暴れたりしようものならそれこそ目も当てられない事になる。
あっちを立てればこっちが引っ込むと言うこの状況に、弦十郎の思考が頭の中でグルグルと回り始めた時、思いもよらぬ手が差し伸べられた。
「司令、入間基地より入電ッ! 必要であれば、応援を寄越してくれると……」
「無理だッ! 相手がアルカノイズでは、空自の装備品では足止めだって儘ならない。下手すれば被害が……!」
応援は確かにありがたいが、しかし相手は超常の力を駆使して生み出されたアルカノイズ。嘗てのノイズに比べれば通常兵器もまだ多少効果はあるが、それにしたって力不足は覆せない。朔也の言う通り、下手をすれば空自だけでなく周辺への被害も広がってしまう。
だが、空自からの応援要請に、弦十郎はある事を考え付いた。その考えを実行に移す為、彼はあおいに指示を出した。
「いや、入間基地にはコード814を要請してくれッ!」
弦十郎の言うコード814とは、ある機種をこの本部へと呼ぶ暗号である。
その機種とは…………
「ハリアーを、ここにですか?……了解しましたッ!」
あおいからの返事を聞きながら、弦十郎は正面のモニターを睨み付ける。ここから先、重要なのは時間だ。
恐らく颯人達だけではあの分裂する再生力を持つ大型アルカノイズを完全に倒し切ることは難しい。仮に出来たとしても、倒せる頃には大きく消耗している筈。そこを敵錬金術師に突かれてはお終いだ。
だがもし、”例の物”が間に合うのなら…………
――頼んだぞ、了子君ッ!――
***
一方颯人達はと言うと、敵の思惑に乗るのは非常に癪だが戦力を分散させてそれぞれの個体へと向かって行った。
「狙いが私達の分断だとしても、分裂後のサイズならそれぞれで対応できますッ!」
「4人で4体を仕留めりゃいいんだろッ!」
響とクリスはシンプルに考えた。敵は上手い具合に4体に分裂してくれたのだから、4人で別々の個体に当たればいい。分裂はしたが、お陰で最初の時よりサイズは小さくなり寧ろ倒しやすくなった。これなら楽勝だと。
だが颯人と翼はそうは考えない。2人は敵の背後に居る錬金術師の事を警戒していた。
「確かに、そうかもしれないが……」
「どうせ俺らがバラける事も向こうの策の内だろうな。とは言え、どれか一つをほったらかしにする訳には行かねえし……あぁ、ヤダヤダ」
颯人は思わず愚痴を零すが、文句ばかり言ってもいられない。敵はこちらの事を考えてなどくれないのだから。
4人はそれぞれ別の個体を追い、各地に散っていった大型アルカノイズとそいつが落とした通常アルカノイズ共々相手にする。
「これ以上、皆を巻き込む訳にはッ!」
響の拳が逃げていった先で待ち構えていた大型アルカノイズを打ち砕く。彼女の見立て通り、サイズが小さくなった分敵に与えられるダメージも増え、結果的に1人でも倒せるようになっていた。
しかし、倒したと思ったらまた分裂して再生してしまった。首の数も減り、サイズもさらに小さくなったがそれでも尚戦闘力は健在であり、伸ばしてきた尾の一撃を響は何とか防げはしたが体勢を崩された。
「うわぁっ!?」
バランスを崩しながらも何とか着地した響。その彼女の前に、大型アルカノイズが落としたアルカノイズ達が立ち塞がる。
倒しても倒しても終わる事のない戦いに、流石の彼女も思わず口から弱音を吐いた。
「キリが……無いッ!?」
状況は他の場所も殆ど同じだった。翼もまた逃げていった大型アルカノイズを仕留められたと思ったが、次の瞬間には分裂し再生した個体が立ち塞がった。
「くっ……やはり、更なる分裂ッ!」
首を減らし大きさも小さくなりながら尚も悠然と浮かぶ新型を前に翼は苦虫を噛み潰したような顔になる。
クリスはクリスで、得意の遠距離への射程の長さを活かして逃げる新型を見事に仕留めていた。爆炎と赤い塵に敵の姿が消えた瞬間、彼女は息を整えようと束の間警戒を解いた。解いてしまった。
それは非常に危険な隙であった。他の者達であれば、戦いの最中に呼吸を整える為とは言え警戒を解くような事はしない。
彼女はこの状況に慣れ切ってしまっていたのだ。そう、常に自分が守られていると言う状況に。
その代償を彼女は見思って味わう事になる。
「うわっ!?」
爆炎を突き破るようにして伸びてきた尾の一撃に、彼女は吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。完全に不意を突かれる形で放たれた一撃に、彼女は反応しきる事が出来なかった。
「かはっ!? うぅ……!?」
叩き付けられた際に切れたのか、口の中に血の味を感じる。それを唾と共に吐き出しながら、クリスは己の迂闊さを嘆いた。
――何やってんだアタシはッ! 今は、透が居ねえってのに……!――
自分から距離を取った、距離を取らさせた少年の顔を束の間思い浮かべつつ、クリスは立ち上がり再生した新型アルカノイズを睨み付ける。
険しい表情でクリスが睨み付ける先では、大型アルカノイズと奴が落としたアルカノイズ達が群れを成して迫ってきていた。
3人の装者達が、それぞれの場所で消耗と苦戦を強いられている中、颯人は1人善戦していた。
「どんだけ再生するっつっても、塵も残さず焼き尽くせばどうしようもねえだろッ!」
〈〈〈〈チョーイイネ! スペシャル、サイコー!〉〉〉〉
追跡の途中でフレイムドラゴンにスタイルチェンジした颯人は、さらにコピーで自分を増やし大型アルカノイズを配下のアルカノイズ共々四方から包囲。スペシャルの魔法のブレスで再生も間に合わないレベルで焼き尽くした。
颯人が意外と早くに大型アルカノイズを攻略する様子を、上空の空中戦艦からサンジェルマン達が眺めていた。
「あ~らら? あの坊や、案外早くに終わらせちゃったわ」
「頭の回転は早いワケダ。こうなると作戦が狂うワケダが……」
彼女らの予定では、装者達を消耗させイグナイトモジュールを使わせ、それをファウストローブで無力化する事でシンフォギアを打倒する筈だった。だがここで予定外な事に、颯人が思いの外早くに新型を完全に倒してしまった。
こうなると面倒だ。彼が参戦しては、装者が消耗しきる前に全ての新型が倒されてしまう。どうにかしなければ。
この事態に、真っ先に動いたのはサンジェルマンだった。
「2人共、ここと装者達は任せたわ。あの子は私が足止めをする」
ファウストローブ起動のトリガーであるフリントロックピストルを手に一歩前に出たサンジェルマン。その彼女の背に冷やかす様にカリオストロが声を掛けた。
「とか何とか言っちゃって~。本当はあの子と遊びたいだけなんじゃないの~?」
「さて、どうかしらね? ともかく、ここは任せたわよ」
カリオストロからの茶化しを、サンジェルマンは軽く流して甲板から飛び降りた。小さくなっていく彼女の背を見送りつつ、カリオストロは颯人を一瞥し小さく鼻を鳴らす。
「フンッ、妬けちゃうわね。あんなにサンジェルマンに想われてるのに、当の本人は別の女に夢中だってんだから」
「カリオストロ、見苦しいワケダ」
「五月蠅いわねッ!」
図星を刺されて思わず声を荒げるカリオストロ。だがお陰で少し気が晴れ、落ち着きを取り戻した彼女はサンジェルマンの指示通りに残りの装者達の方を見た。
「ともあれ、こっちはこっちで上手く行きそうだし。サンジェルマンが戻ってきた時に満足させられるよう、結果だけは残しとかないとね」
カリオストロは呟きながらトリガーとなる指輪を取り出した。装者達が消耗に耐えきれなくなり、イグナイトを使うその時を待ち構えて。
後書き
と言う訳で第167話でした。
今回はちょっと前回とかに比べると短めになってしまいました。キリが良いのでここで区切りますが、その分次回はボリューム多めで行ければと思います。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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