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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第十三話 執事からは逃げられない

「いらっしゃいませ。お嬢様。
 お二人様ですか? ではどうぞこちらへ」

 恭しく礼をして、高校生と思しき制服を着た女性を席に案内していく。

「こちらがメニューになります。お決まりになりましたらお呼びください」

 礼をして席から離れ、他の席の注文の品を運んでいく。
 現在、俺は喫茶翠屋でウェイターをしているのだ。

 ……なぜこんなことになったのだろう?


 桃子さんに厨房に引きずられて

「シロ君のケーキを作るところを見せてほしいのよ」

 と頼まれたのが、学校の制服のままだし、これはまずいだろうと思い

「いえ、さすがに制服ですし」

 と断ろうとしたら、にっこりと笑って

「さっき言ったでしょ、着替えて厨房にいらっしゃいって」

 差し出されたのは月村家で着ている執事服にエプロン。
 なんでここにある。

 まあ、ちょうどいい作業服ができたと自分を納得させて、ケーキを作ったまではよかった。
 桃子さんには褒められたし、作ったケーキをなのは達に振舞ったら喜んでくれたから
 問題はこの後だ。

 夕方の時間帯でお客さんがだんだんと増えて来たのだ。
 さらに本日は従業員の方が体調を崩して人手が足りてなかった。
 その中、店員を呼ぶお客様。
 だが手が足りず、他の従業員もすぐに対応できない。
 お客様が呼んでいて待たせる執事がいるだろうか?
 否!
 待たせるなど言語道断。
 呼ぶ前に視線を向けられただけで反応してこそ一流。

 そうというわけでレジの横のオーダー表を取り、注文を受けた。
 そう。受けてしまったのだ。
 そこからはもはや止めようがなかった。
 桃子さんと士郎さんが驚きつつも、俺の執事能力を褒めてくれて、そのまま手伝いをお願いされたのだ。
 しかもその際に

「もしよかったらこれからも翠屋でアルバイトしない?」

 と誘われてもいる。
 さすがに返事は待ってもらったけど。
 しかし特に断る理由がなかったとはいえどうなのだろう、といまさらながら感じている。
 それにしても女性を中心としてるがお客さんがかなり多い。
 先ほどいただいたシュークリームも大変おいしかった。
 この値段で、このクオリティーならば納得もいく。

 だがさっきからやけに視線を感じる。
 まあ、小学生が執事服を着て、ウェイターをしていたら仕方がないのかもしれないが。
 そんな事を思っていると

「ねえ、執事さん」
「はい、なんでしょう?」

 OLらしき女性に話しかけられた。

「君っていつもここでウェイターしてるの?」
「今日は特別です。ですがこれから定期的にすることになるかもしれませんが」
「そう。ありがとう。ごめんなさいね、仕事中に」
「いえ、お気になさらないで下さい。それでは失礼いたします」

 礼をして女性の席から離れる。
 いきなり尋ねられたのでありのままを答えたけど一体どうしたんだろう?
 まあ、細かいことは気にしないでおこう。
 さて、客足が落ち着くまでもうひと頑張りしますか。




side なのは

 周りからの熱い視線を受けても平然とウェイターをこなす士郎君。
 特に中学、高校生ぐらいの女の人たちの視線がすごい。
 ものすごく見てる。

 でも女のひと達の気持ちもわからないでもない。

 白銀の髪に赤い瞳で執事服を着こなして、無駄がなく、洗練された動き。
 それだけでも目を引くのに、眼を見たらドキリとする。

 私達と同い年なのに真っ直ぐな強い瞳
 士郎君が転校してきた時に教科書を見せた時にすごくドキリとしたのを覚えている。

 でも士郎君本人はさっき話しかけられた時だって、なんで話しかけられたのか不思議そうにしてた。

「……あいつ天然よね?」
「「うん」」

 アリサちゃんの言葉に私とすずかちゃんは即座に頷いた。
 士郎君は天然の女誑しだ。
 言葉にせずともすずかちゃんとアリサちゃんも同じことを考えてたみたいで

「「「はあ~」」」

 大きなため息が出た。




side 士郎

 とりあえず客足も落ち着いたので今日の手伝いはここまでとなった。
 閉店時間云々の前にケーキが完売状態なので営業はここまでなのだけど。
 執事服から着替える前に桃子さんと士郎さんと話しあって、不定期ながらアルバイトをすることが決まった。

 でそのまま帰れれば問題はなかったのだが、なのはと美由希さんが

「士郎君は料理も上手なんだよ」
「そういえばシロ君一人暮らしだったよね」

 と話してしまった。
 さらに翠屋のアルバイトで夕飯の買い物もしていない。

 というわけで本日の夕飯は高町家で桃子さんと共に作ることになったのだ。
 その結果、高町家の女性がショックを受けはしたがこれは置いておこう。
 そして、問題はまだ残っていた。
 夕飯の片付けも終え、帰ろうとしたのだが

「そういえばシロ君ってどこに住んでるの?」
「街の外れの洋館ですが」
「あらら、それってだいぶ遠いじゃない」

 桃子さんと美由希さんの言葉に何か嫌な予感がした。

「今夜は泊って行きなさい」
「その方がいいよ。なのはもそう思うでしょ?」
「もちろん」

 ああ、逃げ場がなくなっていく。
 士郎さんに視線を向けるが

「そうだな。いいじゃないか?」

 駄目だ。
 なら最後の頼み、恭也さんなら

「母さんが言ったら変更できないからあきらめてくれ」

 眼を逸らされた。
 ……もはやあきらめるしか道がないようです。

「じゃあ、シロ君、一緒にお風呂入ろうか」
「……はい?」

 その言葉と共に美由希さんに抱きかかえられた。
 …………今、何とおっしゃいました?

「あらあら、いってらっしゃい」
「ほどほどにな」
「は~い。なのはも一緒に入る?」
「さすがに私は恥ずかしいから」
「そう? じゃあ、行こうか」

 って固まってる場合じゃない。
 それに恭也さんも程々にな、って士郎さんは何も言わずに見送ってるし。
 腕を解こうにもあまり強くしたら美由希さんの身体に傷をつける事になりかねないので却下。
 しかし手加減をしては武術をしてるから美由希さんから逃れられない。
 このままでは大変まずいことに!

「そんなに恥ずかしがらないの。ちゃんと綺麗にしてあげるから」
「そういう問題では!!」

 助けはなく、逃げ場もない。
 そして無情にも扉は閉められた。

 結果として、一言でいえば綺麗にされた。
 それにしても美由希さん、結構着痩せするタイプのようだ。
 全体的には引き締まっているのに胸がかなり……
 これは封印しておこう。
 美由希さんに対して失礼だ。

 これで終わればよかったのだが、そうはいかなかった。

 お風呂から出てのんびりさせてもらう。
 ちなみに服は恭也さんの古着を貸してもらった。
 そして、俺やなのはが寝る時間になった時、再び問題は起きる。

「おやすみ~」
「それではおやすみなさい。今日は本当にお世話になりました」

 なのはと共にリビングを後にしようとする。
 ちなみに寝るのは客間を用意してくれているらしい。

「いいのよ。私も楽しかったし」
「そうだぞ。そんなに堅苦しくならないでいいぞ」

 桃子さんと士郎さん言葉に感謝する。
 で美由希さんも立ち上がった。

「じゃあ、シロ君行こうか」
「はい?」

 再び美由希さんに抱きかかえられる俺。
 あの……とてつもなく嫌な予感がするんですが。

「えっと美由希さん。どこに行くのでしょうか?」
「どこって寝るんだから私の部屋に決まってるじゃない」
「それってつまり……」
「うん。一緒に寝よ」

 嫌な予感的中。
 これは逃げないと悪い。
 いやそれ以前になぜ高町家の方々は反対しないのでしょうか?
 その時

「え~、お姉ちゃん、士郎君と一緒に寝るの」

 天の助けか、なのはが異議を唱えてくれた。
 これで助かる可能性がわずかでも出来たと喜んだのだが

「ん? なのはも一緒に寝る?」
「いいの?」
「もちろん。じゃあ、ちょっと狭いかもしれないけど三人で寝よう」

 俺の意思は聞いてくれないのですね。
 ていうかさすがになのはも一緒というのは問題だろ。
 恭也さんは眉を顰めて、腰が僅かに浮く。
 だが

「あらあら、明日も学校なのだからほどほどにね」

 という桃子さんの言葉に黙って腰をおろしてしまった。
 この高町家の最高発言者に異を唱えれるはずもない。

 というわけで結局

「じゃあ、電気消すね」
「は~い」

 美由希さんのベットでなのはと美由希さんと三人で寝ていたりする。
 それもなぜか俺が真ん中なのだからよくわかんらん。
 シングルのベットに美由希さん以外に小学生とはいえ二人入っているのだから狭い。
 まあ、つまりは

「……眠れん」

 狭いので必然的に……必然なのかは別にして美由希さんとなのはと密着してしまっている。
 右腕になのはが抱きつき、俺の頭を胸に抱きかかえるように美由希さんがいる。
 耳元になのはの息遣いと美由希さんの特定部位の柔らかさが気になって眠れるはずもない。

 とはいえ前日徹夜なのでこれ以上寝ないのはまずい。
 だが普通に眠ろうとしても眠れないので奥の手を使うとしよう。

 眼を閉じて、自己の意識に埋没する。
 俺が行っているのは精神の解体清掃(フィールドストリッピング)のマネごとのようなものだ。
 勿論精神の解体清掃(フィールドストリッピング)を行う事も出来るのだが一日程度の徹夜でわざわざする必要もない。
 それに行えば最後、魔力感知したとしても起きることはない。

 この状況で抜け出す事が出来るのかどうかは別だが。

 ともかくさすがに完全に無防備になるのはまずいので行うのは単純に自己催眠による睡眠行為。
 普段の眠りより若干深い眠り程度なので何かあれば起きることも可能だ。
 そして、俺はゆっくり意識を手放した。


 自分のすぐそばで動く人の気配と朝日で身体を起こす。
 ここは?

「おはよう、シロ君。起こしちゃった?」

 美由希さんの声がしてすぐに思い出した。
 そういえば昨日、なのはの家に泊ったんだったな。

「いえ、いつもこれぐらいには起きてえええ!!」

 美由希さんの声の方を向いた瞬間、目に入ったのは下着姿で、着替えをしている美由希さん。
 慌てて後ろを向く。

「そんなに慌てなくてもいいのに」

 美由希さんはそんなこと言うけど、無理です。
 慌てます。
 しばらくゴソゴソと音がしていたが

「はい。着替え終わったからこっち向いても大丈夫だよ」
「すみません」

 とりあえず見てしまったので謝っておく。

「そんな気にしなくてもいいのに」

 美由希さんは笑って許してくれるが、こちらとしては精神年齢と肉体年齢にズレがあるので多少罪悪感がある。
 それにしても朝からジャージとは何かトレーニングでもするのだろうか?

「今からトレーニングか何かですか?」
「ん? うん。道場でね。士郎君も来る?」
「はい。出来れば俺も身体を動かしたいんですが」
「う~ん。ちょっと待ってね」

 美由希さんが俺の言葉に頷いて、クローゼットを漁り始める。

「あった。じゃあ、これ使って。シャツはそれでいいと思うから」
「ありがとうございます」

 差し出されたのはサイズが小さいジャージのズボン。
 今の俺にとっては十分大きいが、裾をおれば十分着ることも可能だ。
 それに着替えて、美由希さんと道場に向かう。

「おはよう。恭ちゃん」
「おはようございます」
「おはよう。シロ君も一緒か」
「ええ、少し身体を動かしたいので」
「ああ、好きに使ってくれ。なら美由希、昨日の続きだ」
「うん」

 美由希さんが恭也さんの指示の下、鍛錬を始めたので俺も好きにやらせてもらうとしよう。
 それにしても道場はやっぱりいいな。
 冬木の家を思い出すし、落ち着く。
 大きく深呼吸して、身体の柔軟から始める。

 いくら死徒の肉体を持っているからといってもまだ成長途中の子供である。
 俺が自分の戦い方を理解したのは聖杯戦争の時。
 それから身体を作ってきたが、この世界に来て、身体が子供に戻ったのだ。
 目指す場所が分かっているのなら今の段階からしっかり鍛えていけば、元いた世界の肉体年齢に辿りついた時、格段にレベルが上がる。
 このチャンスを無駄にせずしっかりとやっていくとしよう。

 柔軟が終わり、小太刀の木刀を二本借りて構える。
 死徒の肉体能力を可能な限り抑えこみ、素振りを行い身体の調子を確かめる。
 大丈夫。違和感も何もない。
 
 そして、仮想の敵をイメージする。
 相手はランサー。
 ちなみに休日の仮想の敵はセイバーだったりする。
 元いた世界にあらゆる一流の使い手達がいるのだ。
 それらを仮想の敵として訓練していく。

 しかしやはり子供の身体になり、色々無茶がしにくくなった。
 間合いが狭くなり、体重は軽くなり、武器の重さに身体が振り回されやすくなる。

 死徒の肉体能力は抑えたまま、仮想のランサーとの戦いを続けるが英霊クラス相手に子供の身体は無謀すぎるな。

 一気に間合いを詰めてきての心臓への突きを逸らし、一歩踏み込む。
 と同時にランサーは槍を横に薙ぐ。
 受け止めてはいけない。
 体勢が崩れ終わりだ。
 槍の間合いから一気に離脱する。
 再度踏み込もうとするが、首、心臓、鳩尾への三連突きに歩は止められる。
 さらに放たれる突き。
 逸らして間合いに入ろうとしても横薙ぎがそれを阻む。
 何もかもが足りない。
 わざと隙を作り、攻撃箇所を限定させ、ランサーの腕の動き、視線、足の運び、全てを見極めて次の攻撃を予測し、剣を振るう。




side 士郎(父)

 何故か道場が無性に気になって、道場に足を向ける。
 そこには気になった原因がいた。

「……これは」

 シロ君の素振り。
 恭也と美由希も興味心身に見ているので横に並ぶ。
 だがそれを見ただけでわかった。
 彼には才能はない。
 どれだけ行っても二流止まり。
 しかし気になったのはそれではない。
 美由希も恭也も士郎君の素振りを見ているのにシロ君はそれに気が付いてない。
 完全に自己のみに意識を向けている。
 ここまでの集中力を出すのもすごい。
 そして、素振りが終わり、腕を下げて、瞳を閉じた。

「え?」
「「っ!」」

 瞳を開いた瞬間、シロ君の纏う雰囲気が変わった。
 その変わりように美由希は完全に呆けてしまっている。
 シロ君はただ道場の壁を見つめる。
 しかしその瞳には確かに誰かが写っている。
 次の瞬間、シロ君の剣が奔り、何かを逸らし、踏み込む。
 だが何かに阻まれて後ろに回避する。

「お父さん、これって」
「ああ……槍だな」

 剣の動きをみる限り、シロ君の瞳に映っているのは槍の使い手。
 それもただの空想した相手ではなく、過去に戦った事がある相手なのだろう。
 
 仮想の敵が放つ突きを確実に逸らし、受け流していくシロ君。
 だがそんな中、隙ができてきた。

「これが恭也がいっていた」
「ああ」

 俺の言葉に恭也が静かに頷く。

 恭也と美由希からシロ君が魔術師であり、恭也と正面から戦える実力を持つという事は聞いていた。
 だが実際に見るととんでもない。

 一体どれだけの戦いを、死地をくぐり抜けてきたのか。

 なのはと同い年の子がこれだけの技術を持っている事に驚きと同時に悲しくもなる。

 そんな中、仮想の槍兵に敗れ、士郎君が動きを止め、大きく息を吐いた。




side 士郎

 今ではこれが限界か。
 仮想のランサーに心臓を突かれ、大きく息を吐く。

 仮想戦闘で干将・莫耶が砕かれる事、八。
 弾かれる事、十七。
 今の肉体ならこれが限界だろう。
 死徒の能力などで多少は向上できるが、やはり身体が成長途中でまだ出来あがっていない子供ではなかなか難しいところだ。

 といつの間に来ていた士郎さんを含めた高町家の三人がじっとこちらを見ていた。
 少しやり過ぎたか。

「今の相手は槍かな?」
「はい。自分の知る限りでは最速の槍兵です」

 美由希さんは単純な驚きのようだけど、恭也さんはどこか探るような視線だ。
 士郎さんは俺の動きを初めて見た割に驚いていない。
 恭也さん達から話を聞いていたのかもしれないな。

 しかし鍛錬に集中しすぎたな。
 平穏な生活で気が抜けているのかもしれない。

 なにより見せても実際の戦闘には支障のないレベルとはいえ、周囲に人がいるところでするものではなかった。
 剣道でも剣術でもなく、生き残るための殺すための戦場の剣。
 それが俺の剣なのだから。

 道場の空気が重くなるが

「おはよう。もうすぐ朝御飯だよ~」

 なのはが現れたことでその空気も一気に霧散した。
 それに若干安堵しつつ、何か忘れているような違和感を感じた。

「……あ」

 違和感の原因が分かった。
 本日は平日である。
 当然の事だが今日も学校である。
 そして、俺は前日なのはの家に泊っている。

 さて、本日の授業の教科書などはどこにある?
 答えは我が家。
 少なくとも高町家でのんびりとご飯を食べている余裕はなさそうだ。

「すいません。今すぐ帰ります」

 服に関しては後日洗ってお返しするという事にして、今は家に帰るのが先決。
 俺がいきなり帰ると言ったことに他の方々は理解が追いついていないようだ。

「いきなりどうしたんだい?」
「今日の授業の教科書を取りに一度戻らないといけないので」

 俺のその言葉になるほどという顔で頷く士郎さん。

「本当にお世話になりました。
 なのは、悪いけど桃子さんにありがとうと伝えといてくれ。
 それでは失礼します」
「気をつけて帰るんだぞ」

 士郎さんの言葉に手を振って、死徒の能力を使わないように駆ける。
 家に戻るなり、軽く汗を流し、制服に着替え、学校に向かう。

「ギリギリだな」

 そして、予想通りギリギリに教室に滑り込んだのである。




side なのは

「士郎君、大丈夫かな?」

 私は外を見ながらそんな心配をしていた。
 昨日、私の家に泊まったせいで教科書がないので家に一度戻ったけど間に合うかな?
 それにお母さんは少し残念そうだった。
 今度はこんなことにならないようにちゃんと計画を立てよう。
 それに私は気になったことがあった。
 道場に行って木刀を持つ士郎君の後ろ姿を見た時、なぜかアーチャーさんに見えた。

(ねえ、ユーノ君)
(なに、なのは)
(士郎君がアーチャーさんっていう可能性はないのかな?)
(……どうしてそう思ったんだい?)

 どう説明したらいいのかな?
 私の勘違いといってしまえばそれまでだし。
 だけど話してみないと始まらないよね。

(道場にお父さん達を呼びに行ったとき、士郎君も道場に居たんだけど
 一瞬アーチャーさんに見えたの)
(う~ん、さすがに僕は直接見てないから何とも言えない。
 だけどなのはがそう言うんだったら可能性はあるかもしれない)
(そうかな? でも士郎君からは魔力は感じないんだよね?)
(いや、それは関係ないと思う。あのアーチャーも魔力を感じなかった。
 恐らく何らかの魔力を隠蔽する道具を持ってる可能性が高い)

 そっか。
 初めて会った時もレイジングハートで追いかけられなかったし、魔力を感じなくても不思議じゃないよね。

(魔力を隠蔽する道具ってどんなのかな?)
(う~ん。たぶん常に身に付けられて、付けててもそこまで派手じゃないモノかな)
(アクセサリーみたいなってこと?)
(うん、そう)
(わかった。ありがとう)

 うん。
 やっぱり話してみて大正解。
 それにしてもアクセサリーか。
 ペンダントとか指輪とかかな?
 よし。士郎君が来たらこそっと見てみよう。




side 士郎

 さすがに疲れた。
 しかも疲れた原因が走ったことではなくて、死徒の肉体能力を隠すことに疲れたのだから笑い話にもならない。

「今日はどうしたの? やけにギリギリだったけど」

 珍しそうにアリサが尋ねてきた。
 後ろにすずかもいる。
 今まで常に余裕を持って登校してたから疑問に思ってもおかしくはない。
 だが

「まあ、ちょっとな」

 絶対に言うわけにはいかない。
 言えば、昨日の再来。
 いや、あれすらも凌駕するだろう。
 というか絶対する。
 だが俺のそんな願いも虚しく散ることとなる。

「士郎君。お母さんが朝ごはんにって」

 なのはがおにぎりを三つほど差し出してくれた。

「ありがとう。助かるよ」

 わざわざ用意してくれた桃子さんに感謝しつつ食べる。
 うむ、うまい。
 お菓子作りといい、料理といい本当に素晴らしい腕前だ。

「なのはちゃん、士郎君が遅れるの知ってたの?」
「うん。士郎君、私の家から一回帰ってから来たから」
「「……」」

 アリサとすずかも固まり、クラスメイトも固まった。
 静かだ。
 とっても静かだ。
 もっとも嵐の前の静けさだが。

「……それって士郎がなのはの家から朝帰りしたってこと?」
「え? 朝帰り……」

 なのはの顔が一気に赤くなった。
 アリサの奴め、余計な言い回しを。
 また無駄に話が歪んで伝わっていく。
 アリサとすずかがこちらを向く。

「……悪いが完全に誤解しているぞ」
「ふうん、どう誤解してるっていうのよ?」
「うん。詳しく教えてほしいな」

 そんなふうに威圧されても困る。
 それとアリサにすずか、お願いだからその笑顔で威圧するのはやめてくれ。
 アリサは遠坂やルヴィアの悪魔の笑みにそっくりだし、すずかは桜の冷たい笑みにそっくりだ。
 とそんな事を気にしている場合じゃないらしい。
 どこか壊れた表情で立ち上がる男子諸君。
 朝っぱらから鬼ごっこはこの世界に来てからは初めてだな。
 だが残念ながら、少しばかり動き出すのが遅い。
 そんな俺の思いを現すようにチャイムが鳴った。

「は~い。席についてホームルームを始めるわよ」

 先生が入ってきたので男子諸君も渋々ながらも席に着く。
 もっとも授業の合間の休みなどは即座に逃げないとまずいことになるな。
 授業を聞きながらため息を吐いた。 
 

 
後書き
第十三話でした。

寝ぼけていたのか後書きのコメントが変だったので少し修正。
今週は次の十四話までです。

ではでは 
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