インフィニット・ストラトス~黒き守護者~
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篠ノ之束という人物
あの後、すぐに解散を言い渡されて俺は一人自分の部屋で作業を行っていた。
(来週の月曜か……)
ディアンルグは少しばかり癖がある。
それはISの世代で言うと第三世代―――なんだが、機体性能からしてそれを超える。リミッターを設けていてもだ。
(おそらく、このISを造ったのは俺が記憶を失う前だろうな……)
今はもう今のまま定着しているし、本音を言えばどうでもいいかもしれない。だが、
(やっぱり、ここにいれば何かわかるかもしれないんだよなぁ……)
そう思いながら、俺はジャージを着て特訓に出ようとすると、
―――コンコン
「……何だ?」
「……悪い、匿ってくれないか?」
■■■
「……つまり、同室は篠ノ之箒っていう幼なじみだったと?」
「ああ。そういうこと……」
「お前、どうして俺がここにいるってわかったんだ?」
「お前がどこの部屋か聞いて回った」
……見られていたのか。
「祐人はどこに行く気なんだ?」
「ランニングと射撃場」
「え? 銃を持っているのか?」
「……ああ、まぁな」
俺が素っ気なく答えると、一夏は意外そうに俺を見る。
「このご時世だ。持っていて不要とは思わない。………で、だ。一夏、お前はどうする気だ?」
「何が?」
「クラス代表を決める戦いだ。何か対策はあるのか?」
どうせないだろうとは思うが。
「……ないな。今の内にISの知識を叩き込むしか―――」
「お前、一回頭を見てもらってこい。……仕方ない。外に出るぞ」
そう言って俺はベッドの下から縦長の袋を出してそれを担ぐ。
「とりあえず、ジャージはあるよな?」
「あ、ああ。ちょっと待ってろ」
一夏はそう言って一度自室―――1025室に戻る。
俺は1045室だから同じ階だ。その関係で様子を見に行った。
『一夏! どこに行っていた!』
『悪い。俺ちょっと出かけるから』
『待て! どういう―――』
『わ! バカ見るな!!』
どれだけ騒ぎになっているかわかった。篠ノ之が一夏の着替えを覗いたんだろう。
―――バシンッ!
中から音がしたが、大丈夫か?
「……お待たせ……」
「それについては異論はないが、どうしてお前まで来る」
俺は一夏の後ろから現れた篠ノ之に声をかけた。
「私は一夏の幼なじみだ。問題あるまい?」
「大アリだ」
「何故だ!?」
………は? こいつマジで言ってんの?
「お前、剣道してるのに心荒れすぎなんだよ。そう簡単に動じないように特訓してこい」
「わ、私は動じてなど―――」
「………さっき一夏から話は聞いた。理由も聞かずに殺そうとしたらしいな」
「そ、それは………」
「行こうぜ一夏。今は時間が惜しい」
一夏を押しながら俺は出口に向かった。
大体、ああいう人間は嫌いだ。
(この世界、段々とつまらなくなってきたな……)
自分が持つ力がどれだけ凶悪のモノかわからず、それを振り回すとはな。
俺たちが向かったのは寮の入口。そこで俺は袋の中から木刀を取り出す。
「ほら、これを使って俺に攻撃してこい」
木刀を投げて渡す。
「え? でもお前、防具を付けていないだろ?」
「……いらねぇよ」
その答えをどう受け取ったか知らないが、一夏の顔が少しばかり鋭くなる。
そして駆け出してくるが、どれもこれもぬるかった。
「……お前、どうして、平然と……」
「実力の差だ」
これでも命を狙われたは一度や二度じゃないのだ。俺は。
「……で、篠ノ之。お前はそこで何をしているんだ?」
後ろの茂みから気配を漂わせている篠ノ之の方を見て声をかける。
「な、何故わかった!?」
「は? お前、自分がすごいと勘違いしてないか?」
はっきり言ってそうでもない。相手がどれほどの実力の持ち主かわからないが、生身で戦えば目の前の馬鹿とは違って少しは持つだろう。
そこでふと気付く。
(確か、『篠ノ之』だよな?)
ISの創始者と同じ苗字だ。となると、本人は妹なのだろうか?
「篠ノ之、お前は『篠ノ之束』の関係者か何かなのか?」
「!?」
今の反応。そういうことか。
「一夏、あいつとISの創始者とはどういう関係だ?」
「姉妹だよ。ただ、その……」
(……どうやら、姉妹の仲は悪いらしいな)
一夏の言葉の濁し具合でわかった。
「皆まで言う必要はない。ただその事実だけを知りたいだけだ」
「悪いが、私はあの人とは―――」
「別にその女性に会おうとは思っていない。気を悪くしたなら、悪かったな」
まぁ、今まで比べられて生きてきたのだろう。でも、
(有名人の家族って、変に期待されるんだろうな。それに、狙われやすい)
その人自身にどれほどの影響力があるかは知らないが、警戒するに越したことはないだろう。
だから俺は一応持ってきた的を幹が太い気に苦無をで刺して、グロッグのエアガンを篠ノ之に渡した。
「……どういう意味だ?」
「本当ならお前みたいな要人に人を殺す覚悟を持って銃を持たせておきたいってのが本音だが、見た限りお前はそっちに関してはど素人。だからまずエアガンで慣れてもらおうと思ってな」
射撃の構えを修正させながら的確に撃てるように指示していく。その間に一夏には素振りをさせていた。
■■■
「一夏、『篠ノ之束』って人はどういう人間なんだ?」
夕食。寮の食堂で飯を食べ終わってから俺は自室に向いながら『篠ノ之束』という人物の特徴を聞き出していた。ちなみにだが、一夏の手には勉強道具が握られている。
「ん? 何で聞くんだ?」
「いや。特に他意はないが、篠ノ之自身は嫌っているんだろう? 姉妹仲は悪いのか?」
「たぶん一方的に箒が嫌っているんだと思う。まぁ、理由が理由だから仕方がないと思うんだが……」
「ん? どういうことだ?」
「ああ。それは―――」
―――コンコン
一夏が言葉を続けようとしたところでドアをノックされた。
『風宮。織斑だ。話がある』
織斑先生のご登場か……。
俺はドアを開けると、そこにはジャージ姿をした織斑先生がいた。
「何だ、お前もいたのか。だが悪いな一夏。私はこいつとは個人的に話がある。勉強は自分でしろ」
「ああ。わかった」
すぐに勉強道具を片付けて部屋から出る一夏。だが俺にとってはおかしいと思った。公私混同をしない女が、まだ勤務時間中であるはずなのに家族の名前を読んだことに違和感を感じていた。
「……何の用ですか、“千冬さん”」
「そう警戒するな。なに、ちょっと忠告をと思ってな……」
? 俺、そんな忠告されるようなことはしたか?
「お前、束のことを嗅ぎ回っているようだな。何が目的で嗅ぎ回っているか知らんがそれは止めておけ。身を滅ぼすことになるぞ」
ああ。そのことか……。
「今は引けませんね。俺なりに彼女の一面が気になるというのがあるかもしれませんが」
「それは自分の首を締めることになってもか?」
「ええ。たぶん今の俺にはその人に興味があるんでしょうね」
俺が思ったことを口にすると、彼女はそれを訝しんだらしい。
「何を考えている?」
「本当ならあまり言う気はないんですが、一応二人の安全の確保ですかね。あ、別に俺は護衛としてここに来ているわけではありませんよ」
「では何故あの二人に加担する? 別に二人はお前の知り合いでもなんでもないだろう? それにお前は―――メリット次第で動く男だろう」
千冬さんの言葉は最もだ。確かに俺はメリット次第で動く。―――だが、
「俺自身が、何も知らないって訳じゃないからですかね。知っている人間が知らない人間にどんな形であれ導ける人間になったほうがいいでしょう。それに―――篠ノ之束という名前にどこか引っかかりがあるんですよね。記憶を失っている俺にとって敵か味方がわからない。もし敵だったときを考えてどんな人間かを把握しておきたいというのが本音です」
「……なるほどな」
何かなっとくしたらしく、それから話してくれた。
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